2010年5月 6日
欧米は「匿名」取引、中国は「相対(あいたい)取引」
大学の講義では、毎回格言めいたことを紹介している。面白いものをここに残しておく。
今日のは、
「欧米の文明、欧米における人間の権利、欧米における経済活動は、『匿名性』の原則にのっている。つまり誰であっても、フリの客であっても、基本的には同じ扱いを受けるということ(現実は、それほど単純でもないが)。
他方、中国、ロシア、中央アジア、中東などにおける取引は、『相対(あいたい)取り引き』の性格、政治性を強く残す。
後者は、成員が狭い範囲に固まっているムラ社会(つまり、『信頼』できる相手は身近の者に限られている)、ゼロサムの社会に見られる。
前者は取引相手を増やすことが容易なので、その経済は発展しやすい」
このことは、ロシアや中央アジアに在勤していて、本当に実感したものです。
日本は、両者の中間に位置していると思います。
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コメント
河東先生、
現実的な商売の契約観念に落とし込むと、西欧とアジアのざっくりとした対比がより鮮明になります。
西欧諸国は非常に文書による契約に拘り、国際貿易の諸規則の整備を必死に進めてきた経緯があります。ICC(国際商業会議所)などはその典型で、現在国際貿易の一般ルールとして確立しているIncotermsは彼らの手によるものです。これらルールに則れば誰とでも商売が可能となる。
http://www.iccjapan.org/icc/gaiyou.htm
>
> http://www.jetro.go.jp/world/qa/t_basic/04C-070304
>
それに対して、アジアでは文書による契約観念は弱く、仲間内(業界に認められた
者)だけの「口先」による契約で商売が動き、仲間にならないとルールが分からない。業界団体が仲間内のルールを決め、そこに参入障壁のような取引単位や隠語を刷り込んでいたりする。
日本では未だに伝統的な産業財取引において「口先」で商売が動いているが、昨今はそれがコンプライアンスにひっかかるということで文書による契約締結がご正道ということになっている。
上のコメントに全く賛成。欧米では社会に信頼が確立しているように見えるのは、破った場合の罰則も法で決まっていることがあるからでしょう。ただ、欧米では匿名の貨幣経済を長年にわたって続けてきたことが、モラルにもしみついて、それがまた法にも反映されてきただろうと思います。
西欧中世、ユダヤ人が自分達の発行した手形を有力者に没収されてしまうリスクを回避するため紙幣を発明した(?)という説がありますが、紙幣などは匿名性の経済の最たるものでしょう。
河東