米国も日本も不況の中の国民が血祭りにあげる対象を探している今・・・
普天間や有事駐留論で、日本では日米関係への危機感が高められている。僕も有事駐留論は、米軍が日本から出て行ったあとのシナリオを示してくれていない点で(いつも米軍が駆け付けてくれる保証などないので、有事駐留論は日米安保条約破棄に等しい)納得できないのだが、ワシントンでこの件がどのくらいのマグニチュードで受け取られているのかわからないでいた。というのは、話が込み入ってわかりにくいためか、CNNなどでは殆ど紹介されないからだ。
で、ワシントンに長年在住し、ヨーロッパとの間をしょっちゅう往復しては、日米、米欧間の安保問題を研究している加瀬みきさんに(今月の中央公論に核問題について論文を出している)ワシントンでの実感を聞いてみた。彼女の許可を得て、問答を掲載する。問いは僕、答えは加瀬さん。
問い:普天間問題は大統領がいつも目を通し決済する大統領イシューになっているのか?
答え:日本やEUという平和な国、多少駄々を捏ねてもどうまちがってもイランやベネズエラにならない国(地域)に、今アメリカの大統領が神経を割く余裕は全くありません。
支持率が落ちているのは日本でも報道されているようですが、問題は不支持率が上昇したことで、その結果ネット支持率はCNNの12月2-3日の調査でなんとマイナス2%でした。
一番大きな理由はIt's the economy stupid! (「経済だよ。わかんねえのか!」)です。失業率は表向き10%ですが、ご存知のように実質的にははるかに高く、自分あるいは家族が失業している家庭は3割とまでいわれます。また大きな不満の原因は格差です。ワシントン周辺でも高等教
育、もともと高給だった人々の住む地域の失業率は5%、逆の地域は20%といわれます。
今アメリカの中産・下層階級は、生活不安から指導者を失った野牛の群れの暴走状態です。これが一番よくわかるのはサラ・ペーリ ン(08年大統領選挙で共和党副大統領候補だった女性)の人気かもしれません。彼女が大統領になることを支持しないという人が圧倒的であるにもかかわらず、大手本屋がつぶれる出版不況の中、彼女の本だけは売れ、またオペラ・ウィンフリー(みのもんたに相当する黒人女性)番組に出演した際は2年前のジャクソンファイブ再会に次ぐ高視聴率でした。
この環境下、大統領にとっての優先課題は、まずは医療制度改革法案をなんでもいいから通過させる(できればクリスマス前)、アフガン増派を軍が予定していたよりはるかに早急に実施し、なんとか来年の中間選挙前までに状況を良くする、これ以上の景気刺激策は財政赤字、連邦債務をさらに膨張させることから国民が許さない雰囲気の中、どうにか雇用を生み出すこと。(ところで医療制度改革への国民の支持も落ち続けています。経済刺激策とどちらを優先させるかとなれば、絶対雇用です。改革がさらなる赤字に繋がると国民が信じたら例え改革法案が通っても逆効果かもしれません。)
こうしたなか、日本が米軍を完全に追い出す、あるいは核を持つとでも言い出さない限りは、普天間は、その業界外では大きなイッシューにも大統領マターになる余裕はないように思います。
(欧州では、オバマ氏は英国に冷たい、EUにつめたい、つまりは同盟国、友好国には 冷たく、問題国にばかり気をつかっている、といわれています)
大統領主席補佐官にとっての機軸は選挙です。日米関係や普天間は選挙のイッシューにはならないので、あまり関心はないと思います。
ただ日本として気をつけなくてはいけないのは、不満を溜めた米国世論の攻撃対象になってしまうようなことには間違ってでもならないことです。一度そうなると理屈は通りません
(河東注:まったくそのとおり。アメリカ人とは自由なディベートが可能なことになっているが、一度意見が固まってしまうと、いくら正論を説いても踏みつぶされてしまう。だから、今誰がしかけたのか知らないが、日本でのエコ乗用車購入助成金に米国車が含まれていないことがCNNが問題にされたことの危険性は大きいのだ)。もし在日の基地閉鎖(まあないでしょうが)とでもなれば、米国側の財政負担が増えるわけですから、これは攻撃対象になる可能性大です。
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問い:普天間問題での交渉で気をつけることは?
