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世界はこう変わる

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2009年12月27日

中央アジア情勢メモ――09年10月周辺

10月の概観
(1)原油価格が高騰していた昨年まで数年間、ロシアの対中央アジア外交は上げ潮だった。その象徴は2005年、ウズベキスタンが米軍を国内から追い出し、ロシア寄りの政策を取るようになったことである。
そしてロシアが原油価格急落と世界金融危機のあおりをもろに食らって沈んだこの1年は、新任のメドベジェフ大統領が老練な中央アジア諸国の指導者に翻弄されたことも合わさって、その対中央アジア外交もまた退潮傾向となった。その象徴は、この10月モルドヴァの首都キシニョーフで行われたNIS(バルトを除く旧ソ連諸国)の首脳会議に、中央アジアからはバキーエフ・キルギス大統領しか出席しなかったことである。

だがロシアは、原油価格の波のままに大きくもなれば小さくもなる。ロシアに対する評価は過大であっても過小であってもならない。原油価格が大きく回復した今、中央アジアは「ロシア蘇生前夜」の状況にあるのだろうと思う。

(2)アフガニスタンも歴史上は中央アジアの一部なのだが、10月16日には米国政府がロシア政府に謝意を表明している。10月14日カンダハル近くで攻撃され不時着した米軍ヘリSN-47とその乗員を、ロシアのVertical社(運送)のヘリMi-26が外側にひっかけて110km飛んで助けたのだそうだ。
(写真はhttp://www.avia.ru/news/?id=1255553859
まるで映画のように壮大な話だが、これはロシア人が実質的にアフガンで作戦に従事していることを意味する。NATOのヘリが足りないためにチャーターされているのだ。
 そのアフガニスタンへ米国は、ロシア領空等を通って軍用物資を搬入する了承をロシアから得ているが、実際にはこの空輸はまだ開始されていない。積荷の検査手続き等についてロシアと交渉が続いているのだろうし、米軍がアフガンに大幅増派されていない現段階では、まだ急がなくていいのだろう。

以下、細かい動きを追ってみたい。

NIS
(1)10月9日、モルドバ共和国の首都キシニョーフで恒例のNIS首脳会議が行われたが(今年のNIS議長国はモルドバ)、ひどい低調に終わった。昨年夏ロシアと戦争になったグルジアの脱退が最終的に確定した上(とは言っても、多分郵便や鉄道などの分野に関する75の協力条約には残る由)、中央アジアから首脳が出席したのはキルギスのバキーエフ大統領のみだった。カザフスタンのナザルバエフ大統領はふだんはロシアとの関係を大事にする人だが、今回はなぜかサルコージ仏大統領がカザフスタンを訪問中で、キシニョーフには首相を送り、タジキスタンも首相、トルクメニスタンに至っては副首相しか送ってこなかった。タジキスタンのラフモン大統領は同時期にトルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領を訪問して、天然ガスを安く売ってもらう相談をしていたのだ。

ベラルーシのルカシェンコ、ウクライナのユシェンコ大統領は出てきたのはいいが、口をきわめてロシアを批判する始末(金を貸してくれないということ)。肝心のメドベジェフ大統領も最初の30分間だけで席を立ち、アゼルバイジャン、アルメニアの首脳との個別会談に行ってしまい、文書署名の場にシュヴァーロフ副首相を残した。そのあげくレセプションは中止となり、皆、帰国の途に就いた。それでも文書を22件も採択したというからすごい。

一時プーチン首相などがよく言っていた、「ルーブルを国際決済に使うこと」を受けてか、この首脳会議では加盟諸国が相互の貿易を自国通貨で決済する可能性を検討する委員会を作ることにした 。石油とかガスくらいしか買えないルーブルでは、どの国も使いたいとは言わないだろうから、この決定は一見前向きに見えて実は体よく棚上げしたということだ。
2010年はソ連の戦勝65周年だが、5月9日の記念日にはモスクワでNIS加盟諸国が共同でパレードすることも決まった。とすると、ウズベキスタンやカザフスタンなど、日本やドイツと戦ういわれのなかった国々が「勝った、勝った!」と叫んで赤の広場を戦車で行進するという珍奇なことになる。

