安倍 河野チームの日本外交始動
(これは1月23日発行の日本版NEWSWEEKに掲載された記事の原稿です)
この5年の日本外交で、安倍=岸田タッグは本当によくやってくれたと思う。小泉政権後の混乱の時代にすっかり疎遠になった世界との関係を、回復することができたからだ。
しかし、安倍=岸田外交の5年間、重要な隣国の中国、韓国との関係はしっくりしないまま推移した。そして世界は「中国のカネ」に目がくらみ、中国にたてつく日本をうるさがっている。そして安倍首相は外遊に日本の企業代表を大勢連れて回る等、外国を日本国内でのポイント稼ぎに使う面が強かったので、日本では大きく報じられても、現地では広い関心を引くことはなかった。こうして、日本が世界でどんどん見えなくなる傾向には歯止めがかからなかったのである。
その中で、安倍=河野タッグの登場が、日本外交に新味をもたらしている。岸田外相もその日本的な誠実さで、多数の相手と信頼関係を築いたが、河野外相は留学経験もあり、むしろ欧米的に単刀直入、相手の懐に飛び込む。
CNNでのインタビューを見ると、並みの外交官を上回る英語と、そして何よりはったりの効いた明瞭なメッセージを発する点で、強いPRの能力を持つ。これまで一人で世界中のシンポジウムなどを渡り歩いていたので、環境問題、中東問題、何をとっても当事者達の琴線に響くことを目ざとく見つけ、それについて日本ができることをポンと言うので、先方の頭には「日本」が前向きの形で強く刷り込まれるのだ。
河野外相は就任早々、世界を駆け回り、中でも中東との外交に力を入れると宣言した。筆者など、日本があの海千山千の揃う中東で何ができるかと思ったものだが、早速チャンスが訪れているようだ。
昨年12月6日トランプ米大統領は、「エルサレムをイスラエルの首都と認める」というスピーチを行い、世界で総スカンを受けた。12月18日の国連安保理は、「米国に撤回を求める」という決議を上程し、ここで安保理議長国であった日本までが、これに賛成する側に回ったのである。いくら、英仏なども賛成にまわったからと言っても、これまでの日本の対米配慮過剰の外交からは180度転換の大バクチ。だがその割には、トランプは日本や欧州諸国への怒りは見せていない。20日彼が発したツイッターは、21日国連総会での同種決議案採択に向け途上国を、決議に賛成すれば援助を停止すると脅したものだ。
この騒ぎの中、河野外相は中東諸国を訪問し、25日にはイスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長と会談、両者の協議再開のため、環境整備に尽力する考えを伝えた。日経の報道 では、東京で米国を含めた四者会合を行うことを打診したともされる。
これに対して菅官房長官は「聞いていない」としてコメントを避けたが、この思いつきはコロンブスの卵のように案外うまくいくだろう。トランプは、エルサレムをイスラエルの首都と認めるという声明を出した同じ日に、これまで米国の大統領が定期的に署名してきた「米国大使館のエルサレムへの移転を半年延期する」という行政文書に署名している 。
トランプの声明は一種の口先外交で、イスラエルを喜ばしておきながら、実際に意味のある行動は差し控えているのである。そして、パレスチナを支援しているアラブ諸国、特にサウジ・アラビアは、中東での覇権をイランと競うことに懸命で、最近ではイスラエルと密かによりを深めている。
だとすれば、東京にパレスチナ、イスラエル、アラブ、米国の当事者が集まって、「トランプ声明の真意はこれこれこうで、和平への動きを覆すものではない」という一点で、当面の手打ちをするのも可能ではないか。これができれば、日本は「パレスチナにウン千万ドルの経済援助を行う」と一人ひっそり声明を出して、また世界から無視されるより、はるかに効果的な外交になる。
河野外相が9月の自民党総裁選挙に出馬する構えを崩していないので、安倍総理としては彼にばかり花を持たせたくないだろうが、外国で受ける日本人は国内では受けない。だから釈迦のように落ち着いて、掌の上で孫悟空=河野外交を使うつもりになればいい。下ごしらえは外相、花を持つのは総理、そして米、中、ロシアなどの大所は総理というすみ分けで、厚みのある外交、そして日本の見える化をしてほしい。
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