中央アジア情勢メモ 09 5
5月周辺の中央アジア情勢
概要
注目される点を列挙する。
1.ウズベキスタン
(1)5月中旬、李明博・韓国大統領がウズベキスタン、カザフスタンを公式訪問した。ノムヒョン前大統領に次ぐ韓国大統領二度目の中央アジア歴訪だ。中央アジアには、日本統治を嫌ってソ連領に逃げたあげく、今度はスターリンに疑われて南に移住させられてしまった朝鮮系市民が数十万人いるし、中央アジア全体で5000万人の人口は立派な市場となる。またロシア、中国の裏庭に位置しているので、ここに地歩を確保しておくとロシア、中国に対しても有効な外交カードになる。
日本も2006年小泉総理がウズベキスタン、カザフスタンを歴訪したところまでは何とか前向きの外交を展開していたが、そのあとは韓国に抜かれてしまった。
(2)26日ウズベキスタン東部、キルギスとの国境ハナバードで夜間、国境の警察哨所が襲撃を受けた。パキスタンの部族地帯に隠れていた中央アジアのテロ分子が、パキスタン軍、米軍による掃討作戦を逃れてアフガニスタン北部を経由、タジキスタンに戻りつつあるようだ。だがウズベキスタンの情勢は全く落ち着いており、事件直後カリモフ大統領は予定通り、ブラジル公式訪問へと出発した。
2.カザフスタン
(1)カザフスタンは4月、ロシアのガスプロムからのオファーを振り切って、国内油田の利権を中国に売却した。6月上海協力機構首脳会議では次期事務局長にキルギス元外相が選ばれたが、彼は親中と目されており、中央アジアへの中国の浸透は続いている。
(2)カザフスタン経済は00年代、石油輸出で5倍に急成長したが、最近は不振を続けている。油価が好調な頃、西欧で短期資金を借り過ぎ、今やその借り換えができずに返済のための資金繰りに苦しみ、国内は金づまりになっているためだ。
1~5月、国家歳入は計画の93%しか達成できていない。これでも以前の石油収入から積み立てた国民基金を取り崩したから7%のマイナスですんだので、これがなければ計画の85%しか達成できなかっただろう由。第1四半期、実質GDPは2%下がり、失業率は6.7%から7%に上がっている。企業の利益はインフレで完全に相殺されている。
(3)日本にとって5月最大のニュースは、カズアトムプロム(原子力公社)のジャキーシェフ社長および3名の副社長が、日本との合弁子会社の幹部2名と共に横領罪で逮捕されたことだろう。カザフスタンはウラン埋蔵量では世界2位で、日本の東芝がウラン鉱石・初期加工について多額の投資を既にしている。日本の企業にしては動きが素早かったが、利権の奪い合いの中に巻き込まれることになった。
3.キルギス
キルギスは8月の大統領選に向けて、すべての情勢が推移している。マナス空軍基地から米軍を「追い出す」件については、大統領選周辺で決着がつくのだろう。
他方キルギスは5月、IMFから2550万ドルの融資を受ける(18ヵ月)ことが決まった。これでキルギスはIMFから、計5100万ドルの救済融資を受けることになる。
4.タジキスタン
タジキスタンでは、いまどきの世界で珍しいことにドル・レートが急上昇している。5月には通貨ソモニがドルに対して6.39%、ユーロに対して6.73%下がった。金利が10%から2%に下げられたことも原因になっているが、基本的にはロシアに出稼ぎに出ているタジク人からの送金が急減するとともに外貨源のアルミニウム、綿花の国際価格が下落し、輸出先のロシア、カザフスタンでその通貨ルーブル、テンゲが下落を続けたことがあるだろう。
5.トルクメニスタン
ロシアのガスプロムがトルクメニスタンの天然ガス買い取りをほとんどやめたことで、両国の関係は引き続き冷えたままだ。ロシアが急に引き取りをやめたため圧力が上がって4月8日に爆発したパイプラインは、5月30日に修復が完了した。ガス井のうち195が止められており、ロシアへの輸出量はロイターによればこれまでの8%になっている。