米軍関係者は相当頭にきています。
それに、交渉の結果アメリカが「譲る」という印象が生まれると、特に今アメリカ人を怒らせます。ロシアや中国に「譲った」のに何も得られていない、というのはオバマに対する批判の一部です。
天皇陛下へのオバマ大統領の深いお辞儀は米国で、平伏低頭の象徴となってしまいましたが、これは今のところ日本に対して、ということではなく、漠然と世界、具体的にはロシア、特に中国に対しての象徴となっています。基地で日本に「譲る」ということがもし一般のニュースになるようだと、基地のことを何も知らない人たちからも怒りの対象となってしまいます。
問い:県外移転論は結局のところ、日本全体からの米兵ゴーホーム、ないし「有事だけの駐留」につながると思うので、そうすると日米安保条約自体、五〇歳で亡くなることになりかねないと思ってますが、如何?>
アメリカ側は安保条約を葬ることだけは避けたいでしょうね。何といっても基地が必要というだけでなく、もしそうなれば、アジアにおけるアメリカの存続体制が崩れ、アジアは完全に中国支配になるのではないでしょうか。
(河東注:それでもいいと思う人は日本では少数派だと思う。日米同盟は米国のためだけではなく、日本のためでもあるのだ)
問い:そうなると当座気持ちはすっとするかもしれませんが、中国は裸になった日本に対して居丈高になるでしょうね。一年半くらいは友好的にしているでしょうが、彼らも軍、諜報機関を抑えられないでしょう。
日本はもちろん太刀打ちできないですよね。アジアの覇者となれば、短期間といえども別に日本に友好的な態度を取る必要もなく、中国が欲しい技術などを一方的に奪い取られるだけになるのでしょうか。中国、中国と騒ぐが、中国にはトヨタやソニーあるいはサムソンなどのような自国の製造企業はない、とおっしゃる方もいますが、そうであれば、無理やり日本企業を買収するのかもしれませんね。日本は最後はぬれ雑巾でしょうか。
問い:そうなると日本では軍備増強論が盛んになり、愛国主義がかきたてられて、言論統制が始まるのではないですか?
私は米軍が撤退した場合、とても日本が軍備増強をするとは思えません。(男性は草食系になっているそうですし。)世論は一時的に騒いでも、それが社会的、政治的に何を意味するのかということに気づけばすぐに勢いは消えてしまうように思います。
(河東注:僕は強くなった女性達が男性の尻をたたいて軍隊に送り込むのではないかと思う。もしかすると、「余剰な公務員」がその犠牲になるかも)
また例え軍備だけを整えても、政治に軍を使う意思や戦略、また軍(自衛隊)に経験や自軍だけで戦う戦術もありません。さらにはアメリカ抜きでは敵に関する諜報はほとんどないわけですから、ミサイルや戦闘機も標的を定められません。
問い:それでも、日本の世論は軍備増強擁護、軍需産業振興による経済刺激の方向にいつ雪崩を打ってもおかしくないと思いますが。戦前がそうでしたから。
それは、私もとても不安です。日本は普段から事実にもとづいた冷静な議論をする、ということができないこと、そして日本は「外国」というものが常日頃目に見えるような社会でないからです。色々な歴史や風土、宗教を背負った人たちと毎日接しなくてはならないのが欧米では当たり前で、その中から国としての行動のバランスや他文化との接し方・交渉のしかたなどの教育が自然とできているように思います。それがない日本。おまけに日本ほど英語がつかいこなされていない、つまり他国の人とコミュニケーションをとれないのは本当に怖いと思います。
申し訳ありません。勝手なことをだらだらと長くなってしまいました。
加瀬みき
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コメント
「駐留なき安保」は余りに身勝手な考えであり、日本が攻撃された際のみ、米国軍が駆けつけて敵を追っ払ってくれるという旨い話は通用せず。しかし、”封印した”とはいえ、日本の首相がかかる夢物語を口にする事自体が大問題。
