日本の製造大企業のあり方は時代遅れなのか
(これは、3 月28日に「まぐまぐ」社から発売したメール・マガジン「文明の万華鏡」第71号の一部です。
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日本は製造業で生きる国。外国語能力がないから、人と人のつき合いを前提とするサービス(金融、情報サービス等。ユニクロは成功例だが、これは独自の衣料を製造販売しているので、半分製造業だ)は中々輸出できない。コンビニはアジアに随分出たが、すぐ模倣されているし、介護サービスも同じ運命に会うだろう。
バブルが崩壊し、韓国・中国企業が台頭したことで、没落する製造業が日本で増えた。台湾や中国の企業に吸収された家電企業は数多い。数年前BICカメラに行って、日本製パソコンが後退の兆しを見せているのに危機感を持ったものだが、今やNEC、富士通は中国Lenovoにパソコン部門を売却している。そしてこれら家電・情報企業は住宅や都市建設や情報サービスなど、国内の大口需要家を囲い込んで、何とか生き延びようとしているのだが、脇から見ていると、余計なサービスを考え出しては高値で売りつけている感じがぬけない。
そしてそうしたトレンドは、自動車製造にも及ぶことが懸念されている。まず、欧州の自動車企業が生産性をとみに高めている。CAD・CAM(コンピューターを利用して3Dの設計図を作成する等)を活用することで、彼らは新車設計・開発・検査期間を劇的に短縮し、人数も減らしている。中国の深圳等では、製品製造の過程をいくつかに分解し、設計、金型製造、組み立て等、それぞれの段階に特化した下請けが無数に育って、生産性をあげている。これは「垂直分業」と呼ばれるやり方で、深圳では携帯電話の製造から始まり、今は自動車生産にも及びつつある。世界の各ブランドは、ここに汎用製品の設計・生産を丸投げし、自分ではブランド維持のための差別化製品の開発に特化している。
これに、「内製にこだわる」日本の製造大企業が対抗できるのか、というのが最近の話題となっている。筆者も危機意識を一時持っていたが、今はちょっと待てよ、という気になっている。というのは、日本の自動車各社は、部品の開発・生産だったら、ずっと以前から下請けを使ってきたではないかと思うからだ。深圳の下請け企業の集積はすごいらしいが、戦前大阪の陸軍工廠の脇にできた東大阪の町工場群(今でもある)はまさにそういった企業の集積である。トヨタが樹立した「カンバン方式」というのは、そうした下請け企業との関係を効率的に組織し、本社での不要在庫を最小限にしぼるためのもので、今や「カンバン」という日本語そのままで世界に広がっている。
そして日本では部品生産企業は今や下請けではなく、かつての親元企業をしのがんばかりの勢いで、専業大企業となっている。それは自動車だったらDENSO、電気製品だったら村田製作所、といった手合いである。だから深圳を見て圧倒される前に、日本でやってきたことをもう一度見直してほしい。
ドイツではIoTの実用化が進んでいると言われる。「すべてのモノにセンサーをつけ、すべての工場をネットで結んで操業状態を一括して把握。最適な生産量になるよう、各工場に指令することで、生産性をあげる」とか言われている。しかしこれは、少し割り引いて考えた方がいいだろう。
そのためにはまず、すべてのセンサーの信号規格を統一しないといけない。そしてその信号の処理の仕方も規格を統一しないといけない。ところがドイツでも、中小を含めて企業は自分の情報を外部に出したがらない。ボッシュやSAPやシーメンスはそこを無理やり統一、規格化して商品にしようとしているのだろうが、うまく行かないだろう。IoTはおそらく、企業単位で進んでいくもので、それだったら日本のIT企業は既に顧客企業を囲い込んでやっていることだろう。従って、日本の大企業が面している危険は、生産のやり方よりも、ブランドの売り込み方、イメージの作り方、企業吸収合併での目利き、市場争奪戦等の方にあるのではないか。
製造業、特に消費者向けの最終製品を製造する企業のあり方は、これから大きく変わっていくだろう。開発から組み立てまで外注でできる、イノベーションもスタート・アップ企業をまるごと買収すればいいということになると、製造大企業はブランド・イメージ保持、販売路確保、吸収合併とスタート・アップ買収用の資金維持・運用に傾斜してくるのではないか。
トヨタがカルバン・クラインを吸収合併してその名で車を出すとか、製造業がファッション・ブランド業界に似てくるのだ。別の言葉で言えば、世界の製造大企業も、アマゾンやアリババのように、ブランドと販売網で売る、一種のプラットフォーム企業になってくる。そこでは規模が重要であり、今や売り上げ1兆円では以前の1000億円企業程度の感じ、売り上げ10兆円でやっと「大企業」、という時代になりつつある。
そしてもう一つ、中国の国営製造企業が法外の投資をして市場を全部さらっていくやり方にどう対処するかということ。10日の日経は、国営のパネル最大手、京東方科技集団が地方政府の出資も得て、計1兆6千億円を投資、有機ELパネル、大型液晶パネルの工場を建設すると報じている。政府による助成金を制限しているWTOなど、どこ吹く風といった風情。一般に国営企業と言うのは効率で劣るし、採算計算をちゃんとしないので、民営企業に劣ると言われているのだが、このやり方でやられると、他国の企業はたまったものでない。こういう図体の大きな国営製造業は、数年先には必ず行き詰るのだが、その時まで外国の企業はもたないかもしれない。
まったく、がちゃがちゃ騒ぎまくって、手に触れるものはなんでもかっさらおうとする人物が同じ部屋にいるようなもので、こちらは疲れる。高級品、小口注文品に特化して体力を維持しつつ、数年の嵐をやり過ごすしかない。そして中国の企業が1,6兆円も投資すれば、そのうちかなりの部分は日本からの製造機械の輸出となって、日本にも利益がある。
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