もっとも3月には、ロシアがイランと協定を結び、トルクメニスタンのガスを高値で買い上げ、北イランに輸出、その代わりイランの南Parsガス田(世界埋蔵量の8%)のガス供給下流への参入権を得ることになったとの報道もあったから、この世界、裏では何が行われているかわからない。
6.EUプラス中央アジア外相会議
5月末ドシャンベで、中央アジア諸国とEUトロイカ(現議長、前議長、次期議長国のチェコ、フランス、スウェーデン)の外相会議が開かれ、これまでの援助のレヴューなどを行った。EUプラス中央アジア外相会議は、04年9月の中央アジア・プラス日本外相会議のあとに始まったものだが、日本を抜いて早3回目を行った。総理や内閣が代わってばかりいる上に、外相を国会審議にしばりつける日本の習わしのために、日本外交 は方々で後れをとっている。「外交を担当する外務大臣」をもう一人設けてはどうかとさえ思う。
7.集団安全保障条約機構(CSTO)
CSTOの首脳会議が6月中旬モスクワで開かれる予定になっており、それにめがけてCSTOの「即応展開軍」を強化する動きをロシアが強めた。統合司令部をロシアにおいて各国部隊を一元的に管理しようとしているのだ。
だが、この強化にはウズベキスタンとベラルーシが抵抗している。ベラルーシはIMF融資を受けたあたりから西側に傾斜しつつあり、ロシアとの関係が悪化している。ウズベキスタンは、①「即応展開軍」の展開にあたっては加盟国のコンセンサスが得られること、②加盟国間の紛争に使わないこと等、ごく妥当な条件を主張している。NATOなら当たり前のことであり、ロシアがこれを無視して突っ走るのなら、自らが批判しているNATOに劣ることになる。CSTOの加盟国であるアルメニアは、アゼルバイジャン(加盟国ではない)との係争地であるナゴルノ・カラバフにこの即応展開軍を用いたいのかもしれないが、ウズベキスタンはまさにこれを心配しているようだ。
8.世界銀行、中央アジアへの取り組みを強化
世界銀行のゼーリック総裁が、中央アジアへの取り組みを強めている。アフガニスタンでの反テロ闘争を側面支援するためだろう。彼は、日本人の勝副総裁を頻繁に歴訪させ、4月にも彼はウズベキスタンでカリモフ大統領に会っている。世銀は中央アジア諸国間で係争の的となっている、水資源の問題についても貢献を進めたいようだ。
ウズベキスタン
★ナヴォイ空港とNATOの非軍事物資運輸
11日、李明博・韓国大統領がウズベキスタンを公式訪問したが、その際カリモフ大統領は、「ナヴォイが(韓国の2億ドル支援で)改修され、NATOの非軍事物質を処理できるようになった」と述べた。2005年米軍がウズベキスタンのハナバード基地から撤退して以来、北方からのアフガニスタンへの空輸は主としてキルギスのマナス基地を通じてのものとなっていた。キルギスは米国が「十分払っていない。それにアフガニスタン情勢はもう落ち着いた」として追い立てる姿勢を見せているため、ナヴォイが使えるようになったのは大きい。
ただ2005年以来米国とウズベキスタンの関係は冷え切っていたので、ナヴォイ空港は米軍が使うのではなく商業空港として機能するだけだと、米国は強調している。ナヴォイまで空輸されたものは、ここから陸路でアフガニスタンへ運ばれる。毎日3000トン処理できる。アフガニスタンに入る鉄道は、途中の山間地帯の部分に日本の円借款で鉄橋を建設中であり、夏にはこれが完成する。
これで、ウズベキスタンは再びアフガニスタンへの運輸路として貢献することになった。2001年にはハナバード空軍基地貸与で対米期待が高まったが、今回はウズベキスタンも大人になり、ロシア、米国の間でそれほど急激な立場の変更は見せていない。6月3日にはカリモフ大統領がノーランド米国大使と会談し、安保問題、経済、人道問題を話し合った。米大使館によれば、「ナヴォイ空港を商業的に使用することと鉄道等で非軍事物資を運搬することに合意」した由。カリモフ大統領が特定の外国大使を呼びつけ、それを大々的に報道させるのは、その国との関係が良いことを示すものである。他方、ロシアとの間ではムハメトシン大使が離任して以来、すでに半年以上大使が任命されていない。
