台湾問題の本質を見極めるべし
(東アジア共同体評議会のサイト「百家争鳴」に投稿したもの)
今年は選挙がらみのイベントが多い年だ。アメリカだけではない。あまりに重要な選挙が多すぎて、それで世界情勢が不安定になりかねない、と前から言われていた2008年が、ついにやってきた。来て見ると、選挙よりサブプライム問題の方が心配なのだが。
東アジア関係で言うと、3月の台湾総統選挙はマグニチュードが大きい。台湾についてはいろいろな思惑が台湾の内外で交錯し、皆プロパガンダを弄しているので、彼らが言うことを真に受けすぎると踊らされる。言葉と本音をしっかり区別しなければならない。
例えば陳水扁総統は台湾の独立を明日にでも宣言するだろうとか、中国は少しでも隙があれば台湾を武力で併合するだろうとか、両岸関係が荒れると日本の「シーレーン」が危機に陥るとか、様々に言われていることの、一体どこまでが本当なのか。
1月12日の立法院選挙で与党の民進党は大敗し、陳水扁氏は党主席の地位を辞した。これで、大統領選と同時に、台湾の名で国連に加盟することの是非について国民投票をやりたい、としていた彼の意向もボツだろう。それだけ中国本土との摩擦要因も減ったわけだ。
今優勢な国民党は05年4月、連戦主席が大陸を訪問して胡錦涛総書記と会談した時のコミュニケで、中国と「和平協定」を結んでもいいとし、馬英九・国民党総統候補も最近訪日の際に同様の趣旨を述べている。おそらくこれらを受け、昨年10月の党大会で胡錦涛総書記は、台湾との間で「平和の合意」を結んでもいいと述べた。「協定」という(通常は国と国の間で使う)言葉を使うかどうかはともかく、両者はステータス・クォ(台湾の独立でも併合でもない現状)の維持が双方の利益に資することを認めたのだ。
国民党は本土からやってきた「外省人」が中心だったが、今となっては以前から台湾に住んでいる「本省人」の支持なしには政権に就けず、維持もできまい。本省人の大半が今の「独立でも併合でもない現状」を維持するしかなく、またそれが最もいい選択なのだと考えているのだから、馬英九氏が総統に選ばれても、統一への旗を性急に振ることはあるまい。
そして、台湾をめぐって情勢が緊張化することなく現状が維持されることは、日本にとっても一番良いことなのである。同じことは米国についても言える。日本だけが台湾危機の可能性を過大評価する必要はない。日本は台湾情勢の基調を設定することはできない。ステータス・クォの維持が関係者全員の暗黙の合意なら、それに乗って自分の利益を実現していくのがいいと思う。
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コメント
アメリカも日本も現状の微妙な平和を維持したい、ということですね。しかし、中国共産党政権が崩壊の危機ともなれば、別のシナリオが展開するでしょう。その際、共産党がむざむざ崩壊に甘んずるとは思えませんし、とすると、取り得るオプションはひとつしかないですね。
現在すでに共産党は、足元からじわじわと崩れていく危険を感じていると思います。抜き差しならぬ状態に追い詰められるまでに、ロシアの支援を取り付けておくのではないですか。アメリカや日本は本質的にロシアと相容れませんが、中国共産党はボルシェビキのもとで育ったのですから。
万一そういうシナリオが展開する時が来た場合、日本はどう動くのでしょうか。
3月の総統選が終った段階でのコメントです。
第一、陳総統は、総統選と同時実施すると言っていた「台湾名義での国連加盟の可否を問う」国民投票を断念しませんでした。
理由は、中共と一緒になって台湾の国民投票に反対し続けたブッシュ大統領へのアテツケです。台湾のためを考えるなら、中止または延期が望ましかったのですが、個人的怨念を優先しました。陳水扁総統は小人です。
第二、米中日もその他の諸国も、台湾住民も「現状維持」を望んでいた。──という意味では、総統選の結果は円満なものですが、台湾にとっては「宙ぶらりん」「中国に併呑される道」の選択でもあります。
併呑の危険がつきまとうのです。
第三、中国国民党を選んだという選択は、中国国民党が包蔵する「旧体制」を生き延びさす選択です。台湾では「法統」というのですが、台湾の中国化の路線です。
そしてこの「旧体制」は、中国人の台湾人差別の路線でもあります。
馬英九は、「台湾本土路線」をとるかのように演技して票、とくに若者の票を得たのですが、馬英九に投じた若者たちが裏切られずに済むかどうか、それは今年中に判る筈です。
平成20年4月20日