日本経済自縄自縛からの脱出 Ⅳ デンマークの社会保障
「社会保障の充実が需要、雇用を増やす。経済成長をもたらす」という議論がこの頃あるので、福祉先進国デンマークの場合をチェックしてみたい。まず手始めに、デンマークでの福祉の実態をおさえておく。なおデンマークでは福祉の細部については、地方自治体が裁量権(予算も)を持っているので、一概には言えないという問題があるが。
最初に、日本の場合老齢者対策と医療にその大部分が集中しているのに対し、デンマークでは障害・労災・傷病対策、失業対策、家族政策など現役世代向けの支出が老齢者向けを上回っていることは特記しておく。
65歳以上人口比率(2003年)が日本は20.2%、デンマークは15.1%だという事情があるにしても、現役向けの支出が多い点が、国民の多くの支持を得やすくしている(「社会保障財政の国際比較」を参照、片山信子、「レファレンス」 2008.10、http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200810_693/069304.pdf)
(1)医療
医療はほぼ無料である。但し公共病院はアポイントメント制であるため、診療を受けられるまで随分待たされることもある(急病を除く)。
デンマークは1973年「医療保障法」で医療保険制度を廃止し、租税による医療保障に移行した。
(2)失業保険
北欧諸国では若年層も社会保障の恩恵を受けるところ大で、それが社会保障全体への国民の支持を獲得できている背景となっている。失業保険はその代表的なものである。
失業保険は4年間供与され(金融危機後、2年間に削減する方向)、金額は解雇時賃金の90%である。
しかも失業期間中は地方自治体による手厚い職業転換用学習・訓練を受けることができる。これによって、企業は従業員を解雇しやすくなっている。
失業保険だけでGDPの4.4%相当が支払われている。日本では0.7%である。
体制が整備されているため失職、転職への抵抗が少ないようで、06年現在、就労者の3割が転職している。平均転職回数は生涯6回で、欧州1の由。
但しデンマークにおいては後出のように公的部門が大きく、ここにおいては転職率は低いはずである。
(3)転職支援体制
1994年「改正労働市場法」で、従来の失業保険+職業紹介制度に加えて、職業訓練等を追加、失業期間が3カ月を超える60歳未満の者は、職業紹介所のアドバイスを受けながら就職目標とその達成の手段についての「個別行動計画」を立てることを、失業保険支給の条件とされるようになった(これは綺麗ごとに聞こえる。どこまでごまかしなしに運営されているか、実地調査が必要だが)。
また、職業安定所に登録された失業者を雇用した場合、雇い主に対しては最長1年まで政府から補助金(1時間あたり67.27クローネ)が支給される(ただし、従業員数に差し引きで増員があった場合に限る)。障害者、移民、難民、新卒者にも同様の措置が及ぼされる。
同じく失業保証の整ったスウェーデンでは、職業再訓練においては大企業等生産性の高い部門へ労働者を導くことを旨としたが、それによって地方過疎化、ヴェンチャーの消滅を招いたとされる。
デンマークはスウェーデンにくらべれば中小企業が多いため、とにかく再就職することに重点を置き、これをflexicurityと名づけている。
(4)高齢者就労促進
デンマークも、労働人口が高齢化する問題を抱えている。これに対して政府は高齢者の雇用を促進する政策をとっている。
退職を62歳まで遅らせた者には税額控除などの特典が与えられているようだが、詳細は調べていない。
(5)年金
デンマークでの年金支給年齢は65歳。15歳になって以降デンマークに40年以上滞在した者はすべて、年金全額を支給される。但し年収約550万円以上になると、年金を削減される。「デンマークが超福祉大国になったこれだけの理由」(ケンジ・ステファン・スズキ、合同出版 206頁)によれば、2007年、65歳以上の高齢者83.5万人のうち、国民年金が減額されている者は4万500人(つまり全体の約5%)、まったく支給されない富裕者が6.483人いた由。
年金には以下の四種があるが、根幹は①で、右文献によれば09年現在で夫婦年間約311万円相当もらっている由。日本の厚生・共済年金とほぼ同額だろうが、他にも住宅手当が出る場合があること、固定資産税が減額されること、介護施設等が安価であることなどを勘案しなければならない。
①state pension
日本の国民年金に相当する。年金制度の根幹。65歳以上。
②Statutory pension schemes (ATP contribution,SP contribution)
(不明)
③Collective pensions
公的部門就業者向け。日本の共済年金に相当しよう。健康保険を含む場合もある由。
④Company pensions
日本の厚生年金に相当するが、日本とは逆に国民年金を補う程度のものでしかないようだ。賃金の約15%から天引きされる由だが、おそらく65歳の国民年金支給年齢以前に退職した者に対する短期間の年金のことではないか? (右文献204頁)
デンマークでは他に民営の年金基金がいくつかあり、世界でも大手である。PFA Pension社は資産361億ドルを有している由。
公的年金では足りないと考える裕福な国民が、私的に貯蓄しているのだろう。
(6)介護
デンマークでは、1960年代から高齢者福祉医療が急速に進んだ。女性が働くようになって、家庭の高齢者の世話ができなくなったことが原因である。1960年代には既婚女性の就労率は30%台だったが、1980年代には90%になっている。
1979~82年には24時間在宅ケアサービス(市の負担)が導入された。これは、老齢者を老人ホームに移すよりは思い出のつまった旧宅に居住させたまま、ヘルパーに毎日2回ほど訪問させ介護した方が人道的、かつ経済的という考慮に基づくものだった。
(7)生活保護
1976年「生活支援法」で、福祉対象を「高齢者、母子家庭、障害者」などに細分するのをやめた。「日常生活が困難になったすべての国民」を対象とすることとし、具体的なサービスの内容は市が決定することとした。
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