(2)10月14日バクーでの第2回NIS銀行会合で、ロシア、カザフスタンなどNISの一部が作る「欧州・アジア経済共同体」(あまり活動していない)の金融危機救済基金が、やっと具体化した。金融危機が起きて1年もたってしまっては、その有難味は薄れる。ともあれ、総額は100億ドル、うち75億をロシア、10億をカザフが拠出する。「欧州・アジア経済共同体」以外の国にも貸すそうだ。

(3)そんなことより面白いのは、中央アジアに投げかけられる中国の影が日増しに濃くなっているということ。8月から9月にかけて、中国人民解放軍は遠距離作戦の演習をした。瀋陽、蘭州、済南、広州各軍区から5万名が動員され(これまで人民解放軍は同一軍区内でのみ演習していた由)、急行列車、航空機で西へ移動した。
 これはウイグル騒動前から計画されていたそうだが、新疆、チベットの平定、インドとの国境紛争生起を意識したものだろう。中国人民解放軍の遠距離作戦能力が高まることを、中央アジア諸国はどんな目で見ていることだろう。

GUAM
(1)旧ソ連ではあるが、ロシアからは距離を保ち西側に歩み寄りたいという国々が集まって、GUUAMという緩い政治協力グループがかつて作られた。加盟国は頭文字が示すとおり、グルジア、ウクライナ、ウズベキスタン、アゼルバイジャン、モルドバという顔ぶれだったが、2005年ロシアに歩み寄ったウズベキスタンが脱退して一つのUがなくなり、GUAMとなって今日にいたる。
今日に至ると言っても、昨年8月グルジア戦争のあと、アゼルバイジャンがロシアを刺激するのを避けるようになったこと、モルドバが大統領選挙で政治的混乱に陥ったことなどから、休眠状態だったのだ。

(2)ところが11月3日、キシニョーフでウクライナ国家安全保障書記のライサ・ボガティリョーヴァとモルドバ外相ユーリー・リャンケが、「GUAMの一部のプロジェクトを復活させる」。という言明を行ったのだ。
この両国は近く大統領選挙を控えているので、名前でしかない存在ではあっても「GUAM」に何かの効用を見出しているのだろう。それでも、GUAMが蘇生するということは、それだけNISが内部から浸食されるということだ。

CSTO
(1)CSTOの「即応展開軍」演習
10月2日、カザフスタンのMatybulak演習場でロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アルメニア4国の軍隊、計7000名以上がCSTOの「即応展開軍」としての演習を開始した。2週間の予定。今回の演習では初めて、正規軍、内務省軍、国境警備軍、緊急事態省の兵力等、各軍種が共同して人質解放、石油基地・化学工場爆発処理の演習を行った。
CSTO加盟国のベラルーシ、ウズベキスタンが加わっていないのが気になるが、両国はそれぞれ違う理由で参加しなかった 。ベラルーシは本年CSTOの議長国であるし、CSTOに即応展開軍を設置する文書にも署名しているのだが、今回は不参加だった。ベラルーシは(融資などが欲しいために)現在EUとの関係も推進しようとしており、ロシアとの間で二股をかけているのだ。ウズベキスタンは、即応展開軍(ロシア空挺団が主力)が隣国キルギスに基地を置き、ウズベクとの関係で用いられることを恐れてか、加わらないという姿勢を貫いている。

(2)10月16日にこの演習は終わったが、その日アルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ロシアの大統領が一堂に会して演習を観閲した。ルカシェンコ・ベラルーシ大統領は欠席し、代わりにマリツェフ国防相を送ってきた。
 「即応展開軍」はこうしてまだ完全なものではないが、制服だけはちゃんとできている。それはロシアが自費ですべてを払ったもので、サンクト・ペテルブルクの工場で流行りの「ナノテク」を使って製造したもの。色はグレー、ベージュの中間色で、セルジュコフ国防相がメドベジェフ大統領に報告したところでは、「中央アジアでは保護色になるのであります」。つまり、アフガニスタンのタリバン勢力が中央アジアでテロを展開した場合の対策が第1番目の任務だということだろう。

