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投稿者: akiokawato

  • 日本の「スタート・アップ」は、企業内部でやっている

    「日本はスタート・アップが少ないから新技術開発で米欧中に負ける」。

     こういう議論をよく聞くし、僕もそう思っていたが、それは大事なところを見落としている。それは、日本は「大企業で終身雇用」が相変わらず社会の主流で、大企業は技術者を不要な程多数抱え込み、「何でも内製」の原則でやっている、ということである。

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    優れた技術者・科学者は、資金・人材集めで走り回らずとも、企業内の人材、資力を使って新技術を開発できる。幹部の了承を取れば、2,3年間、部下まで使ってそれに集中できる時もある。数年前、リチウム電池の開発でノーベル化学賞を受けた吉野彰氏にしても、旭化成のチームの一員としての自分を強調している。

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     しかし大企業は、社内でやっている新技術開発の詳細をしゃべらない。それはもちろん、競争相手に手の内を知られたくないからなのだ。だから、米国や中国のスタート・アップ企業が技術成熟度60点で新製品を発売する時、日本の企業はまだ黙って同じ技術の検証を続けていて、成熟度90点(例えて言えばの話し)を超えたところでやっと新製品を発売する。成熟度90点を超える製品としては、世界で最初の部類に入るのだが、目立たない。目立たないながらも、数年で市場シェア上位に達することだろう。

  • 「文明の破断」

    (これは、2019年4月メルマガ「文明の万華鏡」でのコラム。全然古くなっていないので、ここに復刻します)

                                        河東哲夫

     

     もう15年前のことになるが、草思社から「意味が解体する世界へ」という随筆集を出版した意味が解体する世界へ 一外交官の考察 | 河東 哲夫 |本 | 通販 | Amazonことがある。これはロシア、西欧、米国、ウズベキスタン、日本の社会の変化のもようを綴ったものなのだが、ここで言おうとしたことは、これまでの「近代」世界を支えてきたいくつかの基本的な価値観がその絶対の地位を失いつつある、ということだった。

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    ――17世紀に確立した「国民国家」のいくつかは、民族・人種的な同一性を失い、多民族国家化しつつある。自由や民主主義のような崇高な理念は、米国が武力、あるいは政権転覆工作で旧社会主義・中東諸国に上から押し付け、その結果は混乱と一層の困窮を呼んだばかりか、イラクでは拷問までしたことで(最近はファッショ的とも言えるトランプの登場もあります)、すっかり泥を塗られてしまった。また西欧諸国はかつてギリシャ・ローマ文明を自分の精神的故郷だと定め、学校でギリシャ語、ラテン語、そしてこの時期の古典を学習することで文化的なアイデンティティーを保ってきたのが、これが薄れた(大学進学のための必修でなくなった)ことで、ヨーロッパ人は浅薄で味気のない存在になった。――

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    以上がこの本に書いてあること。これに加えて最近ひしひしと感じるのは、何かが根本的に変わる、パラダイムががらりと変わる、それは文明の転換とかパラダイムの変化というような生易しいものではなく、本当に解体、「文明の破断」、いや「人類という種の破断」とも呼べる、破断の前後では相互理解も不可能なほどの変化、という直感だ。あるいは、これから津波がやってきて、何から何まで攫って行ってしまうだろうという予感、「何をやってももう駄目だ」という一種の虚しさとでも言うか。

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    AIやロボットの普及で一番気味が悪いのは、人間が人間でなくなってしまうことだ。遺伝子工学がどんどん前に進み、人体の外見も中身も人間が変えることができるようになる社会というのは、医療には理想的でも、その他の面では予想しがたいものがある。

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    人間のことを言う前にまず、IT、AI、ロボットが企業のあり方をどう変えていくか考えてみよう。日本では100年、200年と続く企業や商店がよいものとされますが、インターネット、ロボット、AIは企業のあり方を大きく変えていくだろう。大企業という、自分の中に様々の機能を抱え込んだ企業形態は、これから多くの業種で不要、あるいは有害なものになってくるだろう。日本の銀行では既に大幅なリストラが行われている。

