冬の米国(雑感)1
やっと時間ができたので、1月末ボストンに行ったときの印象をつづる。日米関係については既に書いてあるので、これは雑感。
困窮は98年のロシアなみ?
経済危機になってからも随分世界を旅行したが、飛行機はいつも満員なのだ。どこが危機かと思うのだが、プロに聞いてみると、それは航空会社が便を間引きしているからだろう、それにビジネス客は確実に減ったということなので、真実はわからない。現にワシントンからの帰りの便はがらがらだったが、これは日曜日だったからか? 因みに、アメリカの航空会社の飛行機は、内部が格段にきれいになった。以前は座席の手もたれが客のこぼしたジュースでべとべとしていたり、機内灯がつかないなどざらだった。
だがハーバード大学の食堂で話していると、足元をものすごく冷たい風が吹き抜けて腰から背中にはいあがり、10分も座っているといたたまれない。聞いてみれば、今回の金融危機でハーバードの資金運用部(これがハンパじゃないーーーたしか1兆円以上ーーー資金を運用している)が大損をこいたので、室内温度を20度にしぼっているのだそうだ。20度なら問題ないが、しょっちゅうドアが開いて外のマイナス15度の風が吹き込むから、たまらない。
僕の友人のうち引退している人達は、今回の危機で年金預金の資産額が40%くらい下がり、意気が上がらなかった。アメリカの年金は以前から確定拠出、401kと称する法律に基づいて、自分が拠出した分を株式など高利回りの金融商品に投資できる。この401k法ができた直後の80年代から、アメリカの株式は一途に上昇を続けたのだ。
今それは逆目に出て、中産階級は資産の多くを失い(株券、証券を売却しなければ、またいつか資産額は上昇するのだが)、大衆は失業の恐怖に曝されている。98年8月、金融バブルが崩壊した直後のロシアをちょっと思い出した。
ロシアとアメリカを比べるとはなにごとだ、アメリカの方が全然進んでいるじゃないかと言うかもしれないが、ものによってはそうでもない。アメリカの空港に着いた時のパスコントロールなど、あの行列はロシアよりひどい。ロシアは15分、アメリカは45分以上は必ずかかる。人を人間扱いせず、指紋までとるのだから。それに大衆食堂での従業員の質や客の服装などは、北京のそれともう変わらない。
今のアメリカはインフレもひどくて、ワシントンでの中流ホテルの朝食が22ドルもした。以前は、10ドル以下だったのに。高いレストランは、確実に客が減っていると言う。ただガソリンは一時の値上がりも収まって、1ガロン1,85ドルというから、1リットル50円くらいだ。
新聞はこの2年ほど、インターネットなどに食われて広告がどんどん減っている。それが今回の金融危機で「広告などもうなくなってしまい、大新聞でもめっきり薄くなったよ」ということを聞いたので買ってみたが、広告が全くなくなったということではさすがになかった。ただ大新聞や総合テレビ局が落ち目であることは確実だ。
アメリカはもう終わり?
1月20日の大統領就任式の時、僕はまだ日本にいた。アメリカに行って友人の話を聞いてみると、やはり皆かなり熱狂していたようだ。
(対岸アレクサンドリアからのぞむワシントン)
ワシントンに住んでいて、1月20日のマイナス十度以下の酷寒をものともせず、式を見に行った者が言う。「ワシントン・メモリアル(議会の前方にあるあの巨大なオベリスク)の根元に陣取って、式を見ていた。バイデン副大統領が宣誓をするときになったら、周りの者達がわあーっと沸いたよ。『Cheney is gone!』と言って喜んでいるんだな。バイデンが副大統領になったからではなく、それまでホワイト・ハウスを陰で牛耳っていたチェイニーがもう副大統領でなくなったから万歳!というわけだ。」
で、僕が東海岸をうろうろしていた2月初めの頃には、政権交代の興奮は既に去って、皆ルーティンの中にどっぷりつかって忙しい日々をすごしていた。
ボストンで乗ったタクシーの運転手はハイチ出身の黒人。不景気で随分客が減ったろうと聞くと、それほどでもないと言う。じゃ、いくら稼いでいるんだ、東京のタクシー運転手はこの頃、20万円以上稼ぐんでも大変なんだぜ、と僕が言うと、せせら笑って、月に4000ドルはかたいと言う。そして政治の話になり、「早く共和、民主両党が妥協して、経済救済法案を通してくれないかな」と彼は言う。良くわかってますよね。でも、他の運転手に聞いてみると、タクシー会社の数は最近減っているようなので、だからハイチ出身の運転手もそれほど困っていなかったのかと思う。
日本では、「アメリカはもうだめになった」ことになっていて、中には「日本がリーダーシップを」などと言う勇ましい人達もいる。日本国内もろくに治まっていないというのに、何を言うのか。
アメリカでは人間が自己完結型
アメリカでは、個人が自己完結しているとでも言おうか。自分で生きる道を見つけ、一人々々が自分で店を張っている緊張感がある。日本では、人脈、コネ、先輩・後輩関係の中で皆でやっていくので、そこがアメリカと違う。
そしてアメリカでは、どんな仕事についていても、それを大事にする者が多い。空港でタクシーに乗るところで、黒人の女性が整理係りをやっていた。彼女が、僕の重いスーツケースを持って、タクシーのトランクに入れようとする。重いから自分でやるよと僕が言うと、「いいのよ。これが私の仕事なの」と言って明るく笑った。ここがロシアと違うところ。チップも取らない。
飛行機というのは、そうしたアメリカから僅か14時間ほどで、やたら万事に細かい、そして抑制された別世界、日本に来てしまう。今まで手足と感情を自由に伸ばしていたアメリカ人やロシア人が、日本に来るとどこか押し込められた感じがすると言ってこぼすのは、そうしたことのせいだろう。
だがアメリカ人は傍若無人というのでは全然ない。少々エキセントリkックな男でも、他人とちょっとだけぶつかっただけでexcuse meとすぐ言う。周りを見ず、見ても相手が人間ではないかのように、衝突コースを歩んで平然としているのは、日本人の方ではないかと思う。
アメリカはまだまだ盛り返す力を持っている。
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