主要国首脳会議次期議長としての日本の責務は資本主義 民主主義の王道を確認すること
(これは6月9日に発売されたNewsweek誌[日本版]に掲載された記事の原稿です)
主要国首脳会議が終わった。これから一年、日本がこの会議の議長国となる。そろそろ議題の検討も始まるだろう。折角の大舞台の取りまとめ役となる、このチャンスを活用するべきだ。
この頃のサミットは議題が平凡、あるいは小粒で、ロマンを感じない。しかし今の世界は政治・経済とも大きな境目にある。サミット参加諸国は基本的な認識をすり合わせ、今後のあり得べき方向、そしてその中における先進国の役割をまとめ直すことが求められている。
「資本主義は終焉」なのか
まず、二〇〇八年の世界金融危機で生じた資本主義への疑念、国営企業中心の中国が台頭したことで生じた市場経済への疑念、そして社会の多様化と経済の停滞によってガバナンスが低下した先進国の民主主義の危機について、認識を整理しておく必要がある。
二〇〇八年の世界金融危機で、G20、あるいはBRICSが世界経済の新たな主人公としてもてはやされるようになったが、G20は数が多すぎる上に、内部で先進諸国とBRICS諸国が対立気味で、ものごとが決まらない。BRICS諸国の経済はインドがやや良いのを除いていずれも足踏みが顕著だが、それはこれら諸国の経済・社会に国家や党の過度の介入や腐敗など、構造的な問題があるからである。
他方、老舗の「資本主義先進諸国」は、経済成長をもたらす種、つまり資本と技術と経営ノウハウを相変わらず持っている。二〇一三年世界の直接投資は一兆四千五百億ドルにのぼり、このうち六十一%は先進諸国企業によるものである。二〇〇七年の七十五%に比べると、先進国企業の比重は落ちたが 、それでも技術と経営ノウハウの移植を伴う良質の投資は、先進国企業の独壇場である。
中国企業は繊維・縫製、あるいは電機のHaier、通信のHuaweiなどが海外生産を増やしているが、先端技術の分野はまだ先進国企業の独壇場である。iPadは中国で組み立てられているが、その販売価格五〇〇ドルのうち、中国の労働者が得る分は僅か八ドル、その他はアップル本社、韓国、台湾、日本等の部品企業、流通業等が得るという構造になっている 。
次に、市場経済より中国やロシアのような国家統制経済の方が強いのではないかという疑念は、さっぱりと捨てるべきである。ロシア経済の成長が原油価格急騰でもたらされたことは周知の事実だが、奇跡ともてはやされる中国経済も、実は今でも輸出の五〇%を外資系企業が行っている 。外国からの直接投資、そしてそれがもたらす貿易黒字の合計は今でも年間四千億ドルを越え、それがインフラ投資で膨らまされて「高度成長」を演出しているのである。つまりロシア、中国は国家統制経済であるが故に成長できたのではなく、統制経済であるにもかかわらず、外部要因によって棚ボタ的成長を遂げたのである。
資本主義・民主主義もオーバーホールを
一方、先進諸国の市場経済・民主主義モデルの方も、構造的問題を抱えている。米国で顕著だが、富の偏在・格差が甚だしく、それは消費の増大を妨げている。米欧日とも過度の金融緩和で景気刺激をしているが、それはまたバブルの崩壊を招いて世界経済をどん底に落としかねない。ここでは、格差是正、そして投機行動の抑制が必要なのである。
もう一つ、先進国では政党をベースとした代議制民主主義が、社会の多様化と国民の権利意識の向上で、大幅な立て直しを迫られている。また、先進国が途上国に上から目線で民主主義を押し付けるやり方も、情勢を混乱させただけで古い利権構造を打破するに至っていないという問題を抱えている。
これらの問題は、主要国首脳会議だけでなく、OECDなど、より多くの国が参加する組織で議論していくのが適当だろう。
来年の主要国首脳会議は、オバマ大統領にとっては最後だが、日、独、英、仏の首脳はまだ先がある。じっくりと議論ができる。そしてウクライナ問題を収拾できれば、ロシアの復帰も議論の対象となる。日本では、主要国首脳会議を主催する年には総選挙があるのが通例なので、安倍首相も腕の振るいどころだ。
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