(これは、2019年4月メルマガ「文明の万華鏡」でのコラム。全然古くなっていないので、ここに復刻します)
河東哲夫
もう15年前のことになるが、草思社から「意味が解体する世界へ」という随筆集を出版した意味が解体する世界へ 一外交官の考察 | 河東 哲夫 |本 | 通販 | Amazonことがある。これはロシア、西欧、米国、ウズベキスタン、日本の社会の変化のもようを綴ったものなのだが、ここで言おうとしたことは、これまでの「近代」世界を支えてきたいくつかの基本的な価値観がその絶対の地位を失いつつある、ということだった。
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――17世紀に確立した「国民国家」のいくつかは、民族・人種的な同一性を失い、多民族国家化しつつある。自由や民主主義のような崇高な理念は、米国が武力、あるいは政権転覆工作で旧社会主義・中東諸国に上から押し付け、その結果は混乱と一層の困窮を呼んだばかりか、イラクでは拷問までしたことで(最近はファッショ的とも言えるトランプの登場もあります)、すっかり泥を塗られてしまった。また西欧諸国はかつてギリシャ・ローマ文明を自分の精神的故郷だと定め、学校でギリシャ語、ラテン語、そしてこの時期の古典を学習することで文化的なアイデンティティーを保ってきたのが、これが薄れた(大学進学のための必修でなくなった)ことで、ヨーロッパ人は浅薄で味気のない存在になった。――
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以上がこの本に書いてあること。これに加えて最近ひしひしと感じるのは、何かが根本的に変わる、パラダイムががらりと変わる、それは文明の転換とかパラダイムの変化というような生易しいものではなく、本当に解体、「文明の破断」、いや「人類という種の破断」とも呼べる、破断の前後では相互理解も不可能なほどの変化、という直感だ。あるいは、これから津波がやってきて、何から何まで攫って行ってしまうだろうという予感、「何をやってももう駄目だ」という一種の虚しさとでも言うか。
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AIやロボットの普及で一番気味が悪いのは、人間が人間でなくなってしまうことだ。遺伝子工学がどんどん前に進み、人体の外見も中身も人間が変えることができるようになる社会というのは、医療には理想的でも、その他の面では予想しがたいものがある。
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人間のことを言う前にまず、IT、AI、ロボットが企業のあり方をどう変えていくか考えてみよう。日本では100年、200年と続く企業や商店がよいものとされますが、インターネット、ロボット、AIは企業のあり方を大きく変えていくだろう。大企業という、自分の中に様々の機能を抱え込んだ企業形態は、これから多くの業種で不要、あるいは有害なものになってくるだろう。日本の銀行では既に大幅なリストラが行われている。
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面白いことに最近では、コンサルティングの大手でも人員の大幅カットが行われているようだ。この頃の経営での課題は、これまでの延長上で組織を如何に合理化、効率化するかという課題を飛び越え、どういう新しいものを開発、生産、販売し、それに応じて業容と組織をどう変えていくかという、テクノロジーの知識なしには解決できないものになっている。理系の知識を欠く多くのコンサルタントは、過去の存在になってしまったのかもしれない。例えば富士フィルムがフィルムを捨ててデジタル技術、及び医療機器・機材生産の方向に大きく舵を切った時など、外部のコンサル企業は有効なアドバイスはできなかったことだろう。
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話しを人間に戻すと、これからは外見も能力も、両親、あるいは本人の注文次第に遺伝子を変えるということになるだろう。世の中はアラン・ドロン、カトリーヌ・ドヌーブ、或いはアインシュタインやトランプ(?)、身長が3米もあるバスケット・ボール選手、そういったタイプばかり。「常時在コスプレ大会」の様相を呈することとなるだろう。もう何が真実なのか、わからない世界になる。
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そして、人間の寿命がどこまでも伸びていく社会がどうなるか、それは想像の域を超えている。何歳になっても上司がいる会社、90歳になっても現役で、120歳以上の人達の年金を払わなければならない社会。あるいは80歳になっても子供ができて、それは長子の孫と同年齢であるような社会。頭が千々に乱れて、何が何だかわからなくなる。
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一方、先進国ではこうしてどこまでも先へ先へと進んでいくのだが、先進国の周囲は19世紀以前の社会、国だらけ。彼らはやっと国民国家の原初形態を作り上げた段階にいて、その国家の力を使って対外拡張をはかろうとし、手近なところにある先進国にはテロや紛争をしかける。日本はこうした国々にやられないように対抗手段を整えようとするうち、自らも19世紀以前の行動様式に堕してしまう、こういう矛盾にも直面している。




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