ロシア文化は今どうなっているのか? 日本との文化交流は?
世界との文化交流を担当している独立行政法人「国際交流基金」をご存知の方は多いと思いますが、この法人は「遠近」(おちこち)という季刊誌を発行しています。どれも肩の凝らない話ばかりで、世界のいろいろな所の生活感覚がわかる便利な雑誌です。
その4月号がロシア文化、ロシアとの文化交流特集になっています。ロシア文化というといつも、トルストイとかボリショイ劇場ばかり語られますが、この特集はロシアの現在の文化状況をロシア人の生活感覚の中でとらえ、ロシアについてのステレオタイプを破る、珍しいものだと思います。中でも白眉は、ロシア人の文化生活を日本に居ながらにして味わえる、ロシア語を知らなくても味わえる、インターネット・ホームページのリンク集でしょう。
私も、NHKのロシア語番組で有名な沼野恭子先生と(ロシア文学を平易で美しい日本語に翻訳されている、ロシア文学専門家)、これまでモスクワの日本大使館で文化交流を担当していた日下部陽介・国際交流基金職員との鼎談で参加しております。(今から15年前、モスクワの大使館で広報文化センター所長をしておりましたし、98年から02年までは公使としてモスクワの文化界にも出入りしておりましたから)
著作権の関係で、全文を転載できませんが、私の発言の一部を下に貼り付けました。
「遠近」の全貌を調べたい方、購入されたい方は下のアドレスをクリックして下さい(私は「遠近」のエージェントではありませんが)。
http://www.jpf.go.jp/j/publish_j/wochikochi/016.html
先週は上海とその近郊を歩いてきましたので、数日中にその印象をお送りします。
(以下鼎談抜粋)
河東◎そうですね。大学の先生も日本と同じく、インターネットの情報をつなぎ合わせただけの学生の論文に手を焼いています。でもインターネットには、日本にいながらにしてロシアの雰囲気が味わえるサイトもたくさんあります。なかには英語のものもあるし、ロシア語がわからなくても写真や音楽を自由に見たり、聞いたりできます。ロシアのポップ音楽とか、ギターを弾きながら詩を歌うバルド(シンガーソングライター)のサイトなど、さまざまです。
また、若者文化が非常に自由なものとなり、日本とあまり変わらなくなってきています。ウラル地方に住んでいながら、自分の性生活を如実に書いたブログが評判になって人気作家になった若い女性がいたりして、若者の世界は屈託がなく、ものすごく活気のある社会になっていますね。
河東◎200人も入らないような小さな劇場でオペラ『アイーダ』を上演していたりします。ロシア文化はボリショイ劇場だけじゃないということですね。美術館では、室内楽の演奏会をよくやっています。また、質の高い小劇場が無数にあり、バルド(フランスのシャンソニエに似たギターの弾き語り)の演奏を聴かせるライブバーもいくつかあります。ロシアでは、詩の朗読が古くからの伝統ですが、ソ連崩壊の混乱期にはほとんど開かれなかったのが今では復活しています。
新しいものでは、何といってもミュージカルがいいですね。ブロードウェー・ミュージカルの翻訳が多いものの、ロシア語の響きは英語よりもきれいで、音楽に乗りやすいようです。しかも伝統的に音楽や舞踊の教育水準が高いので、パフォーマンスの質も高い。
印象的なのは、劇場はいまやまったく中産階級の世界になっていることです。駐車場には、ベンツだけでなく大衆車のジグリがたくさん停められています。中産階級がそういうエンターテインメントを楽しめるまでに、経済が復活してきたんですね。
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/168
コメント
ロシア出身のポップミュージックアーティストは、ここ数年、ヨーロッパの若年層にもかなり浸透してきている感があります。
とりわけ特徴的なのは、ウラジオストクをはじめとする極東エリア出身のアーティストに、極めて個性的かつ先鋭的なサウンドを創り出している人が多い、という点でしょうか。
日本でも、数年前に「T.A.T.u」が一大ブームを巻き起こしましたが、一番やってはいけない「公演そのものでの騒動(トラブル)」を起こしてしまったがゆえに、ファンだけでなく、公演の招聘やプロモーションを担当する業界内の信用すらも失い、ロシアのポップミュージックアーティスト全体への信用までも揺るがしてしまったという点において非常に残念だったかな、と思います。
ただ、ロシア系のアーティストが再び日本で脚光を浴びる日も、そんなに遠くないのではないでしょうか。
なにせ、楽曲のクリエイターやアレンジャー、バックミュージシャンには、世界的な活躍をしているロシア系のアーティストがたくさんいるわけですから。