外国人労働者論議に理想主義やご都合主義は禁物
(これは、2月28日に「まぐまぐ」社から発売したメール・マガジン「文明の万華鏡」第70号の一部です。
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そこらじゅう人手不足だ。うちはヘルパーさんをたまに頼んでいるが、その人が怪我でこられなくなってしまった。すると「代わりになる人が見つからない」と派遣会社は言っている。道路工事は以前、深夜にするのが当たり前だったが、今では昼日中、どんなに渋滞が起きても平然として工事をする。それも働いているのは年長者ばかり。ここも人手不足なのだろう。駅前のアイスクリーム屋が閉店するが、それも人手不足?
人手が足りなくなるくらいなら、経済をもう少し冷やせばいい。そうはせず、外国人労働者をもっと入れろ、難民ももっと認めたらどうか、という議論が盛り上がる。以前から「日本をもっと国際化するために外国人を入れろ」と言っていた理想主義者たちがこれに加わる。
でも、これまで米国、欧州などの社会を見てきた経験から言うと、「一時の必要性に迫られて移民を増やすと、あとで後悔するぞ」ということ。米国は1965年移民法を改正し、地域毎の割り当てを撤廃した。そのために、白人とは文明的に異なるラテン・アメリカなどからの移民が急増、1990年代以降の米国は多民族社会化を急速に高め、白人層の危機感を招き、今回トランプ当選の背景を成したのだ。
アメリカにいた時、友人に「なんでこんなに野放図に移民を入れたんだ?」と聞いたことがある。彼は答えた。「まったくだ。でも白人が下働きの仕事をやりたがらなくて」と。
欧州も50年前とは様変わり。ここも大都市は多民族化して、個を重んずる西欧文明もすっかり相対化している。トルコ人は西欧文明に随分同化してきたが、アラブ人にはそうではない者が多い。西欧文化にことさら異を唱えるのだ。僕の家内はデンマーク人で、昔は理想主義的なリベラルだったが、今ではこと移民問題になると、保守主義だ。身の回りの移民が出身地での濃密な付き合い方、料理、文化にこだわり、地元のデンマーク人たちと小競り合いを起こすのに辟易しているのである。
移民とは英語でコミュニケートできるはずの欧州、米国の白人ですらこうなのだ。外国や外国人に対して耐性がはるかに小さい日本に移民を増やし、その結果起きることの責任を理想主義者たちは取ってくれるのか? 日本人はおとなしいから、「客は客らしくしていてくれるだろう」と思い込み、「おもてなし」とか言っているが、外国では庇を借りて母屋を取るのが当たり前。自分を客だなどとは思っていない。
移民や外国人労働者を入れる、入れないで、大声で議論しているうちに、日本の外国人労働者は急増している。欧米諸国は日本が難民を受け入れないと言って非難するが、シリアやリビアの情勢をかき回して難民を増やしたのは欧米諸国。その難民を日本が受け入れる筋合いはない。
ロヒンギャなどだったら日本が入れるべきなのだろうが、彼らは日本社会でいつまでたっても一本立ちできず、「もっと開放的な」米国に移住したいと言うだろうが(昔ベトナム難民受け入れを担当したことがあるので、経験がある)、今のトランプ政権は移民を入れない。そうなると、彼らは日本に滞留したまま、一生日本政府のカネ、つまり我々の税金で生活することになる。
難民というのは、入国を認めてやればそれですむ問題ではない。言葉もできず、自活能力がないので、日本国民の税金で、あるいはボランティアの世話人がつきっきりで世話をしないといけない。公務員は、そういう仕事ができるだけの数がいない。理想主義の人たちは、そこをどう考えるのだろう。
だから、ロヒンギャ人についても、理想主義的なことを言うよりも、ミャンマーかバングラで暮らしが立てられる様な経済協力をするしかあるまい。そして、このように難民数を絞っても、日本は今の時点でも、1万を超える外国人が難民認定を待って働きながら滞在を続けているのだ。
それに加えて、日本では108万もの外国人が日本に長期滞在して稼いでいる。今やちょっとした企業でも中国人、韓国人を雇い、リエゾンに使っている。彼らは日本語だけでなく英語もできることが多く、しかもハングリーでよく働き、かつ自己主張が強いので、日本人の同僚はたじたじとしている。外国人が増えれば、日本人は下働きの仕事に追いやられていくだろう。それは、日本の国際化と言ってすませられる問題ではない。
安倍総理は20日の経済財政諮問会議で、専門的・技術的な外国人受け入れ制度の在り方について早急に検討を進めるよう指示を出したが、同時に滞在期間を限定し永住とは区別すること、家族・親族の呼び寄せを制限するよう条件をつけている。
これにはまったく賛成だ。一時の熱に浮かされて外国人労働者を増やすと、彼らは本国から家族、一族郎党と次々に呼び寄せて、地元住民と摩擦を起こす。国際化をめざした理想主義者は、かえって日本人の外国嫌いを高める結果に終わるだろう。
僕は、日本を完全に閉鎖しろということは言っていない。大々的に「日本は外国人労働者受け入れを大幅に増やすことにしました」などと大声で宣伝する必要はない、ということを言っている。そんなことをすれば、希望者が殺到して手に負えなくなるからだ。静かに、必要なだけの数を入れ、ずっとは居残れないように、そして家族、一族郎党を呼び寄せて居着いてしまうことがないように、薄情なようだが絞りに絞ってやっていくのが、日本社会、そして外国人に対して責任ある態度なのだと思っている。
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