日本経済自縄自縛からの脱出 Ⅷ デンマークの福祉を支える経済ーその特徴
では、デンマークの経済におけるいくつかの特徴を見てみよう。いくつかは強みだし、いくつかは弱みとなる。
(1)「デンマークは中小企業中心」と言われるが・・・
①スウェーデンに比べるとデンマークは多国籍の大企業が少なく、中小企業が中心であると言われる。だがOECD資料によれば、中小企業の比重はEU平均以下なのである。
②そしてスウェーデンのABBはスイスに移転し、ヴォルヴォは中国企業に買収され、エリクソンの携帯電話部門はソニーが買収していることなどを勘案すると、多国籍大企業はむしろデンマークの方に目立つようになっている。
③VESTAS社の風力発電機は世界市場の27%を征する(デンマーク国内では洋上大型発電で名高い)。海運大手のMaerskは外貨の稼ぎ手だし, 薬品大手のLundbeck、飲料大手のCarlsberg, 冷暖房設備大手のDanfoss、ブランドもの音響のBang&Olufsen,、児童玩具のLEGOがある他、Novozymes社は酵素製造部門で世界最大手、ジュネンコア社は同2位である。またボーンホルム島のEDISON電気自動車プロジェクトは将来性を有する。
(2)大きな公的セクター
北欧諸国の特徴だが、デンマークでも公的セクターが大きい。1998年、労働人口の36%は公的セクターで雇用されていた。
これはフルタイム労働者の30%に相当し、公的セクターが雇用面での大きな安定装置になっている。ここらへんが、日本で「福祉充実は雇用、経済成長をもたらす」と言われていることの背景なのだ。しかし予算を使うのだったら、もっと効率よく雇用と成長を生むやり方もあるだろうし、単に予算で人を雇うということだと、社会の活気、つまり生産性は下がってしまう。足りない福祉は充実されるべきだが、要らないものは削減し、税金はできるだけ効率的に使うこととしたい。
(3)石油・ガスの僥倖
1970年代までは「欧州の病人」と言われていたデンマーク経済が現在のレベルにまで復活した背景として、北海油田開発による原油・天然ガス生産を見逃すことはできない。
OECD資料によれば、原油生産は08年推計で28.9万バレル・日で世界38位(国内消費は18.1万バレル・日のみ)、天然ガス生産は101億立米(国内消費は46億立米)で世界42位なのである。
石油・ガス輸出はデンマークの総輸出の約11.5%を占め、世界で第26位の天然ガス輸出国となっている。
これは、適度なレベルだろう。ロシアのように資源輸出に過多に依存すると、自国通貨が際限なく上昇して国内産業を破壊するからである(デンマークの通貨クローネはユーロにペッグされている。このためデンマーク通貨当局も大量のクローネを売却してレートの維持をはかっている。2009年12月には、デンマークの外貨準備は約4000億クローネ分に積み上がった)
(4)高い労働力の質
デンマークの労働者も、かつては火酒をあおって怠惰な時代もあったそうだ。映画「病院」などを見ると、隠れた悪徳も随分ある。
それでも、デンマークの社会で現在支配的なモラルは勤倹・誠実・透明性であろう。しかも、後出のように失業保険と職業再訓練教育が整っているために、労働力の質が高い(まあ、それほど綺麗ごとばかりでもなかろうが)。
OECD資料はデンマーク経済を、「賃金は高いが、企業負担が小さいために、競争力がある。しかも労働者のモラルが高く、自立心、創造力に富む」と評価している。
雑誌"Economist"はデンマークを、「最も投資に向いた国」と評したそうである。
(5)活発な外国からの直接投資
①デンマークのGDPで投資が占める分は21.6%で(2008年)、日本より多い。外資導入のための優遇策は特にないにもかかわらず、外国からの直接投資も非常に大きい。これがデンマーク経済好調の大きな要因となっていた(世界金融不況まで)。
②投資に向いている要因は、➊企業にとっての社会保障負担が少ないこと、➋失業手当と転職教育が完備しているため従業員の解雇が容易であるなど、労使関係が安定していること、➌EUの一員でユーロに通貨をペッグしているためEU全体を市場としたビジネスがしやすいこと、➍労働力の質と意欲が高いこと、などである。
2008年12月末、外国からの直接投資残高は1359億ドル(CIA"The World Factbook")であった。
③フロー・ベースで見ると、2007年には欧州から511億クローネ(約90億ドル。投資総額の約14%)の直接投資が行われている。
内訳はスウェーデンが266億クローネと約半分、ノルウェーが58億クローネ、同じく隣接のドイツが50億クローネ、歴史的に強い関係を持つ英国が32億クローネであった(JETRO資料)。
④外国からの直接投資の対象分野は2007年、金融及び関連分野が203億クローネ、運輸・通信が146億クローネ、製造業が33億クローネ、農業・水産業・鉱業が19億クローネ、食品が4億クローネであった。
⑤アジアからの直接投資はまだ少なく、むしろデンマーク企業がアジアに直接投資する方が大きい(この面での資本収支はマイナスで、7億クローネ)。
⑥デンマーク企業による対外直接投資にも盛んなものがあり、2009年末の海外投資残高は2045億ドルにのぼる。
つまり、これだけでもGDPの66%に相当する資産が海外にあることになる。
(6)小さな公的債務
以上の特徴が帰結するところとして、デンマーク政府が抱える公的債務は小さい。
デンマーク政府が抱える債務はかつてGDPの68%相当にも上っていたが、2008年推計では33.5%に過ぎない(OECD資料)。右統計では地方債が含まれていないが、地方債累積額はおそらく小額なのではないか。
国債累積額だけでGDPの2倍に迫ろうとしている日本より、はるかに余裕があるのは確かである。その代わり、家計は赤字なのである。前記本田氏の論文によれば、2005年、政府は718.3億クローネの黒字、企業が563.42億クローネの黒字であるのに対して、家計は709.34億クローネの赤字になっている由。
(7)大きな対外民間債務
デンマークの公的債務は小さいが、外国に対する民間債務は大きい。2008年12月末時点で5888億ドル、2009年6月末で6074億ドルに上る(CIA"The World Factbook")。
そのうち直接投資は約1400億ドルなので、足の速い間接投資は約4700億ドルということになる。これはGDPの約150%に相当し、異常に大きい。
デンマークでは住宅を抵当として多額のローンを借りることができるようで、家計債務の額が大きい。金融危機以前にはデンマーク・クローネが強かったので、外国の短期資金が大量に流入したのだろう。
これは、デンマークの経済のリスクであるが、日本の国債にも似て大崩れすることなく、うまくまわっている。日本の国債の場合、国内の資金でまかなっているが、デンマークの場合、その経済の足腰の強さを信用にして、EU全体の資金を使っているからだと言える。
(8)ユーロとのペッグ
デンマーク政府は2000年、ユーロ加盟の是非について国民投票を行ったが、信任が得られなかったため、クローネを対ユーロ±2.25%の範囲でペッグした。それによって外国人による対デンマーク投資の安全をはかったのである。
近年のユーロ下落でクローネのレートが上がり気味になり、通貨当局は大量のクローネ売却介入を行ってきた。このため、外貨準備は2009年12月に3891億クローネ分に膨れ上がった。
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