世界不況のあおりを食ったロシア3 経済
昨年の秋からロシア経済は、危機一色だ。原油価格高騰であれだけの栄華を誇り、「アメリカ一極主義」を口を極めて罵っていたのが、わずか半年ですっかりおとなしくなってしまった。オバマ政権が登場して拳を振り上げる相手が消えてしまったことも一因だが、何と言っても自分が資源モノカルチャーの経済でしかなく、結局は米国景気の回復がなければ自国経済も浮かばれないことを思い知らされたことが原因だ。
危機の諸様相
そのショックは一時大きかった。「全ての資金源が一度にとまったことはこれまでで初めて」だったという者もいる。これは、次のようなことを意味した。
①原油価格急落による外貨収入の低下
②政府税収の大幅低下(一時は5分の一に減少したという者もいた。瞬間的にそうなった時もあるだろう)
③サブプライム問題で西欧で金詰りが生じ、ロシア企業による起債が不可能になった。
それによってこれまで西欧から借りた累積額約5.000億ドルの外債を返済するための借り換えができなくなり、返済義務だけが残った。(2009年は元利合わせて約1.000~1.400億ドルの返済義務が生ずる由)
④こうした状況下、民間銀行は融資を停止し、ロシア国内でも金詰りの状況が生じて実体経済の数字を下げた。1月の製造業生産は対前年同期比の実に4分の1に下がり、自動車販売は3分の1分減少した。
(なお不良債権の規模については、1月にグレフ・ズベル銀行総裁が「不良債権は年末には銀行資産の10%に達するだろう」と述べているのが参考になる。中銀予測では平均4.5%の由)
⑤昨年秋政府は計260億ドルの公的資金を3大銀行に供与し、金詰りを解消しようとしたものの、ルーブルが昨年8月以来で計40%もの下落を続ける中、3大銀行は公的資金の価値を保全するためドルに投資し、ルーブル下落を更に速めただけでなく、金詰まりは一向に解消されなかった。
⑥企業が運転資金に欠くようになり、賃金遅配が広がった。ロシアでは労働人口の3分の1は政府予算から賃金を得ていることを考慮するべきである。
(こうした苦境のため、ルーブルを近々200%程切り下げ、外貨準備をルーブルに替えることによって予算収入を膨らませるべきだとする専門家もいた。98年8月にはルーブルが400%下落したが、食料品価格は40%しか上がらなかったことが、その根拠になっている。しかし98年に比べると輸入食料品の比率は上がっているので、200%も切り下げればインフレはひどいものになろう。また外債返済額は2倍にはねあがる)
⑦インフレが亢進した。
その主因については電気、ガス、水道、交通費等公共価格引き上げ、そして食品価格上昇であるとする者がいた。食品の50%以上は輸入に依存している他、国内ガソリン価格上昇等のために農産物生産原価も上昇している。生活実感では、食品は年間25%は値上がりしている由。
他方、プーチン大統領末期の財政支出の異常な拡大(年間で40%増)がインフレの主因だとする専門家もいた。
⑧ルーブルが下落すれば輸入代替産業が伸びることが期待されているが(98年8月金融危機の際も、半年もたたないうちに食品、アパレル等の輸入代替産業が台頭した)、現在は必要な機械を西側から購入するための資金がない。また98年に比し国民は西側からの輸入品に慣れており、品質への要求度が高い。
⑨これらの状況の中で、経済発展省は2月中旬、本年GDP成長率見通しをマイナス0.2%%からマイナス2.2%に更に引き下げた。
⑩クドリン財務相は1月末、「09年の政府歳入は対昨年40%減少、つまり4.4兆ルーブル分減少する。2010年~11年には対外借り入れが必要になるだろう」と述べた。同人は2月26日付コメルサント紙に対しては、「2009年の政府歳入は、昨年11月に採択された予算案の42%になるだろう」と述べている。
なお大統領府のドヴォルコヴィチ補佐官は1月、「財政赤字はGDPの8%以内に収めたい」と述べている。
⑪民間調査機関「発展センター」の資料によれば、1月の税収・関税収入は名目値で昨年同期比33%程度減少した由。ルーブル・レートの下落とインフレを勘案すると、実質では昨年の収入の34%程度に急落したことになる。
ところが1月は実質的に暫定予算の状態であったため(昨年末に採択した予算案は危機前の数字に基づくもので、その後改定された)最低限の支出しか行われず、その結果3.600億ルーブルの黒字となってた。
⑫こうした状況の中で、一部識者のあいだには戦争が商品市況を上げることを期待する向きもあるが、オバマ政権になってからはイランをめぐる戦争の可能性は当面消えている。ロシア自身が戦争を始めると、商品市況はあまりあがらず、ルーブル下落を招くだけだろう。
⑬解雇、給料削減も広がった。アカデミー会員でも40%の給料削減を受けた由であるが、ロシアの給料には表向きのものと裏の給料の双方があり、削減されたのは年金税算出のもととなる前者の方であろう。
今のところ、真っ先に解雇されたのは生産性の低い縁故採用者の類で、彼らが昼でもたむろしていた飲食店の類はがらがらになった由。ソ連時代から、企業には余剰人員が多かった。
そのためか、2月のレヴァダ基金調査によれば、国民が最も懸念しているのはインフレであり(国民の41%)、職を心配しているのは27%である由。
⑭ロシアの外貨準備は1月末現在4.000億ドルほどあったが、うち1.300億ドル分ほどは「予備基金」と呼ばれ、石油収入が急減した場合の財政補填に使うことになっている。また更に750億ドル分ほどは「国民福祉基金」と呼ばれ、ハイリスク・ハイリターンの投資で稼ぐことになっている。
一部専門家の言では、これまでの救済措置にこの予備基金のうちかなりが使われてしまい、一層の救済措置を行う財源が乏しくなってきているという。
そこで政府には、本来の外貨準備をインフラ建設も含めて様々な目的に流用せんとの動きがあるのだそうだ。そして、外貨建ての政府債券を発行しようとのアイデアも検討されている。もっとも現在の西欧では起債条件は高すぎるので、当局筋は「時期が適当ではない」と公にコメントしている。
とまあ、つい1月くらい前の経済困難の諸様相はこんなところだ。
ところが2月中旬にはルーブルの下落は止まり、銀行融資は徐々に再開し、株価も上昇に転じた。これをもって「ロシア経済は底を打った」と評する専門家さえ出始めた。
で、そのことについてはまた次に。
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