(3)この演習を前に、10月7日、ロシアのイワノヴォで軍の大型輸送機IL-76が離陸時、エンジンを全開にしたところ、4基のエンジンのうち1つが翼から外れて一人「離陸」するという事故があった。で、その後IL-76はしばらく飛行禁止になっていたのだが、大統領達が観閲した10月16日には特別の許可で飛び、大統領たちの目前で空挺団を落下させた。このIL-76という飛行機は、ロシアで組み立てているのではないが、この数日後本当に墜落しているので、ロシア航空機産業の問題点を示すものである。
またこの演習準備の段階では、アルマトイ付近で爆撃機のSU-24が誤って爆弾を民家に落とした。しかし不発であったために死傷者はなかった由。人間に優しい爆弾でよかった。

(4)そんな、まだ成長過程のCSTOではあるが、プライドだけは一人前で、NATO並みに扱ってもらいたいと思っている。昨年9月、国連とNATOが協力協定を結んだ(http://www.japan-world-trends.com/ja/cat1/post_248.php参照)のをひどく気に病んでいて、同じような協定を結ぶことを国連に提案したのだそうだ。CSTO側の案では、テロとの戦い等においてはCSTOが域外で作戦することを認める内容になっているそうで、交渉は簡単には妥結するまい。

EU
(1)EUが東方づいている。NATOはアフガニスタンで手いっぱいなので、NISはしばらくEUのイニシャティブにゆだねるのだろう。 
12月8日にはブラッセルで、この5月に決めた「東方パートナーシップ」の枠内で何をやるか議論する予定なのだそうだ。この「東方パートナーシップ」の対象はアゼルバイジャン、アルメニア、ベラルーシ、グルジア、モルドバ、ウクライナで、中央アジアは対象外だが。
またEUは、ウクライナのクリミア半島開発支援計画も作成中で、10年春にも採択する予定の由(チモシェンコ首相の息がかかっているようだ)。ロシアとの間で潜在的な領土問題となっているクリミアの開発をEUが支援する政治的意味合いは非常に大きい。

なお10月27日にECは、ウズベキスタンに対する制裁を解除した。2005年5月アンディジャンでのテロ事件の際、政府軍が無辜の市民を戦闘に巻き込み、数100名を殺したことに対する措置で、兵器の供与を禁止し、12名の政府要人のEU訪問を禁じていたのだが、昨年10月に殆ど解除していたのを、今回完全に解除したのである。
これでEUは、中央アジアの政治における雄であるウズベキスタンと自由にやりとりができるようになった。

(2)EUそのものではないが、中央アジアからみでは、11月2日タジキスタンのドシャンベで、ドイツの連邦刑事局(国内カウンター・インテリジェンス)、タジキスタンの国家安保会議、内務省、麻薬取り締まり庁共催で、非公開の国際会議が開かれている。
中央アジア、ドイツ、アフガン、パキスタンの対テロ諜報機関の代表が集まり、「ドイツと中央アジア――安保協力強化戦略」と銘打っての会議だった。ロシア、中国、フランス、イタリア、カナダ、米、英、ウクライナもオブザーバーを送っている。


中央アジアをめぐるテロ
(1)9月末、キルギス領からタジキスタン領の硝所に向けて射撃があった。政府関係者によれば、こういうのはよくあることで、「テロよりも痲薬取引にからむものだろう」ということの由。970kmの両国国境の半分は未確定だと言うから、取り締まりも難しいだろう。ただ、冬になると山岳部が降雪で凍結して、タリバン、IMU(ウズベキスタン・イスラム運動)も通行が難しくなる。
この地域では麻薬取引だけでなく、利権争いが「テロ」にされることがある。たとえば、この夏、タジキスタンのIsfarでニゾムホン・ジュラーエフ(企業家・工場、3500名雇う)が、ラフモン大統領の家族に近い者から利権を狙われ、30名程拘束されたが(15~20年懲役)、ジュラーエフ自身は逃走した例などである。

