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イラン戦争はドルの覇権を破壊するか

                                  河東哲夫

(以下は、4月21日にアップ・ロード後、数時間後に一部修正してあります)

 2008年リーマン金融危機や2020年のコロナ禍で、米国はドルの供給を増幅し続けてきた。国債発行額は今やGDPの1年分を超える。政権はこれがいつか米国債への信頼を崩して、金利を暴騰させ、米財政を破綻させることを恐れている。

今のイラン戦争が、米国債の崩壊の引き金を引くのだろうか? どういうシナリオで? 可能性があるのは、原油価格の高騰が米国内でインフレを長期化させて、金利を亢進させることだ。そうなると、米国財政にとっては国債利払い負担が大きくなる。利払い負担が経済成長率を超える時が、危機の分水嶺だ。

また1.8兆ドルとも推定される企業向けノンバンク融資が不良化すると、それはノンバンクに融資している大銀行に飛び火して、2008年のような金融の目詰まりを起こす。

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しかしそれは、ドルの暴落を起こすだろうか? 2008年のリーマン危機の時は、米国債が安全資産とされて需要が高まり、長期金利はむしろ低下した。そして欧州ではユーロ・ダラーの供給が瞬時に止まり――お互いに「こいつはつぶれるのではないか」という疑心で相手を見て、融資をしなくなる――、貿易決済のためにドルを求める需要が急増して、ドルのレートを押し上げた。後で言うように、欧州の銀行に預けられたドルを抵当に供給されるドル融資(ユーロ・ドル)が欧州や世界の貿易決済のかなりの部分を支えているから、こうなる。

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イラン戦争の今回は、米国債も信用を失って、その価値を下落させるだろうか? 可能性はある。しかしChatGTPは指摘する。「そこで政府の介入がありますよ。連銀FRBは国債を無制限に買い入れて、その価値の保全をはかることになるでしょう。しかしこれによって、ドルの価値は大いに下がるでしょう。」と。

なるほど。しかしその時、ドルは基軸通貨の座から滑り落ちるのだろうか? 1985年プラザ合意の時には、ドルの価値は急落したが、基軸通貨の座からずり落ちることはなかった。

一方こうした時、ユーロ・ダラーはどうなっていて、どうなるのだろう? 

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グローバル決済トークン「ユーロ・ダラー」

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 ユーロ・ダラーとは、米国外で(帳簿の上を)ぐるぐる回っているトークンのようなものだ。元々はソ連とか湾岸諸国が原油を売って得たドルを、米国ではなく(没収されるかもしれない)、欧州、特に英国の銀行に預けたのが始まり。英国、欧州の銀行は、そのドルを引き当てに、10倍、20倍もの額のドル表示の融資をするようになった。それは、米通貨当局の規制が及ばない、欧州の民間銀行が創ったトークンのようなもの。それでも、一度発行されると「本当のドル」と同じく、貿易・資本取引で使われていく。

ユーロ・ダラーの価値は、ドル本体と同水準に維持される。それは両者の価値に少しでも差が生じれば、「裁定取引」が行われて、水準は瞬時に統一されるからだ。

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世界での貿易は、その決済の約50%がドルで行われている。そしてそのかなりの部分は前述のとおり実は、ユーロ・ダラーで行われている(Chat GPT)。前述のとおりリーマン危機の時、欧州の銀行はユーロ・ダラーを貸さなくなった。貸す相手の資産が不良債権となって倒産し、貸した金を返してもらえなくなる事態を恐れたからだ。つまり自分は倒産していないのだが、支払う手段がなくなった。

ここで欧州中央銀行ECBは米連銀とはからい、ユーロを払って多額のドルを仕入れ(通貨SWAP)、そのドルを欧州の民間銀行にこれもSWAPで配ったのだ。この SWAPは帳簿上の話しで、多額の現金が大西洋上を行き来したわけではない。同じことは、英国の中銀Bank of England、日銀、サウジ・アラビア中銀なども行った。

このあたりをChat GPTは簡潔に要約した。

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――世界は、米国政府が完全にコントロールはできないドルによって動いている。そうしたドルの大部分は、民間によってオフショアで発行されたものであり、脆弱だ。危機が起これば、それらは瞬く間に消え去る。そして、それらが消え去ったとき、「本物の」ドルを再発行できるのは連邦準備制度(FRB)だけである――

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ユーロ・ダラーは世界国家の道具立てなのか

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 ここまでくると、まるで米国がドルを使って世界帝国を作り上げたように見えるし、そのように批判もされる。しかしこれは、厳格な支配とは違う。ユーロ・ダラーは米国当局の直接の管理に服さない。但し全世界のドル取引は、最終的にはニューヨーク連銀で清算されるようで、この時特定の国を狙い撃ちにしてドル使用を禁じることはできる。

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「ユーロ人民元」登場?

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今のドル優位は、1945年フランクリン・ルーズベルト大統領がヤルタ会談からの帰途、スエズ運河でサウジ・アラビアのサイード国王と会談した時に始まる。この時両者は、「米国はサウジの原油輸入代金をドルで払っていいことにする。その代わり、米国はサウジの安全を保証することとする」という趣旨の合意に達した。

以来、サウジはドルを受け取るとそれを欧州の銀行に送って、そこで運用・蓄積を行った。欧州の銀行はそれを片に、10倍以上もの融資を行い(「信用の創造」)、利益を上げた。

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ところが今、米国はサウジ・湾岸諸国の原油はほぼ輸入していない。その分は、中国がほぼ肩代わりしている。しかも、今回のイラン戦争が示したように、米国は湾岸諸国の安全をもう保証してくれない、むしろイランの攻撃を招くような危ないことを、相談なしにしかけることをやってのけた。サウジは地対空ミサイルをほぼ使い果たし、米国が急速な補充をする力もないので、ウクライナと安全保障協定を結び、ウクライナ製の攻撃ドローンを大量に購入する。

このドローンはロシアが発射するドローン「ゲラン」によく命中する。ならば、「ゲラン」の原型であるイランのシャヘド・ミサイルを撃墜するのにも効くだろう、というわけだ。

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この時急遽リアドに乗り込んで、「ウクライナとの件、俺たちに事前に言わなかったな。どういうことなんだ」と問い詰めたルビオ国務長官に対して、サルマン皇太子はこう言ったのだそうだ。「米国は、イラン攻撃を俺たちに事前に言わなかった。おかげで我が国はイランからミサイル・ドローン攻撃を受けて、貴重な迎撃ミサイルを大量に費消した。米国はそれを直ちに補充できないのだろう? だからウクライナから購入することにしたのだ」と。

つまり、「米国はサウジ・アラビアの安全を保証する。だから、サウジ・アラビアは原油の支払にドルを受けることにしてくれ」という、1945年の合意は意味を失ったのだ。米国はサウジの原油をもはや必要としていない。そしてサウジの安全を保証する力もない。問題は、この分のドルが欧州の資本市場に流れてユーロ・ダラーを創り出すパイプがつまってしまう、ユーロ・ダラーの量が減少するのではないか、ということ。

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中国のサウジ・アラビア、湾岸諸国からの原油輸入量は、かつての米国の輸入量のピーク時に迫るになっている。ということは、中国がこの代金を人民元で支払い――既に一部はそうなっている――サウジがその人民元をオフショアで運用するようになれば、「ユーロ人民元」が誕生するということだ。

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しかし、中国当局は人民元へのコントロールを失うようなことを嫌う。中国国内でインフレを発生させることを何より恐れているから、人民元を外国人の自由には使わせまい。「ユーロ人民元」はまだまだ登場するまい。