Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界文明

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2024年6月10日

日本経済、本当の世界順位は何なのか?

インフレで膨らんだ世界と、デフレで縮んだ日本のギャップ                               

 この頃の日本では、GDPでドイツに抜かれたとか、今年はインドに抜かれるとか、やる気がなくなるニュースが相次ぐ。日本では、これまでの十八番、製造業が随分海外に流出してしまったので、その分、国内での力は確かに落ちた。しかも、欧米諸国が2008年リーマン危機以降、インフレで、価格水準が約2倍の上げ底になっている(賃金も上がっている)のに対して、日本は価格も賃金もついこの前まで超安定。欧米との通貨レートは基本的に変わっていないので、日本経済は名目額ではインフレ諸国に大きな差をつけられた。
つまり、日本の地位低下は数字上の話しで、実際の生活水準はむしろ上がっているのだ。20年前に比べれば、新築の住宅の水準など随分上がった。昨年12月は270万人強と、空前の数の外国人観光客が来日したが、これは日本が居心地の良い社会であることも関係している。

リーマン危機直後、利下げの後れで円高⇒製造業の海外流出とデフレ傾向

 日本は、1985年のプラザ合意後の円高で輸出の増加を止められ、1991年のバブル崩壊で内需も大きく失った。以後、日本経済はほぼ万年危機で、金利は低水準に貼り付いたまま。短期プライムレートは1990年に8%だったのが、1993年には2,4%、95年には2,0%、リーマン危機直前には1,8%にまで落ちていた。
 2008年9月リーマン危機で、米欧の中銀は協調して敏速な利下げに出る。米連銀は政策金利を2%から1,5%に下げ、半月後の10月31日には1%に下げる。12月16日には実質ゼロの水準に下げた。日本では、短期プライムレートは2009年1月になっても1,475%あり、米国に比べて金利水準が高くなる。これで円高になり、2008年には1ドル100円ほどだったのが、2013年には80円を割る。これで製造業を初め、日本の企業は海外への流出度を大きく高めた。
 リーマン危機で日本企業への海外からの注文はぴたりと止まって、日本のGDPはこの時、円ベースで約8,3%(2007年から2009年にかけて)縮小している。製造業の海外への流出で、GDPは更に縮小した。
 2013年、安倍新政権の下で始まった異次元の金融緩和で日銀は1年分のGDPに近い国債を買い込む。19世紀初めナポレオン戦争の際のイングランド銀行、第2次大戦時、米連銀による国債買い入れのマグニチュードに近い。平時には異例のことだ。この異次元緩和で金利はマイナス水準となり、円は「下がって」(当時にしてみれば)、1ドル110円と120円の間を推移するようになる。

日本と欧米、異次元価格体系が生み出すねじれ

 このリーマン直後の数年で、欧米と日本は国内の価格体系が文字通り「異次元」のものになっていく。欧米ではインフレが続き、賃金もそれに追いついていったのに対し、日本ではモノの価格も賃金も変わらなかった。2008年から2022年にかけて、米国での消費者物価指数の上昇は合計で47%に達している。その間、米国の名目GDPは実にほぼ倍増しているのだが、その半分はインフレに支えられた水ぶくれだったことになる。
 言ってみれば、欧米はインフレを容認することで経済を維持し、日本はデフレによって生活の安定を維持したのだ。日本では、企業は死んでも賃金を上げず、国民はモノの値上げを死んでも認めなかったから、欧米と日本の価格水準はどんどん乖離していった。今や日本での平均賃金は約2000ドルで、ドイツの約4000ドルの半分になったが、ビッグ・マックの価格は日本が3,17ドル、ドイツ(ユーロ圏)が5,82ドル。米欧は高賃金だが、それに見合って高物価。実質的な生活水準で、差はない。先方の価格表示が二倍になっただけのことなのだ。

 2022年2月ウクライナ開戦で原油価格が急騰、インフレ上昇の引き金を引いたため、米連銀は利上げを開始する。日銀はこれに追随したくとも、利上げは中小企業の倒産を増やすのでできない。そこを投機家はついて、円売り、ドル買いで円安を助長する。
 円は下がり、日本のGDPの順位はどんどん下がっていく。しかしこれに反比例するかのように、外国人観光客の数は増えていく。それも先進諸国からの観光客が。彼らは以前、「日本という後れた、封建主義の残滓をひきずる国のチンケな神社や寺でも見物に」という感じだったのが、この頃は日本の文化、日本人の生活ぶりに憧れてやってくる。日本のマンガ、アニメに幼時から親しんで、日本への違和感を持っていない。
日本の都市は清潔で便利で店での対応はきちんとしている。人々は(一応)幸せで自由に見える。異民族の出稼ぎと高物価と格差の増大に悩まされる米国、欧州の連中には、今の日本はエルドラド、しかも低物価なのだ。

このままでは本当にジリ貧

だからと言って、日本はこのままでいいわけではない。やっと始まった賃上げ⇒内需拡大⇒投資増大⇒売上増加⇒賃上げの好循環を維持しなければならない。
そして輸入を賄えるだけの輸出を維持するため、競争力を磨かなければならない。IT、AI関係の輸入が増えるのは仕方ないが、それを使って日本国内で大きな付加価値を生み出し、できれば輸出にも回す力がついたらいい。
そして現状に甘んずることなく、「何くそ」という気持ちで世界に討って出る人材を増やしたい。「成長なんてもういらない」という人たちはそれでいいので、前に出ようとする人たちを止めないで欲しい。
経済活動、いわゆる資本主義がもたらす環境問題、格差拡大は成長を止めることによってではなく、成長と並行して取り組んでいくべきだ。

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