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投稿者: akiokawato

  • 台湾問題は武力より外交で

    今回イラン戦争で、ホルムズ海峡に踏み込めないでいる米海軍の動きを見ていると、「台湾有事」の際に、米空母艦隊が出動して云々、という戦術はもう有効性を失っているんじゃないかと思う。

    では、台湾はどうしようもないかと言うと、そうでもない。台湾の方は、中国の上陸艦隊を地上からのミサイル、ドローン、あるいは海上からのドローンで殲滅できる。

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    今、中国人民解放軍上層部では習近平総書記による大粛清が進行中だが、それが台湾攻略とどう関係しているかは、誰もわからない。一方、米国民主党系の専門家Drew Thompsonは、2月の末以来、中国軍機が台湾の空域に一切立ち至っていないことを指摘していたhttps://chinadrew.substack.com/p/the-pla-has-stopped-flying-aircraft。これは、昨年後半、中国軍機による活発な、台湾空域侵入が見られたのと様変わりなのだ。

    これが軍幹部の粛清で主戦論者が除去されたためなのか、それとも3月の全人代開催、4月に予定されていた(延期された)トランプの訪中を前に、台湾で不測の事態を起こすのを避けたのか、どちらかはわかないが。

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    いずれにしても、中国に対して腰の定まらないトランプという要因もあり、日本は台湾防衛でどこまで米軍と協力できるかという法律論に血道をあげるより、武力不行使・現状固定で政治的な合意をはかる、平和的な手段に注力するべきだ。

    河東哲夫

  • イラン戦争はドルの覇権を破壊するか

                                      河東哲夫

    (以下は、4月21日にアップ・ロード後、数時間後に一部修正してあります)

     2008年リーマン金融危機や2020年のコロナ禍で、米国はドルの供給を増幅し続けてきた。国債発行額は今やGDPの1年分を超える。政権はこれがいつか米国債への信頼を崩して、金利を暴騰させ、米財政を破綻させることを恐れている。

    今のイラン戦争が、米国債の崩壊の引き金を引くのだろうか? どういうシナリオで? 可能性があるのは、原油価格の高騰が米国内でインフレを長期化させて、金利を亢進させることだ。そうなると、米国財政にとっては国債利払い負担が大きくなる。利払い負担が経済成長率を超える時が、危機の分水嶺だ。

    また1.8兆ドルとも推定される企業向けノンバンク融資が不良化すると、それはノンバンクに融資している大銀行に飛び火して、2008年のような金融の目詰まりを起こす。

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    しかしそれは、ドルの暴落を起こすだろうか? 2008年のリーマン危機の時は、米国債が安全資産とされて需要が高まり、長期金利はむしろ低下した。そして欧州ではユーロ・ダラーの供給が瞬時に止まり――お互いに「こいつはつぶれるのではないか」という疑心で相手を見て、融資をしなくなる――、貿易決済のためにドルを求める需要が急増して、ドルのレートを押し上げた。後で言うように、欧州の銀行に預けられたドルを抵当に供給されるドル融資(ユーロ・ドル)が欧州や世界の貿易決済のかなりの部分を支えているから、こうなる。

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    イラン戦争の今回は、米国債も信用を失って、その価値を下落させるだろうか? 可能性はある。しかしChatGTPは指摘する。「そこで政府の介入がありますよ。連銀FRBは国債を無制限に買い入れて、その価値の保全をはかることになるでしょう。しかしこれによって、ドルの価値は大いに下がるでしょう。」と。

    なるほど。しかしその時、ドルは基軸通貨の座から滑り落ちるのだろうか? 1985年プラザ合意の時には、ドルの価値は急落したが、基軸通貨の座からずり落ちることはなかった。

    一方こうした時、ユーロ・ダラーはどうなっていて、どうなるのだろう? 

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    グローバル決済トークン「ユーロ・ダラー」

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     ユーロ・ダラーとは、米国外で(帳簿の上を)ぐるぐる回っているトークンのようなものだ。元々はソ連とか湾岸諸国が原油を売って得たドルを、米国ではなく(没収されるかもしれない)、欧州、特に英国の銀行に預けたのが始まり。英国、欧州の銀行は、そのドルを引き当てに、10倍、20倍もの額のドル表示の融資をするようになった。それは、米通貨当局の規制が及ばない、欧州の民間銀行が創ったトークンのようなもの。それでも、一度発行されると「本当のドル」と同じく、貿易・資本取引で使われていく。

    ユーロ・ダラーの価値は、ドル本体と同水準に維持される。それは両者の価値に少しでも差が生じれば、「裁定取引」が行われて、水準は瞬時に統一されるからだ。

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    世界での貿易は、その決済の約50%がドルで行われている。そしてそのかなりの部分は前述のとおり実は、ユーロ・ダラーで行われている(Chat GPT)。前述のとおりリーマン危機の時、欧州の銀行はユーロ・ダラーを貸さなくなった。貸す相手の資産が不良債権となって倒産し、貸した金を返してもらえなくなる事態を恐れたからだ。つまり自分は倒産していないのだが、支払う手段がなくなった。

    ここで欧州中央銀行ECBは米連銀とはからい、ユーロを払って多額のドルを仕入れ(通貨SWAP)、そのドルを欧州の民間銀行にこれもSWAPで配ったのだ。この SWAPは帳簿上の話しで、多額の現金が大西洋上を行き来したわけではない。同じことは、英国の中銀Bank of England、日銀、サウジ・アラビア中銀なども行った。

    このあたりをChat GPTは簡潔に要約した。

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    ――世界は、米国政府が完全にコントロールはできないドルによって動いている。そうしたドルの大部分は、民間によってオフショアで発行されたものであり、脆弱だ。危機が起これば、それらは瞬く間に消え去る。そして、それらが消え去ったとき、「本物の」ドルを再発行できるのは連邦準備制度(FRB)だけである――

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    ユーロ・ダラーは世界国家の道具立てなのか

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     ここまでくると、まるで米国がドルを使って世界帝国を作り上げたように見えるし、そのように批判もされる。しかしこれは、厳格な支配とは違う。ユーロ・ダラーは米国当局の直接の管理に服さない。但し全世界のドル取引は、最終的にはニューヨーク連銀で清算されるようで、この時特定の国を狙い撃ちにしてドル使用を禁じることはできる。

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    「ユーロ人民元」登場?