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    面白いことに最近では、コンサルティングの大手でも人員の大幅カットが行われているようだ。この頃の経営での課題は、これまでの延長上で組織を如何に合理化、効率化するかという課題を飛び越え、どういう新しいものを開発、生産、販売し、それに応じて業容と組織をどう変えていくかという、テクノロジーの知識なしには解決できないものになっている。理系の知識を欠く多くのコンサルタントは、過去の存在になってしまったのかもしれない。例えば富士フィルムがフィルムを捨ててデジタル技術、及び医療機器・機材生産の方向に大きく舵を切った時など、外部のコンサル企業は有効なアドバイスはできなかったことだろう。

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    話しを人間に戻すと、これからは外見も能力も、両親、あるいは本人の注文次第に遺伝子を変えるということになるだろう。世の中はアラン・ドロン、カトリーヌ・ドヌーブ、或いはアインシュタインやトランプ(?)、身長が3米もあるバスケット・ボール選手、そういったタイプばかり。「常時在コスプレ大会」の様相を呈することとなるだろう。もう何が真実なのか、わからない世界になる。

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    そして、人間の寿命がどこまでも伸びていく社会がどうなるか、それは想像の域を超えている。何歳になっても上司がいる会社、90歳になっても現役で、120歳以上の人達の年金を払わなければならない社会。あるいは80歳になっても子供ができて、それは長子の孫と同年齢であるような社会。頭が千々に乱れて、何が何だかわからなくなる。

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    一方、先進国ではこうしてどこまでも先へ先へと進んでいくのだが、先進国の周囲は19世紀以前の社会、国だらけ。彼らはやっと国民国家の原初形態を作り上げた段階にいて、その国家の力を使って対外拡張をはかろうとし、手近なところにある先進国にはテロや紛争をしかける。日本はこうした国々にやられないように対抗手段を整えようとするうち、自らも19世紀以前の行動様式に堕してしまう、こういう矛盾にも直面している。

  • 現代風枕草子――日本社会のよどみ

    (これは数年前のコラム。今でもあまり変わっていないので、ここに復刻しておきます)

                                       河東哲夫

    今の日本社会、昔の高度成長がもたらした安穏さにどっぷりつかって、何をやっても日本は壊れないと思っている。もろもろのことどもを、枕草子風に綴ってみる。

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    無菌培養

    この頃の若手の役人はどうも、無菌培養された優等生の感じ。政策は頭で作るものだとばかり思い込んでいる。昔の役人たちは業界の連中と連夜飲み歩いて、相手の本音を引き出し、難しい政策でも捩じ込んだものだ。つまり政策を、彼らは腹で作っていたのである。もっと人間臭かった。

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    今の役人は、ものごとをマクロ数字やデータだけで考え、「政策」なるものをでっちあげ、あとは国会、政党、マスコミを相手にこれを通していくことしか頭にない。役人は、実社会に住んでいない。これでは、実効性のある政策はできず、予算を浪費するだけ。

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    知的草食

    そして専門家と称される人たちも、自分の専門からちょっとでも離れると、新聞に書いてあるような、ありきたりの通念でものを割り切る。自分で調べる意欲がない。知的好奇心が少なく、既存の枠内で安穏に飯を食っていくことしか考えない。

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    そしてかなり多くの専門家や役人は脳天気。他人や他国は善意に満ちていることを前提にものごとを考え、行動している。北朝鮮の核開発についても、これが止むに止まれぬ自衛の必要性に基づくものであることを理解、いや「感ずる」ことができない。米国の意向に反して核開発をする国は悪だ、と決めつけている。米国の言うことは正しいことだ、という気持ちが強すぎるのでないか。

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    自信を持つのはいいが・・・

    自分に過度の自信を持っているのも問題だ。日本という国の安全保障の基盤、経済の基盤はもう崩れているのに、気が付かない。高級官僚候補の青年たちも、世界のことはすべて知っていると思い込み、いざ外国に住んでみればものごとは全然違うように見えることを知らない。

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    そして日本の民主主義は異形だ。外向的ではなく、内向的で、社会から離れて自分の小さな殻を守る権利が民主主義なのだと思っている。他の人の都合を考えたり、社会をどうやって良くするかなど考えない。

    例えば、横断歩道をさみだれのように、のべつまくなしに渡っていく。前後左右を見渡すこともなく、安心しきってスマホを見ながら渡っていく。誰か一人が待つだけで、車5台を通すことができるのに、周りのことは全然見ない。見ても、その意味はわからない。自分の都合だけなのだ。

