キレる日本人ーーもう鎖国しようか? Ⅱ いやその前に住環境改善に投資をしよう
河東哲夫
どうしたらいいのか? どうやって経済を成長させ、通り魔の出現を防げるのか?
日本も金融市場を整備して「世界有数の金融センター」になればいい、と言う者もいる。だが株式市場上場手続きの書類が日本語でなければならない国、企業買収のルールが整備されておらず、外国人が日本企業買収を狙っただけでマスコミに袋だたきにされるこの国で、外国人が大枚の資金をどうやって動かすことができるのか?
「知的財産」で稼げ、と言っても、日本はコンピューター・ソフトの開発に弱く、お家芸の小型AV機器でもI-podなどにすっかり水を開けられてしまった。アニメやマンガの「コンテンツ」が素晴らしい、「ジャパン・クール」だなどと言ってみても、そこでの労働条件はきついし、そのうち韓国や中国に市場を食われていくだろう。
やはり日本は、外国語を使わなくても勝負のしやすい「モノづくり」で外貨を稼ぐしかない。ただ内需の面では、考え方を変えれば、まだ経済成長をはかれる余地がある。10年ほど前の日本を「土建国家」だと卑下する人達がいた。公共投資予算をふんだんに使って必要でもない道路やダムや堤防を作りまくり(不要なものも作ったが、今日本の地方を旅行してみると、何かものすごく小奇麗に、便利になっている。「不要」でなかった建設もあったのだ)、建設企業に票集めをさせて政権を支えたあの構造。それを批判する人達に、僕も全く賛成だった。
だが公共投資に、建設にとって代わることのできる新しい産業はできたのか? 郵便貯金を民営化したことで、民間投資は活発化したのか? 残念ながら、答えは否だ。そうこうする間に、アメリカはサブプライムで低所得者層用の住宅を建設し、中国は予算を流用してでもインフラやオフィス・ビル、そしてマンションの建設を大々的に進めて、「経済成長」の大きな部分を達成している。
日本だけは(公共投資による)建設をしぼり、「低金利と安い円」の政策で輸出を維持して経済を支えてきたのだ。
僕もこれまで、「日本のモノづくり礼賛」論にすっかりカブれ、住宅やオフィスを建てまくってはGDPを膨らませている、中国やアメリカのやり方はずるいではないかと思っていた。
だが、経済活動の究極の目的は住みやすさ、暮らしやすさではないのか? テレビを見ていると、上海に出稼ぎにやってきた農村出身者も、けっこういいマンションを買っている。彼らはもちろん、それで非常に幸せなのだ。
だから日本も、住環境改善に重点を置いた経済活動を活発化させてはどうか(貿易赤字にならない範囲でです)。
ヨーロッパの都市はきれいだ。建物の高さ、スタイルは揃っているし、電柱もない。
だがヨーロッパの都市が現在のような姿になったのは、産業革命で富を蓄えた19世紀後半のことなのだ。
日本も20世紀の末にはそういうことをする経済力を持っていたが、資金はダムとか海岸の堤防とか高速道路とか、「作りやすくて金を使いやすい」プロジェクトに集中した。
海岸の堤防はもう十分だろうから、住宅や住環境を本気で良くしてはどうか? ヨーロッパやアメリカの住宅、そして住環境は日本とは本当に段違いに良いのだ。電柱を地中に埋めただけで、住宅地は格段にすっきりと高級に見えてくる。都市でも郊外でも、消防車さえ入れないような元農道、転じて公道を何とかできないものか? 公的資金はこういうことをするための融資や利子補給に使えばいい。
住宅建設は手がかかる。だがそれはまた、多くの働き口を作り出すことになるだろう。戦後、職人階級は消滅して、皆「会社員」になってしまった気味があるが、今職人階級が復活しつつある。この人達の組合、健康保険、年金制度を充実させる必要がある。
通り魔を生む社会の格差は、縮み志向では解決しない。今は適度のインフレで賃金を上げて国内需要を増大させ、財政収入も増やすことができる時ではないか?
僕は中川秀直の経済政策の尻馬に乗るつもりはない。財政支出を膨張するにしても、今までの利権構造を維持したままでは、小泉改革の意味がなくなってしまう。
そして、青年がろくに結婚もできず、高い税金、年金、健康保険料を毟り取られている現在のシステムは、我々団塊世代(のうち、ちゃんとした財産・収入がある者達)が既得利益を放出してでも、是正しなければいけない。
経済が厳しいから、社会の状態が悪いからと言って、昔の利権構造のまま公的支出を増やせば、日本は成長の基盤を欠いていながら分配を強化した、ソ連の二の舞になる。青年達がベンチャー・ビジネスを進んで起こそうとするような活力のある社会に一歩づつ近づいていく方向で、経済・社会政策は運営されるべきだと思う。
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