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街角での雑想

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2018年12月 8日

北方領土問題で予想されるロシアの出方

(これは、11月28日まぐまぐ社から発売のメルマガ「文明の万華鏡」の一部です)

今月のニュースとしては、北方領土問題を避けて通るわけにはいきませんが、これについては号外で、すでに触れてあります。付け加えて言うと、ロシアは歯舞・色丹でさえ、「なんで今さら、日本ごときに返さねばならないのか」ということで、世論はちんぷんかんぷんでいる、ということがあります。全然追い込まれていないわけで、そこをプーチンが無理すれば、反対の声が強く起きて来るでしょう。それは、尖閣列島のうち北小島(この島を知っている人は少ないでしょうが)を、中国に渡すことになった場合の日本世論を想像してもらえばわかることです。

他方ロシアとしては、安倍総理の面子をつぶせば日本との関係をこれから長期にわたって完全に駄目にしてしまう、ここは何か変化球を投げ、「前向きに継続協議」の格好を取って参院選を乗り切ってもらおう――そんなことになるのでは? では、どんな変化球があり得るか? ロシアは必ず、過去のファイルを引っ繰り返して見るでしょう。

例えば1978年2月、日中平和条約締結で不利な立場に置かれる(当時ソ連は中国と、1969年には武力衝突した程の対立中)のを恐れたソ連は、「日ソ善隣協力条約」の締結を提案して来ています。これは1956年共同宣言以下の条件(つまり領土問題に言及せずに)で日本との協力関係を得ようとしたもので、日本政府はこれを拒否していますが、9月の東方フォーラムでプーチン大統領が言った「領土問題を棚上げにした平和条約」はまさに、この善隣協力条約を想起させるものです。

もう一つは、中ロ両国が1970年代からの中ソ対立関係を解消し、国境を画定する「国境協定」を2004年10月結ぶ途上、2001年に結んだ「中ロ善隣友好協力条約」の例があります。これは善隣・友好・協力関係を定めた上で、国境問題については第6条で「双方は互いに領土要求を持っていない・・・双方は1991年5月16日の「中ソ東部国境協定」に基づき未合意の境界線についての交渉を継続する」と定めています(「中ロ国境交渉史」井出敬二)。ここで両国は互いに領土要求を行っていないことを言明していますが、これは「領土問題」という言葉を使うと世論が激高するからで、「境界線」画定の交渉を続ける、という表現を使っています。これを受けて2004年10月年には、国境河川の川中島を折半する合意ができ、「国境協定」を結んだことで、中ロ領土問題は最終的に解決されたという公式の説明が行われるようになりました。中ロ間には、実は日本の4倍の面積に相当する沿海地方をロシア帝国が17世紀から略取を繰り返し、1860年の北京条約で確定した、超ド級の領土問題が潜在的に存在しているのですが、これについては2004年の国境協定では明示の言及はなく、当時の鄧小平等の「この問題はもうおしまい」という趣旨の発言が今でも墨守されています。これは中国お得意の「歴史問題」であり、ロシアとの関係が悪化すればいつでも蒸し返すことでしょう。

この2001年の「中ロ善隣友好協力条約」と同様の条約を結ぶことを、今回ロシアが提案してくる可能性があります。それを受けるかどうか。過去を振り返ると、1993年10月エリツィン大統領来日の際、両国首脳が署名した「東京宣言」には、「択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題について真剣な交渉を行った。双方は、この問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化すべきことに合意する。この関連で、日本国政府及びロシア連邦政府は、ロシア連邦がソ連邦と国家としての継続性を有する同一の国家であり、日本国とソ連邦との間のすべての条約その他の国際約束は日本国とロシア連邦との間で引き続き適用されることを確認する」という文言があります。

そして2001年3月森総理とプーチン大統領が会談した際の「イルクーツク声明」には、「1956年の日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言が、両国間の外交関係の回復後の平和条約締結に関する交渉プロセスの出発点を設定した基本的な法的文書であることを確認した。• その上で、1993年の日露関係に関する東京宣言に基づき、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題を解決することにより、平和条約を締結し、もって両国間の関係を完全に正常化するため、今後の交渉を促進することで合意した」とあります。

これらの趣旨を盛ったものを善隣条約とするなら賛成できます。それは、日本の北方領土要求をこれからも法的に支えてくれる一方、政治・経済面での連携・協力を安定化させるからです。但しここでは、「何に依拠しつつ」平和条約締結交渉を進めるのかで、黒白が分かれます。ロシアが1956年共同宣言のみの言及に固執する場合、歯舞と色丹の2島のみが交渉の出発点となってしまい、一島の返還も確保できない可能性が出てきます。それでは、安倍政権への追い風にはならないでしょう。その時は、ちゃぶ台返しの時でしょう。


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