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    インターネットを見ていると、「日本は中国や韓国より民度が進んでいる。礼儀正しい」という意見がゴマンと掲載されているが、朝晩の満員電車で通勤してみたらいい。押し合い、圧し合い、他人は人間ではないかのように、何も言わずに突きのけ、押しのけ、本当にひどい。そして昔はもっとひどかったのだ。

  • プーチンの裸の王様化

    プーチンはこれまで、「ロシアはウクライナでウクライナなんかじゃない, 米国を相手に戦っているんだ」と言っては、国民の愛国心を奮い立たせてきた。しかしそれはもう効かない。トランプ米国は言うことを聞かないロシアへの関心を失って、イランや中国の問題に入り浸っているからだ。

    ロシア市民はそのようなプーチンをあからさまにSNSで批判し始めた。「なんだ。ウクライナが相手なのに、勝てないのか」というわけ。

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    プーチンへの恐怖は消えた。9月の総選挙に向けて「政局」があるかもしれない。

    あとは、以下、「現代ビジネス」に書いておいたので、ご覧下さい。

    https://gendai.media/articles/-/167102

  • 野坂昭如のやけくそソング

                                          

    野坂昭如(あきよし)という作家がいた。エロ小説とか、しきりに無頼ぶってみせるのだが、どこか育ちの良さと、気の弱さは隠せないという面持ち。実際は戦災もからんで随分壮絶な育ち方をした人のようだが(「火垂るの墓」は彼と妹の実話をもとにしている)、そうは見えない。

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    彼が2011年出した、「野坂歌大全」というCDがある。歌詞は能吉利人、作曲は桜井順、歌手野坂という顔ぶれ。どれも面白いのだが、ヤケのやんぱち的雰囲気の「生キ残レ少年少女」は真骨頂。米国のコメ市場開放要求に抵抗する農協に、頼まれて作ったコピーをもとにしている。

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    ――ひどい世の中じゃー こわい世の中じゃー

    信じられるのはオコメだけ

    信じられるのはオコメだけ

    ・・・

    哀しい想い出ハングリー

    ネバネバ・ノーモア・ハングリー

    愛農 愛農 愛農農農 農協― 農協―

    女はアイキョー 坊主はオキョー

    オコメのことなら ノーキョー

    AGRI! JAGRI!

    JAPANのブンカは 田ンぼじゃ 田ンぼじゃ

    AGRI! JAGRI! JAGRI~CULTURE!

    ・・・  ――   (CDSOL-1462より)

    Amazon.co.jp: 野坂歌大全I-AKIYUKI NOSAKA SINGS JUN SAKURAI: ミュージック

  • 人手不足? でも、いる所にはちゃんといる

                                        .河東哲夫

    コロナで多くの人が職を失った。特に飲食業でそれはひどかったと思う。悲観した若い世代、特に若い女性の自殺が増えた。コロナで特に打撃を受けたのは飲食・観光・小売り部門だが、ここには非正規雇用の若年女性が多いからである。

    コロナが明けて、さあジャンプ・スタートだと思っていたところ、今度は人手不足地獄。駅でタクシーを待てど暮らせど20分も来ないのが珍しくなくなった(聞いてみると、地元の西武タクシーが「駅への配車枠」をほぼ独占しているのに、車が、運転手が足りないからだそうだ)。ラーメン屋もマクドナルドも、「自動販売機でご注文下さい」の時代。地方を旅行すれば、ちょっとしたホテルでも従業員は皆外国人。コロナで職を失った人たちが、大挙して仕事に戻ってくるはずなのに、皆、今どこで何をしているのか?

    そう思って、ChatGPTにも資料を集めてもらって書き上げた。

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    増加した正規雇用者

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    まず雇用者数。2020年は正規の雇用者が3550万、非正規が2100万、失業率が2.8%。2025年はそれぞれ3750万と2120万、2.53%。つまりコロナを挟んで総雇用者数は約200万増え、その殆どは正規雇用者、ということになる。コロナの間に正規雇用が増えた構図。雇用維持のために政府は補助金を出したし、介護企業なども非正規よりは正規雇用で労働力を囲い込もうとしているからだ。

    だから、コロナが収束してもっと割のいい職が現れても、簡単には辞めさせてもらえない。そこでこの前問題になった「モウムリ」のように、退職代行のサービスが現れたのだろう。

