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日本安全保障

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2022年9月 8日

「国防費倍増」で気を付けるべきこと

(これは8月末発行のメルマガ「文明の万華鏡」第124号の一部です)
 日本の国防費は「倍増してGDPの2%程度にまで増やす」ことが常識化している。安倍元総理に強く言われた結果なのだろうが、岸田総理も増額をはっきり明言しているので、後戻りはきかない。

 しかし何のためにそれだけ増やして、何をどうするのかはまだわからない。とりあえず重点分野として宇宙の活用、電磁波・レーザー技術、サイバーテロ防止などが挙げられている。また来年度の予算請求では、概算要求基準内の請求に加えて、年末の予算案確定までには積み増す可能性があることが明示されているそうだ。年末までに中期防衛力整備計画(中期防)など外交・安全保障関連の政府3文書の更新を行い、それに沿っての予算とするのだろう。「増額OK」となった際の官僚の勢いはすごい。「何でもかんでも請求」ということになりやすい。米国も、米軍駐留「思いやり予算」の増額を求めてくるだろう。

 まず防衛体制整備の目的を据えてほしい。日本本土防衛を超えて、台湾防衛のような海外の事案にまで自衛隊を出動させるのかどうか。「絶対出動しない」とは言い切れないだろうが、そのための装備はどこまで整えておくのか。

そして日本本土防衛にはどのような備えが必要か。この点については、武田康裕氏が著書「日米同盟のコストー自主防衛と自律の追求」で示している最小限の自主防衛強化案では、一兆六千五百億円ほどの防衛予算増額が必要になる。この程度のカネなら現在の防衛予算、年間約五兆円に比べても可能性のあるものだ。問題はむしろ、人員が足りるかということだろう。

こうした問題は、日本の手の内をあかすことになるので、公開での議論には限りがある。政治家、国家安全保障局、防衛省、自衛隊、外務省、財務省などの間で、しっかり練って欲しいものだ。

 防衛機密に関係してこない分野については、マスコミを含めて広範な議論を展開するべきだ。まず、自衛隊内部の合理化・節約で捻出できる資金が随分あるだろうということ。それについては、「軍事研究」9月号の論文で文谷数重氏(筆名だろう)が論じている。彼が挙げているのは、上級の将官を処遇するために余計な組織が諸方に作られているということなど。

すべてを足していくらの節約が可能になるかはわからない。そして余剰redundancyを全部なくした組織というものは、有事にパンクしやすい。それは、コロナ禍初期に医療・保健体制で明らかになったことだ。

 最後に、一番重要なことがある。それは、自衛隊がブラック・ボックス化して、国会、マスコミなどによる調査や要求を受け付けなくなる事態を防がなければならないということ。

 戦前のように、軍が「天皇の統帥権」を口実に、外部者の介入を拒否することはないだろう。自衛隊の最高指揮官は総理大臣という建前になっているからだ(自衛隊法第7条)。しかし、日本社会に強い「組織のタコツボ化」は戦後の自衛隊にも見られる。「軍事は自分たちしか知らない。外交官は茶坊主のようなことばかりやっているから、国際情勢の判断もろくにできない」という意識は、防衛省、自衛隊の人たちの中に時々見える。

 自衛隊でも、陸・海・空の三分野に通じた上、国内・世界政治も見据えて、日本に必要な防衛体制を論ずることのできる人は稀。外交官には茶坊主だけでなく、いつも国際情勢を見据えて日本の戦略を考えている者は何人かいる。

自衛隊は戦後、批判、圧力にさらされてきたので、何か言われるとすぐ自分の殻の中に閉じこもる。批判を前向きに活用するより、既定の路線にしがみつく。これが現在のように「お前は大事なのだ。明日から待遇を二倍に引き上げる」と言われると、海の底から引き揚げられた深海魚のごとく、自己意識で膨れ上がって手が付けられないことになる。

 このようなことが起こらないよう、何か制度上の手当てを考えておく必要がある。研修の強化以外に何かいいアイデアはないだろうか。上層部は国家安全保障会議などで外の風に当たっているから、安心なのだが、夜郎自大、下克上は願い下げ。

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