日本は縮む意識の行き過ぎは自縄自縛へ
藻谷浩介氏が2010年、「デフレの正体」を出して以来、一時アベノミクスの声にかき消されていたものの、ポスト安倍の今、「日本は縮む」意識がまた諸方で頭をもたげてきている。
僕は、これは悲観であるための悲観主義、要するに自縄自縛の議論だと思う。
人口の多寡は経済成長の決定的要因ではない。それは、18世紀産業革命の前、マルサス(マルクスではない)が「幾何級数的に増加する人口と算術級数的にしか増加しない食糧の間の差により人口過剰、すなわち貧困が発生する。これは必然であり、社会制度の改良では回避され得ない」と言っていたことを思い出せば、明白だ。産業革命はこんな声をかき消した。
そして今では逆の極端、「人口は消費の規模、労働力の多さを決定する。人口は力だ」というコンセンサスが生み出されている。日本ではだから、「人口が減少すると消費が停滞する。すると投資も、経済全体も停滞する」と思い込んで、げんなりしている現状なのだが、これもおかしい。自動化で生産を維持、あるいは増やし、減税、あるいは公費による住宅・介護の充実で、皆の老後の不安を除き、財布のひもを緩ませれば、経済は回っていくだろう。
中国はこれから、人口収縮の時代に入っていく。インドは労働人口がこれから増えるが、資本と技術と市場と良き法制がなければそれに見合った成長をすることはできない。これまで先進国の中で唯一人口が増えてきた米国も、現在最も人口の多いミレンニアム世代が少子であることによって、2055年頃には人口は減少を始める。移民をよほど増やさないかぎり。
製造業で、日本企業はまだ地歩を維持している。自動車がその最たるものだが、資本財、つまり製造機械・部品・素材面での企業にも、特定品目で世界のシェア50%以上を持つものが多数ある。それはロボット、コンピューター制御の工作機械(FANUC、安川製作所等)、電気自動車モーター・自動車部品(日本電産、ルネサス、三菱電機等)、電子部品(村田製作所、京セラ、TDK等)、半導体製造機械(東京エレクトロン、スクリーン等)、半導体素材(信越化学等)等である。
だから人口が少なくとも、それなりの対外影響力と発言力を持つことはできるのだ。そうしておかないと日本は、例えばワクチンも分けてもらえないようになる。豪州、シンガポールやスイス、いずれも頑張っているではないか。日本はインド、パキスタン、インドシナ、アフリカ、中南米等の諸国にODAを増やすことで、以前のODA大国の地位を取り戻すこともできる。別に話しはODAに限らない。「自分は縮むから」と言って自縄自縛に陥るのは、後に続く世代に対して無責任なのではないか?
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