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    業種毎の明暗

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    コロナ期の雇用者数増減は、業種によって異なった。減少率が高かったのは宿泊・飲食業、次にタクシーなど旅客輸送業で、医療・福祉関係はコロナの最中も増加していた

    そしてコロナ収束後の今、輸送(特にトラック・タクシー)は有効求人倍率が2,5~3倍で相変わらず人手不足に悩み(厚労省「職業別有効求人倍率」。タクシー運転手は最近の賃上げで志望者が少し増えている)、次に建設業が2倍前後、宿泊・飲食業が2倍前後で、いずれもコロナで離職した者たちが戻っていない。

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    製造業はまだましで、有効求人倍率は1~1.5倍程度。事務職がIT、AIに代替されたためか1倍前後と飽和状態を示している。建設業や輸送業は年率3%以上の賃上げで募集ドライブをかけているが、医療・福祉、宿泊・飲食、小売り分野での賃上げ率は低い。つまり利益率が低い業種は必要な賃上げができず、ジリ貧に陥っているのだ。これら分野にはタクシー等、料金規制に縛られて賃上げができないできた業種(最近、緩和された)、過当競争で利益が上がらず賃上げができない業種(コンビニ等)が見られる。

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    因みに筆者のようなライター。これは本当に黄昏業種で、雑誌等の出版がどんどん減っているし、ちょっとしたコラムならAIが無料で書いてくれるしで、クビにならないだけでも有難いと思えと言われかねないから、原稿料引き上げなどとても言い出せない。以上、「人手不足」は社会全体に通ずる話ではない。業種によるのだ

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    以前、「現役世代人口が減るから日本経済はもう終わり」という趣旨の本が出て(2010年「デフレの正体」)、日本人をすっかり意気消沈させたことがある。それから15年。現役世代かどうか知らないが、労働力自体は減っていない。高年齢層、女性の就業率が高まったからだ。建設業や小売業では、外国人労働力が大きな支えとなっている。

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    そしてこれからは、AIに職を奪われる者が急増するだろう。アプリ制作のような知的労働でも、単純・肉体労働に近い部分から、AIは確実に人間を追い出していく。そして、その数は結構大きい。IT ・AI分野では現在、100万近い人間が働いており、うち多くの人員は「派遣」で、AIに置換されやすい。AIは人間関係のもつれなどの問題を起こさないので、現場のシステム・エンジニアにとっては、「部下はAI」の方がよくなっている。

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    このあたり、CHATの意見を聞くと、面白いことに彼(彼女)は必死に反論する。「新しい技術が社会内の格差を拡大したのは、産業革命の時にも起きました。しかし産業革命の時と同じように、ソフトも需要が爆発的に増えていますから、必要な人員は減らないのです。」というわけだ。まあ、今、雨後の筍のように現れているAIサービスの会社(ITとどう違うのかよくわからないのだが)などが雇用を増やすのは確かだろう。

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    というわけで、今マクロでは人手不足はない。むしろ余剰をどうするかだ。宅配便ならAIにはできないだろうと思っても、そんなことはない。人間は働かずに消費だけする存在。つまり消費することで、AI・ロボットによる生産を支える。消費するためのカネは毎月、政府が配分する。こういう超シュールな社会が出現するのだろうか?   

  • 意味が解体した世界

    今、このブログの再立ち上げをしている。以前の資料を渉猟しているうちに、2004年に草思社から出してもらった「意味が解体する世界へ」の序文に行き当たった。2004年に今のGゼロ、近代の価値観の崩壊を予感している。面白いから、ここに再録しておく。

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    はじめ

     もうあれから三十年になる。初めて見るアメリカの西海岸がその白い波打ち際,そしてその奥に延々と続く赤茶けた大地とともに,エンジンがぶらぶら動くボーイング707の翼にぐいぐいと迫ってくる。

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     僕が初めて外国に出たのは,二十三歳の時。それからアメリカ,ロシア,ヨー ロッパ,日本と転々としてきた。今はユーラシア大陸の真ん中,ウズベキスタンで働いている。最初一人でアメリカの大学に放り込まれた僕は,日本で受けた教育は世界でも十分通用するなどと最初は粋がっていたものの,毎日200ページもの本を英語で読まされてからは,いつも何かを急ぐ癖がついた。

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     それより何より,外国に行くまでは日本の全てを空気のように受け入れ,例えて言うなら初詣に行った後クラシック音楽を聴くような折衷文化を当たり前と思っていたのが,外国に行って初めて,明治以後,戦後の文化のあれもこれもが実は借り物であったことを思い知らされ,自分はいったい何者なのだと悩みだす。

