バイデン政権の核兵器忌避と日本への核の傘
(これは、11月24日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第115号の一部を少し修正したものです)
バイデン政権はその安全保障政策の根幹を定めるNational Defence Strategy, Nuclear Posture Review(核兵器配置、近代化等の方針を定める)を近く発表することになっている。これは、米国で準定期的に行われることだが、その時々の政権の意向を反映したものになる。
民主党政権は国防力増強にはさほど熱心ではない。その中で、核政策について最近、ワシントン・ポスト紙11月4日付に面白い論文が出た。ブッシュ・ジュニア政権時を中心に、米国政府で安全保障政策に携わった専門家2名(うち1名は欧州での勤務経験の長い元外交官) が、バイデン政権内部で強い反核兵器機運に水を浴びせたのである。
両名は言う。
――バイデン大統領はかつて副大統領の時代から、「敵の攻撃が核兵器を用いていない場合には、米国は核兵器をいきなり用いることなく、非核兵力で十分対応できる」との見方をオバマ大統領に吹き込み、2020年大統領選最中も、「米国が保有する核兵器は抑止、及び核攻撃への報復のみを目的とする。自分が大統領になれば、米軍部及び同盟諸国と協議して、右の信条を実地に移す」との趣旨を公言していた。
(彼が選んだ国防省幹部の中にも同様の立場を持する者は数名おり)、Nuclear Posture Reviewにこれを書き込もうとして、国内、NATO内の強い抵抗を受けている――
NATOの欧州諸国は、2010年以降のロシア軍近代化・増強で、欧州正面は米軍・NATO諸国軍の通常兵力だけではこれを抑止しきれない、核の第一撃使用という「抑止」(脅し)は必要だ、と言うのだ。
それは日本の場合、事態はもっと切実だ。NATOの場合、英仏が自前の核兵器を持っているが、日本は裸で、北朝鮮や中ロに核兵器使用をちらつかせて脅されたら、国内は大騒ぎになる。それでなくても、米国はオバマ政権の時代、核弾頭つきの巡航ミサイル「トマホーク」を西太平洋から引き揚げて、「核の傘」を穴だらけにしている。ここで米国が核の先制使用を明文で放棄すると、日本のための抑止力は大幅に低下するだろう。「日本を核攻撃したら、米国は核で反撃する(かもしれない)」というのでは、日本は立つ瀬がない。
米国の拡大抑止力が弱化するのであれば、日本自身による核兵器保有が議論の的になってくるだろう。
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