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世界文明

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2024年11月 2日

スタグフレーションへの備え

(これは、先週のNewsweek日本版に掲載された記事に加筆したもの)

 「スタグフレーション」がやってくる、と言う人が増えている。不況で雇用が減り、賃金が下がれば、物価は下がるのが普通。しかし原油価格上昇などの外部要因でインフレが起こり、住民はダブル・パンチ。これがスタグフレーションだ。

 産業革命以降、「資本主義の危機」―要するにモノを作り過ぎて売れず、不況になる―は何度も叫ばれてきた。モノを買ってくれる人がいないと、資本主義は成り立たない。そのたびに経済を救ってきたのは実は植民地拡大であり、戦争だった。

最近のスタグフレーションは1970年代、米国で起きた。この頃の米国は、日本、西独からの輸出にさらされて製造業が空洞化したことなどで経済が後退、一方1973年の「石油危機」で原油価格が跳ね上がってインフレが起きたのだ。

これを境に夫婦共稼ぎが一般化し、青年の親がかりが増えるなど、鷹揚だったアメリカ人は一気にせちがらくなる。生活の悪化は、カーター大統領が1980年、たった一期でレーガンに敗れる主因となった。

そのレーガンは大規模減税と財政支出(特に国防費)拡大で経済を活性化すると、1985年には「プラザ合意」でドル安を実現。以後輸出は10年で約6000億ドルのオーダーへと倍増した。90年代にはインターネットが急速に発達し、IT経済が新たな次元をもたらす。

それに、世界経済への中国の参入が重なった。先進諸国は戦争なしに、新しい市場を手に入れたのだ。そして以後30年間、世界は中国を軸にGDPを膨らませ合う、「皆で一緒にドーピング」の現象を呈する

米欧日は中国に機械・部品を輸出して、中国の低賃金(その頃は)労働を使って製品に仕立てると、自国、そして世界に輸出した。中国へは2004年~08年の貿易黒字だけでも、8740億ドルの外貨が流入する 。中国の銀行はそれを人民元に換えて20倍もの融資として土地開発・インフラ建設に回す。土地が国有・公有で原価がゼロに等しいから、開発は空前の付加価値を生んで中国の高度成長を演出した

「ドーピング」は米国も同じで、膨らむ財政・貿易赤字を、国債の大量発行でごまかして成長を維持したのだ2000年~2020年、中国のGDP(ドル値)は12.3倍、米国は2.1倍、ドイツのは1.6倍に膨らんでいる 。日本は0.8%という惨めな数字(ドル換算)で、それでも2000年までに達成した高い生活水準は維持した。と言うか、日本は1990年代初めのバブル破裂がトラウマとなって、ドーピングをためらっているうちに、中国や米欧の成長に周回遅れ、それがアベノミクスの円安でさらに二周回遅れとなる。今や日本は、価格体系も別世界。ホテルは外国人観光客であふれ、企業はM&Aで買い叩かれる仕儀と相成った。

(中国が抜けても世界の底は抜けない)

 中国は、外国の資本と技術で築いた経済力、軍事力に舞い上がって米国に挑戦。国内では自国企業を優遇して助成金をばらまき、「助成金をもらうために」過剰生産に陥った企業は、押し込み輸出に走って、世界中で対抗措置を招く。外資の対中投資は減少し、米欧は中国産品への関税を引き上げた。今や世界のタカ派は「中国抜きの世界経済」を語り、ハト派は「中国経済を破綻させれば世界は共倒れ」だと戦々恐々。

 しかし、皆、中国を買いかぶり過ぎていないか? 中国市場は膨大と言われるが、所得水準がまだ低いため、民間消費総額は米国の半分以下に止まる。西側諸国はこれまで、最終製品を組み立て、世界に輸出する足場として中国を利用してきたが、組み立ては別の場所に移せばいい。これまで中国に輸出してきた、組み立て用の機械、部品はそちらに輸出されるから、例えば日本の輸出総額はさして変わらない。

 中国というドーピング成長の相棒がいなくなるのは寂しい。しかし、これからの世界は日本のように筋肉質の堅実な成長を追求していけばいいのだ。20年間で0.8%というのはやり過ぎだが、低成長に順応することだ。株主の利益より、社会全体の利益を考える好い機会ではないか

折しも少子化、労働力減少に対抗して生産性を維持・向上させるための投資はこれから増える一方。アフリカの発展、宇宙関連、核融合、量子コンピューター、AI、ロボット、脳波と機械の接続技術等々、時代を引っ張る夢は次々に出てくる。日本はそのいくつかの分野ではトップ・グループにいる。スタグフレーションは怖くない(と思おう)。

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