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世界文明

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2024年7月 7日

デンマークは少子化日本のモデルになるか

(これは、6月4日のNewsweek日本語版に投稿したものに手を加えたものです。もともと私のブログhttp://www.japan-world-trends.com/ja/cat-96/post_542.phpに掲載した長大な論文が元になっています)

 この頃、デンマークが静かなブームになっている。日本は人口減で騒いでいるが、デンマークは僅か600万弱の人口小国。「成長」をむやみに追い求めることなく、一人当たりGDPでは世界9位(日本は34位)という豊かな生活を送っているように見えるからだろう。
週37時間程度の勤務時間で、夏季休暇はぶっ続けで3週間、普通の人でも小ぎれいな広々とした家に住むのは当然、介護つき(但し軽度のもの)老人ホームは市営のものでも1人で70平米ほどの1LDK。
 
 しかしこの世界、うまい話はそう沢山転がっていない。デンマークは安全保障の意識が高いので、徴兵制を維持し、2000年代のアフガニスタン戦争ではNATOの一員として軍を派遣して多数の戦死者を出している。
デンマークは「あくせくと成長を求めない」ということはなく、グローバルな大企業をいくつか持ち、EU諸国の資金も引き付けて、経済を回している。世界一の海運企業Maersk、風力発電機のVESTAS、Novo Nordisk、Novozymes等の薬品・酵素製造大手、飲料のCarlsberg、児童玩具のLEGOは日本でも知られている。

驚くことは、デンマークは法人税が22%の低目であるということ。日本などでは、「もっと企業からむしり取って社会保障を充実させろ」ということになりやすいが、デンマークではそうなっていない。高水準の社会保障は、25%にのぼる付加価値税、そして所得の半分に及ぶ個人所得税(地方税、医療税を含める)で支えられている

つまり、企業はかなり高めの賃金を払うが(一人当たりの平均所得は税込みで月85万円弱)、法人税は低め、そして企業は年金等の社会保障費負担が軽い。国民はその高めの賃金の半分を税金として差し出し、それで社会保障を賄う。デンマーク政府の歳入の53%が個人所得税、20%が付加価値税なのだ。

公営の老人ホームは安価だが、貯金を持っている者には料金が割高になる。そこを誤魔化そうとしても、デンマークでは1970年代から個人ナンバー制度が整備され、所得はしっかり把握されているから、貯金を親族名義に移しても逃げようがない。

失業保険は最長3年間も支払われ、職業転換のための教育・研修は充実している。このため、企業はリストラを安心して行うことができ、EU諸国を初め外国企業もデンマークに進んで投資する。デンマークの社員、従業員の資質、勤労意欲は高いのだ。
そしてこれらすべてのことは、「EUの中のデンマーク」、「世界の中のデンマーク」という意識の中で進んでいる。世界の市場、資金、技術、労働力を使う。GDPの30%強を外国市場でたたき出すし、テレビでは昔からスウェーデン語、英語、ドイツ語などの方がチャンネルが多かった。デンマーク人は住宅取得のための貯蓄はせず、住宅ローンでさっさと購入し、カネを消費に回すのだが、住宅ローンの原資はドイツなどの銀行からもやってくるのだ。
労働力不足はトルコなどからの移民で解決しており、移民は人口の8%程度に達する。

こうして人口小国でも、生活大国であることはできる。デンマークの20倍の人口を持つ日本に、それは並大抵のことではできないが、株式市場欄に居並ぶ大企業の数を見れば、できない話ではないだろう。

無駄な会議、稟議、上司や有力者への「ご説明」、そしてカスハラ顧客への対応などを整理すれば、労働力はまだまだ絞り出せる。そして英語、国際意識・・・。もう、よそう。生活大国になるのはそんなに簡単ではない。でも、これからはロボットやAIを搾取して生きていける。

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