★26日未明、アンディジャン州ハナバード(米軍が使っていたハナバード空軍基地とは全く違う同名の場所)の国境哨所が何者かに襲撃された。死者は出なかった。26日昼にはアンディジャン市で自爆があり、警官1名が巻き添えで死亡した。「イスラム・ジハド」という団体が犯行声明を出した。検察は、犯人は5~20人でキルギスから来たとし、国境は閉鎖された。アフガニスタンの部族地域に隠れていたウズベキスタン・イスラム解放戦線の連中が、右地域でパキスタン軍、アメリカ軍との戦闘が激化したのを避けてアフガニスタン北部に移動しつつあるようで、その一部はタジキスタンからキルギスを通って今回アンディジャンに現れたのかもしれない。
実際、5月15日にタジク政府は「芥子2009」作戦を開始している。「(ドシャンベから150kmの)Rashtsk渓谷でケシを栽培しているのを撲滅する」名目だが、実際は90年代のタジク内戦時代の野戦司令官アブドル・ラヒモフ(Mullo Abdullo)がパキスタンから逃げ帰ってきたのに対処するためのものだったと報道は伝えている。2000年8月にも約700人のテロ分子がタジクからキルギスへ侵入し、ウズベクの首都タシケントから70kmのところで戦闘を繰り広げており、今回アンディジャンでの事件はこれを想起させる。
但し2005年5月のアンディジャン事件に比べて規模は小さく、カリモフ大統領は直後に予定通りブラジル公式訪問に出発した。立派な決断だったと思う。
カザフスタン
★4月17日、中国を公式訪問中のナザルバエフ大統領は、中国輸銀からの融資契約(報道は50億ドルとも100億ドルともあり、混乱している)に署名した。これは中国のCNPC社がインドネシアの「中央アジア石油」社から、同社とカザフ石油ガス公社の間の合弁マンギスタウムナイガス社の株50%を取得するための費用を含むようだ。マンギスタウは月に47万トンの石油を産出し、カザフスタンで5指に入る由。中国輸銀からの融資のうち14億ドルが株購入に、残りがパイプライン建設に使われる。カザフ国内では「中国に売るとは」との声も出た由だが、この案件に手をあげていたロシアのガスプロム系石油企業は無視された。中国の方がいい条件を提示したのだろう。
★カザフスタン・ウラン公社社長の逮捕
日本にとって5月最大のニュースは、カズアトムプロムのジャキーシェフ社長および3名の副社長が、日本との合弁子会社の幹部2名と共に横領罪で逮捕されたことだろう。カザフスタンはウラン埋蔵量では世界2位で、日本の東芝がウラン鉱石・初期加工について多額の投資を既にしているからだ。日本の企業にしては動きが素早かったが、利権の奪い合いの中に巻き込まれることになった。
カザフスタンの国会議員達は、ジャキーシェフが「国の富を安く売り渡した」と口を極めて非難しているが、ウラン価格がまだ低かった2005年、ジャキーシェフが苦労して顧客を見つけてきたのだし、東芝との成約にはナザルバエフ大統領の承認も得ていたのである。
ジャキーシェフの後任に任命されたのは元産業貿易相シコリニク・ウラジーミルで、一部報道では内閣改造でシコリニクの行き場がなくなっていたため、野党政治家アブリャゾフに近付き過ぎていたジェキーシェフが犠牲になったものとの観測が行われている。6月初め国家安保委(KNB)はジャキーシェフ捜査結果を公表したが、その中には300万ドルの裏金を作っていたなどの言葉も見えるが、日本企業への言及は全くないようだ。
