日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。


                河東哲夫

ウクライナが戦争で優勢になっている。ロシアが兵員と弾薬不足で戦線を膠着させる中、ウクライナはドローンを猛開発。米国が停戦交渉から手を引き、ウクライナのロシア攻撃を止めなくなったのをいいことに、ロシア領内深くまでドローン、ミサイル攻撃を繰り返す。

戦争初期から、クレムリンに到達したドローンがあったりしたが、それは散発的なもので、ロシア国内で発射したものかもしれない。今回はウクライナからはるばる数百機の群れになって標的に突っ込むから、モスクワ郊外カポートニャの製油所(油臭いことで悪名高かった。筆者の小説「遥かなる大地」(筆名熊野洋)遙かなる大地: イリヤ-の物語 (第1部) | 熊野 洋 |本 | 通販 | Amazonの舞台にもなっている)はタンクの大きなふたを空中に舞い上げる程の爆発を起こした。

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ドローンと米国AIのコラボ

注目するべきは、このドローンの群れswarmはAIによって操縦されているから、空中でぶつかったりしないことだ。モスクワまではバラバラに飛行し、標的付近で急速に集合するような芸当もできるだろう。ロシアは広いし、軍事施設ならレーダーやミサイルで守られているが、民間施設は裸であるようだ。攻撃を食らったタタールスタン自治共和国(ウクライナからは千キロ以上離れた石油産地。大工業地帯)の首長ミンニハノフは、「皆さん、誰も我々を守ってはくれません。自分たちで守らないといけません」と演説している。

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折しも6月4日には、サンクト・ペテルブルクでは年恒例の「国際経済フォーラム」が開かれたが、公称2万もの参加者がある中で、プルコヴォ空港はドローン攻撃を警戒して頻繁に閉鎖。会場の向こうには、攻撃を受けた石油積み出し施設の黒煙が雲のようにたなびく中、プーチン大統領はロシアの経済がいかに安泰であるかを力説。ドロズデンコ・レニングラード州知事に至っては、「わが州はドローン製造の拠点であります」とスピーチしたが、何とも皮肉。

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トランプという止め男がいなくなったウクライナ

トランプは大国志向の男で、力で中小国を辱めることを悪いと思わない。地上げ屋の癖だ。だから、ウクライナを抑えつけて停戦を飲ませようとしてきたのが、うまくいかず、嫌気をさしてイランの方に行ってしまった。

トランプに去られたウクライナは、これで万事休すかと思うとさにあらず。トランプという止め男、「そんなことをしたらロシアを怒らせる。停戦ができなくなる。(俺がノーベル平和賞をもらえなくなる)」と言っては、ウクライナのロシア領内攻撃を止めてきた男(それはバイデン大統領も同じだったが)がいなくなったことで、思う存分ロシア領内、クリミアへの攻撃ができることになった。SpaceXはこれまで、ロシア領内の攻撃にStarlinkの電波を利用させることはなかったが、今やその禁止を解いているという報道がある。

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ロシアはこれまで、「米ロが世界を差配する」様を演出できていたのが、米国が去ると、ウクライナに負けそうな自分が裸で立っているのに気が付いた。裸の王様なのだ。これまでは、「ウクライナのような小さな存在と戦っているのではない。アメリカ、NATOと戦っているのだ」と言って国民を鼓舞してきたのが、アメリカが去ってみると相手はウクライナだけで、しかもそのウクライナにいいようにやられているのだ。

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そこでプーチンは前記の通り、6月14日にはトランプの80歳誕生日で祝いの電話を入れるというすり寄りぶり。まるで、旧ソ連諸国の首脳がプーチンの誕生日を祝って電話する乗りだ。15日からの先進国首脳会議にゼレンスキー大統領も呼ばれていることで心配になったのだろうが、「トランプ大統領閣下、また一緒にウクライナ停戦やろうよ」と言ったとしか思えない。

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クリミアがあぶない

ドローンはドネツなど東ウクライナでも活躍しているが、その攻撃はクリミアに集中しているようだ。特にロシアからクリミアへの輸送・補給路が狙われていて(それは2ルートしかない)、クリミア内のガソリンはQRコードでの配給制になった後、一般法人・個人への販売は停止。行政機関の車しか給油ができなくなった(心配することはない。公用車の運転手はガソリンを民間に「販売」するから)。

飲料・灌漑水をウクライナのカホーフカ貯水池からの運河に依存していたクリミアだが、戦争の初期、何者かがダムを破壊して貯水池は草原になったままだから、クリミアは文字通り干上がりつつある。ただ、クリミアでは自分をロシア人と思っている住民が多いから、ウクライナが占領しようとしても、すんなりいくかどうかはわからない。おそらく、今後の和平交渉での交渉の具とされるのだろう。