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    今のドル優位は、1945年フランクリン・ルーズベルト大統領がヤルタ会談からの帰途、スエズ運河でサウジ・アラビアのサイード国王と会談した時に始まる。この時両者は、「米国はサウジの原油輸入代金をドルで払っていいことにする。その代わり、米国はサウジの安全を保証することとする」という趣旨の合意に達した。

    以来、サウジはドルを受け取るとそれを欧州の銀行に送って、そこで運用・蓄積を行った。欧州の銀行はそれを片に、10倍以上もの融資を行い(「信用の創造」)、利益を上げた。

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    ところが今、米国はサウジ・湾岸諸国の原油はほぼ輸入していない。その分は、中国がほぼ肩代わりしている。しかも、今回のイラン戦争が示したように、米国は湾岸諸国の安全をもう保証してくれない、むしろイランの攻撃を招くような危ないことを、相談なしにしかけることをやってのけた。サウジは地対空ミサイルをほぼ使い果たし、米国が急速な補充をする力もないので、ウクライナと安全保障協定を結び、ウクライナ製の攻撃ドローンを大量に購入する。

    このドローンはロシアが発射するドローン「ゲラン」によく命中する。ならば、「ゲラン」の原型であるイランのシャヘド・ミサイルを撃墜するのにも効くだろう、というわけだ。

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    この時急遽リアドに乗り込んで、「ウクライナとの件、俺たちに事前に言わなかったな。どういうことなんだ」と問い詰めたルビオ国務長官に対して、サルマン皇太子はこう言ったのだそうだ。「米国は、イラン攻撃を俺たちに事前に言わなかった。おかげで我が国はイランからミサイル・ドローン攻撃を受けて、貴重な迎撃ミサイルを大量に費消した。米国はそれを直ちに補充できないのだろう? だからウクライナから購入することにしたのだ」と。

    つまり、「米国はサウジ・アラビアの安全を保証する。だから、サウジ・アラビアは原油の支払にドルを受けることにしてくれ」という、1945年の合意は意味を失ったのだ。米国はサウジの原油をもはや必要としていない。そしてサウジの安全を保証する力もない。問題は、この分のドルが欧州の資本市場に流れてユーロ・ダラーを創り出すパイプがつまってしまう、ユーロ・ダラーの量が減少するのではないか、ということ。

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    中国のサウジ・アラビア、湾岸諸国からの原油輸入量は、かつての米国の輸入量のピーク時に迫るになっている。ということは、中国がこの代金を人民元で支払い――既に一部はそうなっている――サウジがその人民元をオフショアで運用するようになれば、「ユーロ人民元」が誕生するということだ。

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    しかし、中国当局は人民元へのコントロールを失うようなことを嫌う。中国国内でインフレを発生させることを何より恐れているから、人民元を外国人の自由には使わせまい。「ユーロ人民元」はまだまだ登場するまい。

  • トランプに構ってもらえず意気が上がらないプーチン・ロシア

    (これは今日、業界誌「ボストーク通信」に掲載されたものの原稿です。今のロシアの情勢をかなりまとめてあります)

    この頃、プーチン大統領が世界のニュースから消えている。クレムリンのサイトを見ても、内政、外交とも大統領がらみのイベントが少なくなっている。3月初めの国際婦人の日のセレモニーでは不自然にせき込む姿がテレビに映し出されて、健康上の不安もささやかれた。

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    この盛り上がらない状況の一つの大きな理由は、ウクライナ戦線にある。ロシアは3000両を超える戦車を破壊され、前線は膠着した塹壕戦に移行して既に2年以上。ウクライナはドローンを多用して、ロシア歩兵による前進を撃退している。

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    そこでロシアはイラン製のドローン「シャヘド」のコピーを大量生産、この冬にはウクライナの電力設備を中心に派手な攻撃をしかけたが、電力は既に回復している。そしてウクライナは機敏な開発で、ロシアのドローンを撃破するドローンを開発した。撃墜率は90%以上だと報じられている。「決まったものを大量生産」体質のロシアの軍需企業では、これに対抗する新たな兵器を繰り出すまで時間がかかる。

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    この上、春のぬかるみが収まって展開されるべきロシアの「春と夏の攻勢」がどこまで功を奏するか。これが不発に終われば、ウクライナ戦争でのロシアの手詰まり感は一気に高まるだろう。

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    イラン戦争に忙殺されるトランプが、この頃ウクライナがらみでロシアに「かまって」くれなくなったことも、ロシアの気勢をそぐ。「米国を相手にしている」からこそ、ロシアは世界で偉そうな顔ができるからだ。

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    四面楚歌

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    それに加えて、サウジ・アラビア等の湾岸諸国は、Patriotなど高価な米国製対空ミサイルを費消したため、急遽ゼレンスキー大統領を招致して、ウクライナ製対空ドローンとその操縦人員の提供・派遣を受けるようになっている。イランのシャヘドをコピーしたロシアのドローンに有効ならば、イランからの本物のシャヘドにも効くだろう、というわけだ。サウジ・アラビア等はウクライナと安全保障についての協定を結んでおり、おそらく多額の資金をこれからウクライナに提供することになるだろう。