★5月12日には李明博・韓国大統領がカザフスタンを公式訪問した。ウズベキスタンなどを歴訪しているもので、ノムヒョン前大統領に次ぐ韓国大統領二度目の中央アジア歴訪だ。中央アジアには、日本統治を嫌ってソ連領に逃げたあげく、今度はスターリンに疑われて南に移住させられてしまった朝鮮系市民が多数いるし、中央アジア全体で5000万人の人口は立派な市場となる。またロシア、中国の裏庭に位置しているので、ここに地歩を確保しておくとロシア、中国に対しても有効な外交カードになる。
日本も2006年小泉総理がウズベキスタン、カザフスタンを歴訪したところまでは何とか前向きの外交を展開していたが、そのあとは韓国に抜かれてしまった。貿易額でも直接投資額でも、日本は韓国のはるか後塵を拝している。
★経済不振続く
石油価格は上昇しているが、輸出数量はあまり増大しないため、カザフスタンの経済は不振を続けている。その基本的背景は、油価が好調な頃、西欧で短期資金を借り過ぎ、今やその借り換えができずに返済のための資金繰りに苦しみ、国内は金づまりになっているところにある。
1~5月、国家歳入は計画の93%しか達成できていない。これでも以前の石油収入から積み立てた国民基金を取り崩したから7%のマイナスですんだので、これがなければ計画の85%しか達成できなかっただろう由。第1四半期、実質GDPは2%下がり、失業率は6.7%から7%に上がっている。企業の利益はインフレで完全に相殺されている。
16~17日ロンドンで商業銀負債のリスケについて交渉予定とのニュースもあったが、実際に行われたどうかは不明。
キルギス
★マナス空軍基地から米軍は撤退、あるいは居残り?
マナス空軍基地をめぐるどたばた劇が続いた。ロシアの独立新聞は、「米国は3000万ドルでマナスを近代化すると言い、ODAを2500万ドルから4150万ドルに上げると言っては、キルギス政府をつろうとしている」と報じた。
他方ロシアは、マナスに近いカント基地の使用権をこれまでの15年(5年自動延長)から49年(25年自動延長)に伸ばした。
★5月、IMF理事会はキルギスへの2550万ドル融資供与(18ヵ月)を承認した。これでキルギスはIMFから、計5100万ドルの救済融資を受けることになる。
タジキスタン
★通貨ソモニの急落とインフレ激化
ソモニが5月の間にドルに対して6.39%、ユーロに対して6.73%下がった。タジキスタンは、アメリカ金融危機の中でドルが上がる稀な国になった。金利が10%から2%に下げられたことも原因になっているが、基本的にはロシアに出稼ぎに出ているタジク人からの送金が急減するとともに外貨源のアルミニウム、綿花国際価格が下落し、輸出先のロシア、カザフスタンでその通貨ルーブル、テンゲが下落を続けたことがあるだろう。
★経済困難の中で、一部マスコミはロシアを悪者にしたてようとしている。ロシアに出稼ぎに行っているタジク人が人種差別の対象となって殺されていること、タジクに今でも駐留するロシアの201師団が料金も払っていないこと、「ロシアは他の旧ソ連共和国は助けているのに」といった声などである。
★4月下旬には首都ドシャンベ南50kmで上海協力機構主宰の共同演習があり、ロシア、中国、カザフ、タジク、キルギスから1000名が参加した。ウズベクは「別の用があるから」として参加しなかった。アルカイダが侵入して化学工場を占拠し、労働者を人質にとった想定で行われた対テロ演習だったが、ロイターによればタジク兵は生きたウサギを歯と手で引き裂き、ヘビの頭を食いちぎる実演をしてみせた由。ひどいと思うかもしれないが、日本の陸上自衛隊でも山中でのサバイバル訓練をする時は、このくらいのことはやっているはずだ。
トルクメニスタン
★ロシアのガスプロムがトルクメニスタンの天然ガス買い取りをほとんどやめたことで、関係は引き続き冷えたままだ。ロシアが急に引き取りをやめたため圧力が上がって4月8日に爆発したパイプラインは、5月30日に修復が完了した。ガス井のうち195が止められており、ロシアへの輸出量はロイターによればこれまでの8%になっている。
