「中国のカネ」と言えば、世界を席巻していることになっているが、実態はそうでもない。最近のEconomistは、Aid Dataのブラッド・パークスという専門家が公開情報をくまなく調べた結果を報道している。それは、次のことを述べている。
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――2000~2023年の間、中国の対外資金コミットメントは、インフレ調整後で総額2.17兆ドルという巨額に達している。しかしそのうち、純粋な援助(無償や低利融資)と言えるものは6%にすぎない。この間、中国の国有金融機関は途上国に1.02兆ドル(上記総額の47%)を融資しているが、残りの43%は先進国向けであり、その中でも最大の仕向け先はアメリカで、総額は2020億ドルに達した。
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・「一帯一路(BRI)」に関連する金額は意外なほど少ない。BRI向けとして分類されるのは全体の20%にすぎなかった。BRI向け融資を主導したのは中国国家開発銀行や中国輸出入銀行といった国策銀行だったが、最近では、ICBC(中国工商銀行)や中国銀行といった、巨大商業銀行が前面に出てきた。これらは国有であるものの、利益追求に積極的だ。2019〜2023年にかけて、国有金融機関による融資の約60%を商業銀行が占めるようになった。先進国向け融資ではその比率は80%以上に達する。
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・多くの融資は見たところ無害に見える。国際的なシンジケートローンに参加することも多い。しかし、資金が、通信インフラ、半導体、個人情報データ等、各国政府が“敏感分野”と見なす17分野での、企業買収に向けられる割合が増えている点は、問題である。
例えば2015年、4つの中国国有商業銀行が、中国企業による米国企業アイアンショアの買収に融資したが、アイアンショア社はCIAやFBI職員向けの保険を販売していた企業である。―――
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マネロン
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もう一つ、Economistは、中国の金融機関によるマネロンの手口を報じている。
―――中国の地下銀行システムは、世界最大級の資金洗浄ネットワークになっている。その規模を正確に把握するのは難しいが、米財務省によれば、違法薬物の米国内販売によって生じた不正資金――主にメキシコのカルテルによるもの――約1,540億ドルが、毎年中国を経由している。中国系ネットワークが、米国内の違法薬物販売収益の大半を洗浄していることになる。
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・メキシコ等の組織は、中国系ネットワークの効率性、広がり、低手数料に太刀打ちできなかった。メキシコの組織は7~10%の手数料を取ったが、新しい中国系組織の手数料は1〜2%に過ぎない。中国系は血を流すことなく、市場を安々と奪い取った。
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・さらに規模も桁違いである。北朝鮮のハッカーは今年2月、史上最大の暗号資産強奪事件で15億ドル近くを盗んだが、1日あたり1億ドルを洗浄できたようだ。その背後では、中国系地下銀行が巨額資金を細かく分割し、クリーンな資金や異なる暗号資産と混ぜ合わせていったと見られる。
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・中国系の成功は、中国国内の余剰資金を利用する「三角取引」システムを開発したことに負う。これは、メキシコ等の麻薬カルテルが米国で得た売り上げ(ドル)と、ドルを必要とする中国本土の個人のニーズを結び合わせたものである。
例えば上海の裕福な母親が、米国に留学する息子にドルを送りたいとする。彼女はネット上でブローカーに連絡し、ドルを売りたい誰か(A)とマッチングされる。次に母親は、中国国内のブローカーの口座に人民元を振り込む。ブローカーはAに、相当額のドルを米国内の息子の口座に送金させる。
同時にブローカーは、ドルの売り手A(メキシコ・カルテルなど)に対価を人民元で支払う。カルテルは、米国向け覚せい剤フェンタニルを合成するのに使う化学薬品やその他の商品を中国から輸入するために、その人民元を用いる。以上の取引はWhatsAppやTelegramを使って行われ、暗号化されているため、警察はフォローできない。
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・中国系ネットワークは、多数の国をまたぎ、富裕層から犯罪者まで顧客層は幅広く、各国の金融制度の“隙間”で動く。また、彼らはオンライン詐欺など複数の地下産業を支えている。扱う資金規模は桁外れで、東南アジアの中国系ギャングによる「オンライン詐欺」だけで、年間5,000億ドル相当が生み出されている。大半は洗浄を必要とする。
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・すべてがオンラインで片付くわけではない。現金を正規の銀行システムへ戻す必要があるとき、ネットワークはしばしば「マネーミュール(ラバ)」を利用する。無知な若者や貧困層に銀行口座を開設させ、その口座を資金移動に使うのだ。中国人留学生がミュールや現金運び人として使われる場合もある。銀行員の不正協力で、架空住所での口座を作るケースもある。――――――――――――
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援助と融資:日本、米国等との比較
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以上が記事の要旨。この記事は、海外の中国マネーの規模、インパクトを整理して考えるための、とっかかりを与えてくれる(以下は、河東の見解)。
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1)まずODAについて
中国はOECDメンバーではないので、ODAの概念を意識して行動しているわけではない。「ODA並み」の低金利・融資期間を持つものを対象に考えた場合、上記記事は累積1300億ドルという推定を提示している。日本の円借款は年間1~1.5兆円なので、同期間で約30兆円。1ドル=125円で計算すると約2400億ドルとなる。
更に日本の出資が大きいアジア開発銀行による融資額も勘案すれば、ODA資金の供与では中国は日本にまだはるかに及んでいない。中国肝いりで設立されたアジア・インフラ投資銀行AIIBは歴史が新しく、年間融資総額は未だ100億ドルに達していないものと見られる。
従って、上記記事の示す「中国の国有金融機関は2000~2023年、1.02兆ドルの融資を行った」という巨額の数字は、通常金利に近い案件を含むものなのだろう。
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2)商業銀行による融資について
中国の商業銀行による海外での融資は、外国の中国企業向けのものも多いと思われ、それは日本でも同様。右融資は、当該国における中国や日本の地位を直ちに高めるものではあるまい。
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3)ヤミ資金ネットワークについて
上記記事は年間1,540億ドルの麻薬代金を中国系銀行がロンダリングしているとするが、米国での麻薬・覚せい剤取引額は年間5000億ドルはあるものと推定されている。つまりこの分野においての「中国系」金融機関の関与は、この程度のものだということである。西側における資金洗浄「装置」は、企業・個人の節税、脱税のためのTax Havenでの取り引きも含めれば、中国系のものをはるかに上回っていることだろう。
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4)人民元は世界の基軸通貨になるか
海外の中国の資金は、「人民元が世界の基軸通貨になる」のではないか、との観点から話題とされる。しかし中国は膨大な貿易黒字国で、しかも資本取引における人民元の使用を制限しているので、人民元は基本的に世界に出てこない。
製造業で中国は世界を牛耳っているが、かつての日本と同様、その決済の大半はドルで行われている。そして中国の商業銀行は、米国からみのビジネスで利益を上げているので、これを止められるのを恐れて、例えばロシアとのビジネスには関与したがらない。金融面で中国は、ドルに首根っこを押さえられているのである。つまり中国経済は伸びれば伸びるほど、金融面で米国に首根っこを押さえられてしまうという、皮肉な地位にある(そこは日本も同じ)。
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更に、米国で7月に合法化され、現在金額が急速に伸びているステーブル・コインがインターネットを通って中国に入り込んでくると、中国人の預金の海外への急速な流出など、当局の規制の及ばない動きを示すことになるだろう。
今後中国マネーは、中国経済の不振等で収縮するだろう。焦げ付く融資も多くなるだろうし、総じて「中国マネー」の波はピークを過ぎたものと言えるのではないか。