(これは日本英語交流連盟ESUJのサイトにアップした記事の日本語原文です)
2月8日、衆議院の総選挙があった。衆議院は任期をまだ3年弱残していたが、昨年10月に議会で選ばれたばかりの高市総理は、「自分が総理でいいのかどうか、国民の審判を仰ぎたい」と宣言した上で、国会を解散(日本の憲法では総理大臣が衆院解散権を実質的に握る、とされてきた)した。
選挙の結果、自民党は議席の68%(316議席)、つまり日本史上初めて一党が議席の3分の2を獲得する快挙を成し遂げた。選挙前の衆院で議席の32%を握っていた立憲民主党、5%を握っていた公明党は、今回選挙では統合して中道改革連合を名乗って臨んだが、合計で議席の10.5%を占めるだけという、惨めな存在に転落してしまった。残りの21.5%の議席は7の新旧政党によって割拠されている。
前回2024年の総選挙と比べてみると、自民党は小選挙区(289議席を獲得)、比例代表(同176議席)とも、得票率を約10%も引き上げ、小選挙区では実に50%弱の得票率を挙げている。しかし得票率50%(比例では38%)で小選挙区の議席の86%もを得たのは、小選挙区の魔法、つまり一区から一名しか選ばれないためである。今回の魔法は、高市総理の人気(明るくて、言うことが明確だ、そして以前の安倍総理と同じく積極財政で経済と暮らしを良くしてくれるだろう、という期待)、そして野党が基本的に退潮している中で、次のように戦術を間違えたことにある。
つまり最大野党である立憲民主党は、2012年に政権を失って以来(当時は民主党)、支持率の低下、日常活動を支えている労働組合の衰退に悩み、一方、長年自民党と連立を組んできた公明党は、日常活動を支えている仏教の一派「創価学会」信者の老齢化と減少で悩んでいたのだが、それまで公明党との関係が良好でなかった高市早苗氏が総理に選ばれたのを契機に連立を離脱した。そして総選挙の直前に、両党は統合して中道改革連合を名乗り(参院では別の党のまま)、小選挙区は旧立憲民主党の候補、比例リストの上位は旧公明党の候補が独占することとした。
自公連立の時代には、小選挙区の自民党候補は公明党支持者の票1万票程度を回してもらって当選してきた。今回はこの1万が消えて対抗候補の旧立民に回りかねない、という危機だったのだが、ふたを開けてみると、比例区の旧公明党候補は全員当選したのに比し、小選挙区で旧立民の候補は7名しか当選しなかったのである。右二党は、選挙前の合計172議席を実に49議席に激減させたのである。
「なんでもできる」高市政権
議席の3分の2というのは、自民党独裁を可能にする数字である。憲法に違反していない限り、自民党は自分の望む法案を採択できることになるからである。衆議院では法案を容易に可決できるし、参院で(ここでは自民党は40%強の議席しか持っておらず、連立与党「維新」の助けを得てやっと56%)否決されても、差戻しの衆院での採決で3分の2以上の票を得ることができれば、成立する。
この手が効かないのは憲法改正だけで、これは衆院、参院両方で各々3分の2以上の賛成を必要としている。しかし参院でも、野党の一部を引きこめば、3分の2にぎりぎり届き得る。戦後、米占領軍当局に憲法草案を押し付けられたという意識のある自民党は、憲法改正を党是としている。ただそれは、日本を戦前の専制・帝国主義に戻すというのではなく、自衛隊を軍隊と改称して憲法上の裏付けを与え、かつ自衛のための武力の行使を明文で認めるという、他の独立国では当たり前のものに変えるだけの話しである。
なお、「核兵器を持たない。作らない。持ち込ませない」という、いわゆる非核三原則はもともと法律でさえない(衆議院決議)ので、最後の「持ち込ませない」という点から緩和(但し陸上配備ではなく、核兵器を搭載した米艦船が日本の港に寄港する程度)されていくだろう。ただ、米国は日本に持ち込めるような核兵器を未だ開発中である(一度トマホークを完全に撤退させている)ので、差し迫った問題ではない。
日本世論のタカ化ではない
以上、今回選挙の結果は、日本世論のタカ化を意味するものではないことがおわかりいただけたと思う。青年は戦争を嫌い、自衛隊に応募する者は減少している。徴兵制の復活などは、非現実的な話しである。
国民は何より生活の安定と政治の浄化を求めており、今回選挙では、安倍直系であることを強調して積極財政、防衛力強化、政治資金の浄化、秩序ある移民政策等をはっきり言い切る高市総理に賭けたのである。
大勝の後には危機が訪れやすい。高市総理は独断で重要な発言、決定を行うことがあり、それで一度つまずくと自民党内外での批判が広がる。マスコミの中で自民党、特に高市総理に敵対するものは、政権関係者の醜聞を掘り起こしていくだろう。女性の多くは女性宰相の出現を喜んでいるが、高市総理を嫌う女性もまた多い。
高市外交はタカではない
高市総理は以前からタカ派、つまり日米同盟にべったりで中韓には厳しいものと思われている。同総理の支持層の一部には、反中・反韓を旗印にする者がいる。しかし彼女自身は、もっと柔軟だろう。韓国の李在民大統領とは既に、緊密な信頼関係を構築している。韓国の社会も日本の社会も変わってきて、双方への親近感が増大している。
台湾防衛について高市総理は最近、国会で野党に挑発されて勇み足の答弁をしたが(実際には、日本が単独で台湾を防衛できると思っている者は日本にはいない)、中国とは11月の会談で総理が習近平国家主席に言ったように、「戦略的互恵」から一歩も逸脱していない。トランプの4月訪中を前にして行われる高市総理の訪米では、その点が明らかになるだろう。日米双方とも中国を協力、地域の安定維持に目がけて、引き込んでいく姿勢を打ち出すといいと思う。
高市総理は目下、「西側」では最も強い国内政治基盤を持つ指導者となっている。「極右」と言われながら、強い党内・国内基盤を築いた後は、EU正統派の立場を持しているイタリアのメローニ首相にそれは似ている。東の高市、西のメローニと言おうか。願わくは日伊双方ともお家芸の、短期政権の繰り返しには戻らないで欲しい。




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