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投稿者: akiokawato

  • モスクワ定点観測5 2009年3月 危機も栄華も油価次第

    ―――でも抵抗力をつけたロシアーー―

                                              

    (これは2009年のロシア事情。2008年9月のリーマン危機のあおりで石油価格が急落したことで、ロシアのGDPは26%も下落した直後。社会での前向きな変化は続いている。ビジネス・スクールの学生は、西側なみの経営マインドを備えているし、街では車が人に譲るようになっていた)

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    2009年3月上旬、2週間モスクワに滞在し、70名ほどの専門家、市民の話を聞いてきた。油価暴落、西欧資本市場での金づまりのあおりで昨秋から始まった、ロシアの経済危機のマグニチュードを測るためだ。

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    前の年9月米国でのリーマン・ブラザーズ破綻が起こした金融危機から半年。油価が急落したことで、ロシアもGDPが26%も下落する被害を受けた。しかし、1年前に来た時に比べてモスクワの街頭風景にさしたる変化はない。車が少なくなって、あの悪名高い渋滞が緩和されたこと、野犬が増えたこと、それくらいだ。野犬は捨てられたばかりのようで、まだ人なつっこい。この10年くらいの間に広がった中級レストランのチェーン店は満員だ。

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    2月には、経済危機のあおりでプーチン首相が早期辞任するのではないかとの観測がロシアのマスコミをにぎわせたが、肝心の経済が今下げ止ったこともあって、その議論もすぼんだ。借り換えができなくなっている西欧への負債も何とか返済できるだろうし―中には債権者と返済繰り延べで合意した銀行・企業もある―、ルーブルも40%切り下がったところで下げ止った。デフォルトを起こし、ルーブルは4分の1に切り下がった98年8月の危機に比べれば、ロシアははるかに抵抗力をつけている。今残る問題は、今年GDPの8%には達しようという財政赤字の財源をどうするか、国債でそれを賄った場合インフレを激化させないかということだが、それも油価が回復すれば解決されるだろう。

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    (モスクワ大学がある雀丘から眺めた高層ビル街Citi)

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    新しい社会の芽

    今回は、モスクワ大学のビジネス・スクールで大学院生を相手に2週間集中講義をやった。僕の方からは大量生産で付加価値生産を飛躍的に向上させたイギリスの産業革命、そしてそれを可能にしたイギリス国家の成り立ちについて説明し、その後は学生にロシアの将来へ向けてのビジネス・プランをいくつか作らせたのだ。輸出できる工業製品を開発すること、輸入代替できる工業製品を開発すること、将来に備えてロシアも代替エネルギー源を開発すること、この3つについてそれぞれビジネス・プランを作ることとし、学生はその3つのグループに分かれて成果を競い合ったのである。

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    その結果輸出については床板パネル、輸入代替については小型発電設備、代替エネルギー源については海外での事業を請け負うエンジニアリング企業の設立が提案され、3つのグループともパワーポイントを駆使して仲間を前にプレゼンテーションをし、僕も含めて大議論の末、最終バージョンを作った。原料の入手先、工場の立地、出荷の経路、港に至るまで、よく調査し考えたプランが提示された。

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    彼らはモノづくりの厳しさ、企業内ガバナンス、海外での販路開拓の厳しさについては認識が足りない。だがそんなことは日本の学生も同じこと、ロシアの学生の場合いいことは、議論が活発なことだ。そして収益計算であるとか財務諸表の作成であるとか、西側のビジネス・スクールで教えるであろうようなことは、当然のことながらもう身につけている。彼らはソ連時代を知らない世代、資源をすべて政府に集中する共産主義集権経済を僕が説明すると本能的な嫌悪感、違和感を示す世代だ。

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    青年は確かに変わって来ている。だが、一筋縄でいく連中ではない。西側の言う「自由」、「民主」という美しい言葉の裏の二枚舌、偽善はすぐ見破る者達だ。そして贈賄を社会の必要悪とみなし、借金を返せなければ延滞を申し入れて当然だと思っている。こうした連中を納得させるのは骨が折れる。だが、彼らはソ連時代ほど、我々と違う世界に暮らしているわけでも、もうなくなった。

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    今回、一番「いいな」と感じたのは、モスクワが歩行者優先の世界になっていたことだ。ソ連の時代、乗用車は特権階級の持ち物であることが多く、歩行者というか車も持てない者の権利は無視されていた。92年以降の混乱の中、乗用車が急増したが、それは成金、マフィアが所有していることが多く、富を誇示し、ベンツやBMWやSUVを戦車のように縦横無尽に飛ばしていたものだ。横断歩道でも構わずに、彼らは突っ切った。

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    半年ぶりのモスクワで驚いたことに、これがすっかり歩行者優先の世界に変わっていたのだ。僕が横断歩道の脇で立ってでもいようものなら、車の方で止まって、運転者が「早く渡れ」と手を振る。東京の方がよほど危ない(2026年注:その後日本でも、同じ状況になった)。

    聞いて見ると、数ヶ月前新しい法律ができて、歩行者優先に違反した車には3千円くらいの罰金が課されることになったのだそうだ。警官が見てなければ大丈夫だろう、と僕は言ったのだが、そこは職務に忠実、というか「罰金」稼ぎに目がないロシアの警官のことだから、物陰に隠れていた警官につかまって罰金を私的に取られたモスクワっ子は数多いのだそうだ。車を持っていない市民も、そういう状況であることを知ったので、自分の権利を行使するようになった。

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    だから、メドベジェフ大統領の好きな「法治国家」の表れとして、歩行者優先がまず実現したのだけれど、何はどうあれ、こうやって市民社会的な習慣が定着していくのはいいことだ。人々は直に、罰金が嫌でこうなったことなど忘れ、譲るのが当然だから譲るのだと思うようになるからだ。ロシアの社会も、薄皮を剥くように少しずつ少しずつ変わっていく。石油の重要性が変わらない限り、ロシアの経済はこれからも伸びる。ビジネスにおいても、ロシアの意義は益々増大していくだろう。

    (2026年10月注:何度も言うように、2022年からのウクライナ戦争は、こうした前向きの変化を破壊した)

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    リーマン危機の余波

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    一方、昨年の秋からロシア政府当局者のマインドは、危機一色だ。原油価格高騰であれだけの栄華を誇り、「アメリカ一極主義」を口を極めて罵っていたのが、油価急落ですっかりおとなしくなってしまった。今では、「アメリカ経済の回復」を心から願っている様だ。

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    政府関係者が受けたショックは大きかった。僕の友人に言わせれば、「全ての資金源が一度に涸れた感じ」だったからだ。まず7月以来株価が急落したことで、外国資金が引き上げた。次に原油価格が急落したことで、資源ファクターにおそらく70%近くは依存している税収[1]が急減した。更に、これまで西欧で短期資金を低金利で借り上げ、ロシア内外での企業吸収合併用資金、ロシア国内での消費者ローン、不動産ローンなどに使っていたのが、サブプライムのあおりの金づまりで、借り換えができなくなった。このためロシア国内でも不良資産が増加し、銀行は融資を停止した。

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    ロシア企業の中には運転資金を銀行に依存するところが増えていたし、鉄鋼のようにEU市場への輸出に依存していた部門もあったから、金づまりとEU不況のあおりで実体経済も縮小を始めた。これらの状況の中で、経済発展省は2月中旬、本年GDP成長率見通しをマイナス2.2%に引き下げた。

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    ロシア政府は、資源輸出収入からこれまで積み立ててきた「安定化基金」も使って、西側並みの救済措置に乗り出した。昨年秋政府は計260億ドルの公的資金を3大銀行に供与し、金詰りを解消しようとしたのだ。

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    だが、ルーブルが昨年8月からこの1月末まで計40%もの下落を続ける中、3大銀行は政府から受けた救済資金の価値を保全するためドルに投資し、ルーブル下落を更に速めただけでなく、金詰まりを一向に解消しようとしなかった。マスコミは3大銀行の行動を国賊だと言わんばかりに非難したが、銀行としてみればやむにやまれぬ行動だったろう。

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    98年8月の金融危機ではルーブル切り下げがほぼ瞬時に行われたので、半年もたつとアパレルや食品など輸入代替産業が急伸してきたのだが、今回はルーブルは半年もかけてゆっくりと下落した。ロシアのエコノミストの中には、急な切り下げを主張する者も多かったが、メドベジェフ大統領もプーチン首相も、「切り下げは徐々に」と公言した。急激に切り下げれば対外債務額が急増し(ルーブル・ベースで)返済できない銀行・企業が増えるだろうし、食品でさえその40%近くを輸入に依存している(価格ベース)今のロシア経済では、急な切り下げはインフレを一気に激化させて社会不安を招く。こうしてルーブルの切り下げは徐々に進行したし、設備投資のための資金は金づまりで得られないから、輸入代替生産は伸びていない。

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    対外返済資金は足りているのか?

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    この3~4年、ロシア経済は高油価と世界的な金余りの中で、異常とも言える繁栄を続けてきた。2000年~2008年の間にロシアのGDPは名目ベースで5倍にもなったのである[3]。

    ルーブル・レートが上昇を続ける中で、ロシアの銀行は西欧資本市場で低金利の短期資本を借りあさっては、国内で消費者ローン、住宅ローンなどとして長期・高金利で貸し出した。国民は住宅、自動車をローンで買いあさり、モスクワの一角には「シティー」と呼ばれる汐留ばりの高層ビル群がその威容を現した。ロシアの企業は資金を借りては、国内外の企業の買収・合併を繰り返した。

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    だが昨年8月、グルジア戦争、油価の暴落、西欧資本市場の金づまりという三重苦が一時にやってきた時、ロシアの銀行は西欧で短期資本を借り替えては以前の債務を返済していくやり方がもうできなくなった。西欧からの資本流入が停止したばかりか返済義務ばかりが残り、他方不良債権が増加したのである。

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    1998年8月には、規模は今より小さかったが、同じようなことが起きている。利回りのいいロシア政府国債を担保に西欧資本市場で資金を借りては、また政府国債を買い増していく、ロシアの銀行のビジネス・モデルが挫折したのだ。アジア金融危機のあおりの金づまりの犠牲となって、ロシア政府はデフォルトを宣言し、ルーブルは短期間で4分の1に切り下げられた。今回は、大丈夫なのか?

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    ロシアの対外債務は現在4.000億ドル強と推定される。外貨準備は4.000億ドルを切っている。ならば返済資金が足りないかというと、そこは微妙なところだ。なぜなら4.000億ドルを今年一気に返さなければならないわけではなく、トロイカ・ディアログ投資信託社のチーフ・エコノミスト、ガヴリレンコフ氏の推計では「元本分1170億ドル、利子支払いを含めて1400億ドル分くらいが本年の返済分で、700億ドル以上の純資本流出はないだろう」[4]ということだからだ。

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    それに、価格は下がったにしても資源を輸出して得る外貨が毎日流入してきている。報道によれば、1月初旬1週間で外貨準備は5億ドル増えている。国民が財布の緒をしめ輸入が急減したために、油価が30ドル近辺でも年間で250億ドルは貯まるということなのだ。1月の消費は増加しているが、これは在庫品が割引価格で売り出されていることが大きな要因だ。

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    そして西欧から借りた金を返せずに困っているロシア人は、手をこまねいて自滅を待っているわけではない。貸し手に延滞を要求し始めている。例えば報道によれば3月、Mirax Groupがロンドンで、1億8千万ドルの債務支払い繰り延べ合意に達した。2007年3月、3年間の期限で発行した債券の償還を繰り延べたのだ(但し返済額を割り増し)。

    「今払うカネがない。もしお望みなら破産したことにして担保の株券や地所を差し上げてもいいが、あんたはそれで本当にいいのかね? ウチの株券や地所をもらって、それをどうこうできるのかね?」と言わんばかりに、ロシア人からじっと目をみつめられた西欧の銀行家は、相手を破産させて完全な損失を蒙るよりはましとばかりに、債務支払いの延滞に応ずるのだ。

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    2月初旬、日本経済新聞が第一面で「ロシアのリスケ」の可能性を報じた。その日のうちにユーロは暴落し、ロシア政府は記者会見をやってそのような可能性を否定する大騒ぎになった。これは誤報だったということにされてしまったが、確かにロシア政府が民間債務を代表して一括リスケ交渉をするようなことにはなっていないものの個々の銀行・企業はリスケ交渉をやっているのだ。だから、今年の返済は当初予想より楽になるかもしれない。

