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米国のロシア軽油輸入再開をめぐる空騒ぎ

当面の世界を変えるのは、米国のロシア軽油輸入より、米国中間選挙の結果

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10月9日、トランプはプーチンと電話会談。プーチンの誕生日(7日)祝いのはずだったが、時差とプーチン外遊のため9日にずれ込んだもの。トランプは、9月中旬ロシアの総選挙後には再開するという口約束があった、ウクライナ停戦に関するウクライナ・ロシア・米国三者協議の期日で合意、発表できる、と踏んだのだろう。

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ロシアからの軽油輸入再開、波紋を呼ぶ

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大統領補佐官ウシャコフによれば、会談は1時間半にも及んだ。それでも両首脳は受話器を置こうとしなかったので、ウシャコフが介入して両者が同時に置くほどだった(このあたりは10月10日付戦略文化財団記事)。しかし、プーチンは三者協議再開には同意しなかったのだ。ウシャコフによれば、選挙当日、ウクライナが一連のドローン攻撃をしかけてきたことで、プーチンは怒っている。

三者会談再開は成らなかったが、トランプはそれでも中間選挙に向けて選挙民に「売れる」材料をプーチンから手に入れた(と思った)。それは、「ロシアが大量の軽油を米国、及び全世界に輸出する」ということ。クレムリンの発表文では曖昧模糊としているのだが、トランプのSNSでは「ロシアが軽油を直ちに30万トン。時間をおいて50万トン、米国に輸出する」のだそうだ。米側は手回し良く(ということは事前の根回しができていたのだろう)財務省が直ちに同日、対ロ制裁の例外措置としてロシア産軽油の輸入などを半年間認める指示を発出している。

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トランプは親友の故リンゼイ・グラム上院議員発案の対ロシア制裁強化、通称「地獄の制裁法案」に署名したばかりで、これはロシアの原油を輸入した国には高関税をかけることを定めたものなのだが、トランプは自らこれに反することをやってのけた。おそらく農繁期の農業地帯からトラクターなどに使うディーゼルの価格が急騰していることで、突き上げを食らっていたのだろう。

米国は軽油を輸出もするが、時期と場所によっては輸入もするという国。2025年の輸入量は5,798.9万バレル(EIA)。トランプの言う「直ちに30万トン」というのは約225万バレルに相当するので、年間輸入量の約4%にしかならない。ロシアは夏の農繁期には軽油の輸出を停止することがあり、ウクライナに製油所を破壊された今年は7月から10月末まで軽油輸出を禁止していたほどである。それほど輸出余力はないだろう。結局、世界の軽油市況に少しアナウンス効果がある程度で終わったようだ。米国での軽油先物価格は会談直後に5%下がったが、13日には4.5%上昇してほぼ以前の水準に復帰している(Wall Street Journal等)。

よせばいいのにトランプは、プーチンとの会談の翌日、記者たちを前にゼレンスキーを罵った。「ウクライナがロシアの製油所を破壊するから、石油価格が上がるのだ」、「ゼレンスキーは早く交代したらいい」と。

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実体はあまりない、この軽油輸出合意をめぐって、ちょっとした空騒ぎが、ロシア、ウクライナ、欧州の論壇で生じている。「トランプ米国は自分の利益のためにウクライナを捨てた。第2次大戦の時、ソ連と米国が緊密に協力した時を思い出す。その枢軸関係の復活だ」というわけである。

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ウクライナ戦争は終わらない

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確かに、米国での中間選挙を前に、ウクライナとロシアは双方への攻撃を少し手控えるかもしれない。米国のSpaceXがStarlinkを止めれば、戦場のウクライナ軍は通信手段を失うし、ロシア領内の標的の所在地もわからなくなる(西欧の企業で衛星情報を提供しているところもあるが)。

しかしそれも、米国中間選挙までのことだ。米欧離間が決定的となって、NATOが崩壊するところまではいかない。冗談めかして言うなら、ロシアも欧州も米国も、NATOが崩壊する前にまず、自分達が個々に、政治的・経済的にぐじゅぐじゅに崩れて行ってしまうかもしれない。

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特にロシアの経済は、これまで軍需景気で偽りの繁栄を演出してきたが、まさにその軍需で諸方に資金不足が発生。経済は限界症状を見せ始めている。高金利で沈静したインフレは、利下げとともに再び上昇して約6%に達しているが、食料品の値上がりはそれをはるかに上回る。それでも、中銀は利上げ再開には踏み切れないでいる。金利を上げれば、経済界から再び大変な不満の声が沸き上がるだろうからだ。

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軍需景気にもかかわらず、と言うか軍需偏重のために成長率は低下を続け、それに伴って財政赤字は膨張の一途。ロシアの政府債務残高は、2026年末にGDPの約20%となり、2026年の債務返済費用は連邦予算支出の8.8%に達する見通し。これは日米欧に比べればはるかに「健全な」水準にあるのだが、問題はロシアは資本を国内だけで集めざるを得ず、その資本の量が限られているために、国債利回りが急上昇していることだ。7月には財務省は国債の新規入札を延期している。高利回りのままでは、将来の返済費用が膨張するからである。

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地方財政も逼迫している。連邦政府は地方政府の財源を奪う一方で、新兵募集の費用などを押し付けてくるからである。2025年には89の州級自治体のうち、73が赤字になっている。連邦政府が助けてくれない中で、民間銀行からの融資で凌ぐ地方政府は増えている。その額は2025年、3倍に増えて、6760億ルーブルに達している。現在の政策金利は14%なのである。

だから政府は今年1月付加価値税を2%上げて22%とし、電気・ガス等の公共料金は27,9%も引き上げた。大きな利益を上げている資源関連企業などからは、上納金を巻き上げている。

そして今年の国防費は、予算を40%超える4~5兆ルーブルになることが見込まれている。これだけで、4兆ルーブルほどの起債をしないといけなくなる。

ロシア経済も、戦争につじつまを合わせることがもう無理になってきたのだ。

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国際政治地図を変えるのは「米ロ結託」よりも米国中間選挙

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欧州諸国は、以前ならウクライナを犠牲にしてでもロシアを手なずけておくやり方を選んだだろうが(それが2014年の「ミンスク合意」の意味)、ウクライナ戦争で、ロシアは欧州諸国にとってのリアルな脅威となった。従ってEU諸国と英国の政府、そして民間企業はウクライナ支援を続けるだろう。

米国も、バイデン時代に約束した支援でまだ残っているものがあるし、米国の民間企業はそれぞれ自分たちの思惑でウクライナへの支援を続ける。SpaceXのStarlinkが提供する戦場での通信インフラ、衛星からの情報はウクライナ軍にとって不可欠なものである一方、SpaceXにとっても実際の戦争で用いた場合のデータをとれる貴重な場だ。それはウクライナ戦争の初期から参入している米国のAnduril Industriesや、Fedorov前国防相の下で活躍したPalantir社(システムMaven)にしても、同じこと。

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だから今回の軽油事件で米ロ枢軸が成立して、ウクライナを蹂躙し、欧州を敵視することは起きない。ウクライナ戦争は、一気に停戦が成立するのではなく、エネルギー関連施設への攻撃を相互に控えるなどの合意が積み重なって温度を下げ、2014年のミンスク合意の後のような「凍結された紛争」の様相を呈することになるのだろう。

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(これの続きは19日発刊予定の「ボストーク通信」をご覧ください)

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