ロシアに揉み手をするのはやめて欲しい
今日15日21時のNHKニュースを見ていたら、日ロ関係の話になり、「(メドベジェフ大統領が島に行く等)日ロ関係はこれまでで最も悪い。麻生・鳩山政権が『ロシアは北方4島を不法占拠している』などと、刺激的なことを言うから、こういうことになった。日本は何とかしなければならない」というトーンが貫かれていた。
まるで日本が悪い、メドベジェフ氏が島に行ったのも日本のせいだ、ロシアに謝ってでも気を取り直してもらおう、と言わんばかり。
――これでは、日本はまた一人相撲。自分で自分に足をかけて相手の目前ですってんと転ぶのだ。
ロシアが実効支配している島に大統領が行っても、日本としてはどうしようもない。スピッツのように鳴きたてるだけでは、相手に馬鹿にされるだけだ。「メドベジェフ大統領が行ったが、これで日本側の立場には何の変更も生じない。日本はこれまで同大統領が約束してきたとおり、この問題の解決をめざしてロシア側と交渉を続けて行く」という声明を出し、それを国際的にも周知させておけば十分だったのだ。
ただ同大統領が歯舞・色丹をも訪問して日本の傷に塩を塗ることがないよう、牽制しておかないと(具体的に何かはここでは言わない)。相手のマイナスな行動にはマイナスな行動で対抗する。金をやったり謝ったりして相手のマイナスな行動を止めようとすれば、自分の品位と立場と財布を害するだけだ。
「不法占拠」という言葉を日本政府が使ったのが悪いとNHKは言うが、それが歴史の真実なのだからしょうがない。強い言葉のやり取りは米国・ロシアやNATO・ロシアの間では日常茶飯事のことだが、互いに謝ることもカネを支払うこともなく、翌日はしれっとして握手している。それが欧米諸国の外交のやり方だ。
北方領土問題を何とかしなければ、とNHKは言ったが、今、領土問題(実際は戦後の国境を画定する問題なのだが)を解決しようとせっついても、日本が100%譲るならまだしも、これから大統領選挙に入ろうとするロシアが応ずるはずがない。不利な状況の中で急いでどうする?
中国はロシアとの国境河川の川中島の帰属問題をじっくりと腰を落ち着けて待ち、時至ってロシアが譲って静かに解決した。ウラジオストックとその周辺の沿海地方は1860年まで中国領だったが、中国はそのことを教科書で国民に教えつつ、ロシアに対しては静かに構え、時が熟するのを待っている。
そうした方がロシアにとっては怖いのだ。日ロの間でもそうしておけば(もちろん政府間ではこれまでと同じく、北方領土問題解決を強く働きかけていく。外に対してはスピッツみたいにキャンキャン言わない)領土問題はロシアにとって負担になっていく。それにロシアは、2012年ウラジオストックでAPEC首脳会議をやるのに、日本との関係が不安定なままでいいのか? そうこうするうち焦れたロシアが日本に何かの手段で圧力をかけてきたら、国際司法裁判所に訴えればいいのである。
北方領土問題が解決していなくても、シベリアの石油やサハリンの天然ガスは入ってくる。日本は好い値で大量に買い取る、最良の顧客だからだ。ロシアが「中国にだけ売る」と言っても、資源エネルギー庁はロシアに叩頭外交をする必要はない。ロシアが中国に足元を見られて安く買いたたかれるだけだからだ。
ロシアが政治と経済をリンクさせて、トヨタや日産の工場に嫌がらせでもしようものなら、ロシアがWTOに入れなくなるようにする。国際関係の網の目は複雑に絡み合っていて、日ロの間の力関係はその総和の中で決まってくる。日ロ関係という狭い土俵でだけ相撲をとっていてはならない。
日ロ関係については、1997年の橋本・エリツィン会談以降(2000年までに平和条約を結ぶという約束を両首脳がした)、2000年代初期の田中真紀子・鈴木宗男対立に至るまでの関係者の間の怨念、野心が今でも渦巻く。
そしてロシアはロシアで、鈴木宗男は2島だけで譲ろうとしたが故に国内で弾圧されたのだと固く信じている。ロシアは、鈴木宗男が健在ならば今頃歯舞・色丹の返還だけで日本と「安く」和解できていたはずと思い込み、なんとか時計の針を逆に回そうとする。鈴木宗男的な人物がまた日本に出てくる日を夢見ながら。
だからこそ、北方領土問題のような大事なことには、怨念とか野心を除いて臨まないと駄目なのだ。
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コメント
現政権の無知蒙昧ぶりは外交でも例外ではありません。鳩山政権が滅茶苦茶にしてしまった日米関係を目敏く咎めて、尖閣諸島や北方四島で覇権主義者が活動を活発にします。それに対して、少なくともAPECへの相手国首脳の出席が決まるまでは平身低頭、揉み手外交で、正に国辱ものでした。何時までこんな素人外交が続くのでしょうか?