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    そして、「対外債務」とは言いながら、実はそれは他ならぬロシア人自身が海外に逃避させた資金(脱税などのために)がまたロシアに再投資されている分も多いはずなのだ。正確な推測は不可能なのだが、2月27日付モスコフスキー・コムソモーレツ紙はクリチェフスキーという経済学者の言として、「2008年1~9月、ロシアの企業は海外のタックス・ヘブンから815億ドル、つまりロシアの対外借り入れの54.6%を得ている。これが全てロシア人自身の資金だとすると、ロシアの民間借り入れの半分は、在外のロシア資金から行っていることになる」と報じている。ロシアのメディアが、「政府は大金持ちが自分で自分に返済するために救済資金をくれてやっている」と批判する所以である。これも、対外債務返済の切実さを減殺する要因だ。

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    財政赤字がどこまでインフレを激化させるかが問題

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    だから心配なのは対外返済よりも、税収が激減したことで生ずる財政赤字が経済にどんな影響を及ぼすかの方なのだ。クドリン財務相は、「09年の政府歳入額は、昨年11月に採択した当初予算案の42%にしかならないだろう」と述べている。3月の修正案では、歳入見積もりを右クドリンの発言よりは大きい6.7兆ルーブル(約19兆円)とし、歳出9.1兆ルーブルを予定しているので、差し引き約2.4兆ルーブル、つまり約7兆円分が不足する。大統領府のドヴォルコーヴィチ経済問題補佐官は、「09年の財政赤字はGDPの8%以内に収めるべきだ」と言っているから、大体平仄があう。

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    この2.4兆ルーブル、つまり約700億ドル分をどこから見つけてくるか? 本来なら石油収入の余剰分から積み立ててきた「安定化基金」こそ、その財源となるべきだろう。ところが、「安定化基金」のうちかなりは昨年秋以降の救済措置で使われたり、使途を既に決められてしまったりしたものと思われる。

    報道された救済措置を合算すると(二重計算があると思うが)1.700億ドルにもなる。これに、本年2月クドリン財務相が言及した、銀行への400億ドルの追加措置を加えると、「安定化基金」の総額を上回るほどの規模になる。

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    これは荒っぽい計算であるにしても、財政赤字を賄う財源が足りない、ということは言えるのでないか? これは、政府予算から給料をもらう者が勤労人口の3人に1人に達しているロシアでは由々しき問題だ。プーチン首相が大統領の頃から引き上げてきた公務員賃金や年金などが予定通り引き上げられない、いやそれどころか遅配も出てくる、ということになったら、彼の権威にも傷がつく。

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    では、どうしたらいいのか? 一つはロシア政府が国債を大増発することだ。できれば外国で、ドルやユーロ・ベースで発行したいところだ。だが金融危機の今、そんな国債を買う者は海外にあまりいない。

    だから、ロシアの中央銀行がルーブル紙幣を大増刷して政府国債をどんどん買い上げるしか道はない。しかし、GDPの8%分も増刷すればインフレは激化し、それによってルーブル・レートは更に下落してインフレを一層激しいものとするだろう。2月のレヴァダ基金調査によれば、職を失うことを心配する者(27%)より、インフレを懸念する者の方がはるかに多い(41%)。

    もっとも、1998年8月の金融破綻ではルーブルは4分の1にも切り下がったのに、インフレ率は80%に「しか」ならなかった。今回は通貨介入に使える外貨準備がまだ2.000億ドルも残っているから、それほどのインフレにはならないかもしれないが。

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    今のところ政治・社会不安は表面化せず

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    2月中旬にはルーブルの下落は止まり、3月には株価も上昇に転じた。ルーブルの下落が止まったために、銀行も融資を再開し始めている。これをもって「ロシア経済は底を打った」と評する専門家さえ出始めた。前記ガヴリレンコフ氏は、09年のGDP成長率はプラス3%にはなるだろう、と言っている。

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    このような状況下で、政治の方はどんな様子だろうか? 昨年5月、プーチン大統領は「自分は憲法を守って二期で辞める」というかねての言葉を守り、側近の一人メドベジェフを大統領に仕立て、自分はその下で首相となって経済を担当するようになった。その体制で早や11ヶ月になる。このメドベジェフ大統領・プーチン首相の二両連結(Tandem)政権は、いつかは2人、あるいはその側近の間の摩擦が激しくなって瓦解するのではないかと言われながら続いてきた。それはまあその通りで、メドベジェフ大統領はかつてのプーチン・チームの上に乗って仕事をしているようなものなのだ。

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    だがプーチン首相への支持率も経済危機の結果、下落した。前期レヴァダ゙基金[5]の調査では昨年2月の62%から14%下がって48%になっている。だが同じ調査で、「プーチンがかなりの権力を保全している」と見る国民は45%もいる一方、「メドベジェフが真の権力を保持している」と見る国民は12%しかいないからたいしたものだ。

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    メドベジェフ大統領は最近、独自色・積極性を強めようとしており、本来プーチン首相が担当している経済問題についても積極的に発言するようになった。彼は国営テレビで毎月2~3回を目標にレギュラーなインタビューを開始し、2月15日の第1回目には「経済危機についてはオープンで率直な議論を」呼びかけた。これまでは、2000年から2008年にかけロシアのGDPを5倍にもしたプーチン氏の権威に傷がつくのを避けるため、「危機」という言葉をマスコミで使うのは避けられていたのだが、メドベジェフ大統領はそのタブーを破ったのだ。

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    そしてメドベジェフの大統領府は、「シラビキ」と言われる諜報機関出身者に大きく依存していたプーチン大統領第2期目との差異を強調するかのように、高級官僚にふさわしい人材の「100人リスト」、「1000人リスト」などを作っては公表を始めた。100人リストの場合、170名ほどのオピニオン・リーダーに依頼して自分の知人の中からふさわしいと思う人材を推薦してもらったそうだ。「シラビキ」はこの中には少なくて、実業家などが随分入っている。

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    メドベジェフ大統領は2月中旬、「地元民の生活向上が不十分な」知事4名を更迭したが、知事の人事を起案するのは大統領府のスルコフ第一副長官で、後任知事の中にはプーチン首相の朋友の息子が入っていたりしたから、メドベジェフ大統領がその腕力を発揮したものとは受け取られていない。

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    だからメドベジェフ大統領については、相変わらず「自分のチームを作れていない」ことが、彼に対する真剣な評価を妨げている。前記レヴァダ基金の調査によれば、2月下旬彼への支持率は39%にしかなっていない[6]。「真摯で知的で」だけでは、時には鉄の政治力をリーダーに求めるロシア人には物足りないのだ。

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    今回僕が驚いたのは、プーチン首相が経済危機の責任をとって、あるいは大きなダメージを負う前に早期辞任して次期大統領選に向けて力を温存しておくべきではないか、というようなことがマスコミでおおっぴらに議論されていたことだ。メドベジェフ側がしかけているとは思わないが、「オープンで率直な議論が必要だ」という彼の言葉がマスコミの大胆さをあおっていることは間違いない。プーチン首相が早期辞任すれば、後任はシュヴァーロフ第一副首相だ、セルゲイ・イワノフ副首相だ、クドリン副首相兼財務相だ、セーチン副首相だ、或いは全くのダーク・ホースだと、議論が一時喧しかった。

    だがそうした議論ももう熱がさめている。肝心のプーチン首相が早期辞任の動きは一切見せていないし、仮に首相が代わったところで経済が良くなるわけでもない。「肝心なのはアメリカ経済の復活なのだ(石油価格が上がるから)」ということは、ロシアの専門家が異口同音に繰り返すところだ。

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    国民はこれまでプーチン首相を強く支持していたが、生活が良くなってきたのは高い油価のせいであることは、タクシーの運転手に至るまで知っていた。彼らは消費者ローンが使えるうちに、とばかり消費に励み、今は「やはり危機が来た」と財布の緒を締めている。危機が来たのは天体の法則のようなもので、プーチン首相やメドベジェフ大統領のせいではない、と彼らは思っているのだ。もっとも経済危機の中で上層部が腐敗を続けたり、格差を見せ付けるようなことをすれば、国民も政府を非難し始めるだろうが。

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    98年8月金融危機ではルーブルが4分の1にも切り下がり、インフレは80%に達したが、これでも政治情勢は荒れなかった。一つには、野党が今の支配・利権構造の中に絡み取られていることが大きい。そして経済悪化を利用してのしあがる力量を持つポピュリスト政治家が目下いないことも、「灰色の安定感」を助長している。国民も、エリツィンを熱狂的に支持したあげく、あの90年代の大混乱に投げ込まれたことをまだよく覚えているのだ。[7]

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    広大なロシアでは、経済が荒れるとすぐ、「地方の知事が独立傾向を強めるのではないか」という懸念を皆持つが、ロシアの地方は「独立」しようとしても、中央からの補助金なしにはやっていけないところが大半だ。それに今の知事は、プーチン大統領に実質的に任命された者が圧倒的多数だから、その面でもモスクワに頭が上がらない。

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    だから、モスクワの雰囲気は盛り上がらないのだ。今の日本と同じで方向性が感じられない。「まるで灰色のゼリーの中をいつまでも泳いでいくみたい」という女性がいるかと思えば、「今のロシアには国はあっても国家がない」と吐き捨てる男性がいる。地方は大統領府(メドベジェフ大統領)、首相府(プーチン首相)のどちらを向いたらいいのかわからないでいる。「プーチン政権もメドベジェフ政権も、戦略家と言える人物がいない。状況に反応し、資金を配ってきただけだ」と極論を吐く者もいた。「もう『戦略』のことなど語っている余裕はない。今はどうやってサヴァイヴァルするかが、問題なのだ」と新ハムレットばりの言葉を吐く友人もいて、これがまあ(全世界的に)正しいのだろう。

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    また戦争はあるのか?

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    2008年8月のグルジア戦争や、今年2009年1月ウクライナをめぐる天然ガス騒動は記憶に新しい。双方とも、ソ連が崩壊した後の周辺諸国がNATOに傾いたことが、背景にある。ならば、同じことは今後も繰り返されるのだろうか? 答えを一言で言えば、「その可能性は当面薄い。ロシア指導部自身も、国内の北コーカサス地方の方に注目している」ということだ。

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    なぜかと言うと、まず米国のオバマ政権が経済再建とアフガニスタン情勢の安定化を最大課題にしていて、対外関係の多くは話し合い重視の姿勢で当面乗り切ろうとしていることがある。ブッシュ政権が力で広めようとした民主化についても、オバマ政権は「まず安定化と開発。民主化はその成果としてついてくる」という姿勢だ。ブッシュ政権が「イランのミサイルを迎撃するため」、ポーランド、チェコに配備しようとしたミサイル防衛装備(MD)も、恐らく核兵器削減交渉の中に組み込まれていくだろう。

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    グルジアのサカシヴィリ大統領は、南オセチア、アプハジアという分離派地域を平定することを公約として当選し、これを実現するため米国、NATOに擦り寄った。それに対して両地域は国境を接するロシアへの依存を深め、サカシヴィリ側と挑発合戦となった。どちらが先に手を出したのかは果てしのない議論になるが、サカシヴィリ側はおそらく米国による支援の可能性を過大評価していたのだろう。彼自身のエキセントリックな性格も禍し、西欧はもちろん米国世論も彼から離れた。サカシヴィリがロシアに雪辱戦をやろうとしても、西側の支援は得られないだろう。

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    ウクライナはもともと国内が経済・文化面でロシア寄りの東部、西欧寄りの西部に分かれている上、ユシェンコ大統領とチモシェンコ首相、ヤヌコヴィチ等の有力政治家が虚虚実実の勢力争いを常に繰り広げている国だ。NATO加盟を支持する国民は30%もいないが、「ロシアかNATOか」という選択は内政の対立軸としては申し分ないテーゼで、いつも利用されている。だから1月の天然ガス騒動は、ロシアがウクライナのNATO加盟を止めようとして起きたものではない。もともとNATOの側は、ウクライナ加盟を現実の問題として考えてはいないのである。ロシア側にしてみれば、「NATO加盟、NATO加盟と言ってロシアを敵視するなら、NATO諸国なみのガス価格を払ってもらいますよ」というだけの話だ。

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    ウクライナはフルシチョフの時代に、クリミア半島をロシア共和国から「もらった」。ソ連時代には単なる行政権の移動に過ぎなかったのが、今ではロシア・ウクライナ関係が荒れるたびにロシアの政治家が「クリミア半島を返せ」と言って利用する問題になった。そしてクリミア半島の端にあるセヴァストーポリ軍港は、ロシアの黒海艦隊の本拠地として今でも使われている。ウクライナからの借用契約は2017年で切れるが、この問題は両国の間で取引の大きな種になっていくだろう。だがロシアは米国と同じく経済問題に忙殺されているので、自分からウクライナにしかけることはないだろう。

