日本経済自縄自縛からの脱出 Ⅴ デンマークの福祉を支える財政・税制
では、日本に比べて充実しているデンマークの福祉はどのように賄われているかを、その財政・税制面から見てみよう。
(1)社会保障をめぐる財政構造
①年金、医療等、すべての社会保障が税金で賄われていること、しかも法人税負担は軽く付加価値税(25%)と個人所得税で多くを賄っていることが特徴である。
そもそも租税による高齢者年金支給を定めた法律を採択したのは、デンマークが1891年で世界最初なのだそうだ。もっともその法律は救貧法的性格を持っていて、年金を受給すると同時に市民権を失ったのだそうだが。
②2003年現在、デンマークにおける「社会支出」は一般政府歳出の50.3%で48.7%の日本より大きい。GDPに対してはデンマークが27.8%、日本が18.4%で、その差は大きい(「社会保障財政の国際比較」片山信子、「レファレンス」 2008.10)が、日本の場合生命保険の掛け金(「生命保険のカラクリ」岩瀬大輔、文春新書15頁では毎年約40兆円としているが、それほど大きくもないだろう)などを合わせると、デンマークの数字に近づく。
③中央では、狭義の社会保障の大半は「福祉省」、医療は「保険省」が担当している。他にも雇用省など、社会保障予算を扱う部署はある。
社会保障、医療関係事務の多くをになう地方自治体は(県予算はほぼすべてが社会保障と医療に、その下の市予算は社会保障・医療に加えて教育に多くが支出される)、独自の財源として地方税および固定資産税を有する。地方税の税率は2009年現在、所得の27.8~22.7%の間に分布している。
中央政府は地方自治体に対して数種類の補助金・交付金を算出して移転している。但しこれらは、使途が指定されていないもようである。(中央・地方の関係については、以下が詳しい。http://www.mof.go.jp/jouhou/soken/kenkyu/zk079/zk079_09.pdf)
③年金の原資は税金であるが、実際は被雇用者の賃金であると言っていい。
賃金をもらうと、年金負担額の3分の2は企業がその賃金から自動的に差し引いて支払い、残りの3分の1は被雇用者が個人所得税の一部として支払う。
④他の先進国の企業は、利益のうちから社会保障税を支払わないといけないのだが、デンマークの場合従業員に若干高めの賃金を払う以外、社会保障の負担はない。ジェトロの資料によれば、フランスの企業は社会保障費用の約55%、日本の企業は13%、北欧スウェーデンの企業でさえ32%、ノルウェーでも14%を賃金以外に負担しているのに、デンマークの企業はこの数値がゼロなのだ(2009年1~3月世界37都市調査結果)。
その上に法人税が25%と低めであるため、デンマークの投資環境は良好で、外国資本の直接投資も盛んとなる。
つまりデンマークではまず企業の活力を高めたうえで、従業員に他国より高めの賃金を払い(つまり若干高めの労働分配率)、そこから社会保障費のほぼすべてをまかなっていることになる。
(2)デンマーク税制の大要
2009年12月の政府歳入のうち、個人所得税は41%、付加価値税は19%、法人税は4.5%を占めた(デンマーク財務省データから算出)。日本は(2008年度)それぞれ19.6%、12.8%、20.1%である。
①2010年現在、所得税(国税+地方税+医療賦課課税)は地方税平均25%を加えて平均48%程度だが、08年には人口全体の約5分の1に相当する101万人の税負担が70.9%になってOECDから警告を受けたほどであった。なお所得の平均0.7%ほどが教会税として徴収されている。
②法人税率は2007年、景気刺激のためにそれまでの28%から25%に引き下げられた。
③付加価値税(消費税)は25%であり、もともとの高価格経済をますます高価格なものとしている。それでも食料品価格は日本とほぼ同等である。
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