なくなった、日本のカネ の御効験
(これは、7月10日日本版Newsweekに掲載された記事の原稿です。ODAの見直しを提唱しています)
9月11-13日、ウラジオストックで年恒例の東方経済フォーラムが開かれる。ここで、これも恒例になった感のある日ロ首脳会談だけでなく、金正恩・北朝鮮国務委員長との会談もあるかもしれない。日本のマスコミは、日本がロシア極東開発に協力し、見返りに北方領土問題で色をつけてもらうのだとか、日本が北朝鮮にウン兆円を約束して今後の話し合いの道筋をつけるのだとか、憶測たくましい。しかし極東の経済大国は日本しかなかった一頃と比べて、中国が台頭した今は様変わり。日本の中老年世代は、そこが頭に入っていない。
中ロ貿易は昨年で840億ドル 。日ロは僅か200億ドルだ 。ロシアのシベリア・極東への投資にしても、収益性が確かな投資案件が少ないこの地域では、活力に満ちた中国人の活躍が目立つ。彼らはこの地域で、耕地のリースを拡大しており、しばしば現地の住民と摩擦を起こしている程である。本年3月、中国の在ロシア大使は、「中国の投資家がロシア極東で予定している案件の費用総額は300億ドル超」と述べている。融資でも、6月初めに中国開発銀行がロシア対外経済銀行に6千億ルーブル(約1兆円)相当の融資を約束した ような例は、いくつかある。
北朝鮮の場合も、中国のカネは将来も日本を素早さと規模で上回るだろう。北朝鮮の大都市が思われているよりはるかに豊かな様相を示しているのは、ひとえに中国との経済・投資関係に支えられたものだろう。日本がロシア、北朝鮮をカネでなびかせようとするのは、もう時代遅れなのだ。
戦後日本外交の主な武器はカネだった。それはODAで、先進国はODA供与額を争ってきた。しかし途上国の多くで所得水準が向上するとともに、経済発展の主要な手段として外国直接投資の受け入れが主流になってくると、ODA融資は世界の関心を失ってきた感がある。これまで日本のODAを大いに評価してきた中央アジアでも、日本の民間企業による直接投資の方を要請してくるようになっている。直接投資は返済しなくていいし、途上国で欠けている経営ノウハウももってきてくれるからだ。企業の方は、収益性もわからないところに、貴重な資金や人材をはりつけるわけにはいかないのだが。
インフラ建設を初め、大型融資へのニーズは引き続き高い。中国の長期低利融資や、アジア・インフラ投資銀行AIIBがもてはやされる理由である。AIIBは本年約35億ドルの投融資を予定しているが 、日本の円借款はこれまで年間1兆5千億円に及んでいる 。しかし円借款は、収益性などについての事前審査が厳しく検討は数年に及ぶ。そこを、中国の身軽な非ODA融資につかれているのだ。
中国を上回る融資能力を持っているのに評価されない現状を、どうしたらいいか。腰を据えた見直しが必要だ。例えば日本の円借款は、もうODAであることにこだわることもないだろう。長期で低利、かつ大規模なスキームに「日本イニシャチブ」とか銘打って、円借款よりも供与の分野を広げ、かなり所得水準の向上したASEAN諸国、あるいは北方領土問題解決後のロシアなどにも提供したらいい。
そしてこれまでのように相手から具体的案件の要請が来ないと何もしないというのではなく、日本側から具体的案件を作って融資つきで提示する。それは、工場建設と完成後の経営請け負いなどである。
日本にカネの余裕がないとは言わせない。日本のODA予算は一般会計では年間約6000億円 。円借款はそれとは別枠、返済されたものの再貸し出しと財政投融資で賄っている。このうちかなりを「日本イニシャチブ」スキームに充当すれば、公共事業予算の6分の1以下で日本の顔を世界に売ることができる。うち3分の1は日本製品の購入に向けること、というような条件をつけておけば、日本の輸出増大にも使えよう。
今は、何でもありの時代。ODAとかせせこましく考えず、「何が必要なのか」という見地から、根本的に見直そうではないか。
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