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    メドベジェフ大統領が2月、治安関係者を前にスピーチをした時、「経済不安が社会不安につながる可能性に用心せよ。特に北コーカサス地方に注意せよ」と言ったことがある。北コーカサス地方とはチェチェン、ダゲスタン、イングーシ、北オセチアなどのイスラム地域を意味する。このうちチェチェンはかつての内戦による破壊からはすっかり復興し、カディロフ大統領の強権支配の下に一応安定しているが、他の地域ではテロ、人質事件が起きている。ただこの地方の情勢が、国際情勢全体に大きな影響を及ぼすことはないだろう。


    [1] 「資源ファクター」を狭義に解釈している政府の公的数字では、40%以下の依存率。

    [2] ハイリスク・ハイリターンの投資をする「国民福祉基金」。

    [3] もっともその大部分はインフレ分だ。ただルーブルのレートが一貫して上昇してきたために、名目ドル・ベースに換算しても同じくらいの伸びを示している。つまりロシア経済は、外からドル・ベースで見ても大きくなった。

    [4] 3月5日、筆者に対しての説明。

    [5] 中立系の世論調査機関。政府系の調査より、支持率は低く出やすい。

    [6] プーチン首相は48%。

    [7] 但し、2004年の大統領選挙でプーチンに対抗しようとして脱税を指摘され、シベリア送りになった元の「ユーコス」社長、ホドルコフスキーの将来に若干着目しておく必要がある。彼は2011年には刑期を終えるはずだったが、最近別の脱税容疑が発見されて裁判を受けており、その結果刑期が伸びて2012年の大統領選には出られないようになりつつある。

    だがかつては「国民の資産を独り占めにした寡占資本家」として憎しみの対象だった彼も、モスクワでの裁判がテレビで放映されたことを契機に、受難の英雄の方向にイメージが急転回しつつある。当局が経済危機の責任を寡占資本家に被せようとして彼の裁判をプレイアップしたのが、逆目に出たのだ。

    [8] いわゆる西欧の「国民国家」と言われるものだ。

  • モスクワ定点観測4 2007年6月

    2007年6月17日より21日までモスクワに赴き、国家としてのロシアの変容ぶりを探った。

    プーチンが大統領に就任して7年。石油価格高騰の恩恵で、ロシア経済は潤っている。と同時に、ここに書いてあるように、物価は異常に上がっている。

    街を広く視察するとともに約30名のロシア人専門家と懇談、またモスクワ大学新聞学科等2ヶ所で講演することにより、情報、印象を収集した。

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    概要

    繁栄するモスクワ、底上げされた経済

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    モスクワの印象は夏と冬では全然違うが、今回は夏だったこともあり、非常に良かった。

    モスクワではかつてのソウル、バンコクなみの「全然動かない」渋滞もあるが、首都高速的なもの、陸橋、トンネルの建設も急速に進んでいる。ヨーロッパ随一の高さの高層ビルが8合目あたりまで完成していた。これまでモスクワで建てられていた珍妙なデザインのものではなく、すっきりしたガラス張りのビル。

      

    (クレムリン至近のモスクワ銀座に相当するところ)

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    他方、スパゲッティが4,000円、モスクワ大学の「学生用」レストランでの昼食が2,000円(その後は1000円程度に下がった)、中級ホテルの部屋が一泊7万円など、価格は西側の2倍、3倍という感じ。大衆も安物売りのマーケットではなく普通の店を好むようになっており、以前の大衆向けマーケットはスーパーのチェーンに衣替えしているものが多かった。

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    インフレ公式統計は年間10%内外だが、生活実感ではそれ以上だろう。但し70年代の日本と同じで賃金の伸びが価格の伸びを上回っているので、皆ハッピーである。5年前と違って、深夜の地下鉄でも貧困は見られない。

    別の言い方をするならば、石油高価格の恩恵は全価格体系の底上げによって吸い取られつつあるのだが、配分が消費に手厚く傾いているため、大衆はヴァーチュアルな繁栄に酔っているに過ぎないことにまだ気がついていないだけ、とも言える。

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    次の大統領は?

    (注:この時のプーチンは2期目で、憲法は三選を認めていないから、後継話しは街でくすぶっていた)

    来年3月の大統領選挙までまだ間はあるので、プーチン大統領は拙速に後継を明らかにして(それ自体、民主政治に反したおかしな話だが、1年前の日本と同じで誰もそれを問題視しない)自分をレームダックにすることはしないだろう。

     プーチン大統領は現在の憲法では不可能な三選の道は選ばないだろう、というのが多数意見であるが、7年前にはプーチンと大統領の職を選挙で争ったルシコフ・モスクワ市長の三選が他ならぬプーチン大統領によって認められつつある(知事、大都市市長は公選から大統領による指名制に替わったので)ことを見ると、何か潮流が変わって来たかな、とも感ずる。

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    蘇った保守派

    プーチン大統領は2月、ミュンヘンの安全保障問題会合でスピーチをし、ソ連崩壊後、NATOを拡大する等、ほしいままにロシアを圧迫してきた西側をあからさまに批判。以後、国境地域では爆撃機による威嚇飛行を始めた。

    ソ連が崩壊して旧世代と共産党は後景に退いたが、その旧世代(55歳以上といった感じ)は方々の組織でまた権力を握りつつあり、崩壊後の15年間は屈辱と貧困の繰り返しでしかなかったことを言い立てては、ソ連時代のイデオロギー(WTO批判等、現在の世界ではロシアのためにならないものばかりである)を徐々に復活させつつある感じがある。

    15年前は自由と民主主義を叫んだ55歳以下の世代も、NATOが旧東欧やバルト諸国に拡張されて以来めっきり変わり、「西側は自由とか民主主義とか言うが、その実自分の狭隘な国益しか追求しない」と述べつつ、国家主義的アプローチを推進し始めている。その背後にいるのはかつての共産党に代わってKGB[現在はFSB]、そしてロシア正教会といったところなのかもしれない。

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    しかしロシアを全否定するなかれ。善い連中もいるのだ

    上記のようなことを言うと、ロシアに向かってまたつっかかっていく人達が増えるだろう。だが、ロシアでは市場経済のための法制はかなり整ったようである。問題は裁判所の腐敗だと言う者もいたが、中小企業をやっている小生の友人はもう数年、当局から嫌がらせを受けたことがない。彼らは相変わらず必死で働いている。

    アメリカの新聞には「ロシアには自由がない」と書いてあるが、ロシアの新聞、ラジオ、インターネットでは自由な発言が目白押しである。テレビのニュースだけが厳しい自己検閲をやっている。ロシア人は、スターリンの時代のように外国人との付き合いを避けることはない。外国人とのメールのやりとりも、平気でやっている。社会からは「恐怖」が消えている(注:ウクライナ戦争が始まってからは、外国人とのつきあいに少し慎重になっている)。

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    冷戦、ミサイル競争再び?

    NATO[実際はアメリカ]がチェコにミサイル探知レーダー、ポーランドにミサイル撃墜用ミサイルを2012年までに配置することを、昨年末決定した。この動きに対してロシアは2年前から警告を発していたが(「[自分達の陣営だった]旧東欧にだけは手を出さないでくれ」という感じ)、右決定が下されると大きな声を上げだした。それは本年2月ミュンヘン、本年6月先進国サミット直前のプーチン大統領発言として世界を駆け巡った。

    西側マスコミは、ロシアが突然キレて不当な抗議の声を上げ始めた、これもロシアが「ソ連化」してきたことの一つの証左である、というような、殆んど集団リンチのような報道をしているが、ロシアは突然キレたのではなく2年前から警告を発してきたのである。

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    ただ小生にはわからないことがある。ロシア側は、「米国はこの設備を東欧に配置することでロシアのミサイルを完全に捕捉する能力を得ることになる。それはMAD[相互確証破壊]に基づく米ロ間の相互抑止体制を破り、米ロの核ミサイル・バランスは完全に壊れてしまう。」ということを言っているのだが、ポーランドからミサイルを撃ったところで、その時にはロシアのミサイルは北極の上を米国に向けてまっしぐら、とても追いつくことはできないのである。それに、チェコのレーダーがなくても、人工衛星から見ていれば、ロシアのミサイル発射はどうせ探知できるだろう。

    それにロシアも、アゼルバイジャン、ベラルーシ、タジキスタンにミサイル探知レーダー網を大分前から設置しており、MADからは自ら離れつつあったのではないか?

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    サミットでの会談でプーチン大統領はブッシュ大統領に、アゼルバイジャンにあるロシアのレーダーが得た情報を米国に提供する用意がある旨のべた。米国はロシアではなくイランのミサイルを探知したいと言っているのだから、これで十分でしょう、東欧にミサイルを配備する必要はないでしょう、というわけだ。だがロシアは、右レーダー施設に米軍将兵を入れるつもりはない。ただ情報を一方的に米国に通報する、ということだけなのだ。

    だから米国は、これを既に実質的に断ったようだ。「東欧に配備するものへの追加としてなら、アゼルバイジャン・レーダーの情報をいただきましょう」という回答である。

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    7月に米ロ首脳はメイン州で会談する。米国は、イラク、イランに集中するために、東欧へのMD配備を棚上げするかもしれない、そうなればいい、というのがロシアの計算だ。だが米国が東欧へのMD配備を強行した場合、ロシアは対抗措置を取らざるを得ない。それは何か?

    カリーニングラードに中距離核ミサイルを配備する、というようなアイデアも一部マスコミで云々されているが、そうなればNATOもそれを狙った中距離核ミサイルを配備せざるを得まい。

    すると構図は、ソ連が中距離核ミサイルSS20を配備、NATOが対抗してPershing2を配備、ソ連は「これではソ連に向けた西側戦略核が増えたようなもので、たまらない」として削減交渉を呑み、ついにはSS20,Pershing2双方とも完全廃棄に至った1978~1982年の冷戦末期に酷似して来るのである。ロシアのソ連化と相まって、一種の輪廻のようなものだ。ロシアの友人も苦笑いしていた。

     

    (以下は細かいことです。削除するのももったいないので、参考用にとっておきます)

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    1・内政

    (1)2008年3月の大統領選挙に向けて

    ○大勢意見としては、プーチン大統領はレームダックとなることを防ぐため、10月くらいまでは後継者について決定を下さないだろう、ということだった。

    ダークホースとしては、マトヴィエンコ・サンクトペテルブルク市長、ヤクーニン・ロシア鉄道社長を挙げる者あり。それは雑誌にも報じられており、秘密ではない。

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    ○プーチン大統領は一応退陣することが、ほぼコンセンサスとなっている。ただ本年下院選挙で与党「統一」に3分の2を取らせた上で憲法を改正して次期大統領任期を延長し、2012年の大統領選挙に再出馬することが、期待を持って語られている(2026年10月注:これはすべてこの通りになった。ただ、2012年再出馬に当たっては、かなりの規模の反政府集会が数か月にわたって、続いた)。

    2012年までは、「ゴスソヴェート」(「国家協議会」。知事、政党党首などが一堂に集まって国家の主要事項を協議する、憲法外の機関)の議長に収まり、その資格で外遊等を行うのではないかとの観測も浮上している。

    (2026年10月注:実際にはプーチンはメドベジェフ大統領の下で首相を務め、実質的には院政を敷いた)

    (2)プーチン大統領の神がかり

    プーチンはこの頃、自分は神に選ばれたのだと思い込み始めている、と述べる者があった。そのため、エリツィン時代と同じように、上御一人による独断専行の傾向が出てきたもよう。下部による説得が難しくなってきたということである。

    また上記傾向は、ロシア正教会と海外の亡命ロシア正教会が最近プーチン大統領の仲介で和解したように、正教会強化となって表れてもいる。友人の中には、カトリック、プロテスタントも合わせたキリスト教大合同への期待を述べるものさえいたが、これは現在のロシア社会に強くなっている反イスラム的風潮に適うであろう。

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    他方、プーチン大統領は最近、人文・社会の教師達に対し、「ロシアの過去の歴史に対して原罪意識を持つ必要はない。アメリカは広島、長崎に原爆を落としても・・・」と述べた旨が報道されており、ここにはもしかすると同大統領が私淑している正教会僧侶の影響があるかもしれない。旧KGBと正教会が、ソ連共産党時代のイデオロギーを復活させつつあるのかもしれず、これは領土問題を抱えた日露関係にとってマイナス材料である。

