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街角での雑想

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2010年8月29日

日本経済自縄自縛からの脱出 Ⅺ デンマークモデルの曲がり角

福祉国家というのは、産業革命の落とし子である。産業革命によって社会の富が飛躍的に増大したがゆえに、そこから税をとって福祉にあてることが可能になったのだ。
先進国では工業生産が中国などのBRICsに急速に移転したため、これまでの富、そして福祉を維持することが難しくなっている。いわば「産業革命後の過程の逆回し」が始まっている。これまではドルの垂れ流しが作りだした偽りの繁栄がそれを覆い隠してきたが、世界金融危機後、逆回しは誰の目にもはっきりと見えてきた。
そしてそれは、デンマークも例外ではない。

(1)デンマーク経済は特に、2004年から07年が好調だった。04年の実質GDP成長率は2.3%にのぼっている。
欧州景気の好調で輸出が増えたほか、低金利、所得税減税、住宅ローン制度変更によって国民の可処分所得が増加し、民間設備投資、住宅投資が好調に推移したのである。

だが世界金融危機をきっかけにデンマーク経済も苦境に陥り、曲がり角にさしかかっているのかもしれない。今年5月、デンマーク政府は中流以上には年間800ドル相当の増税、失業保険給付期間をこれまでの4年から2年に半減するなど、一連の緊縮政策を打ち出した。労組を含め反発が強いことから、これが議会を通るかどうかはわからないが、デンマークの社会保障も今曲がり角にあることは確実である。

(2)経済だけでなく、移民の増加とそれがもたらす社会問題が、以前は調和に満ちていたかに見えたデンマークの社会を次第にぎすぎすしたものに変貌させつつある。コペンハーゲンでは失業したデンマークの青年たちが移民の青年たちと喧嘩をする例が増えている。

デンマークが70年代頃から始めた外国人労働者受け入れは、1980年代の年間5万人の水準から2006年の27万人(つまり1年間だけで全人口の5%に相当する移民・難民がはいってきたことになる。日本なら年間600万の移民が流入することに相当する)に達するにいたり、次第に社会問題を先鋭化させた。

デンマークは既に述べたように、西欧的価値観――個人主義・合理主義・人道主義・透明性――を最高度に具現した社会なのであるが、移民の多くはそれに同化せず、しかもデンマーク人の雇用機会を奪う。

(2)更には2007年までの経済好調も、基本的にはEU、特にEU拡大を受けてのドイツ経済好調の余波を受けたものだったのかもしれない。92~05年デンマークの名目GDPは年平均4.2%成長したが、このうち輸出増分が2.5%と最大の要因となっている(個人消費増は1.9%分)のがその証左である。

もともと、70~80年代のデンマークは「ヨーロッパの病人」と呼ばれ、70年代前半まで1%程度であった失業率は75年に5.1%に急上昇、1993年には12.4%に至っていたのである。エネルギー危機のあおりも受けて、物価と賃金がスパイラル的に上昇する悪性のインフレが70年代から80年代にかけて続いた。当時、社会保障の財源は、外国で国債を発行することによって補われていた。

失業率はその後低下して2000年には5.3%になったが、特に本質的な改革が行われたためでもない。北海油田の権益を一部持っていることによる効果も大きい。
「デンマーク・モデル」の表面にだけ酔い、その腰の強さを分析しないのでは、日本にそのまま持ち込むことはできない。持ち込もうと思っても、政治的・財政的に実行できないものもあるだろう。

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