(2)10月3日 IMUのスポークスマンは、8月27日 パキスタンのバジリスタンで指導者タヒール・ユルダーシェフが無人機に殺されたとの情報を否定した。パキスタン政府は死んだと言い、後任にはタタール人のアブドゥラフマンが選ばれたと声明していた。どちらが本当かはわからない。だが、テロリストというのも、跡目がきちんと決まってからでないと、うっかり死亡も発表できないものなのらしい。


ウズベキスタン
政治、経済とも大きな変化はない。
(1)ウズベキスタンは親米の方向に舵を切っており、CSTOの即応展開軍にも加わろうとしないが、だからと言って反ロになったわけではない。あまりふらふらせず、うまく大国間のバランスを取ることを習得したようだ。この2,3年間、ウズベクの主要産品である綿花の国際市況も良かったし、石油・天然ガスの輸出量もかなり増加しているし、石油景気に沸くロシアへの出稼ぎ者からの仕送りはGDPの5%にも達していた。ウズベクの経済は好況だったのだ。

(2)ウズベキスタンはアフガニスタン開発への関与を強化している。年末までに500kw時の高圧線をアフガニスタンとの国境まで敷設し、アフガニスタンへの電力供給を300メガワットまでにする構えだ。新設分の高圧線は全長197kmで、費用は1億3000万ドル。3分の2は自己資金、3分の1が外国からの融資だそうで、主としてイスラム銀行から借りるのだそうだ。
ウズベキスタンからはソ連がアムダリア河に架けた「友好の橋」を通って鉄道がアフガニスタン領内部8キロほどまで入り込んでいる。今度このハイラトンからアフガニスタン北部の首都マザリシャリフまでの75KMに鉄道を敷設することになり、このほどウズベク鉄道公社が落札した。アジア開発銀行が1億6500万ドルを融資し、アフガン政府が500万ドルを出す。年末までに契約を結んで、2011年には完成予定なのだそうだ。これが完成すれば、米軍、NATO軍の物資をアフガニスタンに搬入するのに便利だろう。

(3)9月25日、ミルジョエフ首相がウズベク中部のジザクにやってきて、知事代行マフムード・ホルブタエフを更迭し、新しい知事代行にサイフジン・イスマイロフ農業水利大臣を据えた(州議会の承認を得て)。ミルジョエフ首相はその足で更に南部のシルダリヤ州を訪問し、64歳のアブドゥラヒム・ジャラーロフ知事を引退させて、副知事オイベック・アシルメトフを知事に任命した。
普通、知事を更迭するときにはカリモフ大統領が乗り出すのだが、今回は首相だ。確か以前にも一度こういうことがあったが、珍しいことなので覚えておこう。カリモフ大統領は10月4日にはオマンを公式訪問しているので、病気ではないのだ。

(4)9月中旬ロシアのRIA-ノーボスチ通信によれば、ウズベク政府は150以上の非鉄金属鉱床を国際入札に出すかまえなのだそうだ。モリブデン、リチウム、ストロンチウムなどで、日本の企業も調べてみたらいいと思う。

(5)10月15日には、ウズベキスタンが「中央アジア電力網から離脱する」と声明して、大騒ぎになった 。ソ連時代からの送電網をそのまま受け継いだ中央アジア諸国は、互いの間の電力融通にこの送電網を使っているので、ウズベクが途中でこれを切ると、それができなくなるからだ。
で、ウズベク、キルギス、カザフ、タジクの代表が集まって話し合った結果、ウズベクは当面、電力網から離脱しないことになった(注:しかし11月にまた揺り戻しがある)。しかし一度リスクを見せつけられた以上、各国は電力供給における独立性を高めようとするだろう。