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     それにアメリカのホスト・ファミリーの主婦を日本風に「お母さん」と呼びかけて,「私はあなたのお母さんじゃありません。メリーと呼んで」とごく当たり前のことを言われ,ああやはり日本の社会は少しフィクションが強いんだと思い,警察のレッカー車で運び去られた僕の車からカーステレオが盗まれて文句を言いに行けば,「保険をかけてた?何,かけてない。じゃ,どうしようもできないな」と警察から自己責任の原則をたたき込まれして,欧米社会の個人主義の伝統がなぜか日本にはないように見えることも気にかかりだす。

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     で,ある晴れた日に芝生に半日寝そべり考え,「いや,日本はヨ  ロッパでもアジアでもない。日本は日本だ。自分は,今あるままの自分なのだ」と居直ってから,少しは気が楽になったけれど,その後もこの問題は頭を去らない。

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     それから三十年,僕が専門にしていたソ連はなくなり,この七十年間インテリが口角泡を飛ばして議論してきた資本主義か共産主義かという問題も,あっさり片がついてしまった。そして僕が好きだった自由でリベラルなアメリカは,2001年9月11日事件の後はすっかりきっとなって,恐い顔ばかり見せている。自由と言えば,60年代に青春を送った団塊の世代の我々は,サイモンとガーファンクルの歌のような自由の夢を知らず知らずに追ってきたが,気がつけば皆サバイバル競争に懸命で,主義やイデオロギーなどどうでもいい時代になっている。

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     社会はあまりに多様になり,皆の考えていることもまちまちになり,自由などは当たり前のことになってみれば,社会から「意味」というものが消え失せても不思議はない? いや,ここまで社会が刹那的,感覚的になってしまったのは,あのテレビのせいなのか?

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     そんなことを考えながら,僕はこの数年見たこと,聞いたことを書いてみた。それも,皆がこれまで思い込んできたその「思い込み」というやつを少し壊してやろうと思って。思い込みというものは,物事の正確な理解を妨げる。それどころか,国際政治を変な方向に捩じ曲げさえしかねない。

    黒が白となり,白が黒となる現代のこの世界,何か大きな変化が起きている。それが何なのか,僕にはまだ見分けがつかない。でも,横にいろいろな国を比較し,縦に歴史を掘っていけば,そのうちもっと様々のことの意味がわかってくるだろう。

    (これを書いて20年余、今の世界で起きていることの意味は益々わからなくなった。いや、意味を見つけようとすることが、間違いなのかもしれない)

  • 2018年 米中新冷戦開始の頃 回想

    今、トランプ大統領が中国を公式訪問している。何が目玉なのかよくわからない。2018年頃から米中は冷戦状態にあるはずなのだが、トランプはレア・アースの禁輸で脅されて以来、すっかり腰砕け。中国との関係のどこが問題で、どこをどう直したいと思っているのか、ぜんぜんわからない。

    だから、ここでは、2018年時点ではどんな感じだったのか、思い出すことにする。メール・マガジン「文明の万華鏡」第78号からの復刻だ。

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     10月4日ペンス副大統領はハドソン研究所でスピーチし、米国は中国の挑戦をこれまで過小評価してきた、これからはあらゆる分野での挑戦に対抗し、勝利するつもりであると述べて、実質的な「冷戦布告」を行った。

    彼は、言う。

    ・クリントン、ブッシュ、オバマの歴代政権は中国の台頭の意味を完全に読み違えていた。中国は戦略的パートナーであり、米国主導の国際秩序の中にエンゲージすることで、正常な市場経済、民主主義の法治国家となるresponsible stakeholderなのだという考え方に賭けたのだ。

    ・米国はその賭けで敗れた、トランプ政権はその結果を処理することを迫られている。トランプ政権は中国との貿易戦争を何年でも続ける覚悟であり、しかも必ず勝利を治める決意でいる。

    ・中国は中間選挙も含めて米国内政に干渉しようとしている。中国は米国の実業界、映画界、大学、研究所、マスコミ、そして政府関係者を餌でつり、脅しで強制し、特定の議員の選挙区に狙いを定めて工作を仕掛けている。ロシアが米国に対して仕掛けていることを、中国ははるかに上回っているのである。

