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ウクライナ戦争と三つの選挙


以下は、「ボストーク通信」最新号に投稿した記事です。9月のロシア議会選挙、11月の米国中間選挙がウクライナ停戦を早める方向で作用するだろう、停戦はプーチン、ゼレンスキーの退陣を意味するが、彼らの後はどうなるか、という話です。

ウクライナ戦争は5 年目に入る。19世紀のクリミア戦争が2 年半、20世紀ナチス・ドイツとの戦争が4年余だったのに比べても、長期戦になる。ウクライナ、ロシアとも兵力はよれよれ。経済もロシアの不調が目立ってきた。

この中で、ロシア、米国での二つの選挙が停戦を速めるかもしれないし、停戦が実現すれば、ウクライナも戒厳令を解除して大統領選を実施するだろう。

トランプへの支持率低下と米国中間選挙

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まず、11月の米国中間選挙がウクライナ戦争にどのような影響を与えるかについて。トランプの支持率はこの1年ほぼ下落を続け、2月初旬には40%弱になっている(不支持が56%――Economist)。特に1月には、米国内で不法移民の摘発に当たっていた連邦移民関税執行局(ICE)の要員が、その乱暴なやり方に抗議するミネアポリスの一般市民(白人)2名を射殺。当局は口を拭うも、射殺の現場の動画がいくつもSNSに流されて、当局の責任は免れない状況となっている。この中でトランプは既に、このままでは中間選挙で下院の多数議席を失って、俺は弾劾食らうぜ」と公言している。彼は第一期、実際二回も弾劾を受けている。上院の3分の2がこれを支持することがなかったから、彼は大統領職に居座ったのだ。

と言うわけで、ワシントンはもうすぐ中間選挙一色となる。6日、ウクライナのゼレンスキー大統領は言った。「米国は、6月までには戦争を止めろと言っている。」と。そこまでが、米国が関与できるタイム・リミットというわけだ。

こうなるとウクライナには不利になる。ロシア軍を今の占領地から追い返すことは到底できず、占領を既定事実として承認せざるを得なくなる。ロシアにとって有利な停戦だ。

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ロシアの議会総選挙

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だがロシアには兵力だけでなく、戦車、大砲、砲弾でさえ不足しているという問題がある。ミサイル、ドローンは増産しているが、これでは陸上の占領地を拡大することはできない。そして9月には、議会下院の選挙がある。普段ならば、与党「統一」が大勝ちするのだが、今回はどうなるかわからない。若者は戦争にひっぱられるのを嫌がっているし(これまで当局は、モスクワやサンクト・ペテルブルク等大都市の青年を動員するのを控えてきた)、年末以降半分に下落した原油価格で政府歳入は大幅に減り(1月の原油関連歳入は、前年同期の半分に減少している )財政赤字は確実に増える。

2011年12月から翌年5月にかけモスクワ等では、市民の集会が相次ぎ、議会選挙の開票結果の「捏造」、そしてプーチンの大統領職への返り咲きへの反対の意思を表明した。こうした声を一つにまとめることのできる野党勢力がいないのが、政権にとっては救いだが、投票がボイコットされ、投票率が極端に下がった場合には(それでも選挙は成立する)、ロシアは世界で恥をかき、ミシュースチン首相以下の政府は退陣を余儀なくされるかもしれない。

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このような事態を防ぐために当局が何をし得るかというと、まず戦闘を激化してウクライナから取れるだけ取った時点で和平をはかるのが一つ、次に米国が求めるように6月までに停戦するのがもう一つの策。この場合、米国がウクライナの要求を抑えてくれるだろうが、ドネツ州等全面譲渡などロシアの要求も満たされないだろう。そうすると、ロシアは実質的に負けたことになるので、対応は慎重でなければいけない。

1905年、日ロ戦争の停戦で、ロシア勝利を信じていたロシア国民は失望し、生活苦を訴えるデモを組織して、当局に狙撃され(「血の日曜日事件」)、暴徒化して第1次ロシア革命を演出。国会創設等を当局に呑ませたのだ。

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そうならないよう、当局は、もし早期停戦をもくろむなら、今からプーチンの後継者を準備していかないといけない。1999年12月、エリツィンが大統領職をプーチンに禅譲した時は、後者を8月に首相に任命してチェチェン弾圧戦争を主導させ、人気を空前のレベルに上げておいたのである。

そのうえで、停戦協定成立と同時に、プーチンは表向き、勝利を宣言して「若い世代Aに道を譲る」と言えばいい。彼は大統領職を辞しても、国家を指導する立場からは去らず、このような日に備えて腹心のデューミン補佐官に準備させてきた「国家評議会」の議長に自ら就任。若い大統領を「指導」しつつ、生きていくことになろう。

