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日本安全保障

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2024年9月21日

「日本の脅威」に気づいて海軍を強化しようとするロシア

安倍政権は、プーチンが北方領土を一寸たりとも返そうとしないのにキレて、関係を疎遠なものとしたが、2022年2月ロシアのウクライナ侵入に対してロシアを制裁したことで、今度はロシアがキレた。「ウクライナとは無関係な日本がなんで? 制裁とは猪口才な。米国に命令されてやったのだろう」というわけで、ロシア外務省の報道官などは、その手の発言を繰り返すようになった。しかし今、ロシアはもっと高いレベルで反日キャンペーンを始めた感がある。

 7月末、プーチンの一の腹心、ニコライ・パトルシェフ大統領補佐官は「ロシア新聞」で、米国は日本自衛隊との兵力統合運用を強化し、NATOの欧州諸国は艦船を日本に派遣するなどして、日本の防衛力を強化しようとしている、ロシアはこれに対抗して海軍を増強する等、適切な措置を取らざるを得ない、と書いた。そして元国家安全保障会議書記のアンドレイ・ココーシンは、豊かな日本と仲良くしようとする時代は終わった、日本を極東の新たな脅威として認識するべき時が来た、と書いた(7月28日fondsk.ru)。

 これは7月初旬のNATO首脳会議の際、米国がドイツに中距離ミサイルを配備するのを発表したのに機を合わせたものである。岸田総理は国会で、日本も米国の中距離巡航ミサイル「トモホーク」を数百発も購入する意図を表明している。ロシアにしてみると、米国はドイツと日本を使って東西からロシアに圧力をかけようとしている、と見えるわけだ。最近日米が兵力の統合運用体制を強化していることも、米国がロシアを東から脅すのに自衛隊を使おうとしているように見える。

日本はロシアと違って、領土問題を軍事力で解決しようとすることはない。近年自衛隊を増強し、例えば2500トン以上の海上艦艇数ではロシアの太平洋艦隊を約5:1と圧倒している が、これはロシアに向けられたものではない。しかしロシアは一種の被害妄想、パラノイア。世界には自分と米国、そして中国くらいしか自分の意志で動ける存在はない。日本やドイツは米国に言われてロシアに圧力をかけてきているに違いない、と思い込む。
更に安倍政権以来、日本はNATO本部との関係を緊密化し、英独仏などNATO諸国の軍艦、軍用機が日本に来航するケースが増えていることも、ロシアの神経を逆なでする。日本にしてみれば、台湾有事への抑止力としてNATOの欧州諸国の支援を確保したいのだが、欧州諸国はロシアを東側から牽制するべく、日本を使いたいと思っているに違いないからだ。こうしてロシアにとっては、「西の脅威はドイツ、東の脅威は日本」という、戦前の構図が甦ってきた。スターリンの「大粛清」で銃殺されたロシア人の多くは、ドイツのスパイ、あるいは日本のスパイとされたもので、当時のソ連で米国は目でなかったのだ。

かくて極東ロシアは軍拡の構え。日本は北朝鮮、中国への構えを強化して、ロシアの脅威をみすみす復活させてしまったのか? いや、慌てる必要はない。ロシアの極東兵力は急には増えない。もともとソ連海軍の航空母艦は全部、ウクライナの造船所で建造されていたし、その他の軍艦用のタービン・エンジンは全てウクライナの工場で組み立てられていた。

2014年、クリミア「併合」でウクライナとの協力関係が破壊されて以来、ロシアは自前の軍需生産能力を増強してきたものの、造船所は設備の老朽化、労働力不足、幹部の腐敗など問題だらけで、建艦計画は半分ほどしか達成できていない上、西側の制裁で電子・通信機器は不備なまま納品する有様である 。軍用機の生産も同様である。但しロシアは、核ミサイルはいつでも極東に配備できるので(戦闘機、あるいは軍艦に配備)、これへの備えは必要だ。

 ロシアとは、ことさら敵対する必要はない。ウクライナ戦争が一区切りしたところで、関係を順次レベル・アップしていくことだ。ロシアも大人。「日本は脅威だ」と言いながら、片方の手では握手を求めてくるだろう。ロシアも日本も、互いを「正しく恐れ」よう。


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