6月初めにはロシアの衛星が停止し、ロシアの衛星テレビも見られなくなってしまった。地上波では見られるのかもしれないが。
北東部のガス田からカスピ海沿岸への「東西」パイプライン建設案件発注が、ガスプロムとの間で問題になっている。これは建設費が10~30億ドルかかり、年間300億立米のガスを運べるものだ。ガスプロムは08年にこれを受注したと主張しているが、トルクメン側は公開入札を主張し、6月末までに入札を行うことになっている。
もっとも3月には、ロシアがイランと協定を結び、トルクメニスタンのガスを高値で買い上げ、北イランに輸出、その代わりイランの南Parsガス田(世界埋蔵量の8%)のガス供給下流への参入権を得ることになったとの報道もあったから、この世界、裏では何が行われているかわからない。
モンゴル
★旧ソ連の一部ではないが、地政的にはモンゴルも中央アジアとの関連で見ていく必要がある。5月プーチン首相がモンゴルを公式訪問し、鉄道、原子力、石炭の分野での協力などについて署名を行った。モンゴルは鉱産資源が豊かな国であり、ソ連時代からロシアは利権を有している。
★だが5月24日、モンゴルでは大統領選があり、米国留学の経験があり親米と見なされるエルベグドルジ候補が新大統領に選ばれた。彼は、ロシアとの資源開発案件については条件を再交渉することを示唆している。彼は00~02年米国に留学し、04~06年には首相としてイラク、コソヴォへの兵派遣、そしてブッシュ大統領の来訪を実現した。当時、学校ではロシア語の代わりに英語教育が義務化されている。他方、現在のサンジイン・バヤル首相は01~05年在ロシア大使を務めており、親露と見られている。Tavan-Tolgoi炭田、Oyuu-Tolgoi金銅鉱山開発権をロシアに売却している。前者は中国領から80kmの南部にあって埋蔵量50~60億トンあるとみられ、40%は原料炭の由。ロシア鉄道公社、Rio Tinto、カナダのIvanhor Minesも参入を検討しているそうだ。
天然ガス
欧州諸国はロシア、中央アジアの天然ガス、石油に大きく依存しているが、少なくとも中央アジア産のものについては、ロシア領を経ずに輸入したいと考えている。そのため、天然ガスについては「ナブッコ」パイプラインなるものをトルコなどを経由して欧州に敷こうと画策し、ロシアが推進するSouth Streamパイプライン構想(黒海海底経由)と対抗している。
5月8日プラハでナブッコ・パイプライン建設促進のための会議が開かれたが、この共同声明にカザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンは署名しなかった。そしてその直後、カザフスタンのナザルバエフ大統領はカスピ東岸パイプライン増設協定の批准書に署名してしまった。これはナブッコにも理論的には使うことはできるが、基本的には中央アジアの天然ガスをロシアに運搬するためのものである。カザフスタンはつい最近までトルクメニスタンのガスをロシアに中継して、百キロメートル毎に千立米当たり1.85ドルを得ており、ナブッコによってこれを大きく失うことは好ましくないと考えているのかもしれない。
欧米にとってみれば、十分に民主的とも言えないカザフスタンが2000年OSCEの議長国を務めるのを認めてやったのに、この仕打ちは何だというところだろう。
EUプラス中央アジア外相会議
5月末ドシャンベで、中央アジア諸国とEUトロイカ(現議長、前議長、次期議長国のチェコ、フランス、スウェーデン)の外相会議が開かれ、これまでの援助のレヴューなどを行った。EUプラス中央アジア外相会議は、04年9月の中央アジア・プラス日本外相会議のあとに始まったものだが、日本を抜いて早3回目を行った。総理や内閣が代わってばかりいる上に、外相を国会審議にしばりつける日本の習わしのために、日本外交は方々で後れをとっている。「外交を担当する外務大臣」をもう一人設けてはどうかとさえ思う。
集団安全保障条約機構(CSTO)
