Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界文明

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2023年4月11日

賃上げラッシュがもたらすもの――1970年代の経験

(これは3月22日発行したメルマガ「文明の万華鏡」第131号の一部です)
今年の春闘では久しぶりに、ベア引き上げが目白押しになった。組合の要求を上回る引き上げを提示する企業さえあった。連合加盟の組合で、引き上げは平均3,8%。

 企業が賃上げしないから人々は財布のひもを緩めず、消費が伸びない。だから企業はもうからない。もうからないから賃上げできない。だから・・・の悪循環は、やっと断ち切られた。しかしこれでも、インフレをカバーするには至らない。実質可処分所得は下降を止めていない。中小企業は賃上げをする体力を持たないので、従業員を確保するのに四苦八苦。
 
 これは1950年代半ばからの、日本の高度成長期に見られた現象に一部似ている。60年代までの日本は貧しくて、1970年に外務省に入省した筆者の初任給は確か2万500円。外国留学を終えて1974年に帰国すると、給料は確か7万円そこらになっていて、感激したものだ。

 しかしモノやサービスの値段もどんどん上がった。中小企業は従業員を確保するために、泣く泣く賃上げをしたのだが、製品やサービス提供価格も引き上げた。筆者が10歳くらいまでラーメンは30円くらいだったのが、1980年になると300円を超えていく。そして、1973年の石油危機がインフレに油を注いだ。それでも、賃上げはインフレを上回り、円レートが上がったこともあり、日本人の生活水準は急速に上がる。「戸別の風呂がついている」ことでひばりヶ丘団地は有名になったが、今の新築マンションのインテリアは、ふすまで六畳、四畳半に仕切られた窮屈な日本風のスタイルを完全に卒業している。

 これからの日本経済の見通しは、米EUで進行中の金融危機がどこまで行くかにかかる。もし危機の到来が防げたとするならば、賃上げによって日本人の消費が増えて、GDPの成長率は上昇するだろう。過熱を防ぐために、日銀は利上げの度を強めるだろう。

この時米欧が不況を避けるために利下げに転じていれば、日本との金利差は拡大して、アベノミクス直前と同じように、円高・デフレ傾向が再来するだろう。ドル・ベースでの日本経済の規模は膨れ上がり、「ドイツにGDPで抜かれる」ことも起こらなくなる。

 そしてその先は・・・。マクロ経済の浮き沈みはこれからも続く。それに一喜一憂するのはやめて、日本は人間・企業の質を磨き、組織・制度の改善を不断に行っていくしかないだろう。いつの日か、ブロックチェーンを活用するなどして、モノとカネのミスマッチがマクロ経済の浮沈を起こすのを防ぐことができるようになるかもしれない。17世紀以来の紙幣経済は、その時一つの画期を迎えることになるだろう

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/4249