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    (3)政界諸模様

    ○ミローノフ上院議長は4月上旬突然、プーチン大統領三選を提唱した。これは、国民の多くが求めるプーチン三選を前面に立てることにより、自分の政党「公正党」の人気を高めようとしたもの。クレムリンは、新しい「公正党」に共産党穏健派の票を食わせようと企んだのだ。

    ところがミローノフはクレムリンの意に反し、与党「統一ロシア」と争う気配を見せた。地方においても利権からあぶれた連中が「公正党」に結集して、「統一」の利権独占に反対を始めている。ミローノフ自身はクレムリンの寵を失って静かになったが、地方においてはまだ余波が続いている。

    ○ヴィクトル・イヴァノフ大統領府副長官は、臨時に作られた汚職摘発委員会の議長として指導部ににらみをきかせているかに見えるが、汚職は政界に広がりすぎているため、摘発で脅しをかけることは難しくなっている。

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    (4)自由は抑圧されているか

    ○最近の西側プレスでは、「自由が抑圧されている」は、ロシアの枕詞のようになっている。そこで、これまで「自由の欠如」を言い立てて不平を鳴らしていた何人かの友人達に改めて聞いてみた。すると、「実はそれほど自由が抑圧されているわけではない。スターリン時代のような、誰かに見張られている、いつでもしょっぴかれるといった恐怖はない

    (2026年10月時点でのコメント:2022年のウクライナ武力侵入後は、社会における監視は強まった。それは政府の事務のデジタル化が進行し、顔認証も地下鉄等諸方で用いられるようになったことで、個人が国家に掌握される度が高まったことにも支えられている。街頭の監視カメラが普及したことで、市民の行動は当局に掌握されるし、2022年秋のように召集令状を無視して海外に逃避することもできなくなっている。反政府ブロガー等が十分の法的根拠なしに拘留される例も増えている)

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    外国人とつきあっても大丈夫だ。外国とメールのやり取りをしても、全く構わない(注:これも、2022年のウクライナ武力侵入後は様変わりになった)。確かに意見を発表する場は狭くなる一方だが、それは『オピニオン』に対する需要が無いことを反映してもいる。自由にものを言うことはできるのだが、自己検閲してしまう。結果として時代に流されている。戦後の日本に類似している。」と応えてきた者がいた。

    ○そのような実感は、他の識者にも共有されている。一部の者は、ロシアにおける自由の欠如、抑圧を書き立てる西側プレスに対して悲しみ、あるいは怒りを示していた。「日本異質論」に悩まされた一時の日本に類似している。

    ある識者は小生に述べた。「ロシアの現実は西側のマスコミと全然違うだろう? カシヤノフ元首相は今では野党の大統領候補を標榜し、西側のマスコミからは自由の旗手であるかのように持ち上げられているが、彼は首相現職時代、2%の手数料を取ることで有名で、大衆の間で『NDS・2%のカシヤノフ』と呼ばれていたことはご存知の通り。彼は今、『人民民主同盟』の党首なのだが、その頭文字はNDS、つまり付加価値税の頭文字とも一致しており、それに2%をくっつけて揶揄しているというわけだ。彼が、(ロンドンに在住してプーチン大統領にたてを突いている豪商)ベレゾフスキー(2026年注:その後ロシア当局から締め上げられ、困窮のうちに2013年死去。死因は自殺と発表されている)の資金を受けていることはよく知られており、ロシアでは誰も彼を自由の旗手だなどとは思っていない。」

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    2.外政

    (1)プーチン大統領の強硬発言の背景

    ○最近、西側に対するプーチン大統領の強持ての発言が目立っているが、その背景の一つとして本年12月の総選挙、来年3月の大統領選挙を意識しての世論受け狙いを指摘する者は多かった(マスコミでは、小ロシア的ナショナリズムを表すものとして、「ルースコスチrusskost’」(ロシア性)という言葉が流行している由)。

    米欧は分裂しており、米国政権はレームダック化しているので、現在の西側に強持てに出ても対抗措置を誘発することはなく、ロシアの選挙後に簡単に仲直りできるだろう、と彼らは考えている。

    ○他方、政権により近いある識者は、選挙を超えた中期的な政策を指摘した。彼らによれば、「ソ連時代のように世界にロシアを尊敬させることのできるのは、この2,3年しかない。西側は割れている。石油は10年は高いだろうが、ロシアの経常黒字はあと2年くらいでゼロになる」ということだった。

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    (2)冷たい西側に対する恨みと悲しみ

    ○1991年8月クーデターが失敗した直後、モスクワでの自由フィーバーはすごかった。反米、反西欧を標榜したソ連政権の中で、実は西側の富と自由に憧れていた青年達は、自由と市場経済への高い期待をおおっぴらに語るようになった。

    それはその後6,000%のインフレでまず経済的に裏切られ、ロシア国民のほぼ全員は屈辱の底に突き落とされたのだが、90年代末から00年代初期にかけ、スラブ人の同胞であるユーゴスラヴィアがコソヴォ問題で西側に一方的に指弾され、次いでNATOがかつてソ連の一部だったバルト三国に拡大されたことで、ロシアのインテリは西側に幻滅、いや幻滅を通り越して強い憤りを示すようになった。

    西側は「やり過ぎた」のだ。欧米はオスマン・トルコ帝国崩壊の過程では中東問題の処理を誤り、今またソ連帝国崩壊の過程でも処理を誤っているのだ。

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    かつてはペレストロイカの旗手として鳴らしたジャーナリストは、今回小生に述懐した。「全てはよくわかった。西欧はロシア人を憎み、怖がっているのだ。自由とか民主主義などまやかしで、世界は冷厳な利害で動いているのだ。ならばロシアも・・・」。

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    しかしこうした連中は、心の中に悲しみと失望を抱えている。本当はリベラリズム、個人主義を奉じたいのだ。それに、40代後半になったこれら世代の横では、若いウェイター、ウェイトレス達が西欧と全く変わらない能率ぶり、そして丁寧さをもってきびきびと働いているという皮肉な光景が展開している。要するに根無し草のインテリとは別のところで、社会は着実に変わっている、ということ。

    ○他方、資金を豊富に有し、西欧でM&Aを展開している企業家の間では、「できないことはない」という風潮も出てきた由。ある友人は西欧企業買収を企図するビジネスマンに「西欧の価値観はロシアと違うので・・・」と説明したら、先方はしばらく黙っていた末、「その価値観とやらも買わねばなるまいな」と言った由。

    ○そして政治関係が冷却する反面では、欧米からの投資は次々に行われている。アメリカのウォルマートも近く進出する話しがあるらしい。まるで政冷経熱である。最近サンクト・ペテルブルクでロシア主宰の「経済フォーラム」が行われたが、そこで対ロシア投資に慎重たるべしと述べた英国人は、他ならぬ英国の仲間達から「もうあんなのを参加させるな」という批判をくらった由。

    ○こうした複雑な状況の中では、ロシアの識者も意識改革を常に行っていく必要がある。ロシアと西側の関係はスペクトラムが広がっており、総合的なアプローチとロシアの位置づけが必要となっている。

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    (3)中近東への見方

    米国がイランを攻撃することはあり得るが、それは空爆に止まるだろう、しかし空爆が行われれば、在イランの米国人、そしてイラクの米軍は人質にされるだろう、そしてスンニー、シーアは直ちに結束する、ということを述べる専門家がいた(2026年注:この見方は甘かったことが、2026年のイラン戦争で示されている。スンニー諸国、特に湾岸諸国は石油輸出を維持するためには米国との関係を維持せざるを得ない)。

    因みに世界の中近東専門家の間では、スンニー、シーア結束を「スシ」と称している由。

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    3・軍事

    (1)綱紀粛正とセルジュコフ新国防相

    ○共産党時代、軍では各部隊に至るまで「コミサール」という称号を持った共産党からのお目付けがいた。彼らのお墨付きがないと、将校は昇進できなかったのである。

    この制度がなくなって軍では汚職が野放しになった、セルジュコフ国防相は綱紀粛正のために送り込まれたのだ、と述べる者がいた。同国防相は靴の商売に携わったことがあり、軍の経験が皆無であることから、軍内部では「靴屋」と呼ばれて軽侮されていたが、自分自身は表に出ることを慎重に避けつつ次官級を何人か突然更迭しており、その静かな辣腕ぶりが尊敬の念を誘い始めたようだ。

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    (2)NATO(米国)によるミサイル防衛施設配備

    ○現在、ロシアが対米関係で最も重視しているのは、米国がポーランド、チェコにミサイル防衛施設を配備するのを(チェコではレーダー、ポーランドにICBM撃墜用ミサイル配備を予定)やめさせることだろう。しかし、ロシアが米国に向けてICBMを発射した場合、それは通常北極上空を飛んでいくと言われており(地球儀で見ると、西欧上空を通過しても距離は同じなのだが)、するとポーランドにMDを配備しても意味はないのだ。ポーランドから発射されたミサイルは、既に発射されたロシアのICBMを遠く北極上空まで追っていかねばならないが、追いつくことは不可能だからだ。

    だから、「東欧配備のMDは将来のイランのミサイルを念頭においている。ロシアのミサイルを念頭に置いたものではない」という米側の説明がもっともに聞こえてくる。だがロシアはこの問題を最大課題であるかのように追及し、プーチン大統領は6月初旬、アゼルバイジャンでロシアが有しているミサイル探知レーダーの情報を米国に「提供」することで、東欧へのMD配備を断念してもらう提案を行った。そのフォローアップは7月初旬に予定される米ロ首脳会談の主要議題となる。

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    ○しかし、ロシアはどうしてこの問題にこれほどこだわるのか? 今回話しを聞いたところでは、次のようになる―――。

    ①ロシアは米国に対して、ICBMの点でだけ同格を維持している。その基本思想はMAD(相互確証破壊――双方とも相手を完全に壊滅させる能力を維持することで、どちらも攻撃を始めることのできない状態を作り出す)だった。それは、ABM配置を条約で禁ずることによって、担保されていた。ところが米国はABM禁止条約から離脱し、最近アラスカにMDを配置した(注:世上では北朝鮮、中国のミサイル向けとされている)。

    今回東欧にMDを配置すると、米国のグローバルなMD体制が完成してしまい(もっとも一部ロシア専門家によれば、もう一つMDを宇宙に配備する必要があるようだが)、米国は絶対的な安全を手に入れてしまう。逆に言えば、米国はロシアへの攻撃を行っても安心していられる状況になり、外交的にも絶対的に有利な立場に立ってしまう。国際関係がひっくりかえってしまう(注:小生には随分前にひっくりかえってしまったように見えるが・・・)。ロシアはこれを嫌っている。ロシアの軍関係者にとって「ABM」という言葉は牛に赤い布を見せるようなものなのだ。

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    ②東欧へのMD配備計画を凍結させることが、ロシアの当面の目標だ。7月の米ロ首脳会談では、本件についての協議メカニズムをスタートさせ、それを延々と続けていけば、そのうちにブッシュ政権は交代するだろう。

    ロシアはMDも含め、新たな戦略核兵器削減交渉、つまりSTART3を始めたいと思っている。そこまで実現できれば御の字だ。

    (注:ロシアのICBMはその固体燃料の質が米国に劣る等のため、急速に老朽化している。新規補充は毎年7,8基であり、とても追いつかない。ロシアはSTART3を締結して米国のICBMも大幅に削減しないと、自滅の状況に追い込まれていく)

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    ③東欧へのMD配備決定は随分性急だった。9.11以降のブッシュ政権の意識、そしてMDをできるだけ沢山のところに売りたいとする米国軍需企業の意向も働いているだろう―――[引用終わり]。

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    ○ロシアに勝算はあるだろうか? プーチン大統領は現在の米欧間の不仲を過大評価し、先般サミット前の記者会見では「米国が東欧にMDを配備するなら、ロシアのミサイルがそれに照準を合わせるのは自然なことだ」と発言して西欧を脅かし、米国から完全に離間させようとしている。だが、西欧主要国の政権は親米の方向を堅持している。ロシアが西欧、米国を挑発し、本格的軍拡を導けば、単なる敗北を越えて、90年代と同じく国の崩壊の危険を冒すことになろう。

    しかも、米国が西欧に中距離ミサイル(INF)を配備すれば、ロシアがこのゲームに負けることは明白で、この点をロシア人識者はよく認識していた。こうして状況は、戦略核兵器の削減交渉や西欧をめぐるINF配備問題で揺れていた冷戦末期に酷似して来た、とある友人は述べていた。