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    これに対して、これまで「トゥキディデスの罠」という言葉で米中衝突を予言してきたグラム・アリソン・ハーバード大教授は、13日のFinancial Timesでこう言っている。トゥキディデスとは古代アテネの歴史家。その著書『戦史』1で、アテネの勃興と膨張、そしてそれをスパルタ連合が破る経緯を正確、かつ平家物語のような情感をもって描いている。

    ・戦略というものは、最終目的と手段と実力がうまくかみ合ったものでないといけない。中国との全面的な対決は果たして可能だろうか? 購買力平価で計測すれば、中国の経済は米国のそれを既に上回っているのである。そして中国は、主要なアジアの国々すべてにとって最大の貿易相手なのであり、2008年の金融危機以来、世界経済の成長のエンジンなのである 。

    ・そして米国は、同盟国・友好国を中国との対決に協力させることはできるだろうか? 豪州や日本のような同盟国は米国に対して、自分達の米国との安全保障面での関係は重要だが、そのために中国との経済関係を捨てるようなことはしたくないと言ってきている 。

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    このアリソン教授の言うことは、経済面では中国を持ち上げすぎている。中国は2000年代毎年30兆円を超す外資の流入(貿易黒字と直接投資を加えたもの)と、それを国内のインフラ投資で膨らませて急成長を成し遂げたものである。2008年リーマン恐慌に対して60兆円程の財政支出・国営銀行による融資で切り抜け、それが鉄鉱石等への需要となって世界経済を一部支えたのは事実だが、2010年代は再び貿易黒字・直接投資による外資の流入と国内インフラ投資に依存する経済モデルを続けている。

    その結果、中国の輸出の50%は今でも外資系企業によると言われている。トランプの措置は、貿易黒字と直接投資を大きく減らすもので(米国が関税を上げると、中国で対米輸出品を作るのは引き合わなくなるので、外国は中国への直接投資を減らすだろう)、中国の成長のエンジンに棒をつっこんだのと同じ致命的な効果を及ぼすだろう。

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    米中の対決で日本にとって問題があるのは、対決が軍事面に及ぶと、日本は非常に難しい立場に置かれるということである。米ソ冷戦時代のソ連は、在日米軍基地や自衛隊基地を叩ける核ミサイルを持っていなかった。中距離ミサイルは1987年の中距離核戦力全廃条約で、相互に放棄していたからである。ソ連との対立は、日本にとってはアメリカに付き合う程度のことだったのだ。

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    ところが中国は、日本に到達する中距離ミサイルを100基以上は保有していると見られている。これを抑止する自前の手段を日本は持っていないし、これからも持てないであろう。米国の「核の傘」もとても十分とは言えない。中国は日本にとって、冷戦時代のソ連をはるかに上回る、「リアルな脅威」なのである。

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    トランプ自身がどこまでペンス副大統領の反中姿勢を共有しているかどうかは、わからない。彼は貿易赤字のことしか考えていないかもしれない。「米中新冷戦」もナンボのものなのか、もう少し見極める必要があるだろう。

  • 近代の終焉

    (これは2018年3月にメルマガで書いたこと。今も変わらないので、ここに再録しておきます)

    . 河東哲夫

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    最近の事象は、「近代」の転機、あるいは終焉を意味している、ということは、多くの人によって指摘されている。

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    井上隆史という人は著書「三島由紀夫 幻の遺作を読む」で、三島の「天人五衰」を論評。登場人物の本多が聡子から、「(彼女の恋人だった)松枝清顕さんという方は、お名をきいたこともありません。そんなお方はもともとあらしゃらなかったのと違いますか?」と言われ、寺の庭を見て、「自分は記憶もなければ何もないところへ、来てしまった」と思う箇所について言っている。「三島は近代という時代が、行きついた果ての究極の虚無を見つめている。それは意味という意味が崩壊する極限状態なのだ」と。

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    実際、この頃の世界を見ていると、自由とか民主主義とか市場経済とか、近代を構成する価値観に反吐がかけられている感がする。社会の長期的利益など歯牙にもかけず、大衆の喝采を得られるようなことをその時々に見つけて大声で拡散する、まるで芸人のような政治家、そしてトランプのようなならず者的政治家を見ていると、世も堕ちるところまで堕ちたものだと思う。票を取ることばかり考えて、社会のことはどうでもいいのだ。