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    加えて12日には、ハンガリーのオルバン政権が選挙で敗北したため、EUはウクライナに約束していた900億ユーロの借款を提供できるようになる(19日親ロシアの政党がブルガリア議会選で勝利を収めたが、オルバンほどの力でロシア制裁を妨害できるかどうか)。中央アジア諸国の首脳は昨年秋、ホワイト・ハウスで雁首ならべてトランプ米国への恭順の意を示したし、モルドヴァではロシア人が居住する沿ドニエストルが、ロシアの支援を得られず、モルドヴァからの圧力にさらされている。

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    ロシアはイランと2025年1月、包括的戦略的パートナーシップ条約を結んでいるにもかかわらず、米国・イスラエルとの戦争で目立った支援はできていない。数年前のロシアは、トルコ、イスラエル、シリア、サウジ・アラビア等々と緊密な関係を維持して、「中東における影の大国」と言われていたが、今は政治・経済・軍事、あらゆる面で打つ手はない。

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    原油価格高騰が効かない経済

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    ロシアの経済は、インフレ退治のための高金利で企業が息切れし、今年初めは停滞を指摘されるようになっていた。昨年末までは世界原油価格が下落していたことも、これに拍車をかけた。3月初め政府内では、不要不急の予算(もちろん国防は除く)は一律10%削減という話しも起きていたのである(3月9日Reuters)。

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    こういう時、ロシアは原油価格の高騰で救われることが多い。今回もそうなりかけている。イラン戦争で原油価格が高騰したからだ。ところが政府や軍の意気がどうも上がらない。バルト海のウスチ・ルガー、プリモルスク、黒海のノヴォロシイスクと、原油積み出し港が軒並み、ウクライナの長距離ドローンの攻撃を受け、かなりの被害を受けたらしいのだ。詳細は明らかにされないのだが、これによって、ロシアは前記のように原油価格高騰の利益を十分に得ることができないでいる可能性がある。東方の太平洋方面では、アジアの諸国がロシアの原油輸入を強く望んでいるが、パイプライン、そしてウラジオストク港での積み出し能力には限界がある。

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    9月議会選挙に向け蓄積される社会の不満

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    ロシアは9月、議会総選挙がある。「ロシアの選挙はまやかしだ。開票結果は操作されて、いつも与党が勝つことになっている」という理解が相場だが、今のロシア社会には戦争やインフレなどで不満が高まっている。2011年には総選挙の開票結果に抗議する集会がモスクワなどで膨れ上がっている。

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    これまでは、モスクワなど大都市の青年は戦争に徴募されることはほぼ皆無で、市民はこの数年続いた実質賃金の上昇をフルに享受してきた。しかし賃金上昇はもう勢いを失い、付加価値税率や公益費の引き上げなどでインフレが勢いを増す。一方、「ウクライナのドローンが電波を使えないよう」とかの口実で、西側のTelegramなどのインターネット・サービスが次々にブロックされ、ロシア製アプリの使用が強制されるようになっている。Telegramなどは、ロシアの人口1億4千万のうち約半分の7000万人が日常使っている――ロシアのアプリと異なり、交信内容を秘匿できる――ものであるだけに、人々は大きな不満を抱いている。

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    決定的なのは、実質的な徴兵が始まろうとしていることだ。3月末に軍は「無人システム軍」の創設を発表。2026年中に7,9万人を徴募、最終的には21万の大軍(無人のはずなのだが)を作ることとした。ドローン操縦には教育水準の高い人員が必要なので、学生やエンジニアも募集の対象となる(3月30日Jamestown)。

    募集は志願制ではあるが、大学その他機関には、志願数の目標が示されている。世論は、「これは実質的な動員だ。ドローン要員とは言いながら、戦場では戦闘要員として使われることになるのだろう」と疑って、戦々恐々の状況でいる。このままでは、9月の総選挙では大量の棄権者が出て、政府は社会の支持を失っていることを世界にさらすことになりかねない

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    それを防ぎたいと思ったら、ウクライナで何らかの停戦措置を実現し、責任を取ってプーチン大統領は辞任。以前も指摘したように、国家評議会(最重要の政策につき諸省庁を調整する権限を持つ。プーチンは既にこの評議会の議長となっている)の議長として院政を敷くようなやり方が日程に上ってくる可能性がある。現在のクレムリンの沈黙は、このような情勢急展開の前触れである可能性もあるだろう。

    河東哲夫

  • アベノミクスが異次元緩和だけで終わったことのつけ――無限円安と日本の無限縮小

    (他からの転載なので少し唐突ですが)

    日本経済が盛り上がらない基本は、日本が過剰生産能力を抱えていたということだ。だから財政支出拡大や輸出でそれを処理するか、海外に資本を出してしのぐしかない。

    アベノミクスは「大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略」の三つの矢で経済を再び盛り上げようとした。最初の日本は機能したが、三本目の矢は、企業が内部留保を使うのに慎重で賃上げをしなかったのが主な原因で不発に終わった。

    「輸出に依存しての経済成長」モデルは、19世紀の英国、現在の中国、韓国でも見られることで、当然のことながらどこかで天井に突き当たる。

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    「異次元緩和」は日本の国内投資を活性化はしなかったが、円安を実現した。それは外国人株主の増加をもたらしたし、「レートも金利も低い円資金」は日本人自身による投資、外国人による円キャリー・トレード(何倍ものレバレッジがかけられているのが普通)等によって、米国の長期金利を低水準にとどめることに資している。何らかの理由で日本からの資金が減少して米国長期金利が上向くと、米国は国債の償還に窮して財政困難に陥る。