(6)11月初め、ウズベク石油ガス公社は、マレーシアのPetronas、南アのSasol Synfuelsと合弁で合成燃料工場建設に着手した。年間35億立米の天然ガスから67.2万トンの軽油、27.8万トンのケロシン、6万トンのLNGを生産するのだそうだ。マレーシア、南アの資本を引き込んだところが目新しい。特にマレーシアはウズベクと同じ穏健イスラムだし、イスラム金融の中心地だから、いいところに目を付けたものだと思う。


カザフスタン
政治面で大きな動きはない。経済では、銀行の財務状況は相変わらず悪いが、原油価格の上昇はカザフスタンの経済をそろそろ好転させるはずだ。だが、11月下旬ドバイの債務繰り延べで情勢はまた悪化するかもしれない。

(1)カザフスタンは、2010年OSCE議長国をつとめる。OSCEはヨーロッパ諸国と北米大陸諸国の集まりで、カザフスタンは「ウラル山脈以西にも領土を持つからヨーロッパの一員だ」という論理でOSCEにも入っているのだ。そして1昨年、アメリカなどで散々運動したあげく、議会に野党がいなかったり、大統領が終身だったりと、欧州の国としては異例の存在なのだが、来年の議長国に選ばれた。
だからこそ、カザフスタンは国威をかけて張り切っている。核廃絶で案を準備中だし、アフガン問題でNATO、CSTO、SCO(上海協力機構)をアスタナで一堂に集めて、反テロ協力などで合意することも考えているらしい。この顔ぶれでは日本もインドも加わらないが、アフガニスタンに合計で7000億ドル近くの援助をやろうとしているこの両国を除外するのはカザフ外交にしては片手落ちだろう。

(2)10月21日、ナザルバエフ大統領が国賓としてトルコを訪問し、戦略パートナー協定などの文書に署名した。トルコはカザフスタンの対欧州石油輸出の中継をしているし、新外相の下に対中央アジア外交を活発化させてもいる。両国の思惑がかみあった訪問だろう。両国間の貿易は07年19億ドルから、08年には28.8憶ドルに増えており、トルコの対カザフ投資は08年10億ドルにのぼり(これでも、ナザルバエフ大統領に言わせれば、「カザフでの外国直接投資は全部で250億ドルなのだから、10億ドルでは不十分だ」ということなのだが)、1400社が活動している。

(3)カザフスタンでは今年の小麦の作柄が記録的豊作で、価格が暴落している。農民は売るタイミングをまだ待っている。このまま売らずにいると、春に銀行から借りた播種資金を返せない。すると来春、播種資金を貸してもらえないという危険性が出てくるのだそうだ。

(4)ロシアの内幕に通じた評論家ラティニナ女史は10月19日付けノーヴァヤ・ガゼータ紙で、カザフスタンの利権とロシアの官憲の間の複雑な関係の一端をにおわせる記事を書いている。なんでも、ロシア連邦保安庁(KGBの後身)が、カザフスタンの実業家ムフタール・アブリャゾフに敵対するAltyn財閥(スーパー等を傘下に収める。ナザルバエフ大統領の女婿チムール・クリバエフが率いる)関連のロシア国内事業を摘発しようとしているのに対して、ロシア内務省はアブリャゾフ傘下のBTA銀行のロシア国内支店を摘発している、と言うのだ。
偶然なのか、ただの捜査なのか、あるいはロシアで良くある諜報機関と警察の間のライバル関係が対カザフ関係でも表れたものなのか、よくわからない。しかし国内の利権が共産党に集中していた旧社会主義国では、利権と政治は直結しがちだ。この動きもよくわからないが、ラティニナは意味のないことは普通書かない。

(5)カザフスタン石油部門への中国の進出は続く。中国政府の外貨準備を運用する「中国投資公司」は9月30日、カザフスタン石油・ガス公社のロンドン上場証券(GDR)のうち11%を9.4億ドルで取得した。これによりこの証券の価値は9.95%上昇した。