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    ○そしてロシアの識者は誰も、ポーランド配備のミサイルはロシアのICBMに追いつけないことをカウントしていない。小生がそこをつくと、虚をつかれたもののごとく、「そこは軍の専門家の判断に任せている」と言うだけだった。つまりここにも、プーチン大統領による独断専行の節が見て取れるのである。

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    4・経済

    (1)繁栄と高価格のモスクワ

    ○今のモスクワはとにかく繁栄の一文字でくくれる。シェレメチェヴォ空港では念願の新ターミナルの建設が進んでいるし、旧ターミナルでも日本語でインターネットが使える店が出ている。渋滞で悪名高かった都心への道も、分離帯の並木を切り倒して4車線のハイウェーが真ん中に作られた。モスクワの街角では、東京の渋谷や六本木にあるような大スクリーンがいくつもあって、動画の広告を流している。和食レストランの数は2000年代初頭より2倍、3倍になった感があり、歩道にまでせり出しているものもある。

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    ○夜、地下鉄に乗ってみた。5年前の地下鉄は床に酔っ払いが寝そべったり、通路に不良の一団がたむろしていたりで、ロシア社会の格差を如実に見せていたからだ。ところが現在では、通路で危険を感ずることもなく、また地下鉄に乗っているのも通勤帰りといった風情の普通の市民達だった。着飾ったり派手な化粧をしているわけでもないが、5年前のようにくたびれ果てたといった顔をしている者はもはや見られない。選挙対策もあって年金、公務員・軍人の給料が引き上げられたこと、民間の給料もうなぎのぼりであることが反映しているのだろう。

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    ○他面、モスクワは世界一の高物価になっている。店では宝石をちりばめた10万円の携帯電話を売っていたりする。高級スーパーでの豪州牛肉は100g、800円(ロシアの牛肉は200円)。普通の和食レストランの揚げだし豆腐が1,600円、しゃぶしゃぶの霜降り肉は100g、1万円。そんなところに友人を招待したら息子を連れてきて、スシを注文しまくるものだから気分が悪くなりかけたが、「今日は俺の方でもたせてくれ」ということで一安心。金銭感覚が違う。

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    ○かつて安いパスタが食べられたPatio Pastaという店はGorkiと名を変え、スパゲッティは4,000円になっていた。フォアグラ「Chateau de Morsei」などというのがメニューにのっている。だがここのジャズ生バンドは良かった。かつてロシアのレストランというとバンドの騒音で会話はできなかったものだが、ここは完全なバック・ミュージックになっている。メトロポーリ・ホテルのバンドも、絶妙の編曲と腕で大いに聞かせるが、昔と違って押し付けがましくない。

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    ○ゴルバチョフ時代、改革の旗手だったアガニョークという雑誌では、ある企業家が「モスクワは年収○ドル以下のものが住むところではない」と発言して大反発を食らった由。編集幹部は「いい宣伝になった」と喜んでいた。

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    ○今回雇った運転手は、月に1,500ドルは稼いでいるということだった。労働への正当な対価をもらっている感じがすると言い、注文が少なくなる休暇時期を憎み(モスクワは2ヶ月必死で働くと2週間くらい休むようなリズムになっている)、夜の超勤を喜んでいた。彼は正直な男で不正はやらず、消費ブームで目が釣りあがっているわけでもないが、子供の教育やものを買うためにどんどん稼ぎたいという意識を持っている。

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    ○高価格は生産を刺激している、と言う者もいた。確かに「製造業」が伸びている。今回聴取したところでは、この中で兵器生産の比重は小さく、エネルギー部門関連機械機器に加えて鉄道(貨車)・電力・ガス等公営事業のインフラ関連の機械機器生産が多い由。

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    ○別の運転手に、「ばかに調子がいいが、ロシアの経済は石油でもっているのを知っているか?」と聞いてみたら、しばらく沈黙した後「・・・それは。だからプーチンはハイテクをこれからやっていくと言っている。政治的決定が行われたんだから大丈夫だ」と答えた。相変わらず政治優位の共産主義時代のままのマインドでいる。これでは、2、3年先が心配になる。

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    ○他方、大学や社会科学系研究所の建物、設備は相変わらず惨状を呈している。もっともモスクワ大学の一隅には「学生用」のカフェが新規に開店し(一般用の安価な食堂も残っている)、完全に西欧風の店内では2,000円のバイキングを「学生」達が食べていたが、さすがに満員というわけではなかった。この頃では学生の方が教師よりいい車を持っている由。

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    ○所得水準が全体に底上げされているため、格差というか貧困はかつてほど目に付かない。証券会社トロイカ・ジアログのアナリストによれば、「格差は90年代初頭から拡大した。拡大は今でも続いているが、そのテンポは鈍ってきた。上位10%と下位10%の差は現在14,5程度。」ということだった。因みにロシア最大の証券会社トロイカ・ジアログは、これまで殆んどロシア株で商売してきた由。日本でも年間30-50%儲けられる投資信託はあるのだと述べたら、関心を示してきた。日本市場は難しい、もうからない、というステレオタイプが彼らにはある。但し一部野心家は、ロシア企業の日本でのIPOを斡旋して一儲けしようと考えている。

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    (2)マクロ予想

    ○あるアナリストによれば、「99-06年は石油高価格の中で、比較的低金利の時代だった。08年に向けて貿易黒字、経常黒字はゼロになっていくことが予想され(石油輸出収入が停滞ないし低下する一方、所得水準の向上、月賦制度の普及もあって消費財の輸入が急増しているからである)、これから問題が激化するだろう。資本収支黒字が大事になってくる。

     (注:ふと思うのだが、商業⇒産業⇒金融という発展段階のうち、ロシアは真ん中の産業を飛び越えて一気に金融資本で食べていく、という行き方はできないものかと夢想する)

    反面、08年以降は自由化、合理化の方向に動きやすいということだ。90年以降のロシアの歴史は、石油価格動向に比例してそう動いてきた。例えば94年湾岸戦争で石油価格が上昇すると、ロシア国内では寡占化が進行し、97年から石油が下がると自由化が進行した。変化に対応しないでいると、危機がやってきた。

    しかし、08年以降の赤字の時代にも対処できる。安定化基金を支出しても、資本の回転率が遅いし、資金需要が強いから、インフレにはなりにくい。」ということであった。右発言には、経済理論から言って矛盾しているところがいくつかある。

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    (3)ルーブル国際化

    6月中旬サンクト・ペテルブルクでの世界経済会議においてプーチン大統領は、石油の先物市場をロシアに創設するとともに、ルーブルを国際化することにも言及した。通貨の国際化は日本でも十分行えないでいることもあり、ロシアが果たして何を具体的に考えているのか聞いてみた。その結果大多数の意見としては、①フィンランド、トルコでは既にルーブル現金が通用している(ロシアの経済面、観光面でのプレゼンスが大きいからである)、②ロシアの石油を輸出する際の計算単位として使えるだろう、③しかし総じて「長期的目標として考えて欲しい」、ということだった。

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    (4)産業政策

    「航空機、原子力、ナノテクノロジー等4分野のハイテクを奨励し、それぞれにおいて世界で10%のシェアを目指す」というセルゲイ・イワノフ第一副首相の産業政策は、肯定的に評価されていた。もっとも、ナノテクノロジー重視はプーチン大統領に近いある銀行家がロビーイングした結果であると言う者もいたし、この4分野だけでは十分な雇用を創出することはできない、というのはコンセンサスであった。そして耐久消費財生産は外国企業の直接投資に依存せざるを得ないということも、皆がいやいやながら認めざるを得ない事実となっていた。

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    (5)動意が見られる農業

    ○農業生産の地理的配置等、合理的になった由。穀物、野菜、豚、鶏肉の生産が伸びている。穀物、豚、鶏肉は大農園経営、野菜は自作農による生産が主流である。アルタイからはソバが日本に輸出されている由。

    ○ソ連はかつて穀物を大量に輸入していたが(ガイダール元首相代行によれば、1985年の石油価格大暴落で穀物輸入にも差し支えるようになったのが、ソ連没落の最大要因である由)、ソ連崩壊後牛を大量に殺戮したこともあり、今では大穀物輸出国となった。他面、食肉の70%を輸入している。

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    (6)中小企業も伸びている?

    ○政府の政策は大企業中心だが、小売、建設下請け、運輸などで中小企業も育っている。広州見本市にも、ロシアから多数の中小企業が参加した由。但し製造業では大企業が中心であり、中小企業は育っていない由。

    ○プーチン大統領の第一期のうちに市場経済化関連の法制はかなり整ったもようであり、法人税率も低い。但し社会保障関連の負担は高い。ある友人の会社は600名を雇う中規模企業であるが、当局から賄賂要求も含めて嫌がらせを受けたことは、もう2年間無い由。ただ「裁判所が腐敗している」ことが、問題である由。

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    (7)東シベリア、極東への期待?

    プーチン政権は極東開発に予算を重点的に振り向けつつあるが、極東に米国の西部と同様、将来の経済成長の支えを期待している者も見られた。

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    5・社会寸景

    ○若いビジネスマンは鼻息が荒いが、しつけはできている。道で他人にぶつからない。挨拶はきちんとしている。

    ○現在の20代の青年達は、幼少時をソ連崩壊の大混乱の中で過した。さぞかし「壊れている」かと思えばそんなこともなく、「失われた世代であるはずの20代の連中は、自分の社では非常に良い」という者あり。

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    ○モスクワ大学の新聞学科で講演したが、学生の3分の2は女性ということだった。以前と比べて質問もしてこない。かつては知らない外国への(あるいはまだ若かった小生への)興味に目を輝かせていたものだが、今回は能面のように無表情の者が多い。卒業生の質も落ち、特にテレビ記者においてそれは顕著である。収入志向になっている。

    ○最近ではテレビは娯楽に特化。国民は情報をラジオ、インターネットから得ていて、新聞は読んでいない。記者や学生は、情報を検証する能力が落ちた。インターネットから手軽な情報を探してきては、つないでいく「ペースト文化」。

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    ○小さな店が増えた。路地裏にインテリアとか食料品とか。ヨーロッパ的な景色になっている。

    ○ルイノック(ソ連時代、唯一自由な売買が認められていた食品市場)も、雑貨ルイノックも少なくなった。大資本のチェーン店がそれに替わっている。昔時々行ったティシンスキー・ルイノックはペレクリョーストク24という、「安くて良い品がある」小型モールになっていた。階段の下では東洋の雑貨売り場(なぜか東洋のものは階段下が多い)に典型的にモンゴル的な顔をした女の子(「アジア人はモンゴル・タイプ」というステレオタイプに合わせている)が2人、所在なげに饅頭をもぐもぐ食べていた。

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    ○ прекрасное такси(「素晴らしいタクシー」という、こざっぱりしたタクシーが走っていた。運転手はマニキュアの指にたばこを挟んだ中年の美人で、このタクシーは運転手は全て女性、客も女性しか乗せない由。進んでいる。

    ○アエロフロートは全く西側なみになった。カーペットもシートも綺麗で、日本人スチュワーデスもなれている。パイロットの英語もなまりがない。ビジネス・クラスではフルコースの食事が出てくる。ナイフ、フォークが本物の銀であるかのように重い。硝子の皿にスシを現代的にならべて出してくる。

    昔、大使館のそばにあった大衆食堂のナイフやスプーンはアルミ製で、どれも曲がっていたことを懐かしく思い出す。

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    ○空港の税関、入管、セキュリティはめっきり簡素化されている。しかし渋滞、高価格は交流を妨げている。

    ○郊外には金持ち用のマンションだけでなく、中産階級用の市営アパートも建っている。

    園芸用品の大スーパーなどと並んで。但し地下鉄がなければ、通勤は苦痛だろう。

    (ふー、長かった。でも面白かったと同時に懐かしい。ロシア経済の市場化がかなり功を奏して、頂点に達した頃。2026年時点ではモスクワの街はさらに小奇麗になったようだが、ウクライナ戦争は経済を破壊しつつある。上記に書いてある前向きの進展の多くは、破壊されている。2026年10月17日)

    (了)

  • 米国のロシア軽油輸入再開をめぐる空騒ぎ

    当面の世界を変えるのは、米国のロシア軽油輸入より、米国中間選挙の結果

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    10月9日、トランプはプーチンと電話会談。プーチンの誕生日(7日)祝いのはずだったが、時差とプーチン外遊のため9日にずれ込んだもの。トランプは、9月中旬ロシアの総選挙後には再開するという口約束があった、ウクライナ停戦に関するウクライナ・ロシア・米国三者協議の期日で合意、発表できる、と踏んだのだろう。

