メルマガ文明の万華鏡第86号の前文
遅まきながら、6月26日に発行してあったメルマガ「文明の万華鏡」第86号の前文をアップしておきます。記録を残しておくために。但し少し修正つき。
はじめに
今はホルムズ海峡経由の湾岸諸国の原油がストップするかどうか、そして同方面へのタンカーの保険料が10倍に高騰、加えて24日にはトランプが「中国や日本のような中東原油に依存している国は、自分で自分のタンカーを守るべきだ」とツイッター(後で言うように、これを今正面から受け止めて大騒ぎするのは下策です)している状況なのに、メディアは静かなのが奇異です。危機感を煽るな、という要請でも政府から出ているのでしょうか?
そうした中で28日からG20首脳会議が開かれることになっています。イラン、北朝鮮が何か悪さをしかけてくるかもしれません。加えて、参加国首脳の足元はどこも液状化しています。トランプはイラン攻撃を命じておいて、実行直前の10分前、「死者が150名も出そうだと聞いた。作戦中止」と指令を出し、ボルトン大統領特別補佐官やポンペオ国務長官との間のズレを表面化させました。
そしてこれまで再選が確実視されていたトランプですが22日の日経で秋田浩之氏が書いているのを見ると、大統領選ではカリフォルニアに次いで36名もの選挙人を有するテキサス州が、トランプの反移民、反メキシコ政策に反発を強めているそうです。ヒスパニックの人口が多いからです。次期大統領選で、これまで極め付きの共和党支持だったテキサスを失うと、あと一つの小さな州を失うだけで、トランプは落選してしまいます。
習近平の足元については言うまでもなく、外国から得た資金と技術で経済を膨らませ、それを自分の実力と勘違いして海外で猛々しい姿勢を示すようになったのが、トランプによる制裁の導入でいっぺんに勢いを失い、5日にはロシアに駆け込み、20日には格下の北朝鮮に頭を下げて、米朝間の仲介を務めさせてもらう始末。香港のデモも静まっていません。
プーチンの足元でも、驚天動地のできごとが起きたばかり。これまで警察幹部等の汚職(墓地、葬式に関わる利権・癒着等)を調査、報道してきたMeduzaという独立系メディアの記者Golunovは6日、麻薬取引(でっちあげ)を摘発されて逮捕されたのですが、10日にはリベラル系主要3紙がおそろいの一面トップ、「私もイヴァン・ゴルノフ。私たちもイヴァン・ゴルノフ」と大書したお揃いの紙面で、彼への支持を訴え、釈放を求めたのです。12日に街頭行動をする呼びかけもSNSで流布されました。ここでプーチン大統領は電光石火の早業。11日にはゴルノフを釈放させるとともに、同日、内務大臣の上申を受けて、本件を手掛けたモスクワ警察の幹部2名を解任したのです。こんなことは20年にわたるプーチン治下で初めてです。
昨年6月年金支給開始年齢を5年「あと倒し」する法律に署名して以来、プーチンへの信頼、支持はがた落ちです。そしてロシアでは人口の43%を34歳以下の若年層が占める中(なんでこんなに多くなるかと言うと、それは男性の平均寿命が67歳強しかないからです)、若年層の政治離れは甚だしく、米国仕込みのラップ音楽にうだつを上げています。彼らは刹那的で、上層部の腐敗には厳しい意見を持っています。
ゴルノフの件での成功に味を占めた市民は、次々と要求をエスカレートさせ、他の不当逮捕者の釈放も勝ち取っています。他の都市でも、市民が様々の問題で当局に抗議の声を上げ、譲歩を勝ち取るようになっています。これは騒擾状態ではありませんが、このような「権利意識の高揚」、そして「政府の不正、汚職への厳しい糾弾」がメディアを先頭に進むのは、35年前の「グラースノスチ」運動を想起させます。但し12日の無届出集会では警官隊が出動して500名強を拘束しており、これから情勢がどう展開するかはわかりません。下手に弾圧して失敗すると、1991年8月クーデター失敗で共産党が解体されたような、無政府状態になってしまいます。
ドイツのメルケル首相の足元も揺れています。9月の地方選で連立相手の社会民主党SPDが退潮のトレンドを更に強めれば、SPDは連立から脱退し、新党首を選んで独自性を明確にする可能性があるからです。それは、年末頃の前倒し総選挙につながるでしょう。そしてその時与党キリスト教民主同盟CDUは、党首=首相候補を誰にするかで悩むことになるでしょう。メルケルは勢いを失っており、後継としてCDU党首になっていたクランプ=カレンバウアー女史も、あるブログをめぐって青年層をすっかり敵に回し、首相になる目を失っています。
G20首脳会議は、20カ国があまりにばらばらの方向を向いており、国の性質もばらばらです。もはや続けることにあまり意味はないのでしょうが、こういうものは勉強会と同じく、誰かがもうやめようと言い出しでもしない限り、惰性で続いていくものです。結局、今回の一番の見ものは米中首脳会談で、ここでトランプが関税引き上げでは譲るにしても、先端技術の移転制限でどこまで頑張るかが、これからの中国の命運、そして米中の力のバランスを決めることになるでしょう。
「ホルムズ海峡の安全は、中国、日本のような石油輸入国が守れ」というトランプの発言は日米安保の根幹に及ぶものですが、ツイッターでの国内向け不規則発言ですから、G20の場で正面から扱われることはないでしょう。「イラン問題の平和的解決」への呼びかけで、事態は糊塗されることでしょう。
このトランプの発言もあり、今月号ではトランプが国連、IMF、WTOで代表される「戦後の世界体制」をどこまで破壊したか、修復可能なのか、それとも新たな体制に移行するのかをチェックしてみたいと思います。
北九州歴史紀行のメモは、長くなる(調べれば調べるほど、様々の系統の神話、物語、そして学説・憶測が入り乱れて何が何だかわからなくなってくる)一方なので、号外、あるいは次号でお送りします。
今月の目次は次のとおりです。
目次
トランプは「戦後の世界体制」をどこまでこわすか――その一
終戦時のアレンジメント
トランプは「戦後の世界体制」をどこまでこわすか――その二
トランプは国連を破壊したか?
トランプは「戦後の世界体制」をどこまでこわすか――その三
貿易体制――GATT、WTOは青息吐息
トランプは「戦後の世界体制」をどこまでこわすか――その四
「グローバリゼーション」は終わりか?
トランプは「戦後の世界体制」をどこまでこわすか――その五
トランプは世界の同盟体制を破壊したか?
トランプは「戦後の世界体制」をどこまでこわすか――その六
トランプは自由・民主主義を破壊したか?
そして英米型民主主義の行き詰まり
トランプは「戦後の世界体制」をどこまでこわすか――その七
中国とロシアはどこまで世界から隔離されるか
今月の話題:モルドヴァでの麗しき米ロEU共同作戦
今月の話題:「日本は中国と、ホルムズ海峡を守る」と言ったらどうなる?
ジブチに「海軍」基地
今月の話題:「ホルムズ海峡の海賊」は何者か?
今月の話題:ロシアとハサミは使いよう
今月の話題:米国の麻薬の世界でうごめく中国とロシア
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