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街角での雑想

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2018年11月12日

第三国での日中経済協力 をめぐる空騒ぎ

(これは10月に日本版Newsweek誌に掲載された記事の原稿です)

今年の5月、李克強・中国首相の訪日を受けて日中両国政府は、「両国企業による第三国協力の可能性がある市場及び産業分野について逐次検討し,協力可能な具体的プロジェクトの組成に向けて議論していく」ことで合意した 。そして10月には安倍総理の訪中が検討されている。これで、姑息な反中勢力の抵抗を押し切って、中国の「一帯一路」関係のインフラ案件をどんどん受注できる、というのが世間の通り相場だが、中央アジアに勤務して、インフラ建設の実情を見てきた筆者には、空騒ぎにしか思えない。

 ユーラシア地域では日本政府(円借款)や世界銀行そしてアジア開発銀行(日本は米国と並んで最大の出資国)がソ連崩壊直後からこれまで合計1兆円を優に超す 優遇融資を提供し、鉄道、道路、発電所の類の建設を助けてきた。そこに中国が参入し、我勝ちにカネを貸し付けては中国企業だけで建設を実現している。「世界ではインフラ建設資金の需要は無限」とか言われているが、需要は無限でも返済能力には限りがある。だからIMF、世界銀行は国毎に貸付総額の目安を設定しているのだが、中国が逸早くその枠を満たしてしまい、他の国、国際機関の機会を奪ってしまう。

 円借款案件でさえ、日本の企業が必ず落札できるわけでも、日本製品が必ず使われるわけでもない。円借款の多くは日本企業への発注を義務付けない「アンタイ」だからである。日本製品は割高だし、発電機のような大型生産財では受注したから来年納入というような機敏なことはできない。日本が多額の資金を出している世界銀行やアジア開発銀行の案件でも、日本企業が受注することは稀、ましてや中国が融資する案件で日本企業が受注(中国での日中合弁企業を除いて)できる可能性は非常に低いだろう。

「第三国での日中経済協力」という考え方は、今回が初めてではない。特にアジア開発銀行は、中国をアジアの開発に積極的に巻き込んでいくことを念頭に、メコン川流域、あるいは中央アジア等での開発計画の音頭を取って来た。しかし今、日中はそれぞればらばらに、半分競争のようにインフラを建設している。そんなことをせずに、日中力を合わせて一つのダムを作るようなことができないかと思うだろうが、インフラ建設融資は現地の政府や銀行に日中がポンと資金を渡せば終わり、というものでは全然ない。大型案件を手掛ける能力が現地で決定的に欠けているから、多分、日中のゼネコンが別々に受注して一つのダムを共に作っていく、ということになるだろう。

これは、実行が殆ど無理。両国の経済協力の仕組みは全然違う。日本は案件の実現性、採算性の評価に1年以上もかけるが、中国はまず取り掛かる。その他の手続きも、手続きにかかる時間もまちまち。ダムに使うセメント等資材もそれぞれ違うもの、違う規格のものになるだろう。これでは、できるダムがたまらない。それに現地では、両国の建設企業社員は言うに及ばず、大使館員の間でさえ、通訳なしには話もできないことが多いのだ。

「第三国での日中経済協力を推進する」というコピーは、今のように日中関係を前向きに進めようという時代には良いことだ。しかし、それはコピー以上のものではない。それに、米国との貿易黒字が急減するだろう中国は、これから対外経済協力も急減させるだろう。

今必要なのは、中国や日中関係の浮沈に関係なく、日本の経済協力・融資体制をオーバーホールすることだ。途上国の所得向上で、円借款を出せる相手は減っている。途上国は借款より直接投資を求める時代になっている。経済協力で日本企業がもっと稼ぐことを考えるだけでなく、手数がかかりリスクも大きい直接投資を公的機関が支援する態勢を整えて欲しい。

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