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    「日本からの低利円資金」は、諸方の金融商品に利用され、埋め込まれているから、日銀は日本のことだけ考えて金融を運営していくことはできなくなっている。日銀のちょっとした動きが、世界に大きな波紋を投げかけるかもしれないからだ。円は世界の諸国の外貨準備の5%内外を占めているが、金融市場ではそれ以上の役割を果たしているのだ。

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    (無限縮小からの脱出)

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    今、高市総理は「責任ある積極財政」を掲げて予算を拡大している。これが、アベノミクスのうち実現していない、企業活動の活性化に火をつければご同慶の至り。火をつけなければ、インフレに油を注ぐだけになる。高市政権の以前から、企業は賃上げを進めるようになっているし、政府はラピダス等製造業に大胆に予算をつぎ込むようになっているからだ。

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    この数年、外国人が低利の円を入手し、それをドルに交換、高金利の米国の金融商品に投資して利ザヤをかせぐ「円キャリー取り引き」が盛んになって、これが円安の大きな要因になっている。しかしChatGPTは、これは急激には止めるべきでない、と言う。例えば日銀が大幅な利上げをしたりすると、円キャリーの逆回転が起きる。円より安価な通貨を借りて、それを円に換えると、日本の国債等を買い上げる動きが出てくる。それは急激な円高をもたらすだろう。

    何しろ2011年には1ドル80円弱と、現在の2倍のレートだったのだから。1ドル110円あたりを目標に、日銀がじわじわと利上げをしていくようなことになるのでないか? ドル・ベースでの日本のGDPはその時、かなりのスピードで膨れていく。

  • 中国のカネは世界を席巻しているか

    「中国のカネ」と言えば、世界を席巻していることになっているが、実態はそうでもない。最近のEconomistは、Aid Dataのブラッド・パークスという専門家が公開情報をくまなく調べた結果を報道している。それは、次のことを述べている。

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    ――2000~2023年の間、中国の対外資金コミットメントは、インフレ調整後で総額2.17兆ドルという巨額に達している。しかしそのうち、純粋な援助(無償や低利融資)と言えるものは6%にすぎない。この間、中国の国有金融機関は途上国に1.02兆ドル(上記総額の47%)を融資しているが、残りの43%は先進国向けであり、その中でも最大の仕向け先はアメリカで、総額は2020億ドルに達した。

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    「一帯一路(BRI)」に関連する金額は意外なほど少ない。BRI向けとして分類されるのは全体の20%にすぎなかった。BRI向け融資を主導したのは中国国家開発銀行や中国輸出入銀行といった国策銀行だったが、最近では、ICBC(中国工商銀行)や中国銀行といった、巨大商業銀行が前面に出てきた。これらは国有であるものの、利益追求に積極的だ。2019〜2023年にかけて、国有金融機関による融資の約60%を商業銀行が占めるようになった。先進国向け融資ではその比率は80%以上に達する。

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    ・多くの融資は見たところ無害に見える。国際的なシンジケートローンに参加することも多い。しかし、資金が、通信インフラ、半導体、個人情報データ等、各国政府が“敏感分野”と見なす17分野での、企業買収に向けられる割合が増えている点は、問題である。

    例えば2015年、4つの中国国有商業銀行が、中国企業による米国企業アイアンショアの買収に融資したが、アイアンショア社はCIAやFBI職員向けの保険を販売していた企業である。―――

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    マネロン

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    もう一つ、Economistは、中国の金融機関によるマネロンの手口を報じている。

    ―――中国の地下銀行システムは、世界最大級の資金洗浄ネットワークになっている。その規模を正確に把握するのは難しいが、米財務省によれば、違法薬物の米国内販売によって生じた不正資金――主にメキシコのカルテルによるもの――約1,540億ドルが、毎年中国を経由している。中国系ネットワークが、米国内の違法薬物販売収益の大半を洗浄していることになる

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    ・メキシコ等の組織は、中国系ネットワークの効率性、広がり、低手数料に太刀打ちできなかった。メキシコの組織は7~10%の手数料を取ったが、新しい中国系組織の手数料は1〜2%に過ぎない。中国系は血を流すことなく、市場を安々と奪い取った。

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    ・さらに規模も桁違いである。北朝鮮のハッカーは今年2月、史上最大の暗号資産強奪事件で15億ドル近くを盗んだが、1日あたり1億ドルを洗浄できたようだ。その背後では、中国系地下銀行が巨額資金を細かく分割し、クリーンな資金や異なる暗号資産と混ぜ合わせていったと見られる。

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    ・中国系の成功は、中国国内の余剰資金を利用する「三角取引」システムを開発したことに負う。これは、メキシコ等の麻薬カルテルが米国で得た売り上げ(ドル)と、ドルを必要とする中国本土の個人のニーズを結び合わせたものである。

    例えば上海の裕福な母親が、米国に留学する息子にドルを送りたいとする。彼女はネット上でブローカーに連絡し、ドルを売りたい誰か(A)とマッチングされる。次に母親は、中国国内のブローカーの口座に人民元を振り込む。ブローカーはAに、相当額のドルを米国内の息子の口座に送金させる。

    同時にブローカーは、ドルの売り手A(メキシコ・カルテルなど)に対価を人民元で支払う。カルテルは、米国向け覚せい剤フェンタニルを合成するのに使う化学薬品やその他の商品を中国から輸入するために、その人民元を用いる。以上の取引はWhatsAppやTelegramを使って行われ、暗号化されているため、警察はフォローできない。

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    ・中国系ネットワークは、多数の国をまたぎ、富裕層から犯罪者まで顧客層は幅広く、各国の金融制度の“隙間”で動く。また、彼らはオンライン詐欺など複数の地下産業を支えている。扱う資金規模は桁外れで、東南アジアの中国系ギャングによる「オンライン詐欺」だけで、年間5,000億ドル相当が生み出されている。大半は洗浄を必要とする。