一言一句に正に然りと頷いております。これまでも事あるごとに私が感じてきたことをズバリ、かつ論理的に述べておられ感心致しております。
こうした問題が起こると、日本は隣家の日本人に対すると同じに静かに穏便に、と考えがちですが、此れだけでは大きな舞台での他民族との平等な付き合いが出来っこありません。
殊に今の日本社会は穏便を尊ぶ風習が培われていて、攻撃の仕方を訓練されてないのです。
大学の教育も他民族と議論し合意する術迄はとても教えません。教えらる先生もいませんから。
全ての日本の会社も未だに同じ文化で動いてますから、行く末は怖いです。
河東さんのご意見を是非日本の政治家ばかりでなく日本人全体に解らせる教育が必要です。
どうやったらそれが可能でしょう。
有難うございます。政治家にも、小泉さんや亀井さんのような喧嘩上手がいます。菅総理だってうまいはずなのに、どこか外国人にびびっていて。
戦後の日本人、もっと荒くれだったんですよね。
例えば米西海岸のチャイナタウンですが、町全体が中華一色。我が物顔の中国人達。店主は胸を張り鍋を叩いて中国語でまくし立ててます。空港でも、堂々と胸を張って、中国風英語でチェックインしてます。
そういう「荒くれた精神」を失ってしまい、スマートに内弁慶を続けていては世界の
中で日本は負けてしまいます。
ご指摘のように、このところの領土問題を巡る報道にはがっかりします。経済や外交の面で、失点ばかりをあげつらわないで、もっと日本の存在に自信をもって議論を組み立てて欲しいものです。時の政権は、「自分の任期中に領土問題が片付くことはない」という認識をしっかりもって政治を進めてほしいものです。おそらく、100年に一度くらいしかチャンスは来ないのでしょうから。
対ロシア外交では、ロシアからみた日本は見上げるような経済大国なのだという自信をもって戦略を練るべきでしょう。資源は確かにあるかもしれませんが、お客のつかない地下の資源は単なる「地質的現象」にすぎません。石油はまだしも、天然ガスの商談は10年がかりというのがあたりまえで、LNGの契約交渉は「よくLong Negotiation Game」と揶揄されるものです。私は、マレーシアで石油鉱区を取得して井戸を掘り、見つかったガスをLNGにする仕事に合計16年携わりましたが、ついに任期中に自前のLNGを見ることはできませんでした。今では、そのLNGは皆さんのご家庭のガスや電気のもとになっています。日本の資源外交についてのマスコミの見方には「輸出国の側からみたら?」というアプローチがまったくなく、誤ったリードをしているとしか思えません。
何年か前サハリンに行ったときに、オホーツクに面した海辺の村まで出かけてみました。8月なのに鮭の遡上が始まっていて、河の周辺にはバリケードが築かれ、若者がマシンガンを肩から掛けて日がな一日密漁者の監視をしている様子でした。資源の呪いというか、その様子は狩猟的一次産業に依存しきっている国の象徴的な姿のように思えました。プーチンは近代化を図り、そのようなロシアの姿を変えようと頑張っているのではありませんか。そのような視点から外交も報道も組み立てれば、前向きな国際関係を築けるのではないかと感じております。