Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界はこう変わる

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2007年09月13日

選挙前のロシアで怪事件

日本もじきにそうなるかもしれないが、ロシアでは前から12月2日に総選挙があることが決まっている。で、選挙戦はもうたけなわなのだ。何でもありのエリツィン時代とは違って、今のロシアではpolitical
engineeringとでも言ったらいいのだろうか、中央・地方の経済的梃子を握る当局の力をありったけ使って、クレムリンの望む形での選挙結果を得ることができる(経済が安定していればの話ですよ)。
だから結果にはあまり興味を持てないが、そのプロセスは面白い。それは総選挙よりも、ロシアの大きな利権の行方を決める来年3月の大統領選挙の方がなお面白いだろう。

80年代初め、ブレジネフ書記長の力が落ちてきた頃、モスクワで奇怪なことが相次いだ。例えば高級食料品店「エリセーエフ」(革命前に既にあったこの店の御曹司エリセーエフ氏は亡命した後、東大に留学。夏目漱石などの知遇を得、芸者遊びもやった後、パリやハーバードで日本研究の大家となり、実に今日の米国における日本研究学の父となったのです。アマゾンで倉田保雄氏の本を検索して下さい)の店長が贈収賄で逮捕されたり、ブレジネフの娘とねんごろになっていたサーカスのスターが同じく検束されたり、極めつけは82年1月、ブレジネフの妻の姉か妹と結婚していたKGBの第一副議長ツヴィグンが「拳銃自殺」するという驚天動地の事件が起きて、いずれもブレジネフの権力が翳ってきた証拠とされたのだ。

2007年8月13日の夜、東海道新幹線に相当するモスクワーサンクト・ペテルブルク間の鉄道で、特急 「ネヴァ号」がノヴゴロド州で転覆する。TNT3キロが床下で爆発したのだそうで、241名乗客がいた中で27名が負傷した。その後チェチェンの組織が犯行声明を出したり、「犯人」が捕まったりしたのだが、報道はそれでぱたりと止まる。
1999年9月モスクワの町外れのアパートが、ある夜突然爆破されて、住民100人以上が亡くなった。これはチェチェン・テロリストの仕業と言うことで、当局はプーチン首相指揮の下(首相が戦争を指揮するというのもロシアでは異常なことなのですが。大統領の権限だから)第二次チェチェン戦争を開始し、首都グローズヌイまで一気に攻め込んでしまうのだ。これでプーチン首相は「やる男」ということで人気がうなぎのぼり、その12月には遂にエリツィン大統領から権力を禅譲されるのだ。後にプーチン大統領と敵対するに至った豪商ベレゾフスキーは、この爆破はプーチン首相の人気を高めるために当局が仕組んだものである、という「情報」をばらまいている。
だから、この8月の列車爆破も、こちらは「すわ」と思ったのです。ところがプーチン大統領と来たら、アルタイの山奥でモナコのアルバート王子と男2人だけの休暇としゃれこみ、列車爆破の報せにも携帯電話で「指示を出した」かっこうを取っただけ。柔道で鍛えた筋肉隆々たる裸の上半身をマスコミに見せたりして、危機感はなかったのでした。当時のブログの中には、これを「ブロークバック・マウンテン」という1年ほど前のアメリカ映画になぞらえる悪戯者もいたそうで(何の意味かわからなかったら、この映画のテーマを調べてください。

で、この事件も忘れられかけた8月の22日、早朝にモスクワからトラック3台を連ねてやってきた警察特殊部隊がサンクト・ペテルブルクの大ボス、バルスコフの本拠に踏み込み、彼を逮捕したのだ。情報が事前にもれるのを嫌ったか、地元のサンクト・ペテルブルク警察には何の連絡もなかったという。強烈だ。
このバルスコフ、90年代に故郷タンボフから仲間を集め、タンボフ一家と言われる暴力団をこしらえた。そしてサンクト・ペテルブルク、カリーニングラード、アルハンゲリスク、ムルマンスクの港からの流通の80%を抑え、酒・タバコ輸入税、木材輸出税のピンハネまでしていたというから、日本だったらさしずめ・・・そして何と石油・ガスの輸出利権まで抑えていたそうだ(半年前だったが、サンクト・ペテルブルク近郊の天然ガス・パイプラインが「老朽化のために」爆発を起こしているが、もしかするとこれは・・・)。

で、このような大物を警察、検察、秘密警察が協力して捕まえた、というのだが、この仲の悪い三者がホンとかね、と言いたくなる。
暴力団の大物を捕まえると「力の真空」ができ、そこを狙って血で血を洗う抗争が始まりやすい。90年代のサンクト・ペテルブルクが「世界の犯罪首都」と言われていたのも、そうした縄張り争いのためだった。

だから、この大捕り物は本当にプーチン大統領の了承も得てやったのか、彼の故郷サンクト・ペテルブルクの治安がおかしくなるリスクを冒してまで、今こんな荒療治をなぜやるのか、疑問は尽きず。ひょっとすると、この地の市長マトヴィエンコ女史が大統領選挙に出馬するための露払い? まさか。小池百合子とその次官じゃあるまいし。

ただ、このバルスコフ、港、流通の利権を抑えていたためヤクーニン鉄道公社社長とも昵懇な間柄だったそうだ。ヤクーニンと言えば、大統領選挙のダークホースとも言われている存在で、今回のバルスコフ逮捕はマイナスになるかもしれない。

で、ここはわからないまま、もっと気味の悪い話。
ルスネフチ(国営のロスネフチとは別)という大手石油会社があるのだが、これはプーチン大統領にたてついたホドルコフスキー所有のユーコス石油会社の競売に横から手を上げ、既に自分のシナリオを描いていたクレムリンに睨まれた。
それでそのルスネフチの社長グツェリエフは7月に、よんどころなく詰め腹を切って社長を辞めた。ところがその長男チンギスハンは、サンクト・ペテルブルクでタンボフ一家の組長が逮捕されたと同じ22日夜「交通事故死」したと思ったら、23日には故郷北オセチアで葬られ、近くのイングーシ共和国の大統領が出席する手回しの早さ。しかし、彼の交通事故や、救急車出動や、入院したという記録はどこにもないのだ。
この現代のチンギスハンは享年21歳、英国の名門ハロー校、WARWICK UNIVERSITYを卒業(?)した若者だった。90年代に輩出した「大物実業家」の子弟には典型的な経歴だ。可哀想だと思う。こんな若くて、どうでもいい利権闘争に巻き込まれて。

で、選挙が近づき、利権の再配分が活発になると、もっともっと奇怪な事件が起きてくると思うのだが、これだけ書いても随分時間を使ったので、馬鹿らしいのでもうやめる。後は気の向いた時にしか書きません。日本をめぐる世界の情勢はそれどころじゃないのだ。

コメントを投稿





トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/243