★CSTOの首脳会議が6月中旬モスクワで開かれる予定になっており、それにめがけてCSTOの「即応展開軍」を整備する動きをロシアが強めた。これまでも、加盟国の軍の一部が「即応展開軍」の一部と名付けられているのだが、ロシアは中央司令部をロシアにおいて各国部隊を一元的に管理しようとしているのだ。戦車、砲兵、カスピ海軍も入れ、1万~2万人の兵力を考えている。ロシアは8千人の空挺師団を出すつもりだ。
だが、この強化にはウズベキスタンとベラルーシが抵抗している。ベラルーシはIMF融資を受けたあたりから西側に傾斜しつつあり、ロシアとの関係が悪化している。ウズベキスタンは、①「即応展開軍」の展開にあたっては加盟国のコンセンサスが得られること、②各国は自国国内法の範囲内で参加すること、③加盟国間の紛争に使わないこと、④各国批准後発効すること、というごく当たり前の条件を主張している。NATOなら当たり前のことであり、ロシアがこれを無視して突っ走るのなら、自らが批判しているNATOに劣ることになる。
CSTOの加盟国であるアルメニアは、アゼルバイジャンとの係争地であるナゴルノ・カラバフにこの即応展開軍を用いたいのかもしれない。アゼルバイジャンはCSTOの加盟国ではないからだ。ところが、ウズベキスタンはまさにこれを心配しているのだ。
世界銀行
★世界銀行のゼーリック総裁が、中央アジアへの取り組みを強めているようだ。アフガニスタンでの反テロ闘争を側面支援するためだろう。彼は、日本人の勝副総裁を頻繁に歴訪させ、4月にも彼はウズベキスタンでカリモフ大統領に会っている。この会談を受けてゼーリック総裁は、ウズベキスタンとタジキスタンの間で係争となっている「ログーン・ダム」建設にからむ水資源調査を、世銀専門官による委員会を作ってやる用意があると、カリモフ大統領に回答した由。ログーン・ダムとはタジキスタンがソ連の時代から建設したがっている300メートルの高さのロック・フィル・ダムで、完成すればその電気でアルミニウム精錬を大幅に増やすことができる他、アフガニスタンにも電気を送ることができる。しかしウズベキスタンは、冬季発電のために大量放水されると夏季の綿花栽培に必要な水がなくなるとして、これに後ろ向きだった。「世銀のような国際機関のお墨付きがあれば、ウズベクもログーンに投資してもいいくらいだ」とカリモフ大統領は記者会見で言ったが、それはある程度本当らしく、世銀の態度を受けてか、ウズベキスタンは最近タジキスタンへの態度をめっきり軟化させている。
その他
★5月末、ムシャラフ・パキスタン前大統領が私人として訪ロした。私人としては厚遇され、彼はロシア側に3路線の鉄道建設を提案したと報じられている。それは①ウズベキスタンのテルメスからアフガニスタンを通ってパキスタンのペシャワルへ、②キルギス南部のオシュからタジキスタン、アフガニスタンを通ってパキスタンのイスラマバドへ、③パキスタンのカラコルム・ハイウェー沿いに中国新疆地方のカシュガル、ウルムチまでの3路線。これらが実現すれば、ロシア、中国、中央アジアはパキスタンの港グワダル、カラチへの鉄路を手に入れることになる。グワダルでは中国が港湾設備の整備を進めており、すでに道路では新疆地方に達することができる。
パキスタンと言えば以前から中国寄りのはずだが、それがロシアに新疆地方への鉄道建設を提案するなど解せない話だ。①についてはアジア開発銀行も路線の一部についてFSを開始している。①、②については、ロシア鉄道公社がウズベキスタン、キルギス、タジキスタン当局とは以前から緊密な協力関係にあるので、不可能な話ではない。しかし一体なんでムシャラフが急にロシアを訪問してこのような話をしたのかはわからない。鉄道建設を提案。グワダル、カラチに中央アジアから出られることになる。
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