(これは2025年3月に書いたもので、その後ナイ教授は亡くなられました。それでも、ここに書いてあることは今でも有効なので、一部アップデートした上でここにアップしておきます)
25年2月25日のNewsweek日本で、「ソフト・パワー」論のジョゼフ・ナイ教授の論考「中国との新冷戦でアメリカが優位な訳」を読んだ。彼は、総合的に見て米国の優位は変わらない、特に同盟国やソフト・パワーを持っている点で、米国は中国に優る、と言っている。
ボストンにいた時代、彼とは時々「意見を交換」した(まず彼が口早にこちらを「口頭試問」して、合格すると相手をしてくれるという感じだったが)。なつかしい。久しぶりに、議論をしかけてみる。
筆者はこれまでずっと日米同盟を支持してきたが―経済・安保面で日本に必要、かつ戦後日本の自由・民主主義はいいものだと思うので―、トランプ大統領のしていることには懸念を覚えている。彼は、戦後の世界の枠組みは米国に不利なものになってきたとして、これを壊しかねないからだ。
戦後、米国をハブに結成されたNATO、日米安保条約等の同盟体制は、ソ連・中国が専制主義の体制を周辺に力で広げようとするのに対抗して結成されたものである。欧州では東欧がソ連の手に落ちたし、アジアでは朝鮮戦争が起きた。
だからこそ、米ソ冷戦や今の米中対立が起きているのだ。ところが、トランプ大統領のやり方は乱暴であり、海外では領土、利権を獲得しようとする姿勢を隠さない。中国、ロシアがしてきたことと差はないのである。
これでは米国の外交は、単なる力、つまり世界最大の輸入市場(消費の規模は中国の二倍強)であること、ナイ教授の言うように「世界基軸通貨」であるドルを持っていること、そして軍事力によることになってしまう。モラル上の米国の優位、つまり自由と民主主義の旗手という建前、そしてナイ教授のいうソフトパワーはなくなって、米国は単に力と打算で外国との関係を結ぶことになる。欧州も日本も自分で自分の身を守れ、自分の力と才覚で世界をわたっていけ、ということになる。
台頭する中国のソフトパワー
筆者はこれまで、全体主義中国の文化が日本、そして世界の青年の気を引くことなどあり得ないと思ってきた。しかし生活水準が上がったことで中国人のマインドも現代化し、アニメやコンピューター・ゲームでは日本の技術も吸収し、他ならぬ日本でさえ市場を奪うようになっている。中国は、日本の青年にとって当たり前の存在になってきている。
こうして同盟が相対的な存在になったところに、米国自身の力も落ちてきている。バイデン政権そしてトランプ政権は製造業の復活に努めてきたが、バイデン時代の補助金や、トランプ時代の関税引き上げでは米国製造業は復活しないだろう。株主が短期的利益を求めるために、企業が長期的視野からの投資ができなくなっていること、同じ理由から企業が利益率至上で過度の合理化を行い、製品の質を下げてしまうことなど、構造的な問題の修正が必要なのだ。
米国の力の大きな柱である軍は、今方向を見失っている。「自由と民主主義のために、同盟諸国と共に」という、これまでの旗印が畳まれてしまった今、海外の米軍は何となくよりどころのない気分だろう。軍に入ろうという若者は減少し、新兵器の開発は一部の大企業に集中して小回りの利かないものとなり、建艦能力は失われて韓国の造船企業に資本参加を得る有様である。
これまで米国の一部―「ネオコン」と呼ばれた―は、優越感、あるいは戦略に基づき、「民主主義の普及」を旗印に途上国の政権を倒しては、かえって混乱と米国への警戒心を呼んできた。トランプ政権がこれを止めたのはいいことだが、代わってガザを購入して住民を追い出すとか、グリーンランドを購入するとか、先の見通しもなしにベネズエラ、イランの指導者を武力で除去するのでは幻滅だ。
こうした時代日本としては、自前の防衛力を強めること、中国との過度の対立を避ける―とは言っても、国内の自由で民主的な体制は譲らない―ことが大事。そして武力で他者の権利を侵害する国を抑えるような仕組みを、世界で作っていきたい。
親愛なるジョー、こういう方向で今後も近代の文明を守っていきたいと思います。




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