日本経済自縄自縛からの脱出 Ⅶ デンマークの福祉を支える経済
日本では「福祉が経済成長をもたらす」ということになりつつあるが(そんなこと言うのだったら、公共投資の方がもっと効率がいいだろうに)、デンマークの場合、やはり経済がしっかりしているからこそ福祉を維持できている。日本と比べた場合、デンマークはEUという大市場、資本市場をそのまま使えること(だから他のEU諸国からの直接・間接投資が大きい)、北海油田の一部を持っているためエネルギー輸出国であることなど、マネのできない面も持っているが、合理的でよけいなサービスを省くため生産性が高いなど、マネをできる点もある。
では、デンマークのマクロ経済を見てみよう。世界金融危機以前の数字が中心になってしまうが。
(1)主要数値
GDP(名目):1.69兆クローネ(約3100億ドル)(2007年)
名目GDP成長率:2007年、3.6%、2008年2.7%
(92~05年デンマークの名目GDPは年平均4.2%成長したが、このうち2.5%は輸出増、1.9%は民間消費増、1.1%は政府消費増によるものである。「デンマークと日本の経済循環構造の比較分析」本田豊。
なお2008年世界金融危機で輸出が激減したため、2009年第一四半期GDPは対前年比実質5.3%低下するに至っている)
消費者物価上昇率:1.7%(2007年)
人口:550万人
一人当たり名目GDP:約5.600ドル相当(2007年)
平均賃金:約48万円相当(手取りは27万円相当)
(2007年12月の「プレジデント」による。コペンハーゲンでの調査結果。
同時期東京では32万円で、手取り24万円。
この数字からも、デンマークでの労働分配率の高さ、その代わりとしての税負担の高さが読み取れる。この税負担が社会保障を賄う)
輸出: 1015億ドル相当(2007年)
(GDPの30%相当を超える。日本は20%以下)
(貿易黒字は3.7憶ドル相当、経常黒字は46億ドル相当。JETRO資料。
この経常黒字の不釣り合いな大きさは、大手Maerskを有する海運等の収入によるものか)。
国家予算(歳入):8037億クローネ
(GDPの49.07%相当。日本では国債発行分を加えてもGDPの約19%。
地方財政を加えても、デンマークほどの予算比重過多にはなっていない)
政府債務/GDP:33.5% (2008年, OECD資料)
財政赤字/GDP:2009年に3%を超える
(以上、JETRO、CIA、米国務省資料等)
(ついでに言うと、デンマークは徴兵制をとり、NATOの一員としてアフガニスタンにも派兵している[これは徴兵された兵士ではなく職業兵。最も危険なヘルマンドに派遣されており、人口一人あたりではISAFで最高の死傷者率を出している。NATO事務総長にラスムセン前首相が就任したことと関係あろう]。ODAはGDPの約1%を出しており、0.18%にしかならない日本よりはるかに努力している。また国民の政治参加意識は高く、選挙での投票率は常に85%周辺になる)
(2)デンマーク経済の成り立ち――「農業国」ではなく「工業国―それも活気のある」
(イ)デンマークのGDP(生産面、2005年)では、農業が2.9%、工業が23.8%(石油・天然ガスを差し引くと18%弱となり、日本とほぼ同じ)、サービスが72.7%を占める。
支出面では(2008年)、投資がGDPの21.6%を占める。
(以上、2008年のOECD資料 "Economic Survey of Denmark 2008", www.oecd.org/eco/surveys/denmark)。
(ロ)GDPを支出面から分析すると、2002年の政府消費がGDPの26.1%分に上り、
スウェーデンの28%には劣るものの、先進国の中で際立った政府消費への傾斜を示している。日本は17.9%、ドイツは19.1%、英国は20.1%、米国は18.9%である(国連資料http://unpan1.un.org/intradoc/groups/public/documents/un/unpan014043.pdf)。
北欧諸国における公的セクターの比重の大きさが、ここにも表れている。
日本では公的セクターの比重がこれほどではないことになっているが、特殊法人、独立行政法人や、放送、生命保険などのように公的・独占的性格の強い部門を含めると、デンマークとあまり変わらないかもしれない。
(ハ)輸出構造(2008年)
機械類:26.8%(うち一般機械が7.4%、電気・電子機器が3.5%、発電機が4.8%、道
路輸送用機器が2.6%)
化学品: 13.3%(うち半分強が医薬品)
食料品: 15.8%
雑製品: 15.0%(うち家具・同部品が2.4%)
(ニ)なお北海油田開発で、デンマークは産油国となっていることを忘れてはならない。
鉱物性燃料は輸出の11.5%を占め、うち8.5%分は原油・石油製品による。詳しくは後出。
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