キルギス
10月は政府機構の大幅改造が大きな動きだったが、その本質はバキーエフ大統領の権力基盤の一層の強化にある。その中で目立ったことは、彼の息子のマクシムが、国内の経済を一手に握ると言われる新設、経済発展・投資庁の長官に抜擢されたこと(僅か32歳)、大統領府長官で寡占資本家のウセノフが首相に横滑りしたことで、2015年の大統領選挙に向けて種々下馬評が飛んだ。大統領の三選は禁じられているため、バキーエフ大統領は2015年の大統領選挙には出られないはずだからだが、中央アジアでは大統領は軒並み終身化の方向なので、バキーエフに健康問題でもなければ(糖尿病だとかいろいろ憶測が流されているが)意味のない下馬評だと思う。

(1)チュジーノフ首相(1961年生まれのロシア人。IT、天然ガスを担当したことあり)は10月14日、北京での上海協力機構首相会議に出席したあと、中国を公式訪問した。キルギス首相の中国訪問は14年ぶりなのだそうだ。

(2)ところが10月20日、バキーエフ大統領は大行革を発表するとともに首相をウセノフに代えて内閣を大幅改造する。「利権ばかり漁っている官僚を削って1.200万ドル浮かす」と言うから、日本の動きに影響されたのかもしれない。
 バキーエフは大統領府、国家安保会議を「大統領機構(Institute)」なるものに発展解消させた。そして外務省と諜報機関を内閣からは完全に外して、自分に直結させた(諜報機関の長は「大統領補佐官」の肩書となる)。自分の息子マクシム を、新設の経済発展・投資庁長官に抜擢して自分に直結させ、国防補佐官も設けた。国内の全ての登録を一括して管理する登録庁も設置して、情報面からの抑えも固めた。国家安全保障会議の代わりに、通称「大統領会議」が設けられて、重要な決定を行うことになる。

(3)首相になったウセノフは49歳。評判の悪い寡占資本家的な人物である。彼は90年代初め、酒類で財産を築き、アカーエフ大統領政権に追われてカザフスタンに逃げ、そこでも事業を展開した。彼は、アカーエフ大統領を倒した2005年の「チューリップ革命」に資金を出したと言われており、そのあと経済担当副首相として凱旋帰国している。ビシュケク市長のあと、09年1月から大統領府長官だった。
彼については、2015年大統領選挙の候補者になるとの下馬評が出始めた。中央アジアでは、つぶしたい政敵については「次期大統領の候補」だという下馬評を流し、現職大統領の怒りを誘ってつぶさせるというテクニックがある。下馬評をそのまま信じてはならない。

(4)10月6日、ナルイシキン・ロシア大統領府長官が突如来訪したが、その目的は今に至るも不明である 。
ロシアとキルギスは現在、2つの主要案件を抱えている。ひとつは、ロシアが「マナス空港から米軍を追い出したら」という暗黙の条件の下に与えたと言われる20億ドル融資の完全実行(まだ3億ドルしか渡していない)。これは、キルギスが言を左右したあげく結局、マナスに米軍の居座りを認めたことと、融資の目的であるカンバラト・ダム建設に隣国のウズベキスタンが強硬に反対している(綿花が大量に水を吸う夏季に、水がキルギスから十分流れてこなくなる)等の事情があって、うやむやになっているものだ。

もうひとつは、CSTOの即応展開軍用の基地を南部のオシュ州に作る件で、これは8月初めにメドベジェフとバキーエフが覚書に署名したのに進んでいない。11月1日には基地開設協定署名が行われるはずだったのが、キルギスがこれをキャンセルしたといううわさが後日出たことに鑑みると、ナルイシキンの来訪はこの融資未履行と基地開設問題のリンクをほぐすためのものだったかもしれない。
しかし10月6日周辺には次の動きもあり、ナルイシキンの来訪はこれと関係しているかもしれないのである。