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トランプは駄目でもEU、米欧の企業が助ける

米国の支援は以前、毎年500億ドルにも上っていたが、トランプはこれを消した(と言っても、米国議会は予算の中にウクライナ支援を盛り込もうとしている)。代わってEUが自分の負担を増やす。欧州委員会名義でEU債を発行するという禁じ手(ドイツなどがいやがる)で、2年で900億ユーロの融資を供与することになっている。ただよくあることで、EUは「金を出すからこれをしろ」という条件を交渉中で、カネはまだ出ていない。

それでよく戦争ができるものだと思うのだが、ウクライナにはまだ自分のカネがあるのだろう。それに加えて米欧の民間企業がウクライナを戦争支援していることが、非常に大きい。イーロン・マスクは戦争の初期から自社SpaceXが手掛けるStarlink衛星電波システムをウクライナに無料で提供。これでウクライナ軍は戦場での交信ができている。ロシア軍も、アンテナを闇市場で買ってStarlinkを盗用してきたが、2月にStarlinkは盗用ができないようになった。ロシア軍は自前の衛星通信システムを開発中だが、半導体の入手も思うに任せないから、なかなか対応できまい。代替の衛星システムを形成中だが、まだ初期段階にある。

また戦争の当初から、米国のPerennial Autonomy社のEric Schmidt社長がウクライナに出入りして、AIつきドローンHornetを提供してきた(6月24日付 The Times)。フィンランドのICEYE(アイサイ)社は画期的な軽量小型偵察衛星をウクライナの用に供し、地上の標的を探っている。

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加えて、ロシアにとって不吉なのは、米国の軍需AI企業Palantir Technologies社がウクライナ支援に乗り出したことだ。同社の開発したAI”Maven”は、敵の標的とレーダー網、味方の手持ちの兵器と配置、性能等を計算して、最適の攻撃計画を策定。クリックひとつで、ドローンの群れやミサイルが飛び出す。これは今回イラン戦争の出鼻でも使われた。

Palantir社の社長Alex Karpは、ウクライナ戦争当初の2022年6月にはキーウを訪問してゼレンスキーと会談しており、この時からロシア側の情報を収集し始めたのだろう。

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Palantirにとって、これは慈善ではない。ビジネスになる。同社「製品」を実際の戦場で使用して、さまざまのデータを収集し、今後の開発に役立てる。フィンランドのICEYE社も、既に日本での売り込みを始めている。

ウクライナもこのデータに目をつけて、自ら世界中で販売する体制を築きつつある。

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ただ23日のCNNによると、イランもドローンのswarmをAIで操縦する技術を開発(あるいは中国などから入手)したようなので、これがロシアに渡れば、ウクライナがロシアのドローンswarmに襲われることになる。

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追いつめられたプーチンと幼時のトラウマ

以上、西側のメディアがあまり報じない事態が着々と進んでいて、プーチン・ロシアは重圧を感じているはずだ。9月中旬には総選挙があることもある。だから、核兵器でウクライナの唯一の海への出口オデッサ港を破壊するとか、逆にプーチンは国家評議会議長に転任して、新任大統領を後ろから操るシナリオとか、くらいしか思いつかない。

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相次ぐドローンの襲来で、モスクワ市民は初めて、自分たちが戦争をしていることを認識したと言える。しかし彼らは祖国防衛に立ち上がるより、政府に停戦を求めるだろう。欧米はプーチンを独裁者と言うが、世論が彼に背いた時は、彼は捨てられる。

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プーチンは随分、追い詰められた心境だろう。気を付けないといけないのは、彼は幼時に何かトラウマを負っている可能性があるということだ。2023年6月10日付のEconomistは面白い記事を掲載している。

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プーチンの実の母親はVera Putinaと言って、5月31日ジョージアの寒村で97歳で亡くなった。彼女はロシアにいた頃、大学のパーティーで知り合った男と一夜過ごしてプーチンを懐妊。その後ジョージアの兵士と結婚して、ジョージアに移住。プーチンは一緒にいたが、継父にうとまれて9歳の時、Veraの両親のもとに厄介払いされた。ところがこの両親(祖父母)は病身だったので、プーチンを軍の寮に送り、その後Veraとの音信も途絶えた、というのだ。

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これはまるで松本清張の小説、映画「砂の器」のような可哀そうなロマン。暗い思い出を抱えた男が名声を博すも、追いつめられて殺人を冒すという物語。プーチンが戦争犯罪を犯した廉で、国際刑事裁判所のお尋ね者となっていることと重なって、その一生にぐっと深みが加わる。

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