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    ロシアからの軽油輸入再開、波紋を呼ぶ

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    大統領補佐官ウシャコフによれば、会談は1時間半にも及んだ。それでも両首脳は受話器を置こうとしなかったので、ウシャコフが介入して両者が同時に置くほどだった(このあたりは10月10日付戦略文化財団記事)。しかし、プーチンは三者協議再開には同意しなかったのだ。ウシャコフによれば、選挙当日、ウクライナが一連のドローン攻撃をしかけてきたことで、プーチンは怒っている。

    三者会談再開は成らなかったが、トランプはそれでも中間選挙に向けて選挙民に「売れる」材料をプーチンから手に入れた(と思った)。それは、「ロシアが大量の軽油を米国、及び全世界に輸出する」ということ。クレムリンの発表文では曖昧模糊としているのだが、トランプのSNSでは「ロシアが軽油を直ちに30万トン。時間をおいて50万トン、米国に輸出する」のだそうだ。米側は手回し良く(ということは事前の根回しができていたのだろう)財務省が直ちに同日、対ロ制裁の例外措置としてロシア産軽油の輸入などを半年間認める指示を発出している。

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    トランプは親友の故リンゼイ・グラム上院議員発案の対ロシア制裁強化、通称「地獄の制裁法案」に署名したばかりで、これはロシアの原油を輸入した国には高関税をかけることを定めたものなのだが、トランプは自らこれに反することをやってのけた。おそらく農繁期の農業地帯からトラクターなどに使うディーゼルの価格が急騰していることで、突き上げを食らっていたのだろう。

    米国は軽油を輸出もするが、時期と場所によっては輸入もするという国。2025年の輸入量は5,798.9万バレル(EIA)。トランプの言う「直ちに30万トン」というのは約225万バレルに相当するので、年間輸入量の約4%にしかならない。ロシアは夏の農繁期には軽油の輸出を停止することがあり、ウクライナに製油所を破壊された今年は7月から10月末まで軽油輸出を禁止していたほどである。それほど輸出余力はないだろう。結局、世界の軽油市況に少しアナウンス効果がある程度で終わったようだ。米国での軽油先物価格は会談直後に5%下がったが、13日には4.5%上昇してほぼ以前の水準に復帰している(Wall Street Journal等)。

    よせばいいのにトランプは、プーチンとの会談の翌日、記者たちを前にゼレンスキーを罵った。「ウクライナがロシアの製油所を破壊するから、石油価格が上がるのだ」、「ゼレンスキーは早く交代したらいい」と。

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    実体はあまりない、この軽油輸出合意をめぐって、ちょっとした空騒ぎが、ロシア、ウクライナ、欧州の論壇で生じている。「トランプ米国は自分の利益のためにウクライナを捨てた。第2次大戦の時、ソ連と米国が緊密に協力した時を思い出す。その枢軸関係の復活だ」というわけである。

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    ウクライナ戦争は終わらない

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    確かに、米国での中間選挙を前に、ウクライナとロシアは双方への攻撃を少し手控えるかもしれない。米国のSpaceXがStarlinkを止めれば、戦場のウクライナ軍は通信手段を失うし、ロシア領内の標的の所在地もわからなくなる(西欧の企業で衛星情報を提供しているところもあるが)。

    しかしそれも、米国中間選挙までのことだ。米欧離間が決定的となって、NATOが崩壊するところまではいかない。冗談めかして言うなら、ロシアも欧州も米国も、NATOが崩壊する前にまず、自分達が個々に、政治的・経済的にぐじゅぐじゅに崩れて行ってしまうかもしれない。

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    特にロシアの経済は、これまで軍需景気で偽りの繁栄を演出してきたが、まさにその軍需で諸方に資金不足が発生。経済は限界症状を見せ始めている。高金利で沈静したインフレは、利下げとともに再び上昇して約6%に達しているが、食料品の値上がりはそれをはるかに上回る。それでも、中銀は利上げ再開には踏み切れないでいる。金利を上げれば、経済界から再び大変な不満の声が沸き上がるだろうからだ。

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    軍需景気にもかかわらず、と言うか軍需偏重のために成長率は低下を続け、それに伴って財政赤字は膨張の一途。ロシアの政府債務残高は、2026年末にGDPの約20%となり、2026年の債務返済費用は連邦予算支出の8.8%に達する見通し。これは日米欧に比べればはるかに「健全な」水準にあるのだが、問題はロシアは資本を国内だけで集めざるを得ず、その資本の量が限られているために、国債利回りが急上昇していることだ。7月には財務省は国債の新規入札を延期している。高利回りのままでは、将来の返済費用が膨張するからである。

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    地方財政も逼迫している。連邦政府は地方政府の財源を奪う一方で、新兵募集の費用などを押し付けてくるからである。2025年には89の州級自治体のうち、73が赤字になっている。連邦政府が助けてくれない中で、民間銀行からの融資で凌ぐ地方政府は増えている。その額は2025年、3倍に増えて、6760億ルーブルに達している。現在の政策金利は14%なのである。

    だから政府は今年1月付加価値税を2%上げて22%とし、電気・ガス等の公共料金は27,9%も引き上げた。大きな利益を上げている資源関連企業などからは、上納金を巻き上げている。

    そして今年の国防費は、予算を40%超える4~5兆ルーブルになることが見込まれている。これだけで、4兆ルーブルほどの起債をしないといけなくなる。

    ロシア経済も、戦争につじつまを合わせることがもう無理になってきたのだ。

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    国際政治地図を変えるのは「米ロ結託」よりも米国中間選挙

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    欧州諸国は、以前ならウクライナを犠牲にしてでもロシアを手なずけておくやり方を選んだだろうが(それが2014年の「ミンスク合意」の意味)、ウクライナ戦争で、ロシアは欧州諸国にとってのリアルな脅威となった。従ってEU諸国と英国の政府、そして民間企業はウクライナ支援を続けるだろう。

    米国も、バイデン時代に約束した支援でまだ残っているものがあるし、米国の民間企業はそれぞれ自分たちの思惑でウクライナへの支援を続ける。SpaceXのStarlinkが提供する戦場での通信インフラ、衛星からの情報はウクライナ軍にとって不可欠なものである一方、SpaceXにとっても実際の戦争で用いた場合のデータをとれる貴重な場だ。それはウクライナ戦争の初期から参入している米国のAnduril Industriesや、Fedorov前国防相の下で活躍したPalantir社(システムMaven)にしても、同じこと。

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    だから今回の軽油事件で米ロ枢軸が成立して、ウクライナを蹂躙し、欧州を敵視することは起きない。ウクライナ戦争は、一気に停戦が成立するのではなく、エネルギー関連施設への攻撃を相互に控えるなどの合意が積み重なって温度を下げ、2014年のミンスク合意の後のような「凍結された紛争」の様相を呈することになるのだろう。

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    (これの続きは19日発刊予定の「ボストーク通信」をご覧ください)

  • トランプは非常事態を宣言して中間選挙を延期:無理

    中間選挙までもう時間はない。トランプ共和党は苦戦を伝えられる。中には、彼は非常事態を宣言して中間選挙を延期するかも、と言う人も出てきている。ウクライナでは、ゼレンスキー大統領が非常事態を宣言したまま、選挙を延期し続けている。

    では、トランプもそれにならって・・・と思って、このシナリオの法的な可能性をChatGPTに質してみた。以前も調べた記憶があるが、鮮明でないのでもう一度。

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    結論は「非常事態を宣言することはできる。しかし中間選挙の日は連邦法で定められているので、これを延期するにはその改正が必要となる。改正は無理だから延期もできない。しかし非常事態を宣言することで、選挙や開票を混乱させることはできる」ということ。

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    ついでに言うなら、中間選挙の結果、下院で民主党が多数を取れば、大統領弾劾が始まるだろう。ただ、上院で3分の2以上を取らないと、弾劾は成立しない。1974年ニクソン大統領が辞任したのは、下院司法委員会で弾劾発議が可決され、上院でも共和党議員の寝返りが増えて弾劾確実となった時点。今回そうなると、トランプ氏は、世界をもう騒がせない勇断を下したということで、ノーベル平和賞を受けることになるだろう。

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    以下は、非常事態についてのChatGPTの解説を編集したもの。

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    小生質問:

    「トランプ関連なのだが、中間選挙を回避するために、彼が緊急事態を発令するという観測もある。そこで憲法あるいは他の法律で、大統領が緊急事態を発令する要件、そして手続きはどう定められているか、教えてくれないか? そして米国史上、大統領が緊急事態を発令した実例も教えて欲しい」

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    ChatGPT回答:

    大統領が緊急事態を宣言することは比較的容易です。しかし、それによって中間選挙を延期・中止できるわけではありません。 この二つは分けて考える必要があります。

    ① 憲法・法律上の根拠と要件

    米国憲法は大統領に、「緊急事態」を宣言すれば、憲法や法律の制約を一括して停止できるという一般的な権限を与えていません。現在の基本的な枠組みは、1976年の「国家緊急事態法(National Emergencies Act、NEA)」です。議会が個々の法律で認めた特別な権限を、緊急事態の宣言によって使えるようにする仕組みです。

    意外なのは、この法律自体は「国家緊急事態」を定義していないことです。「戦争、反乱、大災害の場合だけ」といった限定的な要件もなく、宣言に議会の事前承認は要りません。そのため、何を緊急事態と認定するかについて、大統領には広い裁量があります。

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    ②それでも、現行法上、大統領が緊急事態宣言だけで中間選挙を全国的に延期・中止する権限はありません。

    憲法第1条第4節は、議会選挙の日時・場所・方法について、州議会と連邦議会に権限を与えています。連邦法は、議会選挙日を「偶数年の11月第1月曜日の次の火曜日」と定めており、今年なら2026年11月3日です。全国的に日程を変更するには、連邦議会による立法が必要になります。災害等による局地的な投票の延長・再実施は、別途、州法や裁判所の判断の問題になります。

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    ③歴史上の代表的な実例

    1976年以前の宣言と、それ以後の国家緊急事態法に基づく宣言では制度が違いますが、代表例は次のとおりです。

    大統領・宣言日緊急事態と主な措置
    フランクリン・ルーズベルト、1933年3月6日大恐慌下の銀行危機。全国の銀行を一時休業させ、銀行取引を停止する「銀行休日」を命じた。
    トルーマン、1950年12月16日朝鮮戦争と共産圏の脅威を理由に宣言。軍事・民間防衛の増強を進めた。
    カーター、1979年11月14日イランの米大使館人質事件への対応。米国の管轄下にあるイラン政府資産を凍結した。
    ジョージ・W・ブッシュ、2001年9月14日9・11テロを受けて宣言。予備役の招集など、軍事関係の特別権限を発動した。
    トランプ、2019年2月15日メキシコ国境の危機を理由に宣言。軍事建設に関する特別権限を使い、国境壁建設へ資金を振り向ける措置を進めた。
    トランプ、2020年3月13日新型コロナ流行について宣言。医療制度の一部要件を緩和する権限などを使えるようにした。

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    トランプは、外国による米国選挙への干渉についても、2018年9月12日に緊急事態を宣言しています。ただし、これは外国の干渉に対する経済制裁の枠組みであって、選挙を止める権限ではありません。

    私の見立てでは、警戒すべきなのは、宣言一本で合法的に選挙を取り消すことよりも、緊急事態を口実に選挙運営へ介入し、投票や集計を混乱させることです。それを試みる可能性と、法律上それが許されることとは、別の問題です。

  • モスクワ定点観測3 2005年夏 膨れる財布、うつろな心

    ――膨れる財布、うつろな心

                                 

