ソ連がもし幸せになっていたら、きっと―ーー
(東アジア共同体評議会サイト「百家争鳴」に投稿したもの)
3月の頭、2週間ほどモスクワにいた。今回は地下鉄と足で移動したので、いつもの自動車から見るモスクワより実感があったし、学生時代を思い出して懐かしかった。一言で言って、「長い間ソ連に来ないでいるうちに、皆すっかり幸せになってしまったな」という感じ。モノは店にあふれ、スーパーは肘が触れ合うほどの客でいっぱいだ。中産階級がもうしっかり育っている。
大統領選挙では、あたかもソ連の昔に帰ったかのように、職場のボスから投票へ行くよう露骨に圧力を受け、皆ぶーぶー言っている。でも結局行くし、さりとてボスに言われたとおりに投票するわけでもない。強いソ連共産党ももうなくなってしまった中で、昔の強権的なやり方を使おうとしても、最後まではコントロールしきれないのだ。市民の政治意識、権利意識は確実に上がっている。
だが今は皆、原油価格高騰が作り出した繁栄の中でほっとして泳いでいる。15年前はまだ疾風怒濤、毎日外は荒れ模様の世界だったのだから、無理もない。プーチンを取り巻く連中の強権的手法は鼻につくが、これをやめたらまた90年代の混乱に後戻りしないという保証はあるのか? 勤労者の3人に1人は国家に雇われているとプーチン大統領が自ら言うこの社会、つまり全体が原油・ガス輸出という富を分配する機構であるかのようなこの社会で、あえて異を唱えてみても始まらない、どころか危なくて仕方ない。というわけで、ロシアの強権政治も実は、国民大多数の黙認を得ているわけだ。
このロシア、これから原油価格の上下のたびに金融バブルが破裂するようなことは何度もあろうが、外貨を50兆円近くもためこんだロシアならもう、98年8月のようにルーブルが4分の1にも切り下がるような大危機にはもう見舞われまい。ロシア政府が言うとおり、2020年頃には世界5位くらいの経済大国になっているだろう。
ソ連が崩壊したばかりの頃のロシアは、西側に多大の期待を寄せていた。同じ白人なのだから、民主主義、市場経済を採用した今は仲間に入れてもらえるだろうと本気で思ったのだ。だが欧米は、ロシアに冷たかった。そればかりかNATOをバルト三国にまで拡大し、ソ連圏だったポーランド、チェコにはミサイルやレーダー配置を決めて、弱いロシアの傷に塩を塗りこむ。
だから今のロシア人は、インテリでも学生でも欧米・日本には警戒心を持つようになった。北方領土問題についても、歴史的・法的な経緯とか事実関係、そして正義感に訴えるだけでは、もう効かない。ロシアは頭を下げて欧米の仲間に入れてもらおうとするよりも、自分の国益を冷徹に測定して行動する国になった。
2012年にはウラジオストクでAPECの首脳会議が開かれる。中国の東北地方に1億3千万人もいるのに、極東地方には650万人しかいないロシアは、アジア・太平洋の一員として是非認めてもらいたい、そうすることで極東地方の地歩を少しでも高いものにしていきたいと考えている。
だから日本はロシアとも、アジアのことを話し合っていくべきだ。ロシアにとっても切実な問題である極東・東アジアの安全保障、政治的安定・経済繁栄の確保を話し合えば、ロシアにとっても日本との関係推進がもたらすメリットが目に見えやすくなるのではないか。対日関係推進にプライオリティを置いてもらわなければ、領土問題などとても動きはしないだろう。
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