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AIが開く、ウクライナ・ドローン戦争の新局面

(これは6月22日発行のボストーク通信に掲載された記事の原稿です)

                      河東哲夫

 ドローンはウクライナ戦争の局面を変えている。今や東ウクライナでは、ウクライナ軍の方がロシアに奪われた土地を奪還し始め、クリミアはロシアからの補給路を脅かされて、干上がり始めている。ウクライナのドローン、巡航ミサイルはロシア領内深く浸透を始め、ロシアは石油積み出し施設などに深刻な被害を受けている。そして今、米国のAI企業がウクライナとの提携を始めたことで、局面は更にウクライナに有利なものになっていくだろう。その経緯を見てみる。

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ドローンの歴史

 ドローンには、マルチコプター式からラジコン式のものまでいろいろある。古くは2001年のアフガニスタン戦争で活躍した米軍のプレデターやリーパーが有名。これは別格の大型ドローンで、今、主流のマルチコプター式とかラジコン飛行機式のものは2020年9月のナゴルノ・カラバフ紛争で脚光を浴びた。この時は、トルコ製のものが主役。

 そしてウクライナ戦争でも、2024年にかけてドローンがウクライナ、ロシア双方で重要な戦力になる。双方ともドローンで敵の陣容を偵察。そこに砲撃を集中するようになったし、自爆ドローンで相手の戦車や装甲車を破壊することも多くなった。

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 戦線が膠着してしばらくたった2025年後半、ウクライナによるロシア領内への攻撃が目立つようになる。12月にはヴァルダイにあるプーチン一家の別荘がドローン攻撃を受けたとされ、26年2月にはタタールスタン、4月には黒海沿岸Tuapseの原油・石油製品積み出し施設等が軒並みに攻撃を受け、ロシアの輸出量は暫時大きく減少した。そして5月4日にはモスクワの国防省から僅か数キロ地点のマンションがドローン攻撃を受け、その直後泡を食ったロシア当局は、「5月9日の戦勝記念日は停戦にしよう。ウクライナがこれを破ったら、ロシアはキーウを攻撃する」という、若干ヒステリックな声をあげた。

プーチンに対する警護は強化され、3月初旬は長期にわたって公衆の面前に出なくなったので、巷ではクーデターのうわさが飛び交うほどであった。

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 米国がウクライナ支援から手を引いている中で、ウクライナがこれだけの攻勢に出ているのは奇異なことだ。しかしドローン製造にそれほどのカネはかからない。そしてブダーノフ大統領府長官が自ら言っているように、ウクライナはドローンを全部自力で作っているわけではない。ドローン製造のための投資資金を提供するEUの国があるし、部品もEUから入ってくるものが多い。

そして皮肉なことに、トランプがウクライナ戦争から手を引いたことで、ウクライナはロシア領内深く、ドローンで攻撃できるようになった。これまでは、ロシアを刺激するのを恐れた米国が(バイデン時代も)止めていたのである

トランプはロシアに弱みを握られている、ロシアの回し者だ、と見る向きもこれまであったが、トランプはウクライナ戦争から手を引くことで、ロシアの世界での孤立を浮き立たせ、ウクライナによる領内深くの攻撃まで引き出してしまったのである。

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ウクライナ製ドローンの質的進化・米国Palantir社の進出

 マルチコプター式のドローンは、技術的に複雑なものではなく、また安価に製造できる。ウクライナのドローンが優れているのは、戦場での必要に応じて、また敵の能力の向上に応じて、迅速に仕様を変えられるからである。一方、ロシアも大量にドローンを使用しているが、ウクライナに撃ち込んでくるものの大半はイランのドローン「シャヒード」のライセンス生産で、当初はウクライナに多大の被害を与えたが、今ではほとんどが撃墜されるケースもあり(3月30日Washington Post)、有効性を失っている。ロシアの問題は、開発・生産体制が国営体質で、鈍重である、ということである。多くの資源をシャヒード型ドローン生産に集中し、機械もそれに揃えてしまうと、新種の生産への移行まで時間がかかる。

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他方、大統領府長官になったブダーノフが言っているように(4月16日 www.rt.com)、「ウクライナは独力でドローンを作っているわけではない。EU諸国から資金、技術、資材、部品の提供を受けている」のである。ウクライナが優れているのは、戦場でドローンの使い方を実験・検証できている点も大きい。5月エストニアでのNATO演習にはウクライナのドローン部隊が参加。シミュレーションでは1日でNATO部隊に大きな被害を与えて、NATO側を驚愕させている(4月2日 Foreign Affairs)。