    ロシアとかソ連とか言うと、いつも革命とか民族戦争とか暗いことが話題になる。かと思うとテニスのシャラーポヴァのような華やかで明るいことが何の脈絡もなく突然飛び出て、それはまるでロシアのことではなかったかのように、また忘れられていく。僕もソ連時代からこの国には合計十年も住んで、「遥かなる大地」(筆名:熊野洋)という小説https://www.amazon.co.jp/%E9%81%99%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%82%8B%E5%A4%A7%E5%9C%B0%E2%80%95%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%81%AE%E7%89%A9%E8%AA%9E%E3%80%88%E7%AC%AC1%E9%83%A8%E3%80%89-%E7%86%8A%E9%87%8E-%E6%B4%8B/dp/4794211481/ref=sr_1_2?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=2M73U8R5JSPM7&dib=eyJ2IjoiMSJ9.MGCFm_3_ccxTdrQkWLlAaVbi2za95XG2yQ15347-OSt-d0za7imQ5TqD_9926VzzAG5TfXSvsSkJyIe8xMCqYfmLQY4HUbOJOY1zykgnMXQuGPr-gJ9ITEehpXv2Fs9BLGEaxyrVbx2qMqDbEPY9luVYxhqkqyPKF4hsHF_Vevk_vd03AGg4H3c2QjgVN0Yfa3h7bOU336JdEaHeAtiEuH3V0iQfH4lsRy8nOiYjdZ8.BBTtnM8xXum-dNkGrbYcFjbGm93Mfh4HnZ1Y7IYh17U&dib_tag=se&keywords=%E9%81%A5%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%82%8B%E5%A4%A7%E5%9C%B0&qid=1791697077&s=books&sprefix=%E9%81%A5%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%82%8B%E5%A4%A7%E5%9C%B0%2Cstripbooks%2C197&sr=1-2まで書いた。それなりの思い入れがある。そして今でも、毎年友人たちに会いに出かけては、この国の脈をはかっている。はるか千三百年前の昔には、自由な都市国家と市場から始まったこの国が、いつ力強い自律的発展へ向けて鼓動を再開させるのかを見るために。

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    アエロフロートに見る市場経済

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    この夏(2005年)、一年ぶりにモスクワに行った。アエロフロートのエアバスは、まるで几帳面なルフトハンザになったが如く、定時に成田のエプロンからすべり出る。市場経済化とやらが遮二無二進んでいた90年代半ばから、アエロフロートの国際便は確実に良くなった。

    機体のデザインが鮎のように優美なのはいいにしても、 「この飛行機いつまで地上を走るつもりなのか。ひょっとして・・・」と乗る人をして不安がらせた、あの懐かしいイリューシン62ももう飛んでいない。

    あれは本当に寒い飛行機で、乗ったらまず最初に棚の上から毛布をがめることが、玄人の乗り方だった。というのも、毛布の数が足りなくて、早く手に入れておかないと、上空でいくら寒いと文句を言っても、「あんた、モスクワに着いたらもっと寒いのよ。しっかりしなさい」と、妙に納得できる理屈をスチュワーデスに言われてお終いだったのだから。

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    そして90年代と思うが、アエロフロートは遂に機内食を温めて出すようになった。黒パン、冷たくて塩辛いブロイラー、半分に割ったゆで卵の上に申し訳のようになすりつけられたキャビア―――いや、イクラだったか?―――は、過去のものとなり、最初のうちこそ熱意があまって端の焦げたステーキがサーブされたりしたけれど、とにかくアエロフロートもグルメ指向になったのだ。それがこの2005年、市場経済化から既に10年もたってみると、アエロフロートの機内食も更に一層の進化を遂げている。

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    スープが出てくる。その洒落た陶器皿にはコンニャク(!)とゴボウ(!)がさりげなく浮かび、次に出されたステーキの付け合わせは、小振りながらも正真正銘、なんと球形のガンモドキだったのだ。そして米は、竹づとにくるんでゴマをふってある。

    コンニャクとかゴボーと言うと、読者の方は、「ロシア・イコール田舎」という決まり文句を思い出されて苦笑でもされるのだろうが、日本文化に能の洗練と歌舞伎の荒々しさが並存しているのと同様、ロシアにも洗練されていることこの上ない貴族文化と粗野だが温かい大衆文化が共存している。で、このアエロフロートの機内食は、その食器、盛り付け、味付け、適度な量、その他その他、まさにその洗練されている方の典型だったのだ。

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    「おいしいね」と言うと、スチュワーデスが緊張した顔で「頑張っているんです」と答える。市場経済になってから彼らは、カネ離れがよくて上得意の日本人乗客、でも終戦直後のあの苦しい頃のことなぞまるで覚えてもいないのか、「不便」という二文字を生まれたときから見たことがないような顔をして、上から目線の要求を次から次へとつきつけてくる日本人の乗客を、まるで恐れてでもいるかのようだ。ロシア人もソ連の昔は、自分の国に―――それがどんなに不便で貧しいところであっても、そんなことには気がつかないかのように―――ずいぶん自信を持っていたものだ。今のおどおどした態度がそのうち、プライドを傷つけられたことへの恨みとなって、再び猛々しいナショナリズムを噴出させないとも限らない。

    (2026年注:その後、アエロフロートの乗務員もすっかり西欧化して、日本人乗客はめっきりおとなしくなった。しかしウクライナ戦争で、アエロフロートはもう日本に飛んでこない)

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    大地の歌

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    飛行機は、モスクワ上空を旋回しながらゆっくりと下りていく。とうとうたる川、陽光をきらめかせる湖、そして清楚な白樺林に彩られたロシアの大地が見えてくると、さすがに一つの感慨にふける。歴史を知り、文学を知ると、その国の大地には意味がでてくる。領土問題解決の重要性を一向にわかってもらえない中、いい加減もう忘れようと僕が思っていたロシア。だがそれでもこの35年、かかわってきた国だ。この偉大な大地、偉大な民。遥か地平へと広がるその大地は、悠揚迫らぬその詩(うた)で、旅人をその胸へと誘う。

    だが、かつてマルクスがアメリカと同等の発展を予言したこの国は、その後どうして駄目なのだろう? アメリカ経済は南北戦争や二度の世界大戦などを契機に、大きく変貌してきた。ロシアでも戦争や内乱は数え切れないほどあった。だが、ここでは戦争は経済に被害しか与えていない。

    アメリカは個人の所有権をベースに発展した国だ。そこへ行くとロシアは、中国と同様、古来国家の比重が高すぎる。そしてその中国と比べると、ロシアには台湾や華僑のようにリスクを取って投資してくれる国外の勢力もありはしない―――。 

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    モスクワの空港では、旅券審査と税関が速くなった。今回は手荷物しかなかったから、僕はこの30年間で最短の記録的なスピードで空港を出た。だがその後がいけない。空港からの道が、なんとずっと渋滞しているではないか。

    スウェーデンの家具チェーン「IKEA」がこの街道のほとりに200米四方はあろうかという巨大な店を出したのは、今から数年前。自分で組み立てる簡素な、しかし美しい家具を山のように並べるこの店は、それ以来モスクワの中産階級のメッカになった。ロシアならではの広大な駐車場は、最新型のベンツから20年前の国産車まで、あらゆる車でいっぱいだ。そして、このようなショッピング・センターが他にも並んでいるからたまらない。僕の運転手は脇道に出たが、ここも彼が「こんなのは初めてだ」というほどの渋滞。ここらへんは農村で、他にろくな脇道もないのだ。で、結局僕は、この30年間で最長の時間をかけてホテルにたどりつき、アポイントに遅れる羽目となった。

    大衆消費社会


      ソ連時代、モスクワは整然としていた。古代ローマのように人を威圧する大きな建物、そしてだだっ広い道路にはまばらな車。それもまた、味があった。

    だが今は、喧騒そのもの。なぜかいつも埃っぽい道路脇にはしゃれたブティックやパチンコ屋のように派手なネオンのクラブが並び、道行く市民達はどこかくたびれた風情。モスクワでは90年代前半の大混乱からまだ間もないという雰囲気がまだ漂い、社会のルールもまだ完全には定まっていないから、ちゃんとした収入を確保していくには随分疲れることだろう。いったいいつまで彼らは、こうした気の張る生活を我慢できるのか。

    この15年、モスクワも変わったけれど、その間に中国の諸都市はものすごいスピードでモスクワを追い越し、一つ先の段階に行ってしまった。農村との格差とかあれこれ言われるけれど、それでもやはり中国の都市の方がロシアより所得の格差は小さくて、中産階級が主人公になっているのだ。

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    そのロシアも、エリツィン時代末期には大衆消費社会に確実に突入した。ソ連の時代、ぴかぴかに輝く西側の製品は「ドルショップ」にしかなく、特別の金券とやらを持っていない普通の市民は入り口で文字通り追っ払われていたものだ。それが90年代も終わりになると、それまでモスクワの市場をじっとうかがっていた西側やトルコの資本は次々に、IKEAのような超特大ショッピングセンターを建て始める。アメリカの郊外によくあるようなモールと全く変わらない店を、今では普通のロシア人が家族連れで歩いている。日曜ともなれば、付近の団地から住民達がぞろぞろと普段着で歩いて買い物にやってくるのだ。

    (モスクワ大学前にできたショッピング・センター。フランス資本)

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    だからロシアの庶民は、「温かく人間的だった」ソ連時代に一抹のノスタルジアを感じつつも、なんとなく雑然としがさつな今のモスクワにいい加減疲れを感じながらも、やっと手に入った便利さはもう手放したくない。

    渋滞の中、僕の運転手は言った。

    「昔はね、肉屋の羽振りの良かったことと言ったら。良い肉をとっておいて、知り合いの顧客にコネで高値で売っていたんだから。今は食べ物は何でもある。でも、昔はピオネール(共産党のボーイスカウトのようなもの)とかラーゲリ(夏の林間学校)とか社会がまとまっていた。自分もそうなりたいと思うようなお手本になる人々のことを教えられたし、社会全体で子供を育てていた感じがあったな。今は皆ばらばらで、怒りっぽくなっちゃって。俺も大変さ。会社に使われて。週末でも、呼び出されるんだ。でも、来週は家族とトルコで休暇さ」

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    インテリの倦怠感―――チェーホフの世界

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    ロシアという国は、評者がどこを見ているか、社会の如何なる階層を見ているかで、評価がまったく異なってくる。昨今の石油ブームもあって、地方都市でも生活水準が確実に上がってきた反面、いわゆるインテリにとって現状は「ブレジネフ時代のような停滞」、あるいはオイル・マネーのせいで本当に必要な改革は棚上げにされたままの「改革殺/油地獄」、あるいは「インテリ殺/油地獄」に他ならないようだ。「何かが空気に漂っている。何か変わらなければならないという雰囲気が。しかし何も変わらない。何がなんだかわからない」と言う友人もいて、これでは1905年の第一次革命前のロシア社会を描いたチェーホフの「桜の園」そっくりではないかと思ったものだ。

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    こうしたぬるま湯につかった安定の中で、所得の格差や腐敗、そしてエリートのエゴイズムと大衆の頑迷さが解消されない。国の富をほんの一握りの貴族が独占し、圧倒的多数の大衆を農奴として搾取して省みなかったあの体質は、今でも深く深く残っている。ここでは、新しい富を作り出すことよりも、今ある富を誰がどのくらい手に入れるかが大事なのだ。ロシア人は、自分達はポスト産業化社会にいるのだ、と言うが、外国人が目にするものはむしろプレ産業化時代、つまり18世紀の重商主義の時代を思わせる。手練手管、収賄と、資産の奪い合いは手段を選ばない。

    「このように腐った社会は、文明としてもはや成り立たない。21世紀になったのに、この国はまるで未だ20世紀初頭のメンタリティにあるかのようだ。僕の子供には外国で生きていくよう言っている」とまで言う友人がいたから、オイル・マネーのバブル効果を差し引いて見れば、ロシアもよほど重症なのだ。

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    起こるはずなどない「民主化」革命

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    グルジアやウクライナの政権が「オレンジ革命」だとか何だとか、それぞれの色の呼び名をつけられ、西側NPOの干渉も受けてはばたばたと倒れていった2004年の頃、クレムリンはパニックになった。ソ連が崩壊してやっと友達になったはずの欧米が、歯をむき出してロシアを包囲しにかかっている、と彼らには見えたのだ。あまつさえ、今年の1月には年金生活者達が中心になって、福祉の縮小に抗議するデモが全国的に起きている。春のモスクワでは、次のロシア革命が間もなく起きる、という論議が一時はやったものだ。

    社会のモラルは崩壊したまま、再構築されていない。石油ブームで一握りの連中は春を謳歌しているが、安月給の教師達、下級公務員、労働者、農民、そういった大衆との格差はほとんど解消されていない。モスクワの街は、猥雑な趣味と埃っぽさにおいて際だっている。

    いわゆるリベラル勢力も生き残ってはいるものの、ある識者に言わせると、「昼は口角泡を飛ばして論争するが、夜になれば保守の連中と同じパーティーで和気藹々。保守もリベラルも同じ穴のムジナで、煮え立っていた社会にできたカサブタのような存在」なのだそうだ。ロシア正教会も「身売りして、同性愛とビジネスの巣窟と化した」とさえ言う者がいたし、ソ連崩壊当時は皆が絶大な期待を寄せたアメリカも、90年代ロシアが最も困っている時に助けてくれなかったばかりか、力をかさにきてあれこれ指図する姿勢を見せたり、NATOを拡大したりで、ロシア国民の信頼をすっかり失っている。