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    (なお意味の喪失については、2003年に出版した「意味が解体する世界へ」(草思社)で、日米欧露社会の変質を随筆風に描いてありますので、この機会にお読みいただければ幸甚です意味が解体する世界へ 一外交官の考察 | 河東 哲夫 |本 | 通販 | Amazon

  • ずっこけオペラ台本案

    (これは2018年2月の作ですが、我ながら面白いのでここにも掲載しておきます) 河東哲夫

    この前、ワグナーのオペラ、ローエングリンを見に行った。二期会、東京都交響楽団で、演奏は素晴らしかったが、オペラ自体、台本の筋はワーグナー的に幼稚、不自然だし、音楽は初期のワーグナーで、ドミソ、ソシレの和音の単純な繰り返し。あまりつまらないので、少し意地悪なことを考えた。ずっこけオペラ。

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    ローエングリンの巻

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     ローエングリンが白鳥に乗ってしずしずと舞台に出てくる。と、鎧をつけた彼のあまりの重さに、白鳥がずぶずぶと沼に沈んでいくではないか。ずっこけながら、エルザ姫に助けてくれと叫ぶローエングリン=白鳥の騎士。

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    ラインの黄金の巻

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    ドイツはボンのあたり、白雪姫が住んでいた「七つの山」がそびえ、ライン川にDrachenfels(竜の岩)の絶壁となってそそり立つ。そこはラインが広く深くなっており、ニーベルングの指環を守る水の妖精たちが巣食っていることになっている。

    で、モスクワのボリショイ劇場が昔「ラインの黄金」をレパートリーにしていたことがあって、見に行った。

     第一幕、妖精たちが天井からのロープに吊られて空中(水中のつもり)を遊泳する。滑車がきしむギーコ、ギーコという音。妖精たちがヘビー級歌手たちだったので、音楽を楽しむどころでない。いつロープが切れて妖精たちが舞台にドターンと落下するか、はらはら。これは実話だ。

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    カルメンの巻

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    次はカルメン。カルメンが山中でトランプをやる、例のシーン。何回やってもカルメンが大勝ち。大金を手に入れたカルメンは気が大きくなり、最終幕の闘牛場の門の前、彼女を殺そうとやってきたドン・ホセに多額の手切れ金を渡すと、「これが私との愛の見返り(ミカエリ)。これからは田舎であんたの見返ら(ミカエラ)と平和に暮らすのね」と歌うと身をひるがえして闘牛場に消える。札束を手に呆然と立ち尽くすドン・ホセ。闘牛場の中から高まる歓声。

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    蝶々夫人の巻

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     最終幕。数年ぶりに長崎にやってきたピンカートンは、一人こっそり蝶々家の様子を見に来る。あとから秘かにつけてきた彼のアメリカ人の夫人、一切を知ると、ピンカートンを「この恥知らず!」と罵って平手打ち。彼は蝶々さんにも息子にもそっぽを向かれ、遂に女衒として明治の日本を生きることになる。

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    魔笛の巻

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    タミーノ王子は、夜の女王にもらったパミーナちゃんの写真に惚れて、悪漢ザラストロの城に乗り込むが、実際に出てきたパミーナ役のソプラノ歌手を見ると、「写真と違う! 結婚詐欺だ!」と叫んで、退場してしまう。

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    リゴレットの巻

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     あの夜、マントバ侯爵がレープしたのは、リゴレットの娘ジルダではなく、その父、非力なせむしのリゴレットその人だった。彼は身を挺して娘を救った。

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    アイーダの巻

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     ラダメスとアイーダは地下牢に閉じ込められてしまう。愛を歌い上げる二人。

    でも4時間もすると、自然の欲求で用を足したくなる。どこかいい場所はないかと暗闇の中を探すラダメスの前に、一帯一路でエジプトにまでやってきた習近平国家主席が現れて、「トイレ革命なくして、新文明なし!」とのたまう。

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    スキヤキソングとベートーベン

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    これはオペラではないけれど、いつも思っているのは、ベートーベンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」。第一楽章のテーマは、どう聞いても坂本九の「上を向いて歩こう」、あるいは「スキヤキソング」をぱくったものとしか思えない。「上を向いて。チャンチャチャン。歩こうよ。チャンチャチャン」となっているではないか。

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    ローエングリンを聞き流しながら考えたことども。