アベノミクスは振り出し=デフレに戻ったのか
(これは5月24日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第61号の一部です。全体をご覧になりたい方は「まぐまぐ」社のサイトhttp://www.japan-world-trends.com/ja/subscribe.phpにお進みください)
景気が良くなっている感じがする。駅前のスーパーの駐車場は満車になることが多くなったし、大卒者の就職率は非常に高くなっている。失業率は2,8%で、殆ど完全雇用(とは言っても、大企業の「事務職」の多くはITなどで合理化できるので、言われているほど、労働力がひっ迫しているわけではない。ひっ迫しているのは宅配や介護などの肉体労働)の状況にある。
そういうわけで、この2ヵ月程、「出口論」、つまり異次元金融緩和にピリオドを打って、これまで発行を重ねてきた余剰の資金をどうやって収集していくか、その時金利の急上昇と国債価格の暴落、それによる日銀保有の膨大な国債の価値急減を招くようなことが起きないようにするにはどうしたらいいか、という議論が盛んになった(その中では、日銀保有の国債の価値が急減し、日銀が債務超過に陥ってもたいしたことは起きない。1970年代末に西ドイツ連銀が債務超過に陥ったが悪いことは起きなかった、という議論もある)。長かったトンネルもやっと出口が見えてきたか、アベノミクスも学者たちの見立て通りに動いたわけではないが、結果オーライでめでたしめでたしなのかと思っていた・・・
ところが5月18日発表された第1四半期のGDP速報は、そういった浮かれた議論に水を浴びせたのである。このGDP統計は、実質では0,5%増、つまり年率換算2.2%というわりと好調なもので、新聞もそう書いているのだが、何人かの識者が指摘しているように、問題は名目値ではGDPは伸びていない、それどころか右速報では年間通算でマイナス0.1%になっているということだ。つまり物価水準が0,6%も下がったことで、実質0,5%増という数字が演出されているということなのだ。
物価水準の下落は2016年に始まって(再開)いるのだが、一つの4半期で0,6%も下がるのは、2012年4-6月期以来、つまりアベノミクス開始以前の状況に戻ってしまったという指摘もある。この間、トランプ当選で跳ね上がったドルのレートがまたじりじり下がって、大統領選直後に比べると10%弱の円高になっていることも影響しているだろうが、アベノミクスはもとのもくあみ、これだけ金融と財政を緩和して、GDPの水準維持がやっと(それでも維持できているのだから、それでいいと思うが)という状況になってきた。
このことを日経などは黙過して、うんケ月連続成長と書き立てる。よいしょが過ぎるのではないだろうか? 愛読者として残念だ。
もともと、デフレをめぐる認識がおかしいのだ。現代のように、モノづくりが賃金の安いところに逃げて行けば、モノの値段が下がっていくのは当然の話し。「モノが安くなっていくと、人は消費を控える、そうすると企業はもうからないから投資を控える、そうやって経済はどんどん縮小していく」というのがデフレ性悪論の根拠なのだが、それは多分一つの国のみでできたモデルをいじっているから、そうなる。
中国での生産をそのモデルの中に入れて考えると、先進国でのモノは安くなるが、その分いろいろ他のものの消費が増えて、全体の消費額は変わらない、ということになるはず(職があって賃金水準が同じならばの話しだが)。一方中国では、工場で賃金を得る者が増え、全体の消費が上がる。すると先進国から輸入するもの(部品、機械、奢侈品の類)が増えて、先進国の経済を潤す。
こうやって拡大均衡型のモデルが可能で、デフレについても新しい理論を組み立てることができるだろうに、経済学者達は何をしているのだろう。これからは、トランプの政策もあって、円高の時代になるだろう。「デフレ」圧力はますます高まる。アベノミクスは、円安ではなく円高、インフレではなくデフレを前提に内容を入れ替えないともたないのでないか?
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