中国への過大評価、日本への過小評価を中和させれば
(これは東アジア共同体評議会のサイト「百家争鳴」に掲載したものです。http://www.ceac.jp/cgi/m-bbs/)
先週、「定点観測」で北京に行ってきた。ある日本専門家が日本の努力不足をなじるかのように、僕に言う。「河東さん。日本にとって中国は貿易相手ナンバーワンでしょうが、中国にとっての日本の地位はどんどん落ちているのです。日本は貿易相手としては米国、EUは言うに及ばず、近いうちにASEANにさえ抜かれてしまいますよ。」
僕は中国での日本の順位が落ちることが罪だとも何とも思わないが、一応反論をしておいた。「そりゃ、日本の対中投資が一段落したためもあるでしょう。これまで中国に移転した日本企業は機械設備を日本から大量に輸出してきましたが、それが一段落したんでしょう。ベトナムに投資するブームも始まっていますし。」
ベトナムへの投資ブームと聞いただけで相手が心配そうに眉を曇らせたので、僕はここでやめておいた。だが更に言おうと思っていたのは、こういうことだ。「ASEANと中国の間の貿易が増えているのは、むしろ喜ばしいことです。地域の安定と繁栄に貢献するでしょう。それに、ASEANと中国の間の貿易のかなりの部分は、実はASEANに出ている日本企業の対中輸出でもあるのです。広州などに立地した日本の自動車工場へ向けて、ASEAN、特にタイに立地した日本の自動車工場、部品企業から車台や部品の供給が始まっているのです。」
―――――僕は、ここらで日本社会のムードを少し長調に転調させたらいいと思う。これまでは日本はダメ、中国や韓国には追いつかれ、アメリカには見捨てられ、新聞には日本の大学生の知能はチンパンジーの子にも劣るなどと書かれ、僕の教えている学生も意気が上がらない。しかし世界には少し潮流が変化する兆しが見られる。たとえばカーネギー財団のアルバート・ケイデルという専門家は11月のフィナンシャル・タイムズに、中国経済はこれまで思われてきたより40%は小さいと考えなければならないと述べ、それは我々が中国に行ってみて受ける実感と合っているし、これまで日本のODAや資本進出が契機となってアジアで創出されている付加価値の総額を算出してみたら、大変なものだろう。別にそれを日本に返せというのではなく、日本はもっと自信をもってアジアの安定と繁栄確保に向けて発言をしていけばいい。
円が低いために、日本の経済力は過小評価されている。外国人にとって日本は、今や最も滞在費の安い先進国の一つとなっただろう。なぜ円が低いかといえば、不況時代の低金利を引きずっているからだ。なぜ上げないのかと言えば、今上げればドルの暴落を誘発しかねないからだ。外国投資家がジャパン・パシングするから株価が伸びないなどと嘆いているが、日本に投資しても儲かりにくい構造を自分たちで作っておいて、そして自分たちでは日本株にろくに投資もしないでおいて、外国投資家にこれを買わせようとするのは、虫の良すぎる話ではないか。
他方、中国はバブルでインフレだから、元は本来下がってもいいのだが、輸出が伸びているので上がっている。だが中国の経済成長を支えてきた建設と輸出には当然絶対量の天井があるだろう。これからは消費と生産投資を増やさないと、成長は止まる。モスクワやロンドンは、ホテル一泊が600ドルという異常な世界になっているが、これはオイル・マネーの流入でインフレと自国通貨レートの上昇が同時に起こる奇妙な現象に見舞われているせいだろう。
オイル・マネーが為替レートや世界的な価格体系をすっかり歪めてしまったが、油価上昇は製品価格の上昇に転嫁され、世界の価格体系は再調整されるだろう。産油国への過度の所得移転も減少する。この数年、日本は異常に増殖した金融資本に翻弄されてきたが、オイル・マネーがしぼめば金融資本もおとなしくなって、製造業を持っているメリットがまた発揮される時がやってくる・・・かもしれない。
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