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    ・すべてがオンラインで片付くわけではない。現金を正規の銀行システムへ戻す必要があるとき、ネットワークはしばしば「マネーミュール(ラバ)」を利用する。無知な若者や貧困層に銀行口座を開設させ、その口座を資金移動に使うのだ。中国人留学生がミュールや現金運び人として使われる場合もある。銀行員の不正協力で、架空住所での口座を作るケースもある。――――――――――――

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    援助と融資:日本、米国等との比較

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    以上が記事の要旨。この記事は、海外の中国マネーの規模、インパクトを整理して考えるための、とっかかりを与えてくれる(以下は、河東の見解)。

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    1)まずODAについて

    中国はOECDメンバーではないので、ODAの概念を意識して行動しているわけではない。「ODA並み」の低金利・融資期間を持つものを対象に考えた場合、上記記事は累積1300億ドルという推定を提示している。日本の円借款は年間1~1.5兆円なので、同期間で約30兆円。1ドル=125円で計算すると約2400億ドルとなる。

    更に日本の出資が大きいアジア開発銀行による融資額も勘案すれば、ODA資金の供与では中国は日本にまだはるかに及んでいない。中国肝いりで設立されたアジア・インフラ投資銀行AIIBは歴史が新しく、年間融資総額は未だ100億ドルに達していないものと見られる。

    従って、上記記事の示す「中国の国有金融機関は2000~2023年、1.02兆ドルの融資を行った」という巨額の数字は、通常金利に近い案件を含むものなのだろう。

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    2)商業銀行による融資について

    中国の商業銀行による海外での融資は、外国の中国企業向けのものも多いと思われ、それは日本でも同様。右融資は、当該国における中国や日本の地位を直ちに高めるものではあるまい。

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    3)ヤミ資金ネットワークについて

    上記記事は年間1,540億ドルの麻薬代金を中国系銀行がロンダリングしているとするが、米国での麻薬・覚せい剤取引額は年間5000億ドルはあるものと推定されている。つまりこの分野においての「中国系」金融機関の関与は、この程度のものだということである。西側における資金洗浄「装置」は、企業・個人の節税、脱税のためのTax Havenでの取り引きも含めれば、中国系のものをはるかに上回っていることだろう。

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    4)人民元は世界の基軸通貨になるか

    海外の中国の資金は、「人民元が世界の基軸通貨になる」のではないか、との観点から話題とされる。しかし中国は膨大な貿易黒字国で、しかも資本取引における人民元の使用を制限しているので、人民元は基本的に世界に出てこない。

    製造業で中国は世界を牛耳っているが、かつての日本と同様、その決済の大半はドルで行われている。そして中国の商業銀行は、米国からみのビジネスで利益を上げているので、これを止められるのを恐れて、例えばロシアとのビジネスには関与したがらない。金融面で中国は、ドルに首根っこを押さえられているのである。つまり中国経済は伸びれば伸びるほど、金融面で米国に首根っこを押さえられてしまうという、皮肉な地位にある(そこは日本も同じ)。

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    更に、米国で7月に合法化され、現在金額が急速に伸びているステーブル・コインがインターネットを通って中国に入り込んでくると、中国人の預金の海外への急速な流出など、当局の規制の及ばない動きを示すことになるだろう。

    今後中国マネーは、中国経済の不振等で収縮するだろう。焦げ付く融資も多くなるだろうし、総じて「中国マネー」の波はピークを過ぎたものと言えるのではないか。

  • 夜の六本木のWendy’s

    Wendy’sのハンバーグと言えば、部厚い肉で高級なものと思っていたが、この頃は後発のいろいろなチェーンに店内インテリアでは負けていると言うか、日本市場にカムバックして以後、数年たってもまだインテリアにかけるカネはないようだ。

    表通りなのに、なにやら裏ぶれた感じ。でも、ハンバーグだけはその厚み、うまみとも、家に帰って2時間経っても満足感が口に残る。でも1900円。

    マック指数とか言って、ビッグマックの値段を各国比べ、「これが本当の通貨レート」と称しているが、Wendy’s のハンバーグを比較対象にしたらいい。もともと、日本のBig Macは小ぶりで、Chat GPTに調べてもらったが、米国のそれより10%ほど軽いらしいのだ。

    日本のBig Macは安いのではない。薄いのだ

  • 日本歴史紀行 坂本龍馬の墓

                                             

    2012年5月はじめ、小雨の京都、清水寺のあたりを散策していたら、坂本龍馬の墓という標示があった。龍馬は僕が若い頃憧れた英雄だとしても、墓参りをするほど傾倒したわけでもないので、ああこんなところに墓が、それにしても本物かと思いながら行ってみると、そこには国家のために殉じた者たちの霊を祀る「京都霊山護国神社」があった。

    志士たちの霊を祀るための社をここに作れという天皇の勅令が、明治維新直前の慶応4年(1868年)に出ていて、靖国神社より少し古い。そして神社の傍らには東山幕末維新ミュージアム、霊山歴史館がある。

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    護国神社と護国寺

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    「護国」と言えば、僕は池袋の護国寺を思い出す。だが、他ならぬ京都の東寺も真言宗の護国寺で、他にも日蓮宗の護国寺もあって、それらは必ずしも戦没した英霊を祀るためのものではない。京都の宇治には、曹洞宗の靖国「寺」というのが昭和24年に開かれているが、これは戦争の英霊を祀ることを目的として設立され、靖国「神社」から約240万あまりの御分霊を得たと、ホームページには載っている。複雑なことだ。