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この評議会は、2020年の憲法改正で初めて正式に登場したが、「重要な問題につき諸省庁を調整」とあるだけの代物なのだ。この場合、プーチンに代わって大統領--実権はプーチンが持って行ってしまうーーに成り得る者は、何人か口端にのぼっている。まず、憲法の規定上は、ミシュースチン首相が大統領代行を務めることになる。彼は国税庁長官出身だが、ITに詳しい。ITを駆使して収税事務を合理化。集税率を大きく上げた辣腕の行政家。外交面では経験が薄い。次の「有資格」者について憲法上の規定はない。今、インターネット上ではメドベジェフ元大統領、デューミン大統領補佐官、ソビャーニン・モスクワ市長などの名が挙がっているが、いずれも決定打に欠ける。

1999年12月エリツィン大統領から「突如」権力を禅譲された当時のプーチン首相は、その前の数か月、首相としては異例のチェチェン武力弾圧を指揮、その容赦ない徹底的な指導ぶりで(首都グローズヌイは焦土になった)国内の支持率を異常に高めていたのだ。これは、9月初め、モスクワのアパートなどが爆破されたのを、チェチェン独立派の犯行と決めつけての行動だった。そしてこの爆破は当局が仕組んだものであることを、豪商ベレゾフスキーは後に暴露している。

 だから今回も、大きな事件が起きて、その処理を一手に任される人物が出てきたら、権力交代の準備であることを疑わないといけない。

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「若返りでロシアは自由化」の妄想

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西側はソ連時代から、「この国の若年世代は西側を良く知っている。当局による弾圧ももうないので、彼らが権力を握ればロシアも自由化するだろう」という希望的観測を、もう何十年も言い続けている。今回も、そのような論調が出始めている。

しかしプーチンをかついで国家の権力構造を維持しているのは旧KGBなので、指導者の交代は、彼らが自分達として安心できる者を指導者に推戴する、という話しで終わる。ロシアでは旧KGBだけが、全国、全社会、組織・企業の津々浦々に要員を配置し、国を取りまとめていける力を持っているのである。

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1999年12月、エリツィンがプーチンに権力を禅譲した時がその好例。プーチンの本職はKGBだったし、首相になる前は、まさにKGBの後身、国家保安庁の長官を務めていたのである。筆者は当時モスクワにいたが、エリツィン周辺が当時どれだけKGBに気を使い、KGBの復讐を恐れていたかを覚えている。何しろ、エリツィン一派はソ連崩壊の前後、KGBを実質的に解体して政治・経済両面での「改革」を進めるも、実際にはガバナンスを破壊し、1998年8月にはロシアにデフォールトという国際的な屈辱を与えたのだから。

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どの国でも、自由とか民主主義とか理念で動く者は少数の恵まれた人たち。大多数は(日本も同じだが)「あの人、あの党なら何かくれるかもしれない。生活を良くしてくれるかもしれない」という徒な期待で投票するものだ。

もし旧KGBが権力を失って、「自由化」が実現すると、ロシアでは経済の安定、治安、そしてロシア人にとって最も重要な「コネ」が失われ、大混乱に陥るだろう。それが1990年代、ソ連崩壊と同時に起きたことである。

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停戦後のウクライナ

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停戦が実現すれば、ウクライナでは大統領、議会の選挙が行われる。停戦でウクライナは何かを譲らざるを得ないだろうから、ゼレンスキーはその責を取って引退するだろう。次の大統領になり得るのは、世論調査に基づくならば、ウクライナ戦争の初期に軍の総司令官を務め、徹底抗戦を主張するゼレンスキーに抵抗して解任された(その後、英国での大使)ザルージヌイがトップを走る。1月の調査では、2位に、軍の諜報局長官から大統領府長官に抜擢されたブダーノフが台頭している 。彼は前任のイェルマークが徹底抗戦を強硬に主張して、西側とも対立気味であったのと比べて、現実的で西側での受けもよい。

 そして誰が大統領になるにせよ、その任務はウクライナの再建・復興である。何しろ、ウクライナの人口は独立時の5000万人強が、海外への流出などで、今では4000万人弱に減少しているのである 。西側の復興投資は、海外のウクライナ人の祖国復帰を促す分野に向けられるべきだし、ウクライナでこういう場合良く起きる、政治家・官僚などによる資金横領を防ぐ手立ても講じておくべきだ。