国内で良かれと思う政策で、対外的には縮小する一方の日本経済
(これは7月27日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第123号の一部です。その後日米金利差は更に開き、円は20数年ぶりの低値に沈んでいます)
20~30年前は、ドル・ベースでの日本のGDPは大きかった。円高のせいで。しかし円高のせいで、外国人にとっては日本に旅行するのはカネのかかることだった。特にホテルの宿泊料、そして新幹線の切符代。
ところが今は、アベノミックスのおかげで日本のGDPは2010年~19年の間に円ベースでは12,8%伸びたが、ドル・ベースでは3,2%縮小している。コロナで外国に行く機会が減っているから感じないが、3年前筆者がボストンに行った時はホテルで一苦労。一泊100ドル以下に収めようとしても、普通のホテルでは到底無理。やっと民宿の類をみつけて日本からメールで予約したものだ。
「番地はここ。ドアは3456(例えば)のコードを入力すると開く。入って一番目の部屋がお前の部屋で、ドアのカギ穴に鍵がさしてあるから自分で入って使ってくれ」式の指示をメールでもらって行くだけなので、不安でたまらない。こちらは重いスーツケースを持っているので、タクシーから降りてすぐに入れないと、お手上げなのだ。
この時は問題なくいったけれど、モスクワでもロンドンでも北京でも、ホテルの値段は日本とまったくかけ離れてしまった。日本の幕末は、江戸300年の平和の後で、生活はそれなりに豊かなものがあったが、価格体系は欧米とまったくかけ離れていた。この差をついて、欧米の商人たちは法外な利益をあげていたものだ。
これと同じようなことが今、起きている。マクドナルドのビッグマックは、日本では390円だが、ニューヨークでは700円相当を超える。ほぼ2倍。幕末、外国の商人は割安の日本の金か銀を買い集めたが、今ならさしずめビッグマックを大量に買い占めることだろう。
こうなったことの背景の一つには、リーマン危機のあと、日本と米欧の金融政策が逆方向を向くのが多かったことがある。2008年、米欧諸国は危機を克服するため金利を下げ、財政支出を膨らませた。これは景気を刺激し、名目ベースでGDPを膨らませる一方、インフレを引き起こす。
我々は、「そんなのは偽りの成長だ。インフレ分を引けば、実質の成長は低いものにしかならない」と言いがちだが、膨らんだバブルがつぶれなければそれはいつかは実力になっていく。というわけで、日本経済は米欧に比べて相対的に縮小することになった。
それでも2010年頃は超円高で、ドル・ベースの日本経済は世界で大きな存在感を保持していたのだが、「経済を大きくするためのアベノミクス」は円安をもたらし、ドル・ベースではかえって経済を縮小させることになった。つまり円高になろうが、円安になろうが、日本は欧米の成長にどんどん後れをとることになり、相対的な縮小を続けたのである。
日本の企業はまだ競争力を維持しているのに、この結果は遺憾なことだ。2010年、日本は世界のGDPの8,7%を生産していたが、2021年には5,1%に下落していた。
日本もアベノミクスで異次元緩和をやったが、資金は結局日銀に戻ってしまい、景気をさして刺激することはなかった。多分、企業が賃金引き上げを嫌ったからだろう。賃金が上がらなければ消費は増えず、投資もGDPも増えない。欧米での金融緩和が名目GDPを膨らませたのに比べて、日本の金融緩和の効果が限られたのは、そのためだろう。
そして今、日本はその「あまり景気を刺激しなかった」異次元緩和から抜けられないでいる。金利を上げると国債価格が急落して、国債を大量に抱え込む日銀のバランスシートを毀損、円の信用を失わせてハイパー・インフレが現出する(と思われている)からだ。
外資はそこを見越して、円をどんどん売り浴びせる。円の対ドル・レートは2015年12月1日の1ドル124,11円から、7月27日には1ドル137円に下落した。こうして日本経済は、ドル・ベースでは縮小する一方で、海外旅行にも一苦労するようになったのだ。
日本人は清貧とか言ってやせ我慢しているが、この状況は自縄自縛だ。2010年頃欧米と同時期に金融緩和していれば、円高で産業の海外流出を招くこともなかったし、今回は欧米に合わせて金利を引き上げれば、これほどの円安に悩むこともなかったのだ。
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