    他方、護国「神社」というのは日本中にいくつもあって、それは英霊をお祀りすることを目的としている。東京では靖国神社がその目的のために作られたのだが、ここは設立の時には軍の影響力が強く、以後も特別の地位を保持してきている。

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    で話を戻すと、この小雨にけぶる京都霊山護国神社では山腹に坂本龍馬と中岡慎太郎の質素な墓石が並び立ち、その両脇の山腹をずっと上の方まで幕末勤王の志士1356柱の墓石がずらりと固める。これはすごい気を感じさせる地だ。

    ここには他にも日清戦争、日ロ戦争、太平洋戦争などの戦死者も合わせ、約73000柱が祭神として祀られている。戦後の極東裁判で犯罪人として死刑の判決を受けたいわゆる戦犯の方々が、ここでどのような扱いを受けているかは調べていないが、こういう施設があること、そして日本全国に護国神社があることは、これまで全然知らなかった。因みに、この京都霊山護国神社は2002年に神社本庁との包括関係を解消した由。

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    「志士」の実像

    傍らの霊山歴史館には、池田屋事件とか龍馬暗殺とか、志士たちと新選組の死闘などをめぐる数々の話しがヴィデオも交えて陳列されている。まあわりと興味本位の、ありきたりの説明ぶりなのだが、京都の先斗町あたりで連日、こうした死闘が繰り返されていたかと思うと、臨場感がある。

    攘夷を旗印にレジーム・チェンジを狙う志士たちを、幕府に雇われた新選組が夜の街に襲って血祭りにあげる。新選組はこうして、いつか幕府に本雇いの武士に取り立ててもらうことを夢見ていたのだ。

    幕末の脱藩者たちが今では「志士」と呼ばれ、その一部は坂本龍馬のように英雄視され、明治維新をほとんど一人、二人の手で成し遂げたように喧伝されているわけだが、そのような英雄史観が実際の史実にどのくらい見合ったものなのかどうか。

    歴史は個人、組織、政府が相絡まって織りなす、複雑な産物だ。史上名高い薩長同盟も、同盟のきっかけとなった薩摩から長州への兵器供与は、英国のJardin&Matheson商会に連なるグラバー商会の支援を仰いだものである。

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    当時、フランスが幕府、英国が薩長の肩入れをしていたので、薩長同盟も実は英国資本の意を受けたもの、坂本龍馬はその兵器を薩摩から長州まで自分の船で運ぶことを受諾して、活動資金を稼いだ一匹狼。その程度の存在であったかもしれない。もともと彼が1864年に作った海運・亀山杜中は、薩摩藩がグラバー商会等を通じて最新兵器を入手するための、ダミーとして使われていたのだ。日本人である龍馬との取引ならば、たとえ兵器購入を幕府に咎められても、言い訳がたつということだったのだろう。

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    だがそれにしても、龍馬はどうして殺されたのだろう。犯人は今でもわかっていない。脱藩し、独立した人間として大きなことを成し遂げた坂本龍馬は、僕も大好きなのだが、彼をあまり英雄視しすぎると、「一人のすぐれた政治家がいれば日本はよくなる」という、現在の日本社会における未成熟な政治理解を助長するものになってしまう。

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    彦根城――井伊直弼のSPは一族郎党皆殺し?

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    この後井伊直弼の居城だった琵琶湖畔の彦根城に行ったのだが、桜田門外の変を説明した文で、旧役人としての僕にいちばんショッキングだったのは、井伊大老暗殺を防げなかった護衛たちのその後の運命だった。浪士たちに殺害された護衛は除き、無事だった者たちは一部は死罪、家名断絶の処分を受けている。これが現代の日本だったら、SPのなり手はいなくなることだろう。

    江戸時代は、市民社会と言っていいほど人々の暮らしは良かったことになっている。だが実際には、こういう有無を言わさない、苛烈な権威主義的社会でもあったことは忘れてならない。

                                      

    河東哲夫

  • 日本歴史紀行 安土

    (これは2012年5月、滋賀県の安土に旅行した時の記録。安土はもちろん、織田信長の最後の居城。壮麗な夢が数年で、文字通り灰燼と帰し、あとは廃墟となったまま。それでも現地に行ってみれば、沢山のことがわかる。因みに安土が廃止された後は、城下に招聘されていた商人の多くは近くの近江八幡に拠点を移し、「近江商人」の名をはせる。)

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    滋賀県とは

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    まず滋賀県について。滋賀県と言えばこれまでは、琵琶湖の周辺の僅かな陸地を束ねた小さな県とばかり思っていたが、今回彦根や安土を訪ねて認識を一変した。陸地の部分も大きく、これがまた豊かな地なのだ。

    その中で琵琶湖はこれこそ地中海のようなもので、通商路として古来多くの付加価値を生む存在だった。米原や近江八幡は美濃、木曽、そして越前方面に京都からの道がわかれる通商のかなめとして、これも付加価値を生む存在だった。だから「近江商人」という人たちが生まれたのだ。

    (それにしても、今回再認識したが、京都と名古屋は東西ほぼ同じ緯度にあるのに、高速道も新幹線も大津から米原へ大きく北上したあと、名古屋に向けて南東に下りていく。京都と名古屋の間が鈴鹿山脈で隔てられているからで、ここを一直線に横切ることができれば、東京・大阪間はさらに近くなるだろう)。

    そして湖岸に広がる水田の広さと豊かさときたら半端なものではない。それだけではなく、琵琶湖東岸を米原まで北上する名神高速道路の脇には三菱重工などの大工場が立ち並ぶ。産業構造が多様で、経済の足腰がしっかりしている感じだ。それでも大都市は少ないので、県の人口は全国の約1%、GDPでも全国の1%強程度に過ぎない(一人あたりのGDPでは全国上位)。そしてその中ではモノづくり、つまり第2次産業の比重が全国平均より大きいようだ。