「来年の参院選挙までは社民党の協力が不可欠」との民主党の立場は判るが、米国の信頼を失う事の方が、社民党との連立を保持するより、遥に日本の国益に打撃となる=国益よりも党益を優先させる政治は亡国の道まっしぐら。
かかる危機的状況にもかかわらず、自民党、公明党がいやにおとなしいのは気がかかりです。
日本の政界は「人材リスク」そのもので、日産におけるゴーン氏のような”輸入宰相”が必要な位ですね。
決まりがあっても「法律ではない」と権力を笠に着てごり押しする幹事長(民主々義の原則をご存じない?)、何も決めない事を決めて時間稼ぎをする総理。何よりも許されないのは政府間合意を一方的に覆す、とか突出した温暖化ガス排出削減や膨大な資金拠出を他国の出方も見極めずにコミットしてしまう交渉音痴、甚だしい国際感覚の欠如。各国共もっとコミットしろとスタンディングオベーションでしょう。おだてりゃもっと一人で頑張りそうですから。
民主の仮面を被った社会主義政権は、本音は本当に米軍に出て行って貰って代わりに中国軍に駐留して欲しいと思っているのではないかと思えます。弱小政党と連立を組んで振り回されている格好をしているのも、実は周到な計算かも知れません。
大分与党の馬脚が出て来たにも拘わらず相変わらず政権支持率の三分の一の支持率も獲れない自民党。カナダやオーストラリアに逃げ出す台湾本省人の気持ちがこの頃良く分かります。
安全保障問題も含め、日本はどのような考えに基づいて、どの規模の軍事力が必要かという研究がなされているのか否かが、見えてきません。
国を左右する大変な問題ですから、相当しっかりした研究がなされるべきなのででしょう。
その研究に基づいて、どこまで自国で守り、他国との安全保障条約によって、双方のどの部分をカバーし合うという取り決めが進められる事になるはずだと考えるのですが、どうも、そこが出来ているように思えません。
当然その研究に従えば、国内のどの地域にどんな種類の軍事施設がどの規模で必要か決まってくるはずと考えます。
勿論その多くは、仮定値に基づいてなされるのでしょうが、ただ思いつきでなされる訳ではなく、論拠を踏まえてなされるはずです。
そうした軍事力に関する研究は、タブー視して済む話ではありません。
ただ小生のような一般市民が知らないだけで、国としては、当然そうした研究がなされていて、自衛隊の規模や、アメリカを含む各国との条約が、その研究結果に基づいて検討されているのであれば良いが、・・・・と気をもむばかりです。
(そういう見積もりを見たことはありませんが、多分防衛省にあると思います。それを元に装備等の予算が作られるのでしょうから。もっともそういう文書はどの国でも機密ですし、そこで行われている見積もりも多くの仮定を設定した上で行われているものと思います。以上まったくの推測ですが。河東)
民主党政権は労働組合に依存しています。したがって、経済成長、構造改革は頭になく富の分担しか考えていません。原始共産社会でしょうか。
できもしない政策を振りまいて国民の投票を集めたのですがこれに同調した国民も同罪です。ただ、自民党の悪い点も多くあり、これを利用されたのでしょうか。
独裁政治にならないような危機感を持ちたいものです。
民主党政権は労働組合に依存しています。したがって、経済成長、構造改革は頭になく富の分担しか考えていません。原始共産社会でしょうか。
できもしない政策を振りまいて国民の投票を集めたのですがこれに同調した国民も同罪です。ただ、自民党の悪い点も多くあり、これを利用されたのでしょうか。
独裁政治にならないような危機感を持ちたいものです。
民主党政権は労働組合に依存しています。したがって、経済成長、構造改革は頭になく富の分担しか考えていません。原始共産社会でしょうか。
できもしない政策を振りまいて国民の投票を集めたのですがこれに同調した国民も同罪です。ただ、自民党の悪い点も多くあり、これを利用されたのでしょうか。
独裁政治にならないような危機感を持ちたいものです。