AIIB 入るべきか、入らざるべきか、それが問題 なのではない
(ある雑誌に予定して、使わなかった原稿)
中国主導の「アジア・インフラ開発銀行」(AIIB)は設立協定が署名され、年内の始動が予定されている。日本では相変わらず入るべきだったとか、そうではないという議論が続いているし、中国も日本の資金が欲しいから、いろいろと餌を投げてくることだろう。あまり惑わされることはない。その理由は次の通り。
「日本は乗り遅れる」のか?
日本では、なぜかTPPとは正反対にAIIBに「乗り遅れ」を恐れる声が目立つ。本当にそうか? これまでの中国の海外インフラ融資を見ていると、アフリカであれ中央アジアであれ、中国の企業が中国人労務者と中国の資機材でやってしまうし、その融資返済はこれから滞っていくだろう。日本がAIIBに入ったところで、拠出金を使われるだけ、日本企業は受注できまい。そもそも日本の資機材は割高なので、日本が米国と並んで筆頭拠出国であるアジア開発銀行(ADB)の案件でさえ、その事業額の一%以下しか受注できていない。EU諸国は雪崩を打ってAIIB参加を表明したが、それはAIIB案件での受注を期待してと言うよりも中国の歓心を買うためのご祝儀、つまりAIIBの開店祝いに花輪を贈呈したのに近い。
「世界一の経済大国になる中国を核とした、新しい世界体制に乗り遅れる」という声もある。しかし中国では輸出がGDPの二〇%強にも達し、しかもその約半分(金額ベース)は外資系企業が行っている など、先進国に依存した脆弱な性格を強く残している。そして中国の成長率は現在落ちており、二〇〇八年世界金融危機後の無理な内需拡大がバブルを生み、不良債権の山ができている。世銀やアジア開発銀行に対しては巨額の返済義務を抱えてもいるのだ。終戦直後、世界GDPの四〇%強を占め、「国際通貨」ドルを提供することで世界経済秩序を作り上げた当時の米国とは、勢いが違う。
安倍総理は五月二十一日、国際交流会議「アジアの未来」晩餐会でのスピーチで、アジアのインフラ整備に今後五年で、ADBとも連携しながら約千百億ドル相当を充当する方針を明らかにした。そして、日本の経済協力(ODA)は年間百五十億ドルを越えている 。つまり日本や世銀やADBは、AIIBというバスよりはるかに大型のバスを以前から運行しているので、日本がどこにも行けなくなるということにはならないのである。
世界は中国よりはるかに大きい
現在の中国に、他国にも使い勝手の良いグローバルなルール、つまり公共財を作るという意識、責任感は無きに等しい。既に述べたように中国は、西側諸国が軸になって維持している今の経済体制に乗っているだけであり、しかも自らを途上国と称してルール外で行動しがちである。
例えば、先進国の対外融資や援助は、これを輸出増進に不当に使わないよう、過当な貸し付け競争が起きないよう、OECDが利子率や融資期間などに枠をはめている(「OECD公的輸出信用アレンジメント」) 。IMFや世銀は、途上国が借り過ぎて返済ができなくなるのを防ぐため、毎年の借り入れ額に上限を定めている。だから先進各国は、優良案件を奪い合い、途上国に借りてもらうための競争を展開しているのである。
そういう時中国は、相手の信用度や返済能力をろくに調査もせず、数百億円規模の低利長期融資を簡単に出す。日本や西側諸国は国会等での説明責任があるから、案件審査に時間をかけるが、その間に優良案件は中国にかっさわれてしまう。そうなると西側は途上国との経済関係で不利な立場に置かれるし、日本のように経済力を外交の道具として用いる国は、外交も封じられてしまうのである。
中国も経済大国になったのだから、いつまでも自らを途上国だと称して先進国のルールを無視していると、品格を疑われよう。世界は中国よりはるかに大きく、中国とは別のルールで動いているのである。日本はAIIBを敵視する必要は毛頭なく、さりとて参加するのは能天気の誹りを免れまい。AIIBが世界の既存の金融機関と同じ条件の下で競争していくよう、常に働きかけていくべきだろう。
">
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/3032