①10月5日、サルバエフ外相が訪米した。マナス空港に6000万ドルの資金を得て第2滑走路を作る件について交渉を再開するために行った、との観測が流された。
②10月6日、キルギス議会外交委は仏西軍のマナス(トランジット・センター)使用協定案を承認した。9日仏西と最終交渉をして条件を確定した後、10月中旬本会議の了承を得る予定であったが、その後10月末ロイターズによれば、マナスのフランス・スペイン軍は既に協定が失効しており、フランスが少人数の兵士と給油機2機を残している他は撤退した、現在新たな提案をキルギス政府にしたばかりで、合意が成立すれば戻ってくるということなので、交渉が長引いているのだろう。

(5)10月末、モスクワのキルギス・マフィアの頭目として、ハサンおじさんことKamchi Kolybaevが選ばれたらしい。モスクワでは北西部を中心にキルギス人が多数分布する。面白いのは、当局に一網打尽にされるのを恐れて、「会議方式での携帯電話投票」で彼が選ばれたということだ。要するに、携帯電話で瞬時に世論調査、国民投票もできる時代になってきたということだ。


タジキスタン
10月下旬にはラフモン大統領がロシアを国賓として訪問したが、大きな成果は見られなかった。
タジキスタンの東部では時々「テロリスト」と政府軍の間の撃ち合いが報じられるが、これはアフガニスタンからの麻薬運搬その他の利権がらみが殆どであると見られ、ラフモン大統領も外遊を繰り返して平然としている。
9月30日には大統領二女オゾダが外務省の領事局長から外務次官に昇進しており、90年代末に内戦を収拾して以来、ラフモン大統領は今や強い権力基盤を築いたと言える。なお10月には内閣が改造され、そのあおりで在京大使も急きょ代わった。

(1)10月9日、ラフモン大統領はトルクメニスタンを公式訪問した。両者とも、同時期にキシニョーフで開かれていたNIS首脳会議をコケにしての会談だった。ラフモン大統領はトルクメニスタンの天然ガス、電力をタジキスタンに増配してもらいたかっただろうが、この面での合意は報道されていない。途中に存在しているウズベキスタンの態度がわからないのかもしれない。ウズベキスタンは、「タジキスタンが料金を払わない」という理由で、時々電気やガスを止めるからだ。
結局4件の協定に署名し、「経済貿易委員会」を設立したくらいで、この訪問は終わった。

(2)10月は、タジキスタンにソ連時代から駐留しているロシア軍第201師団の扱い、つまりロシアが基地使用料をタジキスタンに払うかどうかがクローズアップされた。9月23日、ロシアの「軍産クリエール」誌は、「201師団の基地使用料を払うよう、ロシアが求められているもよう。年間3億ドルの噂。これはタジクの国防費8800万ドルの3倍」と報じ、タジク国防省はこの観測を否定した。
 だが9月11日にはセルジュコフ・ロシア国防相が来訪しており、「201師団について」話し合った」他、軍事協力、タジク軍訓練の話もしている。10月下旬のラフモン大統領ロシア訪問を前にして、料金を払えという話は実際に出ていたのだろう。アメリカもロシアも、交渉上手の中央アジア諸国にかかってはかたなしで、タジクのロシア軍などタジク自身の対アフガン安全保障にとって不可欠だろうに、それでも金を請求されてしまうのだ。

(3)10月22日、ラフモン大統領はロシアを国賓として訪問した。メドベジェフ大統領は、「これは両国関係の頂点だ」として持ち上げた。
 この訪問では、ログン大水力発電所(地震頻発地帯に高さ300メートルのロック・フィル・ダムを作るもの)建設への融資と、前記201師団の地位問題が主要課題と見られていたが、201師団は条約期限の2014年までは無料で7000人駐留することが合意された。他方、ロシアはタジクに武器を供与する予定。
 なおタジク政府は本年夏、公式行事でのロシア語使用を禁ずる法を採択したが、ラフモン大統領はこの訪問で、「ロシア語は(タジキスタンにとって)世界への窓口だ。無料で存続できる」と述べた。ロシア語使用にも料金を課そうとしていたのだろうか?

