日米・日中・米中関係三つどもえ――米国での雑感
2月初めアメリカに行って感じた、日米中間の関係についてのいくつかの印象を書いておく。忙しくて、整理するのが遅くなってしまった。その間いろいろなことが世界であったし、日本の外交は活発に動いているようだが、日本の世論が外の世界というものから加速度的に遠ざかっているような気がしてならない。このブログ左肩の世論調査でも、「もう外国留学など時代遅れ。日本国内での教育で十分」という人が30%を超えている。
日米関係について
○オバマ政権においては、「軍事では日本に過大期待しない」という声が目立った。
実際、在日基地の提供だけでも、日本は米国の戦略に絶大な貢献をしているのだ。
日本もできることとできないことは早めに米国に伝え、できることを最大限すればいいだろう。すぐ米国追随と言われるが、日本の安全確保を米国に大きく依頼している以上、こちらも何かしなければならない。
○「MD(ミサイル防衛体制)を日米間で共同開発しているが、これは日本が核爆弾なしに核の傘を手に入れることに等しい」と言う者がいた。僕も前からそう思っていたが、そうなるにはMDがもっと確かなものにならなければならない。そして共同開発とは言っても、敵ミサイルの打ち上げ情報収集から反撃決定まで日本だけで自己完結的に運営できるものにならないと、迅速な対応ができない。
○日本人がworld governanceについて発言し、アイデアを示すと、米国の日米関係者にはこれをいやがる者がいる。我々は米国を動かしたい。ところが彼らは、日本を操縦したいのだ。第三国地域についての日本人のアイデアには、日米関係者でない方が関心を示すことがある。
○僕は日本の核武装は難しいし、ポピュリスト政治も甚だしい日本ではやたら持たない方がいいと思っている。通常火薬搭載のクルージング・ミサイルで相手の戦略的施設をたたく能力を持っていれば、それで十分の抑止力になるではないか。
でも、核の問題については政府の中では議論することさえはばかられる状況のようで、砂に頭をつっこんで危険を回避したと思っているダチョウのように日本全体がなってしまっている。政府が悪いのではないだろう。そこまで政府の手を縛っている日本社会の在り方が、自分自身の安全を害している。
○日本を専門とする優秀な学生は続く
1980年代、日本の経済力が頂点に達した頃、日本は米国にとって脅威であると同時に、研究資金が潤沢に出て政府の要職にもつきやすい登竜門となったから、多くの優秀な米国人学生を「日本学」へとひきつけた。
ところが彼らが大学院生になった頃の1997年、アジア経済危機を周辺に日本は急速に存在感を低下させ、今では底を突きぬけて地球の裏側に行ってしまいかねない状況だ。
だからさしずめ、日本研究志望者は減っただろうと思っていたし、実際数は少しは減っているだろうが、日本語教育を見る限りでは「それほど減っていない。最近では日本のマンガに幼少からひかれて、日本語を志望する学生が増えている」状況なのだ。
そして例えばMITでは、顔を見、僕の講演への質問を聞いただけでも(それだけではわからない? ごもっとも)いかにもできそうな学生が何人もリチャード・サムエルズ教授の下で国際関係論、日本を専攻している。そのうちの一人は日本の政治・外交についてのブログhttp://www.observingjapan.com/
をやっていて、これが米国の若い世代の日本関係者の間では評判になっているそうだ。
変に日本を異質視して叩くだけだったり、見下しておちょくったりする一部の風潮からは完全に離れた、思い入れのない日本論とでも言おうか。それだけ日本を客観視しているから、日本の行動、あり様によってはこれを完全に見限ってしまうドライさも持っているだろう。
日米中関係
○「中国がどんどん強大になってくるなかで、米国にとってアジアで頼りになるのは日本をおいてない」、「9.11事件の時、同じセミナーに出ていた中国軍人が世界貿易センター崩壊を見て大笑いしたのを忘れられない」というのは、ある日本専門家の言。
「反日等、中国のナショナリズムは中国当局がまだコントロールできる範囲にあるから脅威ではない」「中国が強くなればなるほど、日本は米国にとって重要になる」というのは、ある中国専門家の言。
米国の中国専門家には不思議に、日本重視が多いらしい。もっとも僕がMITで講演した日の前日、ハーバードにリーバーソルがやってきて、中国重視・日本軽視論をぶっていたらしいが。
○米国にいる中国系人は数も多く、政治力もある。メールで発信するから、中国本土の世論を動かすこともできる。実際、2005年3月の反日デモは、彼らの発信から始まったという専門家もいる。
彼らは、米国とともに世界を牛耳り日本をこけにする方向で論陣を張っているようだ。幼稚な思考だと思う。というのは、米国はなにもローマ帝国のようにやらずぶったくりに「支配するために支配」しようと思って、世界に進出しているわけではないからだ。どうも中国人の間には、ソ連的帝国主義的19世紀的ゼロサム思考が知らず知らずの間に沁み込んで(これを「狼の血」ーーつまりロムルスとレムスの兄弟を乳で育てローマ帝国を作らせたオオカミのことを言っているーーと呼んで大反発を受けた中国知識人がいる)、それに彼ら自身気が付いていないようだ。
米国にいる中国系人の中にも、上のような考え方に心配して、日本との関係を進める方向で発信をしようとしている学生達がいる。日本はこうした人たちを大事にしていくべきだ。だが日本政府が彼らにアプローチすれば、彼は仲間からスパイ扱いされてしまう。学生同士、民間同士の交流でやっていくべきだ。
○「ヒラリーは経済開発を重視している。中国との間でも開発面での協力、特に環境面での協力を前面に出すことにより、米日中関係を緊密化させていくのがいい」と述べる日本専門家がいた。
僕は環境協力にそれほど関心はないのだが、そう言われればその通りだと思った。
○日米協会(Japan Society)というのが米国全土にあって、米国人が作ったNPOとして日本文化を楽しんだり、講演会を組織したりしている。もともとは日露戦争後、これからは日本が大事になるというので(太平洋での最大の敵になるかもしれないと思っていたらしい)、セオドア・ルーズベルト大統領がボストンの名士たちに作らせたものだ。
面白いことに、中国についてはこうした米国人NPOの全国ネットワークはない。中国人自身が作ったものがあるだけだ(台湾系のものと並行して存在している)。
○オバマ大統領の妹はカナダの中国人と結婚しているそうだ。その中国人がオバマ就任式の時、すぐ後ろに座っていた。Chrisというのだそうだ。中国には関与していない由。 河東哲夫
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