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    安土

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    中国は早い時代から皇帝の権力が強く、隋・唐の時代には既に、日本の封建領主に相当する豪族はいなかった。地方に「城市」(城壁に囲まれた都市)はあったが、日本のような「城」はない。そして中世日本の「城」たるや、琵琶湖沿岸の彦根のような小都市であってさえも大変な規模を持ったもので(名古屋城、熊本城になると、もう大変なものだ)、当時の日本農村の生産力の高さをうかがわせる。

    信長が安土に城を築いた理由については、定説がないようだ。安土の山頂―-まさにその100米余の山頂に、安土城は30米の高さでそびえていた――からは、琵琶湖の北半分はほぼ一望に見渡せるので、湖上の通商ルートの支配と敦賀港と京都の間の密輸品流通を取り締まるためかとも思った。

    当時、日本海沿岸こそ日本の表玄関で、敦賀は古来、朝鮮半島などとの通商拠点だったのだ。だがその敦賀から京都に至る通商路は、琵琶湖西岸を通っていたので、「通商路としての琵琶湖」という僕の仮説も怪しくなってくる。そこで、安土は須弥山を思わせる地形であるとか、琵琶湖の聖地と目されていた竹生島の真南に位置するという風水のために選ばれた、とかの説もあることを紹介しておく。

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    琵琶湖周辺の通商・経済について言えば、北東岸の長浜を根拠地とした浅井氏、湖を隔てた比叡山の延暦寺、そして北方敦賀の港を差配した朝倉氏のいずれも、信長に敵対して滅ぼされるのだが、この三者は通商路をめぐって結びついていたのだろう。延暦寺は琵琶湖の対岸の近江にまで荘園を持っており、僧兵を派遣してはにらみを利かせてもいた。延暦寺は、西欧で言えば、周辺に大領地を持つ修道院のようなものだったのだ。

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    安土城

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    安土城は、湖とは反対側から登る100メートル強(海抜では199米)の険しい丘の上に30メートルの高さでそびえていたので、相当な建築物である。大手門から城へと登る石段は写真にすると大したことがないように見えるが、実際には殺人的な段差と勾配で、敵軍がここを一気に駆け上ることは到底無理だっただろうし、山上の鉄砲隊の餌食になったことだろう。そして、丘のふもとに近いところに屋敷を構えていた秀吉は、山上の主君信長から伺候を命じられるたび、両手をつきつき、悪態を吐き散らしながらこの石段を攀じ登って行ったことだろう。

    かつては、安土の丘の麓まで琵琶湖の一部が張り出していた。水に浮かぶ丘、その真上にそびえる金色の天守(第6層は壁も金で張ってあったので)といった風情で、当時城を訪れた宣教師フロイスは後述のように書き残している。

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    因みに、天守の第5層と最上階の第6層(地下に一層あったので、7層と称された)を復元してセヴィリアの世界博覧会(1992年)に出品したものが、近くの「信長の館」に陳列してある。豪華絢爛そのもの。日本、中国、「南蛮」の趣味がキッチすれすれに、ないまぜになっている。そこらじゅう、金。戦国の当時、日本は世界でも2番目くらいの金産出国で、安土城の瓦も金で葺いてあったので、マルコ・ポーロが「日本の家は金で屋根を葺いている」と書いたのもあながち嘘ではなかったのだ。

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    そして第4層までは中央部が吹き抜けになっている。そのあとは礎石を見ればわかる。因みに3年かかった築城の際、ものすごい大石が山頂に引き上げられ、それが天守の礎石として地下に埋まっているとの仮説もある。それにしても、第5層と第6層は今で言えばペントハウスみたいなもので、大事な客はここでもてなしたとしても、エレベーターもトイレもないので、信長がここで常時執務していたとは思えない。

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    金箔と朱、黒の漆、極彩色の螺鈿、そして狩野一門の金泥の絵で飾られた安土城天守は、本能寺の変から間もなく原因不明の火事で夜焼け落ちる。100米の丘の上、火の粉が天に吹き上げる中、崩れ落ちていく金、そして朱の壁、金泥の書画の数々は、この世のものとも思えない凄絶な美しさを演出したことだろう。

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    フロイス「日本史」から

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    では、フロイス「日本史」からの引用。

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    ――「(城の)真中には、彼らが天守と呼ぶ一種の塔があり、我ら(ヨーロッパ)の塔よりもはるかに気品があり壮大な別種の建築である。この塔は七層から成り、内部、外部ともに驚くほど見事な建築技術で造営された。事実、内部にあっては、四方の壁に描かれた金(色、その他)色とりどりの肖像が、そのすべてを埋めつくしている。


    外部では、これら(七層)の層ごとに種々の色分けがなされている。あるものは、日本で用いられている漆塗り、すなわち黒い漆を塗った窓を配した白壁となっており、それがこの上ない美観を呈している。他の(あるもの)は赤く、あるいは青く(塗られており)、最上層はすべて金色となっている。
    この天守は、他のすべての邸宅と同様に、我らがヨーロッパで知るかぎりのもっとも堅牢で華美な瓦で覆われている。それらは青色のように見え、前列(の瓦)にはことごとく金色の丸い取り付け(頭)がある。屋根にはしごく気品のある技巧をこらした形をした雄大な怪人面が置かれている。


    このようにそれら全体が堂々たる豪華で完璧な建造物となっているのである。これらの建物は、相当な高台にあったが、建物自体の高さのゆえに、雲を突くかのように何里も離れたところから望見できた。(それらは)すべて木材でできてはいるものの、内からも外からもそのようには見えず、むしろ頑丈で堅固な岩石と石灰で造られているかのようである。」――

    このような、一代限りの英雄の夢の跡は、他にどんなところがあるだろう。強いて言えば、坂本竜馬かな。

  • 本当に「多極化」した世界で、ロシアはやっていけるのか?