(4)外国軍はいろいろ問題も起こす。9月中旬には201師団のロシア人兵士がタジク人タクシー運転手を殺害し、タジク側に逮捕されたらしい。地位協定によれば、ロシア政府から要請があればロシアに引き渡すのだが、その後の報道はないようだ。

(5)10月は、内閣改造も行われた(通常は1月なのだそうだが)。Bobozoda経済発展貿易相は在京大使に転出、その後任にはハムラリエフ投資・資産委員会議長が就任し、これまでのサイードフ在京大使は運輸・通信大臣に抜擢された。在京大使は重要なポストなのだ。

(6)首都ドシャンベの北、ソグド州にある「大Konimansur」銀・鉛・亜鉛鉱床は世界で有数のものらしい。1トンあたり49グラムの銀を包含する鉱石が、銀5万トン分眠っているという。開発費は20億ドルで、今般IFCをコンサルタントとして1年以内に入札の方向。


トルクメニスタン
12月中旬にベルディムハメドフ大統領が来日する予定だ。トルクメニスタンは4月、ロシアに天然ガス輸入を止められて以来、現在に至るも輸出を再開できないでいる。ガス輸出に財政収入の多くを負うこの国が、さしたるパニックにも陥らずにいるのは不思議なことだ(もしかすると小量が合意外で輸出されているのかもしれない)。12月中旬には中国への天然ガス輸出が始まるが、これは中国側の開発輸入のようで、トルクメン政府の収入にはならないものらしい。

(1)9月にベルディムハメドフ大統領がメドベジェフ・ロシア大統領に会い、対ロシア・ガス輸出再開の基本的合意ができたと報じられたのだが、おそらく価格など条件について折り合いがついておらず、ガス輸出が再開されたという報道はない。
今の契約のままでは、トルクメニスタンのガスをガスプロムが輸入して欧州に(ウクライナ向けが多い)転売すると、ガスプロムにとり1000立米あたり140~150ドルの逆ザヤになる由。ガスプロムが利益を上げるには、1000立米あたり280~300ドルという現行契約価格を100ドル程度に下げないといけないそうだ 。

(2)10月12日には、Deryaev石油ガス大臣が更迭された。表向きは仕事の効率が低いという理由だが、実際は天然ガス埋蔵量「ねつ造」の責任を問われたものと見られている。
トルクメニスタンはこの数年、中国をはじめ多くの国にガス輸入を持ちかけてきたが、これを全部足すとトルクメニスタンの現輸出量にほぼ等しくなるので、不思議に思われてきた。ところが今般、ヨロタンガス田入札にあたり、同じことを感じた西側企業がトルクメン政府関係者から賄賂で資料を手に入れ、英国のGaffney Cline and Associates社が一年ほど前トルクメン政府の委託で調査・発表した埋蔵量 が、実際より2,3倍水増しされたものであることを発見、メディアに言いふらしてしまったのだ。

(3)ベルディムハメドフ大統領は伸縮自在なのだそうだ。例えば10月9日の新聞でラフモン・タジキスタン大統領と並んだ写真では小柄だったのが、翌日の写真では同じ大きさに育っていた由。誰と並んでもその身長に合わせるのだそうだ。

(4)ベルディムハメドフ大統領は最近、2015年までには「外部からの侵害を防ぐために」カスピ海岸に海軍基地を建設し、高速哨戒艇、及び2隻のミサイル艦を購入したいと述べて、カスピ海底の資源をトルクメニスタンと争っている対岸のアゼルバイジャンを恐慌に陥れたが、9月24日の国連総会演説では、アシハバードで「中央アジア・カスピ海地域軍縮」の国際会議を行うことを提案し、米国の支持を一応得たとされる。

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