10月27日総選挙の結果、日本では遅かれ早かれ、多分政権交代へ
――だがそれは、外交・安保・経済政策で大きな違いはもたらすまい――
10月27日、日本では衆議院(下院)の選挙が行われ、自由民主党・公明党の連立与党は議席過半数を失うという、大敗北を喫した。自由民主党は選挙前、総議席465中の261と、単独でも多数議席を有していたが、選挙の結果191議席となり、公明党も党代表が落選する等、議席を大きく減らした。
自民党敗北の理由
自民党が敗北した主因は、パーティー等で集めた資金に対して税を払わず、政治資金として使っていたのが発覚したことだろう。米国やロシアで動く政治資金の規模に比べて、これは微々たるものなのだが、日本では不正として報道される。近年、円が下がったことで、かなりのインフレに悩まされている国民にとってみれば、政治家が脱税をするのは許せない。
この件は、昨年秋、共産党系メディアが報じたのを、メジャーのリベラル系朝日新聞がフォローしたのがきっかけで、2024年を通じて燃え広がってきた。その結果、岸田総理は8月、次の自民党総裁選挙には出馬しない(実質的に総理辞任を意味する)意向を表明し、9月27日行われた党の総裁選挙で石破茂氏が総裁に選ばれた。この時の主要な対抗候補は高市早苗(女性)で、彼女は対中・対韓強硬派、財政では緩和路線の維持を主唱していた。
石破は菅・元総理等、そして高市は麻生・元総理等の有力者の後ろ盾を持っていて、選挙は菅vs.麻生の代理戦争の様相も示した。
新しい石破政権は、国会を開いて野党から政治資金問題について集中砲火を浴びる前に、そして野党が小選挙区で候補を一本化して、野党票をまとめる前に、総選挙を行うことを決意した。そして大敗し、選挙から1カ月以内には開かねばならない国会で行われる、新総理の選出(国会議員全員の投票による。通常、与党党首が選ばれる)では、石破総理が多数票を取れない可能性も出てきた。野党が立憲民主党の野田代表で一本化し、かつ自民党・公明党からも野田支持に転ずる議員が数名出れば、野田氏が次期総理となるのである。
日本の政治は農村から都市型へ
以前ならば、自民党はいくらスキャンダルが表面化しても、多数議席を維持した。それは「日本では農村部で選ばれる議員が多く、農村部では農協や医師、郵便局などの既得権勢力が選挙を大きく左右している」からだ、とされてきた。
しかし経済の発展と都市化の進展で、地元の利権構造に依存せずに暮らす人間が増加した。今日では、有権者の40%が特定の支持政党を持たない「浮動層」になっている。つまり日本の民主主義は、かなり真正なものになってきたのだ。もっとも、時としてそれはポピュリズムに転ずるのだが。
遅かれ早かれ野田政権へ
今の自由民主党は、氷山にぶつかった後のタイタニック号のようなもので、今すぐではなくとも、1年以内には沈没=政権交代する可能性が高い。
最短では既に述べたように、11月国会での首相指名選挙で自民党の候補が敗れる場合である。次の大きな関門は来年1月からの国会での、来年度(4月からの1年間)予算案の審議である。ここでは、岸田総理時代に決めた、「5年間で国防予算を40%増額する」ことを実行に移さねばならないが、国債を発行しなければこれは賄えない。野党はこうした問題、加えて自民党の政治資金の問題を追及して、国会審議を麻痺させ、予算案の採択を妨げるだろう。これは、国会の解散と再びの総選挙を呼び、その総選挙では自民党はおそらく政権を失うだろう。ここで石破政権が生存する道は、右派系野党の国民民主党や維新の要求を予算案に入れ、その支持を得て予算案を通すことだろう。
ただその場合でも、夏には参議院(上院)の選挙が予定されており、ここでも自民党・公明党連立が現在持っている過半数の議席を失うこととなれば、全ての法律案の審議は行き詰まり、総選挙を余儀なくされ得る。
立憲民主党、その他の野党も内部は一枚岩ではなく、それぞれスキャンダルを抱えているだろうが、マスコミがそれを問題にするのは、野党が実際に政権を取ってから後のことになるだろう。
野田政権誕生は日本をどう変えるか?
以上、2009年8月民主党政権が登場した時と同じく、国民は日本の旧来の利権・政治構造の上に乗っかる自由民主党に愛想を尽かしている。2009年の場合、政権交代を担った民主党は、国民にとって全く未知であったが、国民はこれに賭けた。そして後に安倍総理が言ったように、「(行政に未経験な民主党の政府に)ひどい目に会わされた」。
しかし、今回政権交代の受け皿となる立憲民主党の野田氏は、2012年12月まで民主党政権の首相を務めた人物で、それまでの鳩山、菅とは一変して、当時から手堅い行政手腕が評価されていた人物である。彼は均衡財政を求める財務省の求めに応じて消費税の税率引き上げを行い(それで野田政権は国民の信頼を失い、下野したのである)、尖閣列島防衛については右島の国有化を決める等、自民党と見紛うような保守的な政策を展開していたのである。
つまり国民は、新しい政策を求めて野党に投票したと言うより、自由民主党ではない、しかし安心できる政治家に投票した、と言えるだろう。立憲民主党は一枚岩ではない。旧社会党の組織、そして労働組合に支えられた左翼系・社会主義系の議員も多い。他方では、自由民主党に代わって政権を担い得る穏健・保守系、特に官僚出身者をも多数擁する。野田氏は後者に属する。彼の父親は自衛官であった。
石破・野田はタカ派なのかハト派なのか
石破、野田、いずれが総理になっても、外交、安全保障の機軸を対米関係に置く点で大きな違いはあるまい。石破総理は対米自主性強化をめざして日米地位協定の改訂、あるいは「アジア版NATO」の結成などを提起すると報道されているが、彼はこれを当面、自民党内での議論に止める姿勢を示している。中国、韓国、インド、ASEAN、ロシア、中東等との外交でも、これまでと実質的な違いはない。
第2次大戦後の日本は、帝国主義的な拡張主義に再び出る芽を摘まれており、国民も世界での日本の地位は経済・文化によってしか築けないものと思っている。他の国ではよくあるような、国内での困難を、対外的な冒険でごまかすようなことは、戦後の日本では考えられないのである。
近年、家電製品では日本企業の名を目にすることはなくなったし、自動車でも中国等の電気自動車の躍進が顕著であることから、日本経済の退潮を云々する向きは多い。しかし、家電の最終製品、あるいは半導体(micro-chips)の生産では台湾、韓国等の企業が伸長しているものの、部品、素材、製造機械の生産では、日本は世界でもトップ・クラスの力を維持している。
総じて、これからの数年、日本の政治は他の先進諸国と同様、かなり乱れるだろう。しかし、政権がいくら代ろうとも、日本の企業は自分で道を切り開いていく。
世界では、2000年代、世界経済に中国が参入してきたことで始まった、グローバルな富の再配分がいまだに進行中である。中国その他に製造業が流出して、国内の不満が増大した先進諸国では、ポピュリズムが軒並み強くなって、政治を不安定化させている。製造業に軸足を置いた、かなり強靭な経済体質と、終身雇用に基づく強固な官僚組織を有する日本は(最近では若手官僚が大量に退職していくが)、その中では政治不安に対するresilienceが高い方なのだと思いたい。
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