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世界はこう変わる

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2007年07月15日

モスクワの印象―ーいつまでもつか上げ底経済

(6月中旬モスクワに行ってきました。やっと印象も固まってきたので、いくつかに分けて報告します)

繁栄と高価格のモスクワ
 今のモスクワはとにかく繁栄の一文字でくくれる。シェレメチェヴォ空港では念願の新ターミナルの建設が進んでいるし、旧ターミナルでも日本語でインターネットが使える店が出ている。渋滞で悪名高かった都心への道も、分離帯の並木を切り倒して4車線のハイウェーが真ん中に作られた。モスクワの街角では、東京の渋谷や六本木にあるような大スクリーンがいくつもあって、動画の広告を流している。和食レストランの数は2000年代初頭より2倍、3倍になった感があり、歩道にまでせり出しているものもある。

 夜、地下鉄に乗ってみた。5年前の地下鉄は床に酔っ払いが寝そべったり、通路に不良の一団がたむろしていたりで、ロシア社会の格差を如実に見せていたからだ。ところが現在では、通路で危険を感ずることもなく、また地下鉄に乗っているのも通勤帰りといった風情の普通の市民達だった。着飾ったり派手な化粧をしているわけでもないが、5年前のようにくたびれ果てたといった顔をしている者はもはや見られない。選挙対策もあって年金、公務員・軍人の給料が引き上げられたこと、民間の給料もうなぎのぼりであることが反映しているのだろう。

 他面、モスクワは世界一の高物価になっている。店では宝石をちりばめた10万円の携帯電話を売っていたりする。高級スーパーでの豪州牛肉は100g、800円(ロシアの牛肉は200円)。普通の和食レストランの揚げだし豆腐が1,600円、しゃぶしゃぶの霜降り肉は100g、1万円。そんなところに友人を招待したら息子を連れてきて、スシを注文しまくるものだから気分が悪くなりかけたが、「今日は俺の方でもたせてくれ」ということで一安心。金銭感覚が違う。
 
 かつて安いパスタが食べられたPatio Pastaという店はGorkiと名を変え、スパゲッティは4,000円になっていた。フォアグラ「Chateau de Morsei」などというのがメニューにのっている。だがここのジャズ生バンドは良かった。かつてロシアのレストランというとバンドの騒音で会話はできなかったものだが、ここは完全なバック・ミュージックになっている。メトロポーリ・ホテルのバンドも、絶妙の編曲と腕で大いに聞かせるが、昔と違って押し付けがましくない。

 ゴルバチョフ時代、改革の旗手だったアガニョークという雑誌では、ある企業家が「モスクワは年収○ドル以下のものが住むところではない」と発言して大反発を食らった由。編集幹部は「いい宣伝になった」と喜んでいた。

 今回雇った運転手は、月に1,500ドルは稼いでいるということだった。労働への正当な対価をもらっている感じがすると言い、注文が少なくなる休暇時期を憎み(モスクワは2ヶ月必死で働くと2週間くらい休むようなリズムになっている)、夜の超勤を喜んでいた。彼は正直な男で不正はやらず、消費ブームで目が釣りあがっているわけでもないが、子供の教育やものを買うためにどんどん稼ぎたいという意識を持っている。ソ連時代の昔とは様変わりである。

 高価格は生産を刺激している、と言う者もいた。確かに「製造業」が伸びている。今回聴取したところでは、この中で兵器生産の比重は小さく、エネルギー部門関連機械機器に加えて鉄道(貨車)・電力・ガス等公営事業のインフラ関連の機械機器生産が多い由。

 別の運転手に、「ばかに調子がいいが、ロシアの経済は石油でもっているのを知っているか?」と聞いてみたら、しばらく沈黙した後「・・・それは。だからプーチンはハイテクをこれからやっていくと言っている。政治的決定が行われたんだから大丈夫だ」と答えた。相変わらず政治優位の共産主義時代のままのマインドでいる。これでは、2、3年先が心配になる。

 他方、大学や社会科学系研究所の建物、設備は相変わらず惨状を呈している。もっともモスクワ大学の地下には「学生用」のカフェができていて、完全に西欧風の店内では2,000円のバイキングを「学生」達が食べていたが、さすがに満員というわけではなかった。この頃では学生の方が教師よりいい車を持っている由。

 所得水準が全体に底上げされているため、格差というか貧困はかつてほど目に付かない。証券会社トロイカ・ジアログのアナリストによれば、「格差は90年代初頭から拡大した。拡大は今でも続いているが、そのテンポは鈍ってきた。上位10%と下位10%の差は現在14,5程度。」ということだった。因みにロシア最大の証券会社トロイカ・ジアログは、これまで殆んどロシア株で商売してきた由。日本でも年間30-50%儲けられる投資信託はあるのだと述べたら、関心を示してきた。日本市場は難しい、もうからない、というステレオタイプが彼らにはある。但し一部野心家は、ロシア企業の日本でのIPOを斡旋して一儲けしようと考えている。

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