    ロシアがずっと言ってきた世界の多極化、米国覇権の凋落が本当になってきた。まだそうなると決まったわけではないが。するとロシアは途方に暮れてしまうのでないか? これまでは、国内のインフレも何も、「悪いのは西側。米国。そして欧州」と言っていれば良かったのが、多極化の中で西側がロシア制裁を緩めたりすれば、「それでもうまくいかないのはロシア政府の責任だ」ということになってしまうからである。

    1991年ソ連の崩壊で、西側のある新聞に出た漫画は面白かった。そこでは東独の市民がドイツ再統一の知らせで、「自由だ! 万歳!」と叫ぶ。次のコマでは彼の顔が歪み、「自由?」と自問すると、恐怖心に駆られて逃げ出してしまうのである。つまり全てのことは自分で決められるので、自分の責任になる。自分自身に経済力がないと、世界での自国の地位も、自分の政権も危うくなるということだ。

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    通用しなくなる「ロシアは核大国」

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    これまでロシアは追いつめられると、核兵器をちらつかせて相手を脅すことが多かった。それが次第に効力を失いつつある。まずウクライナ戦争でプーチンが何回も核の脅しを使ったものだから、オオカミ少年化が進んでしまった。

    そして2月5日に、新START(戦略核兵器削減)条約が効力を失った。トランプは中国の核装備充実を念頭に、国防費を倍増してでも、核装備を増強し、敵の核から身を守る体制-「ゴールデン・ドーム」構想を実現しようとしている。これでロシアの核は無力化されてしまう。「ゴールデン・ドーム」とは、1980年代レーガン大統領がかかげた「SDI」構想に類似して、ロシアの核ミサイルが米国に向けて空中を飛び始めたら、宇宙から撃ち落とす、あるいは宇宙からロシアのミサイル・サイロを破壊するものだ。SDIは言葉だけにとどまったが、今回は技術的には可能な域に達している。

    核による脅しが無効になった場合のロシアは惨めな存在だ。

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    ごまかせなくなる経済苦境

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    ロシア人の生活はこれまで戦争のあおりを受けず、モスクワなどはむしろ繁栄気味であるらしい。しかし、イラン戦争で原油価格が急上昇したものの、ロシアは原油積み出し施設をウクライナのドローンに破壊されて、輸出量を増やせないでいるようだ。民需用品の生産も減少が目立つ。西側の制裁で、ロシアの航空会社は機材の確保に苦しみ、これから欠航・事故が増えていくだろう。

    3月16日付のBellingcatは、ロシア経済に次の問題を指摘している。

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    1)国債発行が増え、かつ金利も高い中で、国債返済・利払い額が増えている。26年予算案では、歳出の8,8%に及び、ウクライナ戦争前の4,4%から倍増する。

    2)増税・インフレ

    1月にはVAT(付加価値税。消費税に相当)が20%から22%に上がり、インフレ率を0、6%以上あげた。一部公共料金も1,7%値上げされる。

    3)借金して投資するより、融資返済へ

    法人の債務は24年、17、9%も増加。25年も9、4%増えた。しかし法人は、借りた金を投資より融資返済に回す。金利が低かった時代にため込んだ法人負債は5兆ルーブルもある。

    4)民需製造業停滞(またはdeindustrialization)

    25年1ー11月、民需製造業は4、9%減少。トラクターは61、6%減少、ブルドーザーは53、7%減少、自動車は34、1%減少。食品生産が15年ぶりに減少。

    2008ー09年の危機では工業は10ー15%減少、2015ー16年には3ー5%減少した。現在の4、9%減少はその中間、景気後退(recession)レベルだが、これが半年以上続くと、後戻りの効かないstructural deindustrializationが始まる。

    5)中ロ貿易減少

    開戦以来初めて減少。7%減少して2280億ドルへ。ロシアの輸入は10、4%減少して1033億ドルへ、輸出は3、9%減少して1248億ドルへ。

    中国の対ロシア自動車輸出は激減で、ほぼ半減した。11ヶ月で234億ドルだったのが、昨年は116億ドルに。recycle fee(税金)のせい。

    6)地方財政逼迫

    地方財政は3年間黒字だったが、赤字へ転じた。昨年1ー9月、89の州レベル自治体のうち55が赤字。モスクワ、サンクト・ペテルブルク、タタールスタンは黒字で、これが全体の黒字の3分の2。一方、52の自治体の赤字は6450億ルーブルに上る。

    エネルギー資源に依存している自治体が特にひどい。ケメロヴォ(石炭)が440億ルーブル、イルクーツク(天然ガス等)が410億、ヤマロ・ネネツ(天然ガス)が330億ルーブルの赤字だ。

    もし20の州レベル自治体が10%以上の赤字に直面すると、状況は危機的と見なされる。2015ー16年の危機では、15の自治体が中央の助けを求めた。

  • 現代文明の耐えられない軽さ

    ホルムズ海峡が通れなくなるだけで、現代文明は崩壊だ。

    19世紀の産業革命は初めは綿織物、次に製鉄(ナポレオン戦争で軍艦、大砲、砲弾の需要が急増)、次に電力・石油の登場。

    この石油。我々は自動車のことばかり考えるが、実は当時興隆した化学工業の原料。化学肥料、プラスチック等々。プラスチックがなかったら、このパソコンは別の素材を探さなければいけないし、納豆のケースも藁やら竹やら、大量に入手、消毒しないといけない。

    本当に儚いよな。でも、納豆はなくならないか。