    つまり現代のロシアは、「米国が自由とか民主主義とかいくら喚いてみたところで、ロシア人は従わない。問題は山積しているが、上からも下からも革命など起こるはずがない」とインテリが唇を歪めて言う時代になっているのである。

    数年前なら、ロシアはヨーロッパ文明、アジア文明のいずれに属するのかとか、ロシア経済の発展モデルとして最もふさわしいのは日本かチリか、日本文化と中国文化はどう違うのか、というような知的な論争も少しはあった。ところが今回は、ある政治専門家が僕に言った。「内政が不安定になる可能性は小さい。それよりむしろ老朽化して限界に達しているインフラが崩壊して災難が起こることの方が怖い。ロシアでは、これまで革命があり過ぎた。目下エリートの間に深刻な亀裂はない。大衆は、できたばかりの月賦制度に目がくらみ、電化製品を買い入れては代金を返済することで頭がいっぱいだ」

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    ロシア国民は、理想とか理念についてはもう疲れている。幻滅している。オイル・マネーのおかげで財布は少々豊かになっても、心の中には隙間風が吹いている。その中で唯一信ずることができるもの、それはおそらく血縁、地縁だろう。それが露骨なナショナリズムに化していく可能性だって、もちろんある。                  (以上)

  • AIの米国経済診断 10月10日

    毎日ChatGPTに、米国金融市場でのめぼしい動きをレポートしてもらっている。「これこれこういう事項について、目ぼしい動きをまとめて、毎日(毎週でも)メールしてきてくれ」という指示を書き込んでおけばいいだけ。

    今日、つまり10月10時点での主要点は次のとおりだ(河東が編集)。

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    ・国債入札動向

    一つは国債市場が落ち着いていること。国債の入札は滞りなく進行している。長期金利が上がり、国債利回りも上昇しているので、市場は購入している。今まで長期資本市場で国債と資金の奪い合いをしていた感のあるAI関連起債がめっきり減少したことも、国債にとっては好材料。

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    一方、短期国債については、主要な購買者であるMMF(若干の金利がつく普通預金口座のようなもの)への資金流入が急減していることは意識していく必要があるだろう。10月6日のReutersによると、2026年1~9月の米MMFへの純流入は約1,580億ドルにとどまり、過去数年の同時期の8000億ドル超から急減。MMFのT-bill保有増加率も8月までで約4%と、2025年の18%から大幅に鈍っている。

    この中で、財務省は10月に約2250億ドル、11月にも約1600億ドルの短期国債(T-bill)発行を予定しているとReutersは報じている。

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    ・AI関連起債動向

    10月10日のFinancial Timesによると、Morgan Stanleyの集計で、世界のAI関連債券発行額が6月の1,130億ドルから9月には230億ドルと80%減少している。さらに、9月の米国投資適格社債市場では、AI関連の新規債券発行がゼロになっている。ただし、Morgan Stanleyはこれを市場からの全面撤退ではなく、一時的な調達休止と見ている。

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    ・ノン・バンク動向

    もう一つの観察の重点事項、つまりノンバンク部門の動向については(ここで投機性の強い商品がバブルで崩壊すると、ノンバンク、そしてひいては銀行分野でのカネ詰まりに発展しかねない)、大手ヘッジファンドLone Pine CapitalのCypressファンドの価格が急落したことが目を引いた。このファンドは、2026年6月末には年初来44%の利益を上げていたのが、7~9月期に約30%下落。9月末の年初来利益は、わずか0.6%になったもの。AI関連株への集中投資が裏目に出たため。同社全体の運用資産は約190億ドル。

    同じようにAI関連株への集中投資を行っているヘッジファンドが多数存在するなら、損失の波及には注意が必要。

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    小生のコメント

    「トランプが中間選挙で必死だ。特に石油値下げに熱心。これからフーシとサウジの戦争の推移で、市場の上下動すごいだろうね。そして中間選挙後を見据えて、市場は動き始める。」

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    ChatGPTの応答

    (長文で答えてきたが、要するに「賛成」ということ)

  • 温暖化は地球が太陽に近づいているため・・・なのか? ChatGPTの託宣

    これまで34日連続で雨。そして2,3日前からやっと秋晴れの日々。今日、ふと見たら、太陽が昔より近くに見えた。

    で、ふと思う。ひょっとして本当に地球は太陽に近づいているのではないか。それが温暖化の原因なのだとしたら・・・

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    そこで、バカにされるのを承知でChatGPTに聞いてみた。

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    「やあ、また。くだらない質問。もちろん錯覚なのだが、一つ確かめたい。太陽と地球の間の距離が近年縮んでいるという観測結果は発表されていないか? 『太陽が近くなったから地球が温暖化した』と言えるかどうかを確かめたいんだ」

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    ChatGPTは答える。

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    「やあ。『太陽が近くなったから地球が温暖化した』とは言えないよ。近年、地球が太陽に継続的に近づいているという、確立した観測結果はないよ。

    むしろ、長期的には逆の方向だ。太陽は光や太陽風を放出して少しずつ質量を失い、引力が弱くなるので、地球の軌道はごくわずかに広がる。水星探査機のデータを使った研究も、この質量減少を裏づけている。地球の距離に換算すれば、年間およそ1センチ程度、遠ざかる規模で、気候への影響は無視できる。

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    ただし、一年の中でも太陽は、近づいたり遠ざかったりしている。地球の公転軌道が楕円なので、1月初めに最も近く、7月初めに最も遠くなる。その差は約500万キロ。太陽の見かけの直径も、近い時は遠い時より約3%大きい。だから、今の10月は7月より太陽に近づいている途中だが、これは毎年のことだね。

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    温暖化との関係で決め手になるのは、衛星で測った、地球に届く太陽エネルギーに、近年の温暖化を説明する増加傾向がないことだ。地表が暖まる一方で成層圏は冷えているという観測も、太陽からの加熱増加より、温室効果ガスの増加による説明に合っている」

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    小生言う。

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    「残念。ノーベル賞ものかと思ったが」

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    ChatGPT言う。

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    「惜しかったね。庭先で太陽を見てノーベル賞、そのあとストックホルムで授賞式――という、いい筋書きだったのだが」😀

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    (本当に、ChatGPTのユーモア感覚は、「こしゃくな」と思わせるところまで来ている)

  • ピアニストのタッチとたゆたう詩情

    タッチが素晴らしいピアニストは何人もいる。その中で、僕が最近はまっているのは小林愛実。一つの音でも、力を入れ、不意に抜く(感じ)と、支えを失った感情が宙にたゆたう。こういう芸を彼女は本能的にやっている。そして音色は、色のついた透明感、とでも言おうか。

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    彼女はショパン弾きとして知られているけれど、シューベルトが素晴らしい。ある日、ソナタの20番イ長調を聴きに行った。その先は、小林愛実と言うよりシューベルト自身の音楽について。このソナタは、シューベルトがわずか31歳で死ぬ年に書かれたもの。

    諸説あるが、第二楽章を聴いていると、死を完全に予知していたとしか思われない。

    静かな諦念から始まるが、突然調整も脈絡もかなぐり捨てて音楽は荒れ狂う。なんで自分が死ななければならないんだ! 

    小林愛実が強く打鍵しても、音の裏には虚無が漂う。シューベルトは狂う。叫ぶ。そして叫びはしばし中断する。「何を言おうが、もうおしまいなんだよ」---

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    (次の演奏は小林愛実ではありませんが)

    https://www.bing.com/videos/riverview/relatedvideo?q=youtube%2cschubert+sonate+Adur+D959&mid=5400364021AA0D4D6BA95400364021AA0D4D6BA9&churl=https%3a%2f%2fwww.youtube.com%2fchannel%2fUC4FVuqDaOBBYGVx-ljobaMA&FORM=VIRE

  • サウジ・アラビアの石油輸出破綻はユーロ・ドルを縮小させるか

    (この頃、湾岸諸国からの原油輸出が、ホルムズ海峡封鎖でかなり止まっている。これがユーロ・ドルを縮小させるのではないかという人たちがいるので、調べてみた。答えは、そういうことはない、ということである)

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    ユーロ・ドルとはもともとは、ソ連や産油諸国が欧州の銀行に預けたドルが、10倍、20倍のレバレッジをかけて貸し出され、世界中の決済で使われているもの。世界の貿易の半分はドル建てで決済されているが、そのほとんどは実はユーロ・ドル、つまり、ドルと等価のクーポンみたいなもので、米国連銀の管理外にある。ただ、最後の帳尻の決済はニューヨーク連銀(欧州の銀行たちがここに持っている口座の間で)で行われるし、2008年のリーマン危機でユーロ・ドルの貸し渋りが起きたような時には、ニューヨーク連銀がスワップで「本物の」ドル(と言っても、同じく帳簿上)を大量に供給した。

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    今では、ドルを欧州の銀行に持ち込むのはロシア、湾岸諸国だけでなく、世界中の国、企業が持ち込むし、世界中の銀行がドル預金を引き受けてここから貸し出せば、それは「ユーロ・ドル」なのである。

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    とは言え、イラン戦争で湾岸諸国の石油輸出が止まると、彼らはドルを得ることもなくなり、欧州の銀行にドルを預託する量も減るだろう。これは、ユーロ・ドルの量を減らすので、ドル入手の際のプレミアムを引き上げるだろう。どのくらい上がっているかと思って、ChatGPTに調べてもらった。

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    ChatGPTの回答:

    結論から言えば、サウジの原油輸出急減と同じ時期に、欧州市場でのドル調達プレミアムは明らかに上昇しています。ただし、まだ危機的な水準ではありません。

    そして、最近のプレミアム上昇をすべてサウジのせいにすることはできません。米国債市場への警戒、FRBの金利見通し、欧州企業によるドル需要、銀行の四半期末バランスシート調整、中東戦争による安全資産需要も同時に動いています。

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    そして大事なのは、湾岸諸国が輸出代金を欧州銀行に預ける経路は、1970年代ほど支配的ではないことです。今日のドル流動性は、アジアの輸出企業、米国MMF、国際銀行、FXスワップ市場など、はるかに多元化しているのです。

  • 26年9月の情勢 めぼしいところ

    9月23日に月刊メルマガ「文明の万華鏡」第173号を発刊したが、その序文を例によってアップしておく。その月の主なできごとをまとめてあるので。

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    今月はいろいろなことが錯綜して、老朽化の激しい我が頭脳は機能不全。ChatGPTはいろいろ情報をくわえてきてくれるも、こちらは消化不良で、プリントした情報が机に積み上がるばかり。ものごとの底流・基本が見えなくなっています。

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    それでも、大きなファクターは、20日に終わったロシアの下院選挙、ドイツのベルリン及びメクレンブルク地方議会選挙、9月24日の米中首脳会談、11月3日の米国中間選挙。

    特に米国の中間選挙が大きくて、支持率低下とインフレ上昇で焦るトランプが何をやるか、戦々恐々。そして8月末から9月にかけては、米国金融市場の動きから目を離せませんでした。(ここでは長期金利の上昇が目立つが、まだ国債価格や株価の崩落は起きていない)

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    日本の自由民主党は、内閣から林芳正氏が去ったことが、27年秋の総裁選でどんな影響を及ぼすかが面白い点です。高市総理が再出馬すると、閣内にいる茂木氏、小泉氏は動きにくいのではないかと思います。麻生派、旧安倍派は高市総理支持でしょうから、林氏は困難な戦いを強いられるでしょう。高市氏が再選を断念すれば、茂木、小泉の間で票は割れることになり、前回総裁選で議員票獲得数1位だった林氏の目が高まるでしょう。

    (9月30日の週刊文春が、麻生元総理が地元に抱える大きな不動産に納税漏れがあるということを報じていて、これはきな臭いものがあります。もし麻生氏が政界から身を引くと、麻生派は瓦解するでしょう。高市総理は麻生副総理という、後ろ盾を失います。それは、総裁選に向けての情勢をどう変えていくか)

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    というわけで、今月の目次は次のとおりです。

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    名古屋アジア大会、万全の準備態勢なのにチョンボ続きなのはなぜ?

     ウクライナ戦争は続くよ・どこまでも――ChatGPTによるシミュレーション結果

    どんな資金が米国国債市場を崩落から救っているのか

     止まらない日本の財政赤字と円安の元凶は

        バブル破裂-内需で経済を回す試みの失敗

        橋本内閣(1996~98年)の「六つの改革」

        自民党(利権)をぶっこわす小泉劇場

        アベノミクス

    オイル・ダラーの減少はユーロダラーも減らすのか

     ドイツ次第でがらりと変わる世界の政治地図