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更に、ウクライナのドローンとその使い方は、輸出アイテムにもなってきた。今回のイラン戦争で、サウジ・アラビア、カタール、アラブ首長国連邦などは、イランが発射するドローン、ミサイルに応戦して、その防空ミサイルの大半を費消した。そしてこれらミサイルを生産している米国は生産力のボトルネックに直面していて、パトリオットやトマホークなどのミサイル生産が追い付かない。

そこでサウジ・アラビア、カタール、アラブ首長国連邦などは3月末、ゼレンスキー大統領を招聘。安全保障パートナーシップ協定を結ぶとともに、ウクライナ製ドローンの提供を受けることとなった。ウクライナは、200名以上のドローン要員を、湾岸諸国に派遣している(4月13日 Economist)。

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AI登場・トランプより効くPalantir

ドローンはいくつものボトルネックを抱える。大きな問題に、操縦要員の確保がある。ドローンに大きな破壊力を持たせるには、これを数百、数千の群れにまとめないと難しい。ところが、この群れを数百、数千の操縦手がそれぞれ操縦していたら、空中衝突して自滅するだろう。ウクライナ軍はこれまでも、Deltaというシステムを自力で開発して、攻撃を調整していた。

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しかし、「AIによるドローン群集中制御」は、これから急速に発達する技術になるだろう。米国は以前からこれを意識していたし、2003年設立されたスタートアップのPalantir社は、Maven(AI)システムを開発。今回イラン戦争では実用に投入されて、大きな成果を上げたとされる。これは、敵の標的の所在地、これを守るレーダーの所在地等を網羅した上で(そこは情報収集能力の問題で、完璧な情報はあり得ないのだが)、味方が使用し得る兵器、その量と所在地等も把握する。標的と作戦実行期日が決まると、最も有効な戦術を算出。敵のレーダーをつぶした上でドローンを必要な量だけ発射するのである。

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このPalantir社の社長で政治思想家としても高名なAlex Karpが5月、ウクライナを訪問して、今後の協力を話し合っている。Googleの元社長でAIに関与しているEric Schmidtも同時期にウクライナを訪問している(5月15日 New York Times)。

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これは非常に重要なことで、トランプはウクライナ支援から撤退したが、民間のSpaceXは人工衛星の把握したロシア軍の状況をStarlinkの電波でウクライナに伝え、一方戦場のロシア軍はStarlinkの電波盗用を止められて、2月以降の作戦に大きな支障を来している。これに加えてAI化ドローンで世界の先端を行くPalantir社が自分のカネで支援してくれるのであれば、鬼に金棒なのである。Palantir社はこれで、自社の技術を戦場で実験し、データを集めることができる。

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 データについては、ウクライナ当局も目をつけていて、これをこれから海外で販売していくつもりなのだろう(5月15日 New York Times)。日本も購入したらいい。ロシアは日本からウクライナにカネが渡ることに目くじらを立てているが、それだったら、第3者を間に立てればいいだけの話し。それに日本はロシアからは原油や天然ガスを買っているのだから、文句のつけようはあるまい。

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 以上の世界の先端を行く電子戦は、「戦車・装甲車で前進」の時代に育ったウクライナ軍の将軍たちには馴染まない。今でも無用な突撃戦を展開して戦死者を多数出し、上部から𠮟責を受けたりしている。その中でこれだけドローンやAIが活躍できるのは、人員不足・兵器不足に悩むウクライナ軍にとってはこれしかないこと、そしてミハイロ・フョードロフ国防相が軍人出身ではなく、IT分野出身で、デジタル化担当大臣であった時代から、西側の支援も得てIT、AIの導入に努めてきたからだろう。

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日本のドローンは自主開発

因みに日本にとって、ドローンは海外から輸入すればいい、という問題ではないようだ。南西諸島・沖縄の防衛、日本海側諸都市の防衛、民間船団の防衛等々、異なる仕様、アプリが必要だからだ。

また、6月9日付けUnHerdでM. Hochbergは、海上ドローンが各国のこれまでの海軍のあり方を無効にしてしまう可能性を指摘している。安価な海上ドローンが群れで、高価な軍艦を破壊する可能性があるからで、実際黒海ではロシア海軍の大型艦船が何隻も海上ドローンで破壊されている。

ドローンとAIはウクライナ戦争の行方を左右する。そればかりでなく、米国や中国、日本の軍備にも大きな再検討を迫るものなのだ

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